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SXSW2024会期中盤にあたる3月11日~13日の3日間では、VR映像作品を中心としたコンテンツが体験できる展示会「XR Experience」が開催されました。コンベンションセンターの隣に位置するFarimontホテルは、XR技術の開発者やコンテンツ制作者等が登壇するカンファレンスの会場となっており、XR Experience展示会も同ホテル内で開催されます。薄暗い雰囲気の会場には約30のブースが並び、Film部門にノミネートされたXR作品を実際に体験できるのですが、VR映像作品はヘッドセットの数によって体験できる人数が限られるので、オープン後すぐにその日1日の予約スロットがすべて埋まってしまう人気ぶりでした。残念ながら体験できなかったコンテンツも多いのですが、体験の様子から面白そうな作品をいくつかピックアップして紹介します。
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今年のXRトラック全体のスポンサーとなっているMetaは、XR Experienceの展示会の中にもMeta Questの体験ブースを設けていました。
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瞑想アプリのHeadspaceによるVRのヒーリングコンテンツの出展。今年はマインドフルネスやメンタルヘルスに関するカンファレンスも多いのが特長です。
1.Soul Paint
自分の身体を模した人間のイラストに色を塗ることで、自分の心と体との繋がりを認識するボディマッピングと呼ばれる心理学的なアプローチがあります。自分の意識や感情が身体のどの部分と繋がっているのか、苦しみや喜びを感じる時にそれはどんな色で身体を駆け巡るのか、といった自己理解を深めるためのマインドフルネスの手法の一つです。
このVR作品では、等身大のアバターに色を塗ることでボディマッピングを体験できます。客観的に自分の身体と感情への理解を深める事を目的とした20分間のヒーリング体験を提供しており、単なるエンタメに留まらないVR作品の可能性を示唆しています。本作品はXR Experienceの中でSpecial Jury Awardに選ばれました。
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2.The Imaginary Friends
母親を失って引きこもりがちになってしまった8歳の少年Danielのイマジナリーフレンド(空想上の友達)になって、彼を助けるというストーリーのVR作品。体験者はVR世界の中では翼を持った空想上の動物の姿となり、部屋の中に現れるオバケを追い払ったり、元気のない少年を笑顔にするために奮闘したり、といった要素をこなしていきます。
現実と空想の世界の区別があいまいな幼少期の間隔を、VRを使うことで大人になってから疑似体験するというのは面白い発想です。体験ブースには羽根のついた椅子が用意されていて、外から見ると大人が頑張って羽ばたこうと手を動かしている様子も面白い展示でした。
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3.NÂ TÂU TSÍ Á (SISTER LIN-TOU) VR
台湾に古くから伝わる伝統的な幽霊の物語「林投姐(Sister Lin-Tou)」をVR映像にしたホラー系の作品。夫に裏切られ自殺した女性が幽霊となって復習を遂げるというストーリーで、台湾ではかなり有名な昔話とのことです。
台湾は自国のアート作品やクリエイターを積極的に海外に発信していますが、VR制作にもかなり力を入れているようで、今回のSXSWでもいくつか作品がラインナップされています。展示ブースには自動で回転する大きな椅子型のマシンが設置され、コンテンツの進行に合わせて自動的に動くので、アトラクションのような視聴体験で今回の展示会場では特に目立っていました。
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4.The tent
VRではなくiPadのカメラ越しに視聴するMRの映像体験。自宅の庭に設置された謎のテントを通じて、善良な人間であることの難しさを視聴者に問いかけるストーリーになっています。テントの外側から眺める前半パートと、テントの中から視聴する後半の2部構成となっており、展示ブースには実際にテントが設置されていました。
VR空間をリアルに近づけるのではなく、物語に合わせた視聴環境を物理的に作り上げた上でのMR体験にすることで、現実とバーチャル世界との境界を曖昧にしていくという方向性も、今後のXRコンテンツの可能性の一つかもしれません。
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