新型コロナの流行をきっかけに、ライブ配信や動画マーケティングが増加しています。それに伴い、外部の映像のプロに委託していたような案件も、内製化する企業が増えてきました。
今回は、大手消費財化学メーカー、花王での社内DXの取り組みを同社コーポレート戦略部門先端技術経営改革部オンデマンドメディアグループ、長瀬敬太氏に伺いました。
配信をメインとした制作チーム発足のきっかけ
長瀬氏:
発足のきっかけは、新型コロナの影響で以前のようにお客様を動員してイベントが開催できなくなったので、オンラインで開催する必要がありました。また、弊社の役員の社外イベントもオンラインでの参加が増えました。それらを全て外部のイベント会社に依頼するわけにもいかないので、2021年の1月に各部門より柔軟な対応ができる、新しもの好きな7名が召集されてチームがスタートしました。
私たちのミッションはこの2つです。
- 「経営のやりたいこと」を理解してそれを形にして発信することによる社内外広報機能の強化・内製化を推進
- 社内にスタジオを構築し、安定した通信環境で配信を実現
配信業務の内容によって、複数のスタジオを構築
長瀬氏:
現在、弊社の本社付近にあるスタジオが、全部で4か所あります。 配信の重要度ややりたい内容によって、機材も変わってきます。中規模な配信までの設備は、一般の社員が扱えるような構成にして、電源を入れたらパソコンに映像と音声が入るような設定にしてあります。
- 簡単な配信撮影:ATEM Mini、カメラ、パソコン、照明のみ
- 中規模な配信撮影:ATEM Mini Extreme ISO、カメラ3台、パソコン3台(ATEM操作用、資料用、配信用)、照明、ミキサー、マイク、モニター
長瀬氏:
入社式や記者会見、社外イベントなど大規模な配信については、一般の社員への貸し出しはなく、我々のチームでオペレーションを対応しています。現在は完全に動画内製の専任として担当しているのは私を含めて数名で、それ以外のチームのスタッフに関しては、大きな配信イベントがあればそれを優先して手伝ってもらうということになっています。
大規模/重要な配信撮影、弊社役員の登壇イベントについてはこのような製品を導入しています。
■映像
- Blackmagic Studio Camera 4K Pro
- ATEM Camera Control Panel
- Blackmagic SmartScope Duo
- Blackmagic SmartView 4K
■スイッチング
- ATEM Constellation 8K
- ATEM 1M/E Advanced Panel
■配信
- Blackmagic Web Presenter 4K
■記録
- HyperDeck Studio 12G
■変換
- Mini Converter 6G
SDI to HDMI HDMI to SDI - Mini Converter
- BiDirectional SDI/HDMI 3G
長瀬氏:
パソコンやStudio Camera 4K Proからの映像、そして音声をATEM Constellation 8Kスイッチャーに送ります。カメラの映像は環境によって色が変わるのでSmart Scopeを使って波形などを確認しながらATEM Camera Control Panelで随時調整します。弊社の主な配信はTeamsやZoom経由となりますので、Web Presenter 4Kを介して配信用パソコンに映像と音声を取り込みます。
TeamsでもZoomでもバックアップ録画はされますが、配信した映像を編集して高画質で再配信したいので、録画用デバイスとしてHyperDeckを使用しています。またHyperDeckで録画しておくことによって、万が一ネットワークトラブルで、TeamsやZoomに録画が残っていない場合でも、イベントを止めることなく、後で再配信することが可能です。編集にはDaVinci ResolveやDaVinci Resolve Studioを使っています。
機材をBlackmagic Designで統一する理由
長瀬氏:
もしスタジオごとに機材が変わったり、スタジオを借りたりするたびに機材が違っていたら、前回と同じ繋ぎ方をしてるのに、思ったように動かないとか、使い方を忘れてしまったとか、色々な問題が出てくると思います。
ATEMスイッチャーは色々なモデルがありますが、同じソフトウェアコントロールを使うので、操作は同じようにできます。スタジオが変わったとしても、自分のパソコンを持っていけば、大まかなところはさほど変わらない操作ができます。そういった点で弊社ではBlackmagic Design製品で極力統一するようにしています。
配信や収録、スタジオに関する情報はMicrosoft Share Pointに集約して、問い合わせ業務を効率化
長瀬氏:
スタジオを初めて利用する社員が分かりやすいように、スタジオに関する情報をマイクロソフトのShare Pointに集約して、そこに全部公開しています。
現在、外部に委託していた社内イベントの社内内製化進めているので、それに関する社内の問い合わせが結構あるんです。例えば本番中に、そういった問い合わせの電話がかかってきてしまうと、演者の方にも問い合わせしていただいた方にも迷惑をかけるので、Share Pointに問い合わせ内容を書き込みできるようになっています。
そこに書き込まれたものについては、担当者が空いてる時に順次回答して、場合によっては電話してすぐに打ち合わせを開始することもあります。
動画資産の管理について
長瀬氏:
配信した動画は各部門の担当者に素材を全て渡して各部門での管理になっています。私たちのチームでも3カ月間は手元に残しておきますが、その後は各部門の判断に任せています。
常に動画を発信し続けることの大切さ
長瀬氏:
弊社では2021年に86回の配信撮影を行いました。今年も前年を上回る100回以上の配信を実施しています。営業日ベースで言うと、2日に1回のペースで配信していることになります。弊社ではお客様に飽きられないためにも、頻繁に情報発信していくことが大切だと思っています。
ただ、このペースは内製化しているからこそ実現できています。今まではイベントの実施が決まったら外部のイベント会社や社外代理店に仕事を依頼して、数回打ち合わせをして、実際の収録日を迎えます。事前打ち合わせと違うことがやりたくなった場合は、別日に再収録しなければいけないこともあります。
収録後も担当者が社外の編集マンに再編集の箇所を伝えて編集を発注しますが、担当の意図がきちんと伝わらないと一回の編集では終わりません。担当者レベルで編集が完了すると、自分の部署の責任者に確認を取ります。そこでもさらに再編集のループに入るわけです。そうなると、1本の動画を仕上げるのに1カ月から2カ月かかってしまいます。今では社員自らが撮影、編集、配信を行っているので1本の動画を3~5日で完成させることができています。
もちろん、初めは何も分からない状態の社員が殆どでしたが、私たちのチームでそういう社員に対してサポートして、現在はほぼサポートなしで配信や編集をこなす社員もいます。
機動力のある配信撮影
長瀬氏:
弊社はスタジオが4つありますが、スタジオ外でも撮影や配信を行いたいというリクエストも多くあります。それに応えるべく、社内の大小さまざまな会議室に機材を持ち込んで撮影配信を行うこともあります。社内以外でも販売代理店のところからメディア向けにブランド発表のライブ配信をしたこともあります。
また、変わった案件としては、弊社の和歌山事業所のグラウウンドで、ある商品の実験映像をハイスピードカメラで撮影して、DaVinci Resolveで編集して社内の依頼者に納品したこともあります。
今年の入社式では、スタジオと入社式の会場を生中継で結ぶチャレンジをしました。タレントさんを呼びたかったんですが、事前録画のメッセージを流すのではなく、中継することにこだわったおかげで、タレントさんと直接質疑応答できたことで入社式も盛り上がりました。
長瀬氏:
また、ATEMスイッチャーのクロマキー合成を使うことで、弊社の食器用洗剤のキュキュットのブランド担当者がキッチンの背景にして製品について語る、ということも簡単にスタジオ内でできます。
内製化によるメリット
長瀬氏:
今までは制作費を気にしながら動画コンテンツの発信を行なっていたところを、内製化によって、納得のいく内容で頻度よく発信できるようになりました。また、社員自らが登壇することで、担当する商品やブランドを自分の言葉で伝えられるようになり、社員のコミュニケーションスキルの向上につながりました。
さらに、1つのブランドに対する配信などで同じ社員が登壇することで、視聴者側からブランドの認識がしやすくなって親近感を持っていただけるようになりました。弊社ブランドの「ファン」の方々とカジュアルなコミュニケーションも取りやすくなったのもオンラインならではです。
長瀬氏:
こういった配信を通して、「優良顧客」というよりも「ファン」として、顧客と企業が親密かつ対等な信頼関係を構築して、相互に利益を持てる関係性作りが重要だと感じています。