アカデミー賞とSXSWとの関係
SXSWのFilm部門は、若手やインディーズの登竜門と言われていたが、今や、面白い作品はすべてSXSWから始まると言われている良い映画祭へと成長した。
その急先鋒が創立10年を迎えるA24という映画制作配給会社だ。A24とSXSWの相性が良く、SXSW常連の彼らは毎年話題作を出品する。2016年バリージェーキンスの「ムーンライト」、2017年「レディ・バード」、2019年「ミッドサマー」。そして昨年、SXSW2022 Film部門オープニングを飾ったのが、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」だ。
その1年と1日後、第95回アカデミー賞最多受賞!作品賞含む主要7部門受賞で圧勝した。
ダニエルズと呼ばれる、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート両監督もSXSWとは縁が深い。2012年、2015年とSXSW Film Awardsのミュージックビデオ部門でGrand Jury Awards(審査員賞)を受賞している。2016年には長編映画にも進出し、コメディ映画「スイス・アーミー・マン」が上映された。
SXSWが自らを"全てのクリエイターを後押しする場"と宣言している通り、まさに「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」はサウスバイドリームの一つとなった。
主演のミシェル・ヨーは今回の受賞で自身初にして、アジア人史上初となる主演女優賞を受賞した。ミシェルは受賞スピーチにて「これを見ている全ての子供たちへ、このアカデミー像は希望の証です。夢は実現するということの証です。この映画を私の母、そして世界中のお母さんたちに捧げます。あなたたちはスーパーヒーローです!」と力強いメッセージと受賞の喜びを語った。
そして、本作で感動的な俳優復帰を果たしたキー・ホイ・クァンも助演男優賞を受賞。1985年、カンボジア人のハイン・S・ニョール以来38年ぶりのアジア系の俳優としての受賞となる。
キーは「僕の旅は難民キャンプから出航するボートから始まりました。そして今僕はハリウッドの最大の舞台にたどり着いた。映画のような話ですが、これが僕の人生なんです。これこそがアメリカンドリームなんです。夢は信じなければ実現できない。皆さんも夢をあきらめないで!!」と涙ぐみながら感謝を述べた。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は実にSXSWらしい作品である。SXSWは数年前からコメディをプログラムの一つとしていて、笑いで社会を捉えようとする姿勢を大事にしていることがわかる。一方、SXSWのセッションカテゴリーには「2050(過去はFantastic Future)」があり、量子コンピュータや宇宙開発、マルチバースなどSF的な未来の話を議論する。
SFコメディ作品であるこの映画が、カンヌでもサンダンスでもなくSXSWで初公開され、伝統的なアカデミー賞を多数受賞した事の意義は大きい。
SXSW2023でもA24の勢いは止まらない
今年に話を戻すと、SXSW2023でもA24の勢いは止まらない。
フリオ・トーレス氏が監督・脚本・出演もする「Problemista」が世界初公開された。アメリカの移民制度について描かれるコメディ映画だ。
この映画に出演するティルダ・スウィントンは今年のキーノートスピーカーの1人である。フィーチャードスピーカーとしてフリオ監督自身も自分の創作スタイルについて語った。
「サタデー・ナイト・ライブ」で脚本家として活躍し、自身もコメディ作品に俳優として出演してきたフリオ監督は、基本的に自分で書いた脚本は自分で監督するスタイル。テレビ番組で培ったスキルが今回の長編映画で生かされていると語った。
すでに始まっている2024年の作品応募
SXSW Filmは今年ヘッドライナー作品が9作品あった。キアヌ・リーブス主演「ジョン・ウィック4」、「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」、Apple TV+で3月31日から配信される映画「テトリス」、ベン・アフレック監督、マッド・デイモン主演の「AIR」など、大型長編作品が名を連ねる中に、A24のインディペンデント系映画がリストアップされた。
これがSXSWの面白さの本質であり、37年間もNext Waveを探し、輩出し続けるこのフェスティバルの持つ強力な力であろう。会期終了後、すぐ2024年の先品応募が始まる。SXSW2024に向けて、Film部門の快進撃が止まらない。