通常のビデオ三脚にPTZカメラを載せて使っている人は、「全伸高の限界」や「カメラ動作の振動」「PTZカメラ向け機能の最適化」などの面で多かれ少なかれ何かしらの不満を抱えている人は多いのではないだろうか。そんな問題を解消したPTZカメラ向け三脚が数社から発売され始めている。実機を使用してみたのでレポートしたい。
平和精機工業「LX-ePed」
平和精機工業の「LX-ePed」は、電動で昇降するペデジタルだ。ストローク幅は400mmあり、遠隔から上下に調整が可能だ。PTZカメラは遠隔からパンとチルト、ズームの操作が可能だが、昇降に関しては手動で行わなければいけなかった。この問題をLX-ePedで解決できるのではないかと思い、以前から気になっていた。
LX-ePedシリーズは、グランドスプレッダータイプとドリータイプをラインナップする。グランドスプレッダータイプは247cm、ドリータイプは261cmの高さを実現することが可能だ。
標準で付属するコントローラーは、コンパクトで使いやすい。上下の操作が可能で、昇降レバーを倒した角度によって速度が変わる。押し込めば押し込むほど速くなり、少しだけ倒せばゆっくり動く。本体とコントローラーは、付属のLANケーブル(30m)で繋げて使用する。
本体には、LANとDCの端子を搭載する。本体からケーブルが2本出るので、現場では多少煩雑な状態になる。例えばPoEに対応してLANケーブル1本で供給やコントロールする方法なども考えられるのではないだろうか。オプションの「VM-12V」を使えば、Vマウントバッテリーから製品全体に給電も可能だ。
撮影現場でいつも悩まされるのは、会場に人が入ってこないとカメラの高さを決められないという問題だ。実際に人が会場に入ってみたら、もうちょっとカメラを高くしなければいけなかったということはよくある話だ。そんな場合に、LX-ePedを使えば容易に高さの調整ができてとても便利だった。
稼働の様子を撮ったので、全伸高などを参考にしてほしい
LX-ePedを使って気になる点が2点あった。動作音は機材展示会の会場デモではまったく感じなかったが、静かな現場だとモーター音が気になる。シーンとしたセミナーであれば気になるかもしれない。
また、最大まで上がり切ったところでわずかにガタンと画面が揺れる現象がみられた(上記映像の1分11秒あたり)。もし、上下の昇降を演出に使いたいならば、最端の限界を気にする必要がありそうだ。
ちなみに、「BL-F(フラットベース変換アダプター)」の中央ネジには、外側が大ネジ、内側が小ネジの2段階構造を採用。カメラと雲台をネジに左右されることなく対応が可能で、サイズが合わない煩わしい思いから解放されそうだ。ほかの三脚にもぜひ見習って採用してほしいと思った。
最後に、今回評価をしたLX-ePedは車輪付きのドリータイプであったが、結果的に良かった。LX-ePedはコラム本体(中央部分)が重く、専用キャリングケースも存在しておらず、移動の面で苦労することがあった。その点、ドリー付きモデルは持ち運びの面で助けられた。もし各スタジオに持ち込んで使うならば、ドリータイプの選択肢をお薦めしたい。
Vinten「PTZ-AP2F」
Vintenブランドからは、システムPTZ HD三脚「PTZ-AP2F」とPTZカメラマウンティングシステム「Universal PTZ Plate(V4166-1001)」をテストした。PTZ-AP2Fのパッケージは、100mmボールヘッド、Vinten Pozi-Loc三脚、2つのカメラネジマウントを備えたユニバーサルPTZプレート、グランドスプレッダーが付属する。
PTZ-AP2Fの魅力は、三脚自体の軽さだ。アルミ製で、ちょっと移動させるのに楽だ。また、雲台は普通の三脚と同じ100mmボールヘッドの機構で、角度の調節が可能なのも良かった。
PTZ-AP2Fの雲台はLX-ePedと同じで、100mmボールヘッド採用で、雲台を三脚部分から外すことが可能。さらにハーフボウルアダプターとPTZカメラ用プレートは4つの六角ネジで外せる。セットアップは、PTZプレートをカメラと接続、PTZプレートと雲台を六角ネジで固定、三脚に載せるという流れになる。
文章で紹介するとなんてことはない作業のように思えるが、PTZカメラ用プレートにカメラを付けた後(写真下の状態)にこの4つのねじを付けるのは大変な作業だ。例えばキヤノンのCR-N700のような大型PTZカメラと大型の「Universal PTZ Plate」を組み合わせた場合、重量があって手間のかかる作業となった。
これはPTZカメラを天吊にする作業と同じで、スタジオで常設して動かさないとかであれば一番理想だ。逆に、別の野外の会場に持ち込んで使う場合は、セッティングは少し手間かもしれない。
以上のことから、PTZ-AP2Fはスタジオ常設での運用時にお薦めの三脚だ。100mmボール採用で、通常の三脚としても使用できるのも魅力といえるだろう。
平和精機工業「LX5」
平和精機工業の「LX5」は、中型から大型のリモートカメラ専用三脚システムだ。リモートカメラ用にあえて機能を絞ることにより高いコストパフォーマンスを実現している。
今回テストをした3機種の中では、LX5は持ち運びに向いている。機能は限定されるが、持ち運びを前提とするならばお薦めだ。
気になったのはパン棒の位置で、筆者がすでに使用しているTH-Zと比較すると、LX5は高い位置にパン棒がついている。このパン棒がソニーSRG-A40のような小型のPTZカメラだったら問題ないが、AVITOKのように横長のモデルやCR-N700のような大型のクラスのカメラだと当たることがあった。
純粋にリモートカメラ用三脚であれば、パン棒なしでも問題ないはずだ。もし付けるのであれば、TH-Zと同じ場所が理想であろう。
気になる点はそれぐらいで、ある意味普通の三脚でもあり、セットアップは大変しやすい。本体上には水平器も付いていて、中にはバネを搭載し前倒しや後ろ倒しになりにくいのもしいポイントだった。
まとめ
今回は3種類の三脚をテストしたが、用途や目的によって使い分けが考えられる。
LX5はPTZカメラを買って、最初の1台目の三脚としてお薦めだ。雲台はプレートタイプで外れるし、とりあえず三脚を使ったことがある人なら即使用可能だ。特に複雑な知識も必要なく、ある意味三脚ライクな操作性に好感が持てた。
VintenのPTZ-AP2Fは、次にステップしたい中級クラス向けPTZカメラ三脚として最適な選択となりそうだ。
今回テストをした中でも、LX-ePedは特別な存在だった。
これまでPTZのカメラを載せたあとに上下の調整するのは、大変な作業だった。少し上げたり下げたりしたくても、三脚の三本足を調整をするのは負荷の高い作業で、カメラを全部下ろして脚を伸ばす作業をすることもあった。だからこそLX-ePedには高い価値を感じる。「BL-F(フラットベース変換アダプター)」の部分は、プレートが一体型になっていてセットアップも楽だった。
本稿を参考に、最適なPTZカメラ向け三脚選びを実現してほしい。
泉悠斗|プロフィール
神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。