最近、高品位な映像や音声を伝送・配信するための基盤として注目されている技術が、AV over IPである。AV over IPネットワークの要となる機器がスイッチであり、中でも評判が高い製品がNETGEAR(ネットギア)のAV over IP向けスイッチ「ProAVスイッチ」だ。ProAVスイッチはラインナップも充実しており、高性能で使いやすく、信頼性の高いAV over IP向けスイッチとして、さまざまな分野で利用されている。
ネットギアジャパンは2023年10月26日、東京タワーフットタウン5FのNETGEAR RED° ARENAにおいて、ProAVスイッチの新製品「M4350シリーズ」のリリース記念イベントを開催した。イベントでは、ネットギアジャパンの担当者による新製品の解説のほか、パートナーのアスク・エムイーおよびIDKのゲストスピーカーも登壇し、AV over IPに関するソリューションや事例などの紹介が行われた。
M4350シリーズは、従来機よりも「高速」「大パワー」「高信頼性」を実現
最初に、NETGEARの日本法人であるネットギアジャパン ProAV ビジネスディベロップメントマネージャーの山本明人氏が、新製品の「M4350シリーズ」について解説を行った。その要旨は以下の通りだ。
AV over IPとは未来への整備であり、IP化することで今後ネットワークに対するどんな要求があっても対処できる。NETGEARは、スイッチや無線LANルーターなど、ネットワーク機器メーカーとして26年の歴史を誇り、さまざまな世界初を実現してきた。我々には、AV over IPでシステム構築するニーズが必ず広がっていくという確信があり、2020年にAV over IP向けスイッチの展開を開始した。
我々だけでは、AV over IPの世界を広げることはできない。今日いらっしゃっているアスク・エムイーやIDKなど、各AVサプライヤーパートナーと一緒にこういった世界を作ってきた。その結果、さまざまなプロトコルをサポートすることができ、我々のM4250シリーズは、配信現場やイベント現場、AVシステムの設備としてさまざまなところで使っていただいている。AVに最適化された専用GUIを用意し、簡単に設定が行えることも特徴だ。
今回リリースした新製品「M4350シリーズ」は、NETGEARの新たな挑戦であり、「More Speed」「More PoE Power」「More Reliability」という3つのポイントが強化されており、フェーズ1として7機種を投入する。More Speedについてだが、従来のM4250では最高10Gbps×4でのアップリンクだったが、M4350シリーズでは最高25Gbps×4で最高100Gbpsのアップリンクに対応する。
More PoE Powerについては、最大3314Wものパワーバジェットに対応するモデルもあり、例えばPoE++対応の90Wリモートカメラを36台同時に駆動できる。More Reliabilityについては、内蔵電源以外に追加電源スロットを2つ備えており、需要に応じて追加電源モジュールを搭載可能であり、電源の冗長化を実現できる。
最近のProAVトレンドとしては、「ハイブリッドや多様なニーズに応える必要がある会議室の整備」「バーチャルプロダクション」「スタジオ、配信設備など多種多様な機材を用いて構築するアプリケーション」の3つがあり、M4350シリーズはそうしたトレンドに対応できる製品である。また、NETGEARにはAV over IPソリューションの専任チームがあり、システム構成の支援などを行っている。
NDI対応AV over IPソリューションが続々登場
続いて、株式会社アスク M&E事業部 (アスク・エムイー)の阿部直人氏が、同社が扱っているAV over IPソリューションについて紹介を行った。その要旨は以下の通りだ。
現在の映像コンテンツは、高精細、高解像度、広色域化が特徴であり、4K映像も一般化している。4K映像はデータ量が大きいため、従来のシステムでは高画質伝送が困難である。そうした状況を解決する手段が映像や音声をIPネットワーク経由で伝送するAV over IPであり、効率の良い伝送インフラを実現できるだけでなく、規模に応じた柔軟な機器構成が可能なことが利点だ。AV over IPでは、SMPTE ST2110やNDI、Dante AV、SRTといったさまざまなプロトコルが利用できる。
プロトコルにはそれぞれ特徴があるため、目的に応じて使い分けることが重要だ。ここではNDIを取り上げるが、NDIは高圧縮で低遅延なことが特徴である。2K映像なら180Mbps程度のビットレートで伝送が可能であったが、4K映像では最大350Mbps程度のビットレートが必要になり、広帯域化が求められている。
Softronの「MovieRecorder」は、Mac用のNDI対応マルチチャンネル収録ソリューションで、非常に柔軟性が高く、1台のMacで20チャンネル以上もの同時収録や追っかけ編集が可能なことが特徴だ。また、Vizrt (NewTek)の「TriCaster」は、NDI対応のオールインワン・ライブ映像制作システムであり、最大32系統の映像ソースを1つのシステムでライブスイッチングや加工することが可能である。
さらに、最近、ライブプロダクションをクラウドで行う「TriCaster Vectar」と言う製品が発表された。こちらはNDIとSRTに対応しており、最大44入力、16出力をサポートする。さらに、Telestreamの「Lightspeed Live Capture」は、IPストリームをファイル化することが可能で、出力フォーマットも多彩だ。M4350シリーズなら、こうしたソリューションの能力を最大限に活かすことができる。
M4350シリーズでは、PoEも強化されているが、PoE対応製品もエンコーダー/デコーダー、PTZカメラなど続々と増えている。PoEによって信号と電源を1本のケーブルで送れるため、配線の数が減り、シンプルなシステム構築を実現できる。
従来型AVシステムからの移行が容易な「IP-NINJAR」
次に、株式会社IDKの松田健氏が、「IP化が進むProAVシステム」と題して、SDVoEテクノロジーを採用したIP-NINJARについて説明を行った。その要旨は以下の通りだ。
IDKは、映像信号に関する業務用周辺機器の開発や製造を行っている映像機器メーカーであり、HDMI延長器やHDMI分配器、マルチスイッチャーなどを販売している。その中でも注力しているのが、SDVoE対応のAV over IP機器「IP-NINJAR」である。
SDVoEアライアンスは、ProAV環境における10Gbitイーサネットを使ったAV over IPシステムの導入推進を行っている団体であり、現在59社のさまざまなジャンルの企業が加盟している。アライアンス運営の決定権を持つステアリングメンバーに、国内メーカーとして唯一IDKが参加しており、同じくステアリングメンバーであるNETGEARと協力体制を取っており、2020年には160×160という大規模システムの検証を行った。
IDKのSDVoE製品「IP-NINJAR」は、他のシステムとブリッジングすることを考慮して開発されており、SDIとのブリッジングをするための「SDIエンコーダー」やDanteとのブリッジングのための「Danteオーディオブリッジ」が用意されていることが特徴だ。また、30年以上もの従来型システムの実績を活かし、従来型システムと同様に扱えるように配慮したコマンド体系と操作方法を採用しているため、既存のシステムからの置き換えもスムーズに行える。
IP-NINJARは、高機能モデルからスケーラー非搭載の廉価版などさまざまなラインナップが用意されている。IP-NINJARとNETGEARのネットワークスイッチを使った事例として、立命館アジア太平洋大学の教学棟を紹介する。ディスカッション授業を深化させるために、多様な授業形態に対応する柔軟なAVシステムが求められており、マルチビュー表示機能により、グループワークの進捗を瞬時に把握でき、Danteオーディオとの高い親和性を誇り、メンテナンスも優れていることが評価され、IP-NINJARが選ばれた。その他、欧州議会でも1,000台を超えるIP-NINJARが導入されている。
IP-NINJARは、AV over IPに対応した製品だが、ネットワークスイッチを使わない1:1伝送の従来型AVシステムもサポートしている。新製品のM4350シリーズの特徴を活かしたシステム構築の提案例として、25Gbitアップリンクを活かし、4K@60の14入力、34出力の実現が可能なシステムを紹介する。PoEの大容量化により、この構成でのすべてのエンコーダー/デコーダーをPoE給電できることも大きなメリットだ。
IP-NINJARには、既存システムからの移行が容易で、他のIPベース規格との親和性が高いことや、ラインナップが豊富なこと、国内外の主要施設への導入実績があることなど、さまざまなメリットがある。
M4350シリーズフェーズ2の未発表製品が明らかに
最後に再び、ネットギアジャパンの山本氏が登壇し、現時点では未発表となるM4350シリーズの「フェーズ2」について言及し「100Gアップリンク」「ST2110」のスライドを見せた。よりハイスピードな「100Gアップリンク」に対応し、放送業界にとっては嬉しい「ST2110」の規格にも対応するフェーズ2の製品も、近日中に発表予定とのことであり、NETGEARがより色々な業界でのAV over IPを進化させる未来に期待したい。
新製品「M4350シリーズ」について各登壇者にインタビュー
株式会社アスク
阿部氏:
「M4350シリーズ」の発表がもたらした最大の印象は、PoEのパワーが大幅に向上したことで、電力供給に関する安心感が高まった点です。私たちが扱うPoE対応製品を使用した際、特に大規模なシステム構築においては、従来PoEの供給電力が足りない場合がありました。しかし、「M4350シリーズ」により、最大3314Wの供給が可能となり、これによって電力供給の懸念が払拭されました。ProAVスイッチはIPシステムの中核をなす要素であり、電源に冗長性を持たせられることは、私たちの提案の信頼性を高め、お客様にとっても大きな安心材料となります。
さらに、NETGEARのProAVスイッチに対する将来的な期待としては、SMPTE ST 2110への対応があります。私たちが取り扱うTelestream製の「Lightspeed Live Capture」は、SMPTE ST 2110のライブソースを直接キャプチャできる唯一のハードウェアソリューションであり、非圧縮伝送を行うこの規格では、複数のソースを扱うためには相応の帯域幅が必要です。この「Lightspeed Live Capture」は25Gのポートを搭載できるため、NETGEARのProAVスイッチがSMPTE ST 2110に対応することで、私たちの製品を活用したプロジェクトでの協業の機会が増えることを期待しています。
株式会社IDK
松田氏:
タグVLANを設定したスイッチ間の接続をより容易にし、システム構築の専門知識がない人々でも大規模なシステムを構築できるようになったことですね。
小澤氏:
これまでもNETGEARのProAVスイッチではSDVoEに最適な設定がされている状態であり、ネットワークスイッチに詳しくない人でも扱える点にメリットがあったが、 「M4350」の登場によって、さらにタグVLANを設定したスイッチ同士の接続も簡単に行えるようになり、複雑で大規模なシステム構築を組みやすくなったという、NETGEARにとっての次のステップに移行した印象があります。
千田氏:
本日のイベントで発表があった100Gアップリンク対応にはすごく期待をしています。 システムの規模や映像信号のサイズが今後も大きくなっていく中で、100Gアップリンクにネットギアが対応することにより、より大きなシステム構築が可能になるということに期待しています。