LK SAMYANGは、携帯性に優れたスリムレンズ「Remaster Slim」やAFシネマレンズ「V-AF」シリーズの発売、さらにLマウントアライアンスへの加盟など、多岐にわたる活動によりその存在感を高めている。静止画撮影から動画撮影まで、幅広いニーズに対応する多彩なレンズラインナップは、ユーザーへ新たな映像体験をもたらしている。

そこでLK SAMYANG Chief Technology Officer(CTO)のイ・ヘジン氏へインタビューを実施し、同社がシネマレンズを手がける理由や革新的な製品を実現できる背景について話を伺った。

韓国唯一のレンズメーカー、LK SAMYANGの強み

――LK SAMYANGでは、どのような業務を担当されていますか?

イ氏:CTO(チーフテクニカルオフィサー)として、韓国の果川(クァチョン)と昌原(チャンウォン)にある2つの研究所の責任者を務めています。本社は南側に位置し、そこにも研究部門があります。また、ソウル南部の果川には営業所のような事務所と第2研究所があります。

Chief Technology Officer兼Executive Vice Presidentのイ・ヘジン氏

――LK SAMYANGは光学事業において幅広い展開を行っていますが、設立から事業展開の近況について教えてください。

イ氏: LK SAMYANGは、1972年に韓国WAKOとして創業を開始しました。1985年にカメラ関連事業に進出し、2008年からはマニュアルフォーカスの交換レンズに注力し、85mm F1.4ポートレートレンズや8mm F3.5魚眼レンズなどを発売して、一眼レンズ市場へ参入しました。

2013年にSamyang Opticsとして分社化し、2015年にはシネマレンズシリーズのXEENや2016年にはオートフォーカスレンズを発売し、製品の多角化を進めています。2024年にLK SAMYANG Opticsへ社名を変更しました。近年は、カメラ用交換レンズで培った光学技術を基に、マシンビジョン用レンズなどの産業用レンズの開発・製造も行い、総合光学ソリューションブランドとして事業を展開しています。

2024年の社名変更は、グローバル展開を加速するためです。「見えるものを超えて、未来を創造するグローバルソリューションパートナー」という新しいビジョンを掲げ、交換レンズのユーザーだけでなく、マシンビジョン、ドローン、人工衛星用レンズなどの分野でもパートナーシップを築いていきます。

今年中には、試験的に当社のレンズを搭載したSpaceXのロケットが打ち上げられる予定です。今後は、光学技術を基盤に、交換レンズ事業と産業用レンズ事業の2つの柱で事業を展開します。社名のLKは「Leading Korea」の略で、韓国を代表する光学メーカーを目指すという意味が込められています。

2015年に登場したシネマレンズ「XEEN」シリーズ

――LK SAMYANGは、韓国国内における交換レンズ業界のトップメーカーとして有名ですよね。

イ氏:結果的にそうなりました。以前はSamsungなど、いくつかのレンズメーカーがありましたが、現在は交換レンズメーカーとしてLK SAMYANGのみが残っています。そのため、LK SAMYANGが韓国を代表するトップメーカーとなりました。

――世界には日本のレンズメーカーも多数ありますし、中国にもレンズメーカーがあります。韓国では御社がトップですが、世界的に見た御社の強みは何でしょうか?

イ氏:日本の大手レンズメーカーは、長い歴史の中で技術レベルを高め、世界トップと言えます。中国も広い国土の力で、基礎技術や素材生産のインフラが整っています。近年、中国のレンズメーカーも技術力を向上させています。韓国ではLK SAMYANGのみが存在します。

その中で、LK SAMYANGは韓国で唯一の光学レンズメーカーとして、企画、設計、生産、販売までを国内で一貫して行っています。国内で全てを完結できる体制を持つことが、生き残るための力であり、強みだと考えています。規模としては日本のメーカーよりも小さいですが、その分、自由な発想で製品開発に取り組むことができます。

大手メーカーは、世界中のユーザーニーズを考慮する必要がありますが、当社は比較的規模が小さいため、ユーザーの要望に応じたユニークでクリエイティブな製品を企画・提供できることが強みです。

LK SAMYANGは写真用のマニュアルフォーカスレンズ、AFレンズからシネマレンズまで幅広いラインナップを発売中だ

――世界初のシネマAFレンズや、光学ユニットを交換できる「Remaster Slim」、「AF 35-150mm F2-2.8」ズームレンズなど、業界をリードするような製品が次々と登場していますが、他社では実現していないような製品を御社が開発できる秘訣は何でしょうか?

イ氏:AFレンズに限れば、日本の大手メーカーと比較すると開発が遅れていましたが、研究開発に力を入れることで、競争力のある性能を実現できるよう努力しています。

社内でアイデアを出し、開発、採用するまでのスピードを重視する意識が全社員に浸透しています。また、ユーザーのトレンドやニーズを調査し、それに応える一方で、他社よりも自由度の高い製品開発が可能です。

新しい製品を早期に市場へ投入することで、成功する製品もあれば、そうでない製品もありますが、企画から実現までのスピードは最適化されてきています。現在では、1年間に発売する新製品において、日本の大手メーカーと比較しても遜色のない製品を提供できるようになってきたと考えています。

――御社の交換レンズの歴史の中で、マイルストーン的となる製品を2つ挙げるとすれば、どの製品になりますか?

イ氏:当社が発売した製品には、それぞれ開発の背景やストーリーがあります。あえて2つ挙げるとすれば、まずV-AFシリーズでしょう。シネマAFレンズというコンセプトを初めて打ち出したシリーズで、20mmから100mmまでの6本のレンズをラインナップしています。

さらに、マニュアルフォーカスアダプターやアナモフィックアダプターも用意し、各レンズには前後にタリーランプを搭載することで、撮影される側も状況を把握できるようにしました。

フォームファクターも統一することで、ジンバルなどを使用する際にスムーズに交換できるようにするなど、ユーザーの要望を反映した製品を実現しました。V-AFシリーズは、開発も非常に楽しく、市場はまだ小さいですが、今後の成長が期待できる製品です。

AFシネレンズとして登場した「V-AF Cine Primes」シリーズ

もう1つは、CP+で初めて発表したAFズームレンズ「AF 14-24mm f/2.8 FE」です。これは、シュナイダーとの提携によって実現しました。当社の技術力とシュナイダーの協力によって、小型軽量化を実現し、フィルター径77mm、全長88-89mm、重量445gというコンパクトなレンズに仕上がりました。

シュナイダー×LK SAMYANGのコラボレーションとして登場した「AF 14-24mm F2.8 FE」

ユーザーニーズに応える、製品開発の姿勢

――シネマレンズ業界は、映像業界が拡大しているとはいえ、まだ市場規模が小さいように思えますが、2015年にはXEENをいち早く手掛けていました。市場が小さいにもかかわらず、映像業界向けのレンズ開発に力を入れたきっかけは何だったのでしょうか?

イ氏:初めてシネマレンズを発売したのは2015年です。当時、当社はAF技術を持っていましたが、その時点ではAF搭載製品を発売することができませんでした。その代わりにそれまではマニュアルフォーカス交換レンズを製造していたため、電気的な技術ではなく、メカニカルと光学的な技術がありました。その技術を活かして他の製品を開発しようと考えた時に、プロフェッショナルなシネマレンズの開発にいたりました。

プロフェッショナル向けなので、販売数量は少ないですが、高付加価値の製品であり、光学技術の開発も必要となります。それによって技術的な発展も促され、相乗効果が生まれると考えました。

当初はXEENというブランドで展開し、その後、XEENよりもコンパクト化した「XEEN CF」を発売しました。レンズの軽量化のために、主な材料としてカーボンファイバーを採用しました。さらに、最上位ラインとして「XEEN Meister」を発売しました。

XEENシリーズと並行して、2016年にはスチル向けのラインナップになりますがAFレンズも発売しました。これらの技術を融合させてV-AFが登場しました。

240712_V-AF-20mm-T1_01

――V-AFシリーズは、豊富なレンズラインナップに加え、アナモフィックアダプターやマニュアルフォーカスアダプターなど、現場の意見を反映した拡張性の高さが魅力ですが、今後さらに拡張していく可能性はありますか?

イ氏:アクセサリーとマウントについて、どちらも可能性は十分にあります。現在ラインナップされている6本のレンズの拡充や、アクセサリーの拡充も検討しています。ただし、製品開発においてはユーザーのニーズが最も重要です。

ユーザーの使用環境やニーズは多岐にわたるため、その中で最も大きなニーズに応えられる製品を開発したいと考えています。

――現在Eマウントで発売されていますが、ZマウントやLマウントなど、今後の可能性について改めてお聞かせください。

イ氏:当社はサードパーティーメーカーですので、マウントに関しては制約がありませんので、様々なマウントに対応する可能性を常に検討しています。ただし、マウントは形状だけでなく、様々な要素を考慮する必要があります。そのため、どの程度のユーザーニーズがあるか、市場規模はどうかなどを慎重に見極める必要があります。準備や開発の可能性については常に検討していますので、ご期待いただければと思います。

相互協力、LK SAMYANGとシュナイダーの連携

――最後にシュナイダーとの提携についてお伺いいたします。提携にいたった経緯を教えていただけますでしょうか?

イ氏:お互いに協力し合いたいという思いがありました。今後は交換レンズ以外の光学事業においても協力を広げる計画があります。今回のレンズはその具体的な成果の一つです。今後はマシンビジョンレンズなど、様々な光学事業で協力していく予定です。

――「AF 14-24mm f/2.8 FE」は丸形フィルターが全て使用でき、ケラレもなかったとテスト結果が出ています。前面フィルターも使用可能なのには驚きました。

イ氏:それは当社の力だけでなく、シュナイダーとの協力も大きいです。

実は昨年、日本支社を設立し、そこには設計エンジニアがいます。先ほども説明したように、韓国にはLK SAMYANGしか残っていないため、ズームレンズや交換レンズの設計経験者が少ない状況です。

私は今の最後の世代かもしれません。LK SAMYANGでは若い人材が育っていますが、外部から優秀な人材を確保することが難しい状況です。そのため、日本の力を借りて協力していくことが必要だと考えています。韓国のLK SAMYANG、シュナイダー、そして日本の事務所、この3つの力が合わさって今回のレンズが実現しました。

――日本の事務所も貢献しているのですね。

イ氏:少しですが貢献しています。2年前の2022年3月に、SAMYANG初のオートフォーカスズームレンズであるAF 24-70mm F2.8 FEを発売しましたが、これは非常に勉強になりました。約1年前の2023年4月には、常用ズームレンズ「SAMYANG AF 35-150mm F2-2.8 FE」を発売し、これもまた多くの学びがありました。

これらの経験と外部の協力を得て、今回のレンズが誕生しました。

――シュナイダーと提携することで、どのような技術的なメリットが得られるのでしょうか?御社単独では実現できないことが実現できるというイメージでしょうか?

イ氏:光学技術には得意分野と不得意分野があります。シュナイダーの技術によって光学系をより良くしたいという思いがあり、具体的な話を進める中で今回の提携が実現しました。

――130年以上の歴史を持つシュナイダーは、チューニングに関するノウハウなど、様々な強みを持っているということですね。技術力は御社にもあると思いますが、最終的なブランドの作り方や、ドイツの企業ならではの考え方など、異なる点があるということでしょうか?

イ氏:日本の大手メーカーと同様に、当社は生産量の多い製品を多く製造しています。一方、シュナイダーは生産量の少ない精密な製品を得意としています。そのような考え方の違いが相乗効果を生み出すと考えています。大手メーカーとマイスターの違いのようなイメージです。

LK SAMYANGとシュナイダーの提携は、カメラレンズ市場へ新たな影響を与える可能性がある。特に、今後登場が予想される標準ズームレンズや望遠ズームレンズなどに関しても、多くの写真愛好家にとって関心の対象であろう。また、Remaster Slimシリーズと同様に、シュナイダーの歴史的レンズ、例えばアンギュロン、クセナー、クセノンといった広角レンズを現代風に再解釈する試みにも期待したい。これらのレンズが持つ独特の特性を維持しつつ、現代のカメラへ最適な性能を引き出すことができれば、市場において新たな価値を提供できるだろう。LK SAMYANG/シュナイダー提携の今後の動向に注目だ。