2022年から2023年にかけて、ソニー、キヤノン、パナソニックなどの各社からリモートカメラの新発売が相次いでいる。文教関係のeラーニングやイベントのネット配信の増加に合わせて、リモートカメラの普及も目覚ましい勢いで進んでいるようだ。そこでPRONEWSでは、リモートカメラの最新トレンドや機材の選び方をまとめた特集を今回企画した。ライブ配信を中心に映像制作を幅広く手掛ける神成株式会社、泉悠斗氏のご協力のもと、リモートカメラ選びの注目ポイントを解説する。
注目ポイント1.自動追尾機能
2023年のリモートカメラ業界最大の注目ポイントは、自動追尾機能の民主化だ。筆者は、今年7月に大阪で行われた関西放送機器展を視察したが、各社PTZカメラの展示機に自動追尾機能を搭載したモデルがだいぶ増えていた。
そこで各社のリモートカメラを体験してみると各社個性があって、キヤノンは結構ゆっくりじんわりと寄っていき、ソニーは出だしは機敏に動く印象を感じた。そのほか各社の自動追尾機能の実機も含めて、新人カメラマンレベルからベテランカメラマンレベルまで、いい面もあれば悪い面もあると感じた。それでも自動追尾機能は実用の域に達し始めている大注目の機能である。
自動追尾機能の入手方法に関しても変化がありそうで、パナソニックは「自動追尾ソフトウェアキー」、キヤノンは「自動追尾アプリケーション」のライセンス販売だが、ソニーは2023年6月に発売した「SRG-A40」「SRG-A12」で「PTZオートフレーミング機能」を本体に標準搭載してきた。AVITOKもAVerも自動追尾機能搭載モデルを発売しており、近い将来、本体に搭載されるのが当たり前になるのではないかと期待を寄せている。
キヤノンのリモートカメラは「自動追尾アプリケーション RA-AT001」を対応機種に追加することで、自動追尾を実現することが可能になる
注目ポイント2.リモートカメラの高画質化
もう1つの注目ポイントは、リモートカメラの高画質化だ。数年前までのリモートカメラのイメージセンサーは、一般的なスマートフォンと同じ1/2.5インチや1/2.8インチセンサーが一般的で、暗いところの撮影ではノイズが乗りやすく、画質の違いからビデオカメラと混ぜることは難しかった。しかしここにきて、キヤノンやパナソニックから1インチセンサー搭載のリモートカメラが発表され、ビデオカメラと混ぜて使うことも問題なくなってきている。これまではリアルイベントの観客席にカメラマンとカメラを設置していたが、今後は高画質モデルのリモートカメラに置き換えるという選択もアリになってきていると感じている。
さらに、ソニーからはフルサイズセンサーを搭載したレンズ交換式のリモートカメラ「FR7」が登場。FR7の画質はリモートカメラ業界でも飛び抜けた存在で、「リモートカメラの画質は劣る」という印象は過去の話になりつつあるようだ。
ソニーの「FR7」はレンズ交換式対応とフルサイズセンサーにより、映画のような表現を実現可能にしている
注目ポイント3.「SRT」や「ST 2110」の新しいプロトコルやIPネットワーク規格に対応
もう1つのトレンドは、新しいプロトコルやIPネットワーク規格の対応だ。最近のリモートカメラ新製品は、「SRT」対応モデルが増え、さらに「ST 2110」に関してはパナソニックの「AW-UE160W/K」がアクティベートによりリモートカメラ業界で初めて対応を実現してきた。今業界では標準的にNDIが使われているが、圧縮伝送のために最高画質を重視したいというニーズに合っているとは言い切れなかった。その点、ST 2110は圧縮伝送や非圧縮伝送を規格化しており、できるだけ高品質な制作を求めるプロダクションから注目を浴びている。Blackmagic Designも「Blackmagic 2110 IP Converter」を発売してきており、今後、ST 2110に対応したリモートカメラは増えていくのではないかと予想している。
パナソニックの「AW-UE160W/K」はアクティベートによりリモートカメラ業界で初対応可能。同社YouTubeチャンネルのAW-UE160W/K開発者インタビューでは、SMPTE ST2110搭載の解説が行われている
泉悠斗|プロフィール
神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。