本部門では、2023年にサービスを開始したクラウドサービスやコラボレーションサービスを表彰する。まずはクラウド業界を振り返ろう。
2022年は、パナソニック、ソニー、アドビの主要メーカーがクラウド活用をスタートさせた「映像業界のクラウド元年」と呼ぶに相応しい年だった。
クラウド元年(2022年)の大きな出来事は、Frame.ioはアドビ製品として提供開始して、「カメラから即編集室へ」素材の共有を実現。映像制作ワークフローを次のレベルに押し上げてきた感じだ。
ソニーはIBC 2022で法人向けにクラウド制作プラットフォーム「Creators’ Cloud」を発表。2015年から欧米でサービスを開始している老舗の統合プラットフォーム「Ci Media Cloud」など個別ソリューションを同じプラットフォーム上で提供することで、サービスの一気通貫をしやすくしてきた。2023年には個人向けCreators’ Cloudのサービスを提供開始。クラウド上でファイルを保存、管理、共有できる点が好評だ。
パナソニックは2022年、KAIROSクラウドのサービスを開始した。オペレーション拠点の場所に制約されないため、複数拠点の配信に最適といった声が聞かれる。実際にスポーツなどの中継で活用事例が増えてきているという。
番組製作でお馴染みのTriCasterもついにクラウド化が始まっている。IBC 2023でクラウドベースのライブ映像制作に対応した製品を展示。クラウド対応を強化した「TriCaster Now」とクラウドベースのスイッチャー「Viz Vectar Plus」を「TriCaster Vectar」として刷新してきた。
本部門のファイナリストを発表しよう。
ソニー「Creators’ Cloud」個人向けサービス開始
個人向けの「Creators’ Cloud」は、6つのアプリを提供するプラットフォーム。クリエイターの撮影から制作全般をサポートしてくれる機能をラインナップしている。カメラで撮影した動画・静止画を簡単にクラウドサービスへアップロードするスマートフォン向けアプリ「Creators’ App」、ジンバルがなくても手ブレのない映像を実現してくれる動画編集クラウドサービス「Master Cut(Beta)」、リモートプロダクションや共同作業での映像制作の効率化が可能になるクラウドメディアストレージ「Ci Media Cloud」などを提供中だ。
Dropbox「Dropbox Replay」サービス正式スタート
動画、画像、音声の確認と承認をワンストップで迅速に行える動画コラボレーションツール。2021年のベータ版公開から今年、正式リリースを開始した。受け取ったフィードバックを、Adobe Premiere Pro、Adobe After Effects、Apple Final Cut Pro、Blackmagic Design DaVinci Resolve、その他の動画編集ツールでシームレスに確認が可能。注釈と、特定のタイムスタンプおよび時間範囲にわたってコメントする機能を使って、レビュー担当者は正確な時間、スポット、またはシーケンスを指定できるため、誤解を防ぐことができる。また、Replayのコメントを使用してフィードバックを確認しやすくし、優先度の高い特定の項目を固定することで、全員が同じ情報の共有を可能にしている。
アドビ「Frame.io」IBCでメジャーアップデート公開
IBC 2023の会期に合わせて、放送から企業ユーザーまでの様々なFrame.ioユーザーを対象としたレビューおよび承認ツールを強化した。「Comparison Viewer」を使い、動画、オーディオ、写真、デザインファイル、PDFアセットを並べて表示できるようになった。Frame.ioとCreators’ Cloudのすべてのユーザーは、同じタイプのアセットを2つ並べて比較しながらコメントや注釈の追加が可能になった。また、Atomosの新製品Ninja/Ninja UltraのCamera to Cloudに対応。Atomos CONNECTモジュールとの組み合わせにより、撮影チームは高品質の10bit 4K H.265の映像素材をテイクごとにFrame.ioへの送出が可能となる。
ソニー 法人向け「Creators’ Cloud」各種サービスをアップデート
2023年10月から11月にかけて、Creators’ Cloud各種サービスのアップデートを公開した。A2 Productionカスタマイズソリューションは、「音源分離サービス」「音声認識サービス」「盛りあがり編集」など、音声解析を中心とした解析サービスを追加。クラウド中継システム「M2 Live」は、最新バージョンのV1.2の提供を開始。V1.2では、「収録映像のスロー&リプレイ機能」、「各入力ストリーミング信号の収録機能(ISO収録機能)」に対応する。クラウドカメラポータル「C3 Portal」は、SRT形式のストリーミング入力に対応。ソニー製カメラやサードパーティ製エンコーダーからのストリーミング映像の、複数系統ファイル収録に対応した。
TOMODY「WRIDGE LIVE」フリートライアル版サービス開始
2023年12月21日よりフリートライアル版の提供を開始。正式リリースはこれからだが、特別に本部門のノミネート製品とした。現場からの複数配信映像に、クラウド経由で遠隔からの操作を実現するサービスで、撮影現場までの機材輸送や結線の時間、労力、コストの削減が可能になる。遠隔から配信現場のPTZカメラ等の操作に対応し、専用スマートフォンアプリ「WRIDGE CAM」を用いれば、スマートフォンだけで現地からのLive配信ができる。NDIやXC Protocolに対応したカメラでは詳細な設定・操作が可能としている。
ATOMOS「ATOMOS Cloud Studio」 各種CtoCに対応したサービス開始
クラウドからデバイスを認識する機能とクラウドで収録したビデオやストリーミングの送信先を設定できるセットアップポータルだ。Atomos Cloud Studioにはデスティネーションと呼ばれる行き先を定義する項目があり、YouTubeやTwitch、Dropboxなどの選択肢が可能。その1つとして最近話題のFrame.ioにも対応する。NINJA V+とNINJA V、SHOGUNは、ハイクオリティなオリジナルファイルと、プロキシファイルを同時にSSDに記録が可能で、プロキシファイルは自動的にFrame.ioに転送されて、いろいろな人たちと共有できる。アプリケーションがなくてもスマートフォンのブラウザで確認可能。プロキシファイルはダウンロード可能で、プロキシで完パケを先行して作り、Frame.ioに上げてクライアントでディレクターなどと確認のやり取りできる。OKとなった段階でハイレゾオリジナルファイルをリンクさせることで、オリジナルコンテンツを効率よく制作できるのは便利だ。
Alteon「Alteon.io」 クラウドベースのプラットフォーム
Alteon.ioは、コンテンツクリエイター向けのWebベースのコラボレーション環境。エンタープライズ向けの技術や機能を、あらゆる規模のクリエイターや企業に伸縮可能な形で提供できるサービスだ。アップロード、共有、会話、レビュー、コラボレーション、ノンリニアツールの統合を特徴としている。今年のIBC 2023に合わせて高速アップロートやPremiere Proとの統合、今年12月13日のアップデートではマーケットプレイスの導入によるコンテンツ売買機能をリリースした。少し以前になるが、今年3月24日のアップデートではiPhoneアプリリリースでAlteonクラウドへのアップロードに対応し、チームメンバーは即ポストプロセスを開始できるなどのワークフローを可能にしている。
以下がクラウド部門のノミネート製品となる。
■PRONEWS AWARD 2023 アクセサリー部門 ファイナリスト
- ソニー「Creators’ Cloud」個人向けサービス開始
- Dropbox「Dropbox Replay」サービス正式スタート
- アドビ「Frame.io」IBCでメジャーアップデート公開
- ソニー 法人向け「Creators’ Cloud」各種サービスをアップデート
- TOMODY「WRIDGE LIVE」フリートライアル版サービス開始
- ATOMOS「ATOMOS Cloud Studio」サービス開始。各種CtoCに対応したセットアップポータル
- Alteon「Alteon.io」クラウドベースのプラットフォーム
はたして何が受賞するのか…?いよいよ発表!
PRONEWS AWARD 2023 クラウド部門 ゴールド賞
アドビ「Frame.io」
撮影とポストプロダクションに驚くべき進歩を実現したアドビ「Frame.io」をゴールド賞とした。
ついこの間までCamera to Cloudやコラボレーションワークフローは夢でまだまだ実験的のようなものと思っていたら、アドビのFrame.ioが現実してくれた。高額なハードウェアを必要せずに現場にいなくてもあらゆる場所から撮影に参加できたり、手軽に編集の修正指示を出せるのは驚くべきことだ。コラボレーションとストレージのサービスは他社にあってもCamera to Cloud機能はFrame.ioだけだ。頭一つ抜き出ている点に関して異論はないだろう。
PRONEWS AWARD 2023 クラウド部門 シルバー賞
Dropbox Replay
2021年のベータ版は終了して、待望の正式版のリリーススタート。説明をしなくても直感的に操作できてコメントを残せるツールだ。わかりやすいインターフェイスやコストの点でシルバー賞とした。
共有をしたいといった場合は、Dropboxアカウントを持っていない人とも共有は可能。人数制限もないので、大規模なプロダクションにも使用できるのもポイントだ。サポートソフトもPremiere Pro、After Effects、Final Cut、DaVinci Resolve、LumaFusionと幅広く対応。Frame.ioと双璧を成す動画プロジェクト管理ツールと言って良いだろう。