放送局への人材派遣、イベント中継映像制作、番組制作など幅広く展開している株式会社エキスプレスが、パナソニックコネクトのKAIROS クラウドサービスをスポーツ中継業務に導入した。その採用の経緯や、KAIROS クラウドサービスの使い勝手などを 株式会社エキスプレスの大富將司氏、松川年之氏に伺った。
大富將司氏
株式会社エキスプレス 常務取締役
技術事業本部長
松川年之氏
株式会社エキスプレス 技術事業本部
技術営業部 ネクストメディアグループ
営業課発チーム TL
株式会社エキスプレスの業務について教えてください
大富氏:
大阪で創業し、現在は大阪、東京、名古屋に6ヶ所のオフィスがあります。以下のような幅広い事業を展開しています。
- 放送局に向けた、技術、編集、制作スタッフなどの人材派遣
- スポーツ、音楽ライブ、イベントなどの中継映像制作
- 映画、テレビ番組、テレビコマーシャル制作
- CS 鉄道情報専門「鉄道チャンネル」の運営、デジタルコンテンツの制作販売
- リモート中継用施設「AVENIR HUB」運営
スポーツ配信でKAIROS クラウドが選ばれた理由とは
KAIROS クラウドサービスを導入したきっかけはどのようなものでしたか
大富氏:
日本全国の中継制作に携わる中で、中継技術部隊のある東京や大阪から離れた地域での中継業務もレギュラーで行っており、リモート運用が出来ないかを考え始めました。
2018年には、リモート中継についての海外の事例を見る機会があり、そこから日本の市場にはどのようなシステムが合っているのか、という観点で様々な方式のサービスを検討し、2021年にまずKAIROS オンプレミスを導入しました。
さらにコロナ禍を経て、イベントの形態も変わらざるを得ない場合も多くなりました。そして、様々なイベントの主催者から、YouTubeなどでの配信のリクエストを頂くことが多くなりました。ただ、イベントの規模などを考えると予算を抑えざるを得ないことも多く、そのようなニーズにも応えられる選択肢を増やすため、2022年にKAIROS クラウドサービスを導入しました。
KAIROS クラウドサービスを導入するにあたっての決め手は何だったのでしょうか。
松川氏:
検討の際にいくつかのクラウドサービスを使ってみましたが、最終的にはKAIROSの安定性が採用の決め手でした。当然のことですが安定した運用は非常に重要です。また、サポートの方々にも丁寧に対応して頂いています。運用を開始してまもなく1年になりますが、中継中のトラブルは一度もありません。
KAIROS クラウドを用いたワークフロー
KAIROS クラウドサービスの、実際の運用について教えてください
松川氏:
9月16日、17日に開催された第3回ユースフューチャーカップ鉾田の際のワークフローでお話をします。
第3回ユースフューチャーカップ鉾田 YouTube配信動画
松川氏:
現場ではカメラ3台で撮影をして、ミキシングされた音声と共にRTMPでKAIROSのクラウドに送っています。その映像と音声を東京にある弊社のAVENIR HUBにて4台のPCで制御しました。
●KAIROS Creator x2
スイッチングとミキシングをそれぞれ別のPCでKAIROS Creatorを起動して行なっています。中継の内容や映像表現によって、KAIROS Creatorの端末を増やしていくことになります。
●Streaming Player
それぞれのカメラやスイッチングしている映像のブラウズ、監視を行います。KAIROS CORE上で作成したマルチビューアーもこのソフトを使用して表示させます。
●KAIROS Cloud Platform
それぞれのカメラの映像をどのスイッチャーに割り当てるかなどの各種設定を行います。
ここでスイッチングされた映像と音声が同じくAVENIR HUBにあるコメンタリーブースに送られて、コメントと共にKAIROSのクラウドに送られ、配信されています。
KAIROS クラウドサービスを実際に業務で使われて、どのような利点があるとお考えでしょうか
コストを抑えたシンプルな運用が可能
松川氏:
まずは初期投資を抑えてシンプルな設備で運用が可能だということだと思います。パソコンが数台あれば、いわゆる今までの中継と変わらないことができます。
大富氏:
特殊な設備が必要ない、という意味では、極端にいえば会議室や自宅でもできてしまいますね。
映像、音声の伝送の柔軟性
松川氏:
カメラからは映像と音声をRTMPでクラウドに送れば、手元にあるパソコンでブラウズできるようになるので非常に簡単です。
さらに、iPhoneのような撮影と伝送を兼ね備えたデバイスを簡単に使えるところも大きな利点だと思います。パナソニックのモバイルカメラアプリを使うことで、iPhoneで撮影している映像をアプリ上で変換してSRTで飛ばすことができます。
業務用カメラと転送機材それぞれをレンタルするとそれなりの出費になるので、カメラの台数を増やしたい場合に費用を抑えることもできるでしょうし、Wiral LITEのようなアイテムを使うと、簡易的なケーブルカムにもなります。
通常のカメラの映像を伝送してクラウドで使うのは誰でも思いつくことなので、クラウド活用という視点で他に何か良い使い方はないか、と考えた時に、iPhoneやドローンから伝送できればより多彩な映像が提供できるので、そこの可能性は感じています。また、パナソニックの業務用カメラにも伝送機能がついているものもあるので、クラウドでの活用という意味でも今後が楽しみです。
IFSC World Cup HACHIOJI 2023のYouTube配信動画
実際にKAIROS クラウド×Wiral LITEで撮影したドリーショット(1:08:50~1:09:23)。
KAIROS クラウドが映像表現の幅を広げるいい一例ではないだろうか
松川氏:
そして光回線を新たに敷設するのが難しい環境の場合は、スターリンクの回線をボンディングして使用しました。3カメ程度の伝送であれば問題なく行うことができました。さまざまな機材、方法でデータを受け取ることができるのも利点だと思います。
クラウドの素材を素早く編集、配信
松川氏:
入力した素材は、同時に4ソースまでクラウドに保存することができます。上がりきった素材から手元にダウンロードして、ハイライトなどの編集にとりかかることができるので、すぐにショート動画などを目的のサイトにアップすることも可能です。このフローは実際に作業をしている編集マンからも好評です。
大富氏:
配信先がネットサービスならば、クラウドにデータがあることで複数のサービスに同時に送ることに向いています。映像コンテンツが様々なプラットフォームで配信されていくようになる今の流れでは、今後のスポーツなどのイベントでもそういったことがどんどん増えるのではと考えています。
人材、機材の移動を必要最小限に抑える
松川氏:
今までの中継のフローでは現場に20名以上のスタッフが必要でした。そのための交通費、宿泊費が当然必要です。クラウドをベースにした運用にすると2/3程度の人材は東京での作業となるので、その分の費用を中継技術に使うことでより多彩な中継が可能になります。
人材確保の面でも、中継日の翌日に別件があると、遠方の現場に宿泊だと受けられない、という場合もあります。
東京で作業をしてもらい、中継が終わり次第解散できることで確保できる人材もいるので、そういう意味でもやりやすくなりました。また、人が移動しない、ということは、機材も移動しないということなので、現場の撤収にかかる手間も相当削ることができます。中継全体として様々なコストを抑えることができてきます。
今回の鉾田の中継では、現場にはカメラ、音声、伝送系のビデオエンジニア、東京のAVENIR HUBはスイッチャー、CG、受信側のビデオエンジニア、音声、コメンタリーという配置での運用でした。
KAIROS クラウドサービスに今後求めたい機能はあるでしょうか
松川氏:
中継車でやっているような、ライブ中継中でのハイライト、エンドのブイの同時制作ができるようになると、さらに活用できる範囲が広がると思います。また、CGでフィルキー信号の同期がまだ使えないので、こちらも対応して頂けると演出の幅が広がりますね。
今後、KAIROS クラウドサービスを使ってみたいジャンルはあるでしょうか
大富氏:
1ヶ所での中継はもとより、多元中継であればどのようなジャンルのコンテンツでも使えると思います。複数拠点で同時に行われていることを、それぞれの現場で撮影、伝送し、クラウドでまとめる。そのようなフローを比較的低価格で提供できるのがクラウドの最大のポイントだと思います。
松川氏:
お客様に選んで頂く選択肢を増やすということだと考えています。長年の実績と絶対的に安心感のある中継車、現場のスタッフは現地で対応して、基幹となるスタッフは東京でリモートするオンプレ、さらに費用を抑えることのできるクラウド。お客様の予算とニーズに合わせてそれぞれを適材適所で提供していく。特にクラウドはまだまだできることが増えていくと考えているので、これからも新しいことに挑戦していければと思っています。