まずはこちらを見てほしい。
今回紹介するDJIの新ジンバル、DJI RS 3 Proの目玉機能となる「自動軸ロック」だ。ジンバルという機材はなかなかに手間暇のかかる機材で、これはその手間を大いに省略してくれる大歓迎機能と言える。
またまたびっくり機能を搭載したDJIの新製品なのだが、その他「なにが新しく変わったの?」というユーザー候補が少なくないと察する。そこで今回はこのDJI RS 3 Proについて、同じくDJIの先代製品であるDJI RS 2との比較、更新された仕様に注目して紹介する。
なお、以後はDJI RS 3 Proを「RS3Pro」、DJI RS 2を「RS2」と表記する。取り上げる製品キットは、ジンバル本体に数点の周辺装置が同梱された「DJI RS 3 Proコンボ」、同等の「DJI RS 2コンボ」となる。
パッケージ内容
キャリーケース
すべての部品は専用のキャリーケースに収められる。ジンバルサイズの拡大と同梱品追加のためか、サイズはRS2のものより少し大きくなっている。開口は一箇所で、内部は可動するポケット付き隔壁による半2気室となっている。開口一箇所ですべての内容にアクセスできるのでクイックだ。
コンボキットの変更点
DJI RS 3 Proコンボでは先代のDJI RS2コンボと同等の内容から、下部クイックリリースプレート(延長用)とDJI RSブリーフケースハンドルが追加された。
ジンバル本体
まずはジンバル本体の仕様について見ていこう。
アームの長さが拡大
RS2より各アームの長さが拡大している。より大きなカメラを搭載でき、バランス調整の幅も広い。カメラ非搭載の状態で背面(液晶画面側)、側面から見ると内側空間が拡大したことがわかる。
カメラを実搭載してみた
筆者使用のカメラZ CAM E2-M4に、SIRUI 50mm F1.8 AnamorphicレンズおよびソニーNP-F970バッテリーを挿した状態はかなり前後に長い。RS2ではパン時にジンバル本体と干渉していたが、拡大したアームの長さのおかげで余裕があり、バランスをとって使用できることがわかった。
表面テフロン加工部
部分によっては表面がテフロン加工されているとのことで、垂直チルト調整時に引っかかりにくくなめらかだ。
自動軸ロックと解除
冒頭紹介のとおり本機は自動軸ロック機能を有する。
カメラ搭載、バランス調整済みの状態で電源ボタン長押しすることで各アームが折りたたまれ電源がオフ、その状態から電源ボタン長押しすると各アームが展開し元の体勢に戻り使用可能状態となる。
折りたたまれた状態は斜めとなるが、常識的なチカラのかかり方では特に問題ない。ちなみにこの際に「アームが干渉してこれ以上折り込まれないのかな?」と見られる部分があるが、搭載カメラやバランス調整により干渉しない位置にアームがあったとしても、折りたたまれた状態は斜めとなる。
電源ボタンを短く押すとホームポジション(アームは折りたたまれない)で各軸がロック、スリープモードとなる。もう一度電源ボタンを短く押すことで解除となる。
ロックスイッチ
そもそも先述の自動軸ロック機能で操作機会が減るであろうところ、これも改良されている。ユーザーの多くが手探り指探りで操作してモヤモヤしている(回り込み、覗き込めばよいといえばよいのだが)であろうロックスイッチの形状は、独特の同心円状の溝が掘られたりスイッチ状になったりと、探った指先で「これだ」と知覚しやすい。各アーム上での配置も変更されている。
液晶パネル面レイアウト
Mボタンと電源ボタンの位置が入れ替わっている。大きな差異はないと思われるが、強いて言えば前面にあるトリガーボタンとの同時押し(オートチューンのショートカット)の行いやすさに関わるかもしれない。
本体液晶
本体液晶は1.8インチOLED、RS2から大きさは28%拡大、輝度も向上。本稿写真の撮影状態を見てもらえば、環境光に負けない輝度を有することが伝わるだろう。
ショートカットキーやスマートフォンアプリではなく、「画面でやろうか」という気になる。後述するActiveTrack 3.0の対象被写体設定の際の指先ドラッグのような操作も快適だ。
Bluetoothシャッター
ペアリングすれば本体の録画ボタンと連動してカメラの写真、映像の撮影操作が可能。接続するケーブルが1本省略される。
互換リストは以下から確認できる。
エコシステム
RSA/NATOポート2つとバッテリーポートはRS2より継承して共通。さまざまなハンドルやグリップに対応する。
周辺装置(コンボキット同梱品)
DJI Rクイックリリースプレート(上)
RS2のものから刷新、後述のDJI RSフォーカスモーター(2022)のマウントロッドを留める穴が追加されている。
また、細かいところで天面の滑り止め部ゴムのモールドが変更されている。摩擦が大きくなり装着カメラのツイストが起こりにくい。実際使用してみると、これは見た目以上に効く。
DJI Rクイックリリースプレート(下)
RS2のものと同じ。ツマミと裏面ギアレールにより緻密なチルト調整が可能となっている。
DJI Ronin BG30グリップ(バッテリー)
グリップ部はバッテリーを内蔵し、RS2と同じもの。充電1.5時間、稼働12時間とされている。ジンバル本体を通じ各種追加部品へ本体給電できるが当然、消耗は早くなる。
底面には1/4-20取り付け穴が配置されている。
延長用グリップ/三脚(金属製)
名称のとおり延長用グリップ、本体底部取り付けの三脚として使用可能。ハンドル同梱のコンボキットの場合はもっぱら後者として使用することになるだろう。ちなみにこれは初代Ronin-Sから同じもの。
三脚として本体に装着、展開時のバランスと剛性は十分。
DJI Rスマートフォンホルダー
RS2から継承。90°刻みの取り付けスマートフォン角度調節機構は、装着スマートフォンのアプリ内画面回転を想定し最適化したものだろう。本体は軽量な樹脂製で、なにかと金属製なものが多い撮影機材への打突時ダメージが軽減される。
実は筆者としてはかなりお気に入りで、DJI RS2コンボ同梱で所有していながら別途単品で買い増したことがある。
脱着と脱着軸回転の機構は素早い取り付けと角度調整のねばりが絶妙だ。
DJI RSブリーフケースハンドル
DJI RS 3 Proコンボでは取り付けアーム部とグリップ部の両方が同梱される。DJI RS2コンボでは取り付けアーム部のみ同梱となっていたため、ミニ三脚(延長用グリップ/三脚[金属製])を流用して別途ミニ三脚を用意するか、そもそもグリップを別途用意する必要があったので、うれしい追加要素だ。ハンドルの角度は360°ぐるりと変更可能で、多様なジンバルの構え方に対応可能だ。
DJI RSフォーカスモーター(2022)
このたび新たに登場したもの。静粛性が向上し、新しい周辺装置に対応、連動する。
先述のようにロッドを経由してDJI Rクイックリリースプレート(上)への取り付けがわかりやすく確実なものとなっている。
DJI Ronin映像トランスミッター
かつてRonin RavenEyeとされていた映像伝送装置。
DJI Ronin RavenEye映像伝送システムにより、接続したカメラの映像をRS3本体やスマートフォンアプリでモニターできる。ActiveTrack 3.0もそこから設定、使用する。
実使用
カメラ搭載はアーム内容積拡大によりガチャガチャと各部の打突を気にすることなくノンストレスで行えた。バランス調整もモーターパワーアップ(「安定性20%向上」とのこと)で比較的スピーディーに行える。ロック機構と上下クイックリリースプレートの仕様も一役買っている感じだ。
先出の筆者Z CAM E2-M4セットアップのような極端なバランスにも十分に対応できる。ジンバル挙動や液晶画面の操作もRS2由来で強化されつつ快適。ブリーフケースハンドルの各撮影形態への適用(角度調整)も、大きなストレスのないように考えられている。注目の自動軸ロック機能による撮影休止、中断からの再開への対応しやすさも素晴らしいと感じた。
気になるところ、要望
非常に優れた製品ではあるが、少し気になるところを挙げておく。
付属ケーブルの品質
特にDJI RS 3 Proコンボでは非常にたくさんのケーブル類が付属しているのだが、もう少し長さと柔軟さがほしい。
搭載カメラや装着周辺装置によっては、ちょいと短いこともあり、ケーブルの柔軟性も手伝ってギリギリとなることがある。具体的には、現行の150%程度がちょうどよい長さかなというところだ。
ハンドル前部の取り付け位置
DJI RSブリーフケースハンドルの取付部の位置により、液晶画面目視ならびに操作のための指のアクセシビリティがやや悪い。ユーザーとジンバル本体の持ち高さ、置き高さの兼ね合いによるものではある(面倒がらずに覗き込めばよいし、可能な角度で操作する指先を差し込めばよいのだ)。
一つ要望としては、ギアレールとツマミによるDJI Rクイックリリースプレート(下)とチルトバランス調整の機構を全バランス調整軸に採用していただけないものだろうか。
先述した表面テフロン加工でバランス調整はなかなかよろしいのだが、やっぱりちょっと引っかかりがちなときもあるので、このあたりの機構を改善すればさらに操作性は向上すると期待している。
まとめ
撮影の道具というものはなにかと面倒な準備や精妙な調整を必要とするものだ。ジンバルはその極みと言える。不慣れなユーザーにはお手軽、安全に使用できるよう、手慣れたユーザーに向けては作業や制作の品質向上にのみ集中できるようにといった具合に、「メーカーは開発努力を惜しんではいない」と察する。
今回の製品もまた、とても完成度は高い。総合的に、ジンバル類未所有者や初代Ronin-Sユーザーの購入はもちろん、先代機RS2のユーザーも買い替え・買い増しして意義のあるものだと感じた。あとは、次こそ自動バランス調整の実装とならないかなぁ。
モデル:SASSAN
協力:STUDIO EX(舞鶴)
伊丹迅
綺麗め女子、ネコ、風景を写真・映像で素敵に表現する作家、ドローンパイロット。「Panasonic S5/S1/S1R/S1H User’s Information Board」「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K & 6K info」「DJI RS2/RSC2、RONIN、RONIN 4D使用者懇談会」「DJI MAVIC・SPARKオーナーズ」などのFacebookグループを管理運営する。徳島ドローン協会 設立者/事務局長。正体は悪魔音楽集団「ギロチン伯爵」主宰/ヴォーカリストの悪魔、デーモン獄長。