Vol.02 導入事例:ヒルトン東京/Vega Project Pro AVスイッチを核に業界最先端のバーチャルプロダクションスタジオを構築[映像・音声伝送のためのProAV Solutions 2023]メイン写真

Vega Globalの一員として日本でAV over IPソリューション、LEDテクノロジー、IPTVシステム、デジタルオーディオ、バーチャルプロダクションスタジオなど、最先端のAV/ITソリューションを展開しているVega Project株式会社(以下、Vega Project)は、2022年にヒルトン東京と提携。ハイブリッドストリーミングイベント支援およびXR(VR、AR、MRなど)コンテンツ制作のクリエイティブを目的としたバーチャルプロダクションスタジオを同ホテル内に設置した。そこでの業界最先端のAVネットワークの構築・運用を支えているのが、AV over IPに対応したNETGEARの「ProAVスイッチ」だ。

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Vega Project株式会社 スタジオプロデューサー ダコタ・ウィリアムズ氏

最先端のAV技術と機材を搭載した国内有数のバーチャルプロダクションスタジオ

新宿に830室もの客室を有するヒルトン東京は、会議やビジネスニーズに特化したサービスに注力してきた大型ホテルである。しかし2020年初頭から始まったコロナ禍は、その後約2年半にもわたって人々の行動を自粛させ、事実上国境も閉ざされることとなり、ミーティングビジネスは大きな制約を受けて岐路に立たされることとなった。

そうした中でヒルトン東京は、これまでと違った視点を持つことで、アフターコロナの時代を見据えたビジネス回復への準備を進めてきた。そしてたどり着いたのが、オンラインと対面を融合した「ハイブリッド型ミーティング」というサービスのスタイルである。新たな可能性を求めてパートナーを拡大し、最新テクノロジーを活用することで、ヒルトンにふさわしいCX(カスタマーエクスペリエンス)を提供していくことを目指す、ホテル業界でもほとんど前例のない取り組みだ。

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こうして2022年7月、ヒルトン東京3階にローンチしたのが、最先端のAV技術と機材を搭載した国内有数のバーチャルプロダクションスタジオ「ベガスタジオ@ヒルトン東京」である。

同スタジオの企画・設計から運用まで一気通貫で担っているのがVega Projectだ。そのスタジオプロデューサーであるダコタ・ウィリアムズ氏は、「Blackmagic社のURSA Mini Pro 12Kをはじめとする業界トップクラスのマイク、ミキサー、照明のほか、グリーンスクリーンケーブやモーションキャプチャーといった機材も取り揃えています。これにより通常映像の撮影・配信のみならず、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などの技術を駆使したコンテンツの作成・配信にも対応することが可能です」と語る。

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スタジオにはグリーンスクリーンケーブ(仮想環境)を搭載しているため、XR撮影と通常撮影の両方に対応
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スタジオで撮影したソースを編集する設備も備えている

さらにヒルトン東京4階の大規模宴会場の「菊の間」には、幅15.1m×高さ3.04mの国内ホテル最大級の湾曲LEDウォールが設備されている。3階のベガスタジオとの間は光ファイバーケーブルで結ばれており、AV over IPの標準化を推進するSDVoEアライアンスによって開発された最新の映像伝送技術を採用することで、高品質の4K映像をほぼゼロ遅延で配信することが可能だ。

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同ホテルの4階「菊の間」に、国内ホテル最大級の湾曲LEDウォールが設備されており、スタジオからコンテンツをストリーミングすることが可能

「たとえば外国政府の要人や企業のエグゼクティブ、著名なアーティストなど、厳重なセキュリティが求められるVIPの映像を3階のベガスタジオから中継し、4階の菊の間にいる来場者たちとの間で、あたかも本人が同じ場にいるかのようなリアルタイムのインタビューやコミュニケーションを行うことができます」とウィリアムズ氏は語る。

なお同設備は、ほかにも小~大規模(最大1200人)のイベントやコンサート、音楽ライブ、展示会、展覧会、パネルディスカッション、会場からのライブ配信、プレゼンテーション、発表会、テレビ会議システムを使ったカンファレンス、バーチャルイベント、バーチャル結婚式など、多用途での活用が想定されている。

AVネットワークの中核を担う「ProAVスイッチ」

最新のAVテクノロジーによるプリ/ポストプロダクションを1つの場所で完結させたことが、ヒルトン東京が追求するハイブリッド型ミーティングの最大の特徴と言える。

そこで必須となるAVネットワークの中枢となる処理を担っているのが、AV over IPに対応したNETGEARの「ProAVスイッチ」である。

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AV over IPについてあらためて簡単に解説しておくと、デジタル化された映像・音声データをIPパケットに変換して伝送する技術だ。この規格に対応したAV機器およびネットワークスイッチならば、従来のSDI(Serial Digital Interface)やHDMI、USBなど機器ごとに異なるインターフェースを使い分けることなく、LANケーブル1本でネットワークに接続し、必要に応じてエンコーダーやデコーダーを追加するだけのシンプルな機器構成で高性能な映像・音声配信システムを構築することができる。さらにPoE(Power over Ethernet)の機能を搭載したネットワークスイッチならば、接続したAV機器に対してLANケーブルを通じて電源まで供給することが可能だ。

「ここヒルトン東京では3階のベガスタジオ、4階の菊の間、5階の制御室に、PoE+(30W/ポート)に対応の1Gポートを40個搭載したNETGEARのフルマネージスイッチ「M4250-40G8XF-PoE+ (GSM4248PX)」をそれぞれ1台ずつ配置しており、カメラやマイク、ミキサーなどすべてのAV機器を接続し、1本のEthernetに統合しています。また、アップリンクポートにSDVoE規格に対応したZeeVeeのデコーダー/エンコーダーを接続することで、光ファイバーケーブルを介した各フロア間での10Gbpsのリアルタイム映像伝送を実現しています」とウィリアムズ氏は、システムの全体構成を説明する。

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ProAV向けPoE+対応(960W)1Gポート×40 SFP+スロット×8 フルマネージスイッチ「M4250-40G8XF-PoE+ (GSM4248PX)」
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「M4250-40G8XF-PoE+ (GSM4248PX)」は大規模なネットワークに対応できるSFP+ポートを搭載する

初期導入の容易さとユーザーフレンドリーな操作画面を重視

ところでVega Projectは、ヒルトン東京における上記のAVネットワークを構築するにあたり、なぜNETGEARのProAVスイッチを採用したのだろうか。

決め手となったポイントは、初期導入の容易さだ。「ProAVスイッチは基本的に電源を入れて、しばらく待つだけで使用可能な状態になります。企業のITシステムで使われている汎用的なネットワークスイッチにAV機器を接続しようとした場合、複雑な初期設定が必要だったり、オプションプログラムをインストールしなければならなかったりと、大変な手間を要する製品が少なくありません。また、その作業を行うには専門的な知識を持つネットワークエンジニアの手を借りる必要もあります。最初からAV over IP対応として設計されているProAVスイッチは、そんな心配は無用です」とウィリアムズ氏は語る。

前述した複数階をまたいだリアルタイム映像伝送を実現する際にも、ZeeVeeのデコーダー/エンコーダーをアップリンクポートに接続するだけで作業は完了した。加えてProAVスイッチの運用面で高く評価しているのが、ユーザーフレンドリーなGUIベースの操作画面である。

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周知のとおりAV機器はDante、NDI、AVB、Q-SYSなどメーカーごとに異なる映像・音声フォーマット(接続規格)を採用している。これまでVega Projectの既存のスタジオではDanteに対応した機器を原則として採用してきたのだが、今回のヒルトン東京におけるベガスタジオのような高度なAVネットワークを構築するためには、最新テクノロジーやスペック優先でAV機器を取り揃える必要があり、必然的に異なる映像・音声フォーマットが混在することになる。そんな場合でもProAVスイッチは容易な設定が可能だ。

ProAVスイッチの管理コンソールであるProAVスイッチに標準搭載されているAV UIでは、スイッチの本体がグラフィカルに表示される。その画面上で目的のポートをマウスで指定し、接続するAV機器の映像・音声フォーマットを選択するだけの直感的かつ簡単な操作で設定は完了するのだ。「おかげでAV技術者は、自身の知識のみでProAVスイッチを使いこなすことができます」とウィリアムズ氏は語る。

Vega ProjectのAV技術者は、動画・写真撮影から録音・録画、ライブストリーミング(生配信)、音楽・映像デザインおよび編集、VRやARのコンテンツデザインと作成、モーションキャプチャー、3Dグラフィックス、CGアニメーション、空間オーディオ収録・編集にいたるまで、多岐にわたるプロフェッショナルサポートを提供しているが、必ずしもネットワークに関するリテラシーを備えているわけではない。

「そんなAV技術者に対して余計なストレスを感じさせることなく、本来のクリエイティブにおいて能力をフルに発揮してもらうためにも、ProAVスイッチの"手軽さ"は欠かすことのできない重要条件です」とウィリアムズ氏は強調する。Vega Projectとして今後さらに注力していくバーチャルプロダクションスタジオのビジネス拡大に向けて、そのメリットを最大限に生かしていく考えだ。

小山健治(こやま けんじ)|著者プロフィール
システムエンジニア、編集プロダクションでのディレクターを経て、1994年よりフリーランスのライター、ジャーナリストとしてエンタープライズIT分野を中心に活動中。著書に「図解 情報・コンピュータ業界(東洋経済新報社)」、「One to One:インターネット時代の超マーケティング(IDL)」、「CRMからCREへ(日本能率協会マネジメントセンター)」、「文系でも大丈夫?実態から探るSEの就職・転職・キャリアアップ術(技術評論社)」などがある。