はじめに
皆さんはネットワークスイッチを使用する際に、「Wi-Fiを無自覚に接続」「適当な空ポートにLANケーブルを接続」「スイッチを無闇矢鱈に増設」などの方法で使用していないだろうか?映像、音声のデータを確実に流すためには、正しい使い方やもっとスイッチを理解した上で使うべきだと考えている。
NETGEARの「ProAVスイッチシリーズ(M4250 / M4300 / M4350)」はネットワーク業界では珍しくAVに特化したネットワークスイッチで、電源を入れれば普通のネットワークスイッチとしては機能する。しかし、それではディスカバリー機能、QoS機能、フローコントロール、マルチキャスト制御など優れた機能は生かせない。せっかく各AVプロトコルに最適化した設定のプロファイルが用意されているのに、使わないのはもったいない。
そこで本章ではProAVスイッチをフル活用するためのオーディオ-ビデオ(AV)のユーザーインターフェース(UI)、略してAV UIにアクセスするための方法や各設定の意味をM4250シリーズを使って説明する。
OOBポート経由のスイッチ設定
スイッチの初期設定から開始しよう。通常は設置場所のネットワークポリシーに合わせて最適な方法でログインを行うが、ここではもっとも初歩的なOOBポートを介した初期設定方法を紹介する。
STEP1.まずは本体の管理画面にログインできるように、パスワードの設定、IPアドレスの設定を行う。LANケーブルをM4250のOOBポート(管理用専用イーサネットポート)とPCに接続する。
STEP2.スイッチ本体の初期パスワードを設定する。まずは自身のPCのIPアドレスを「192.168.0.100」など任意の固定IPアドレスに設定する。
STEP3.Webブラウザのアドレスに、OOBポートの初期IPアドレス「192.168.0.239」を入力する。
STEP4.ログインページが表示される。AV UI Loginの側でLogin Nameは"admin"、Passwordは空白のまま[AV UI Login]ボタンをクリックすると、初回は必ず新規パスワード設定(変更)の画面が表示される。
STEP5.登録したパスワードでログインを行う。
STEP6.ログインをすると、このままWebブラウザで「AV UI」の管理画面にアクセスできる。
Engage経由のスイッチ設定
同一ネットワークでIPアドレスが決まるのであれば通常のLAN経由でアクセスが可能だが、DHCPサーバーによる変化がある場合にはIPアドレス直接打ち込みは不便である。このような場合は、スイッチのIPアドレスが動的であるか固定であるかに関係なくアクセスできる管理専用アプリケーション「Engage」を使用する方法が最も簡単だ。
STEP1.まずはアプリケーションをダウンロードし、インストールする。
STEP2.Engageは、複数のM4250を横断的に管理、設定できるお勧めのアプリケーションだが、使用の際にはEngage環境への「ログインパスワード」と「M4250の個体で設定したパスワード」は別であることを覚えておこう。初回設定は何度もパスワードを入れる画面に遭遇するので、誤りのないようにする必要がある。
EngageでM4250を登録する時は、個体のパスワードが必要になる。一度Engageに管理登録したM4250は、シームレスで複数機の管理画面に直接移行できるのでとても便利である。
特にファームのバージョンを揃えておきたい時など、複数のM4250が一覧でバージョン番号が表示されるのでとても安心である。もちろん、その画面からファームのアップデートもすぐに行える。
登録が済んでいる状態なら、この画面ですべてのM4250が読み込まれる。
STEP3.この画面でEngageアプリケーションにログインする。
STEP4.ログインすると、管理するPCの出口となるLANポートを「Dynamic IP Address」で特定するか、手動でIPアドレスを設定してあるパソコンは「Static IP Address」から特定する(環境が変わった際に変更をすることが可能)。
STEP5.管理画面にログインすると、まだ「Managed Devices」(管理するM4250デバイス)がない状態で、同一ネットワーク上に3台(画面下)のデバイスを発見している。それらをEngageに登録する。
まずは任意のデバイスを選択して、「Onboard」をクリックする。
STEP6.デバイスパスワードで、個体M4250のパスワードを求めてくる。
STEP7.個体のM4250を、Engageの管理対象としてオンボードする。
STEP8.めでたく「Managed Devices」(管理するM4250デバイス)に登録された。「Configure」を押して、管理画面に入る。ここからは個体でOOB接続して、Webでの管理画面で設定するのも同じ操作になる。
AV UIのインターフェース解説
Overview(オーバービュー)
STEP1.ログイン直後の画面ではリンクアップし、接続されているポートの確認(青の枠囲み)ができる(PoE端末ではない場合は緑の枠囲みとなる)。ここではM4250の稼働状態を確認しておこう。
STEP2.画面をスクロールダウンするとCPUやメモリの使用量や温度の確認を行える。ファンのモードは30℃~50℃くらいならそのままで大丈夫だが、爆音好きならクールにすると唸りをあげてよく冷える(Fan Modeの選択はモデルにより異なる)。
Network Profile(プロファイル)
STEP1.基本となるVLAN1のプロファイルは「Data」がデフォルトになっている。例えばNDI5接続であれば「Video NDI5 with Dante,Q-Sys or AES67 audio」を選択し、その他ビデオエンコーダー・デコーダーの場合は「Video」を選択、Danteであれば「Audio Dante」を選択する。
STEP2.「Profile Template」から「Video NDI5 with Dante,Q-Sys or AES67 audio」を選択する。※NDI接続の場合
STEP3.各VLAN内でDHCPサーバーを動かすことも可能だ。
Link Aggregation(リンクアグリゲーション)
リンクアグリゲーションとは、複数ケーブルでスイッチ間を接続して帯域を増やし、冗長性を確保する方法である。通常のスイッチ同士で複数ケーブルを繋ぐと、ループを起こして音声のハウリングのような現象でループが発生し暴走する恐れがある。
M4250シリーズでは、「リンクアグリゲーション」設定の「Auto-LAG」という機能をONにすることにより、複数ケーブルを自動的に束ねることが可能になる。
Neighbor(ネイバー)
異なるネットワークでも、接続デバイスのホスト名(メーカー名など)やMACアドレス、IPアドレスなどが全て一覧表示される。これは大変便利な機能である。
IP伝送では、ネットワークに数多くのコンバーター(SDI to NDI)などが繋がる。現場ではレンタルなどで数を揃えても、IPアドレスの設定はバラバラである。本体ディスプレイなどでIPアドレスが表示されないコンバーターだと、その設定画面にアクセスするためのIPアドレスを調べることに手間がかかっていた。
そこでNeighborの出番である。画面を見てほしい。なんとM4250に物理的に繋がっていれば、たとえサブネットが異なって設定されていた機器でも、その機器に設定されているホスト名やMACアドレスやIPアドレスが一覧で表示される。
これはありがたい。しかも、M4250同士の接続ならば、スイッチの先のスイッチに繋がったデバイスも検出可能だ。これは素晴らしいことだ。
Multicast(マルチキャスト)
適切なプロファイルを設定すると、最適なマルチキャスト設定がされる。マルチキャストグループの状態を確認したり、マルチキャスト設定を変更することもできるが、基本的に設定を変更する必要はない。マルチキャスト伝送では、SDIやHDMIのスイッチャーを使う場合に必須のビデオルーターやディストリビューターなどの機器が一切不要となる。
この分配、複製の機能全てがIPマルチキャストを使ったAV伝送の特徴となっている。この部分が最もIP伝送でスイッチが命と言われる由縁である。
Power over Ethernet(PoE)
LANケーブルを通じて端末に電源を供給することができる。今回のスイッチの仕様はPoE+対応だが、大型PTZカメラなどを利用するケースのために、PoE++もラインナップされている。ここではどのポートに電源を供給するかを決められる。
初期設定では全ポートに給電している。PoEの規格では、PoEに対応していない機器でも別に問題なく利用できる。
Port Configuration(ポートコンフィグレーション)
この画面では、どのポートがどのように接続(1000Fullなど)しているかを確認することができる。NDIで大切なのは、各ポートのフレームサイズが1500、フローコントロールがSymmetricである必要があるということだ。
この辺りも、NDIプロファイルを設定しておくだけで全て設定される。
Security(セキュリティ)
ログインを厳格に管理したい場合は、この設定から802.1x Access Authenticatiomの管理サーバーへ委ねることもできる。RADIUS(ラディウスサーバー)と連結できる。
Maintenance(メンテナンス)
インターネットに接続できる環境なら、ボタンひとつでスイッチファームウェアのアップデートが可能。もちろんファームウェアをPCでダウンロードしてからアップデートすることもできる。
AVB License(AVBライセンス)
AVBプロトコルを使用する時に必要なAVBのライセンスを追加できる。画面はインストール済みの様子。M4250シリーズでは追加が必要だったが、M4350では標準でインストールされている。
Diagnostics(ダイアグノスティクス)
STEP1.動作を記録したLogの設定およびLogの表示ができる。
STEP2.各ポートの統計情報(パケット数、速度)を表示することができる。
Cable Test(ケーブルテスト)
「Cable Test」機能は便利である。平時は「Normal」で終わるが、ケーブルが抜けていたりすると「No Cable」となり、ケーブルの途中で断線がある場合には何mあたりが断線しているのかも示してくれる。
Topology(トポロジー)
複数のM4250が接続されている状態を図示してくれる。
Site Neighbors(サイトネイバー)
先にあったNeighbor(ネイバー)を使って、サイト全体から接続されているM4250がどれかを確認できる。
Site Settings(サイト設定)
「Auto Trunk(オートトランク)」「Auto LAG(オートラグ)」の項目が確認できる。サイト全体の複数の設定を同時にできる。
Management VLAN/OOB(マネージメントVLANとOOB)
管理VLANとOOBのIPアドレス設定を表示、設定できる。画面の例では、真ん中のM4350でDHCPサーバーを動かしている。
IPマルチキャスト伝送でのスイッチの役割は重要である。ここで紹介した設定方法を参考にして、皆さんの快適なIPマルチキャスト伝送環境を実現してほしい。
おのりん(onoe@dreamcraft.jp)|著者プロフィール
映像に関わり47年。テレビの報道取材がフィルムからビデオに替わった初期のテレビで、報道、スポーツニュースをカメラマンとして過ごす。その後、制作に興味を持ち旅番組の演出を担当。さらにモータースポーツの中継番組からメーカーのプロモーション映像、大型展示映像などを手がける。インターネットでのIP動画配信でカジュアルな映像機器がもたらす動画の可能性を感じて、より小型でシンプルなシステムを啓蒙してコンテンツホルダー向けのコンサルティングや、発信する組織、個人に向けた動画の学校を主宰している。