新型コロナの流行をきっかけに、ライブ配信や動画マーケティングが増加しています。それに伴い、外部の映像のプロに委託していたような案件も、内製化する企業が増えてきました。
今回は、経済専門紙として長い歴史を誇る日本経済新聞を発行する新聞社で、英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を傘下に持つ日本経済新聞社のインハウス制作チームの取り組みを同社ソリューション推進ユニット、マーケティング部の谷島春樹氏に伺いました。
動画制作チーム発足のきっかけ
谷島氏:
私が所属するセクションは、もともと新聞広告の営業部門で、基本的に私が扱うものはスポンサードコンテンツが多いです。以前は全て外注して制作していましたが、2020年に新型コロナが流行して、私たちが携わっていたイベントが軒並み中止になりました。このまま状況がすぐに良くなると思えなかったので、自分たちで簡単に情報発信できる手段を作ろうと、3人で始めました。コンセプトは、「コンパクトな設備で世界中どこからでも配信できるシステム」です。機材も一から揃えて、最新テクノロジーを使ってコンテンツや映像の品質が高いものを制作しようと考えました。
準備を徹底的に!
谷島氏:
本番当日は、頭が空っぽでもできるというところまで、配線に矛盾や無理がないか、配線図を見て、徹底的に検証しておきます。 私は事前に自分で描いた設計図に対して、忠実に従うオペレーターだと思って作業しています。どのカメラで登壇者の誰を撮影するか、そのカメラをATEM Miniスイッチャーのどのチャンネルに入力するか、使用するカメラの種類、レンズ、三脚、フィルターや、フレームレート、シャッタースピード、ホワイトバランスの設定なども記載しておきます。
ATEM Miniスイッチャーをハブとして、撮影をシンプル化
谷島氏:
従来型の撮影体制は、ディレクターをハブに人が介在します。そのため画角や音量などのきめ細かな調整が可能になります。その分スタッフが多くなり人件費がかかります。私たちの場合は、ATEM Miniスイッチャーをハブに、できることは機材に任せるやり方です。
カメラは固定で音声も細かい調整はできませんが、(ほぼ)1人で運用しているため、全ての状況を把握でき、スピーディな判断が下せます。また、身軽なので色々なところで撮影ができます。収録時のミスなどは私が把握できているので修正はスムーズな場合が多いですが、ポストプロダクション全般としては、少人数体制はやはり時間がかかります。
よくある配信のセッティングとしては、ATEM Mini Extreme ISOにカメラ入力を接続します。使用するカメラの台数は登壇者の数によって増減します。通常、登壇者の数とステージ全体を映すためにもう一台用意します。全体を撮影するカメラにはBlackmagic Pocket Cinema Camera 6K Proを使用し、パンフォーカスで撮影します。ATEM Mini Pro ISOには登壇者のプレゼン資料やタイトルスライドなどもPCから入力します。
ATEM Miniスイッチャーの設置位置が離れている場合もあります。その場合は長距離のケーブルで接続する必要があります。その時に使用するのがHDMIとSDIを相互変換するMicro Converter BiDirectional SDI/HDMI 12Gです。急にSDI接続が必要になる場合もあるので、このコンバーターは2台常備していると便利です。
インハウス制作を始めた頃は、別のカメラを使用していました。当時はカメラの熱停止に悩まされていました。USB接続の扇風機を各カメラに取り付けて使用していましたが、荷物が嵩張るのと充電が面倒でした。そこで冷却ファン内蔵のBlackmagic Pocket Cinema Camera 6K Proを使い始めたら、何時間撮影しても落ちない上に、6KのBlackmagic RAWで収録できるメリットも大きかったです。設定が完璧でなくてもピントさえ合っていればポストプロダクションで修正したり、フレーミングを変えたりしやすいからです。大容量のSSDを使えば長時間収録も可能で、ワンオペ作業では強い味方ですね。
Pocket Cinema Cameraは、初めはとっつきにくいかもしれませんが、インターフェースが感動的によくできているので、少しカメラの知識を身につければむしろ使いやすく、ATEM Miniスイッチャーを使った時に、その真価を発揮します。
Blackmagic ECOシステムで効率的なワークフローを確立
谷島氏:
私は、ライブ配信ではない収録だけの時でも、スイッチングするようにしています。つまり、ライブ配信と全く同じセッティングでの収録です。ATEM Miniスイッチャーを使うことでISO収録されるファイルと、DaVinci Resolveのプロジェクトファイルが得られます。
構成が簡単なセミナーならカットページを使って簡単に編集ができます。生成されたDaVinciのプロジェクトファイルを開いて、Speed Editorでカット編集して、アーカイブをすぐに納品できます。
Pocket Cinema Cameraで撮影した素材であれば、編集時にプロキシファイルと差し替えて、4K書き出しもできますので、Blackmagic Pocket Cinema CameraとATEMの連携はここでも最強だと感じます。
通常編集の場合は、ミキサーで別取りした音声とBlackmagic RAWファイルで、マルチカムクリップを作成して、エディットページで編集しています。 業務が少し立て込んできて、ワンオペでは、編集が追いつかなくなることもあります。そんな時は、編集作業を外部委託することになりますが、Cloud Podを使ったファイル共有が便利です。
SSDをCloud Podにつなぐだけで、プロキシファイルをドロップボックスなどのクラウドに自動でアップロードしてくれます。出張先で撮影して、ホテルにに戻って、寝る前にSSDを接続するだけで、翌朝には必要なファイルだけアップロードされています。
作業委託先は、プロキシファイルで編集作業を行い、そのプロジェクトファイルをドロップボックスで、私と共有します。私がそのプロジェクトファイルを開いて、手元にある4KのBlackmagic RAWファイルとリンクさせて書き出せば4Kムービーが完成するわけです。
ワンオペでの仕事に欠かせないツールとは?
Leofoto G4ギア雲台
イベント開始前に画角調整をいくら行っても、本番が始まると、急に背筋が伸びて、画面から頭がはみ出してしまう登談者の方もいらっしゃいます。そんな時普通のカメラ雲台だと、画角がぴったり合わなくて、調整に時間がかかります。しかし、このギア雲台があれば、細かな画角調整が瞬時にできます。今では撮影時、すべてのカメラでこのLeofotoのギア雲台を使っています。
iZotope (RX、Nectar、Neutronなど)
以前音声トラブルがあった時に、リペアツールを探した末にたどり着いたのが、iZotope RX8でした。このツールのおかげで、現場で多少の音声トラブルがあっても、慌てずに心に余裕が持てるようになりました。
他にもNectarやNeutronも愛用しています。これらは、DaVinciとの連携も非常によくできていて、Fairlightページで、プラグインとして使えます。マニュアルでパラメーターを調整すると、深い沼が待っているコンプレッサーの設定も、このNectarやNeutronのアシスタント機能のボタン1つで、簡単に扱うことができるので、大幅な編集時間の短縮に繋がっています。
SmallRigのドライバー
三角プレートをカメラに取り付けたり、カメラのリグが緩んできた時、プレート上のねじ回しや六角レンチが急に必要になることがあります。特に六角レンチは、コンビニで売ってるようなものでもありません。このツールをバッグに入れておくだけで、不快なぐらつきを解消できますし、六角レンチを探す時間も節約できます。
低コスト運用で多くのプロジェクトが実行可能に
谷島氏:
今年の事例の一部(下記参照)だけでも短期間で海外3箇所に行って、36セッションのセミナーの配信や収録を行いました。見積もりは取っていませんが、これだけのボリュームを外部に委託していたら相当な金額になっていたのではないかと思います。これまではコストとの見合いで実施できなかった海外からの配信収録も、ATEM MiniスイッチャーやBlackmagic Pocket Cinema Cameraのようなコンパクトな機材があったので、低コスト運用が可能になり実現できたと考えています。
今までは、外部に発注する仕事という意識だったわけですが、いざ取り組んでみると機材の進化によって、自分たちでもできるということがわかりました。声を掛けていただく機会も増え、たくさんのニーズがあるということもわかりました。
インハウスだけでは、手が回らずに外部に発注する時も、制作のプロセスを一通り知っているからこそ的確な依頼ができるようになった、という風に感じています。
日本経済新聞社のインハウス制作事例(一部)
海洋冒険家、堀江謙一氏のインタビュー
サンフランシスコで密着取材し(1週間)、現地で撮影、編集。
Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kおよび6K Pro、DaVinci Resolve Studioを使用。
日経メタバースシンポジウム
小室哲哉氏のスタジオでATEM Mini Extreme ISOとBlackmagic Pocket Cinema Camera 5台を使用。
カンヌライオンズ2022
20本のセミナーをライブ配信、撮影、編集。
ATEM Mini Extreme ISOおよびATEM Mini Pro ISOとBlackmagic Pocket Cinema Camera 5台を使用。
国連海洋会議
ポルトガル、リスボンで開催された国際会議の公式サイドイベントを配信。
ATEM Mini Extreme ISOおよびATEM Mini Pro ISOとBlackmagic Pocket Cinema Camera 6台を使用。
日経SDGsフェスティバル
ニューヨークで開催されたイベントの収録。
ATEM Mini Extreme ISOおよびATEM Mini Pro ISOとBlackmagic Pocket Cinema Camera 6台を使用。