「新世紀シネマレンズ漂流2025」第5弾では、中国・安徽省に拠点を置くAnhui ChangGeng Optics Technology(Venus Optics)のレンズブランド「LAOWA」を紹介する。LAOWAは、写真および映像分野において新たな動向を示している。2024年には複数の新製品が発表されており、製品規模は拡大している。

本稿では、LAOWAの製造元であるVenus Optics社の創業者・CEOであり、光学設計者でもある李大勇氏にインタビューした。同社の中でも今もっとも注目のアナモフィックレンズ「Proteus」の開発秘話を中心に、過去から今後の話まで多岐にわたって聞くことができた。

設計者と管理者、そしてユーザーとの密な連携

――この度は誠にありがとうございます。まず、LAOWAはレンズメーカーとしてどのような強みをお持ちであるとお考えですか。その中で、李社長はどのような役割を担っていらっしゃいますか。

李社長:

当社は「New Idea, New Fun」という経営理念を掲げており、この10年間で、おかげさまでユーザーの皆様には、当社のブランドイメージがしっかりと浸透してきたと感じています。

我々は常に、世の中にまだ存在しないものを生み出したいと考えています。LAOWAのレンズに関して言えば、皆様には個性的なレンズというイメージが強いかもしれません。当社はチームが小さい分、ヨーロッパやアメリカ、あるいは日本の大手ブランドとは少し違った動きができます。

製品の数は決して多くはありません。しかし、やると決めたらすぐに実行に移せるのです。もし市場の反応がよくなければ、すぐに中止することも可能です。投資額が多くはなくとも、これは当社の強みと言えるでしょう。

大企業の場合、売れる見込みの少ない製品にはなかなか踏み切れませんし、投資のリスクも高くなります。そこが、当社のような中小企業との大きな違いであり、強みでもあります。

――社長は具体的にどのような役割を担っていらっしゃいますか?企画が中心なのか、あるいは設計にも携わっていらっしゃるのか。そのあたりを改めてご紹介いただけますか?

李社長:

私は設計者と管理者の両方の役割を担っています。普段は、毎日と言っていいほど、SNS上でユーザー様のグループと交流しています。例えば、中国のWeChatやQQ、それからFacebookなどですね。

ユーザーの皆様から市場の動向について教えてもらったり、相談したりする中で、新しいアイデアが生まれることもあります。そういったアイデアをもとに、皆さんが本当に欲しい製品が実現可能かどうかを検討し、可能であれば、当社各部門のスタッフに詳細設計やコストの検討、生産上の問題点などを検討させます。つまり、製品が実現可能かどうかのシミュレーション、基本光学設計を私が行い、可能となれば、社内各部署が実施設計、工程検討などを進めていきます。

最終的に、生産、コスト、サイズ、性能などのすべての面で実現可能だと判断できれば、GOサインを出す、という流れです。

一般的な会社では、管理者と設計者は別であることが多いと思います。ですから、設計者は可能だと言っても、管理者の方で判断に時間がかかってしまう、ということがあります。しかし、私はエンジニアですから、自分が設計することで、それが実現可能かどうかをすぐに判断することが可能です。

LAOWAの原点は2倍マクロ、ZERO-D広角、PROBEレンズ

――様々な設計を手がけられている中で、御社のブランドの製品で、社長ご自身が特に印象に残っている製品は何ですか?シネレンズ、スチルレンズを問わず、2、3製品ほど挙げていただけますか?

李社長:

はい、特に印象深い製品が3つございます。
まず1つ目は、2015年に発売いたしました撮影倍率2倍までのマクロ撮影を延長チューブを使用することなく行える「LAOWA 60mm F2.8 2X ULTRA MACRO」です。

その当時、写真家の皆様やプロの方々に相談しましたところ、当時のマクロレンズは等倍レンズが主流で、無限遠から等倍までしか撮影できませんでした。より高倍率で撮影するためには、アダプターを取り付けたり、フランジバックを長くしたりする必要がありました。

しかしそうしますと非常に不便で、ゴミが入りやすかったり、無限遠にピントが合わなくなったりすることがありました。そういったご要望はあったものの、大手ブランドはなかなか対応してくれませんでした。

それは私にとってはチャンスで、60mmでAPS-Cサイズに対応したレンズを初めて実現しました。世界初の2倍マクロレンズ発売は、高級レンズではないのにもかかわらず皆様大変驚かれました。「世の中に2倍マクロレンズがあったのか!」と。

その後、他メーカーからも60mmや100mmなどの2倍マクロレンズが登場しましたが、今では「2倍マクロレンズ」と言えば、LAOWAのブランドを思い出す方が多いと思います。これが、私が初めて手がけた製品であり、マクロレンズの分野では最も印象深い製品の一つです。

2つ目は、広角レンズです。特に本国では2016年に発売いたしました「LAOWA 12mm F2.8 Zero-D」のレンズが印象的です。このレンズを開発する前は、15mm以下の広角レンズの場合、歪みが3%から5%程度あるのが一般的でした。広角レンズは、どうしても歪みが出てしまうものだと思われていましたが、「歪みが少なく、コンパクトな広角レンズがあれば嬉しい」というご要望が多くありました。

そこで当社は、純正の14mmレンズとほぼ同じサイズで、12mmの広角レンズを開発いたしました。歪みもほとんどなく、人間の目では認識できないレベルに抑えられています。性能も純正レンズと同等レベル、あるいはそれ以上に向上しています。これには皆様、大変驚かれました。「LAOWAのレンズに、こんな素晴らしいものがあるのか」と。

この12mmを皮切りに、15mm、10mm、14mmなど、数多くの広角レンズを発売し、すべて「ZERO-D(ゼロディストーション)」という名称をつけています。「ZERO-D」とは、「歪曲収差ゼロ」という意味です。

約10年間かけて、「ZERO-D」と言えば「LAOWAのレンズ」というイメージを確立しました。これは、LAOWAの代名詞になりました。広角レンズの世界に「ZERO-D」という概念を持ち込み、それを広めたのがLAOWAなのです。これが2つ目の印象的な製品ですね。

――ZERO-Dは、いわばLAOWAのサブブランドのような感じですね。

李社長:

はい、私が新しい定義をいたしました。マクロレンズでは2倍という概念を定義し、広角レンズではZERO-Dという概念を定義しました。新しいアイデアですね。

そして、2019年頃でしょうか。ユーザーの皆様によりますと、昆虫を撮影する際、昆虫は自然の中の暗い場所、狭い場所、湿度の高い場所、水辺などにいることが多い、ということでした。「長いレンズで、ライトが付いていて、防水性もあれば、最高のレンズだ」というお声を聞き、PROBEレンズを開発いたしました。

PROBEレンズは、細長い形状で、ライトが内蔵され、防水性も備えています。特殊なレンズですので、皆様からは「変態レンズ」とも呼ばれていますね(笑)。普通のレンズとは異なり、PROBEレンズはまるで内視鏡のような形状をしています。これが3つ目の印象的な製品です。

特殊レンズの分野でPROBEレンズと言えば、LAOWAのPROBEレンズ、というほど有名です。PROBEレンズの市場においては、非常に高い知名度を誇っていると思います。

どの分野においても、我々は他社にはない独自の特長を世に送り出すことを常に心がけています。PROBEレンズ、ZERO-Dの広角レンズ、2倍マクロレンズは、それぞれの分野における当社の代名詞、代表的な製品と言えるでしょう。ですから、この3つのレンズが最も印象深いです。

他社のリハウジングがきっかけでシネマレンズの自社開発へ

――そんな流行を先取りしつつ、早い段階から映像向けのレンズにも取り組んでいらっしゃいますよね。映像向けのレンズは写真用レンズに比べて市場規模は小さいですが、なぜ映像向けのレンズにも参入されたのでしょうか?

李社長:

スタートしてからおよそ5年間は、写真レンズだけを手掛けておりました。2019年頃だったと思いますが、当社の12mm F2.8 ZERO-Dを、ある会社がリハウジング、つまりシネマレンズ化に改造をして販売したところ、映画撮影をする人たちの間で非常に評判が良かったのです。

――リハウジングは御社ではなく、別の会社がLAOWAさんのレンズの性能に着目し、鏡胴を特注でシネマ風に改造して販売するところが出てきたということですね?

李社長:

その通りです。シネマレンズには、絞りリングとフォーカスリングの両方に標準の0.8モジュレーションギアを備えたり、非常に広い角度のスムーズなフォーカス範囲が求められます。
そこで、静止画撮影用のレンズを改造し、ハウジングをシネマレンズに変更していました。光学系は同じです。映画業界の皆様が使われ始め、その結果、2019年にはLAOWAの12mmレンズが映画業界で非常に有名になりました。しかし、リハウジングされたレンズは当社の販売価格よりも4倍ほど高い値で販売されていました。

――リハウジングされたことで高くなるのですね。

李社長:

中国では5000元で販売されているレンズが、リハウジングされると20,000元にもなるのです。4倍です。そのため、多くの人がLAOWAにシネマレンズを作ってほしいと要望するようになりました。それがきっかけで、2019年からシネマレンズの開発を始めたのです。

ただし、シネマレンズは、撮影の際に、広角、標準、中望遠など、様々な焦点距離が必要になります。写真は一枚の写真で完結するため、1本のレンズで遊べますが、映画制作では様々な画角が必要となるため、プライムレンズ単体だけ発売しただけでは成り立ちません。多くの焦点距離を揃えたラインナップが必要になります。

――レンズはセットで揃えないといけない、ということですね。

李社長:

そうです。同じシリーズで揃えないと売れません。色味やサイズ、タイプを揃えたシリーズとして展開する必要があります。そのため、レンズを発表する際は、1本だけでなく、複数のレンズで構成したセットとして発売するようにしています。すると、皆様からは「そんなに早く、一度にこんなに多くのレンズを発表するなんて」と驚かれます。実際にはシリーズ全体で見ると、それほど多くはないのです。

そこで2023年にシネマズームレンズのRangerシリーズを発売いたしました。当社のシネマレンズにおきまして、プライムレンズが少ない一方で、ズームレンズが多いのには理由があります。プライムレンズは種類が多く、その数を揃えることは容易ではございません。小規模なチームである当社では、一度に多くの種類のレンズを市場に投入することは難しい状況です。それが理由の一つです。

プライムレンズは、製造を手掛ける企業が多く、それほど高度な技術力を必要としません。そのため、価格競争が激化しており、特に中国メーカーが安価なプライムレンズを多数販売しております。一方で、ARRIやAngenieuxのような高価なプライムレンズも存在いたしますが、当社はまだブランド力が十分ではないため、高価格帯のレンズはあまり販売が見込めません。

高価すぎる製品は販売が難しく、安価なレンズには関心が集まりにくい現状があります。そのような背景から、高度な技術を要するズームレンズの開発に注力している次第です。それが、最初にRangerシリーズを開発した理由でございました。

Rangerシリーズは、単純なズームレンズではなく、非常にコンパクトかつ軽量なフルフレームセンサー対応のコンパクトシネマズームレンズ「Ranger FFシリーズ」と、スーパー35に対応した「Ranger S35シリーズ」を展開しております。

OOOMは全域でT2.9を実現した4倍シネマズームレンズで、大手シネマレンズブランドと肩を並べるものであったと自負していますが、市場ではもっとコンパクトでリーズナブルなものを求める声もありました。

そこで、Rangerシリーズでは、方向性を転換し、小型化に重点を置くことにいたしました。Rangerシリーズのズーム倍率を4倍ではなく、2~3倍程度に抑え、光学設計や機構設計を工夫することにより、コンパクトなレンズを実現いたしました。

フルサイズ対応のRanger FF 28-75mm T2.9とFF 75-180mm T2.9(LITE)の重量は約1.4kgです。参考売価ベースで50万円台から70万円台となっており、個人のお客様がご購入するにはやや高額です。セットでご購入いただくとなると、自動車一台分の価格に匹敵いたします。そのため、より安価で小型なスーパー35サイズの製品に対するご要望があり、Rangerのスーパー35シリーズを開発いたしました。小型化により、自動車のトランクにも容易に収納することが可能です。

また、コンパクトにするという点には、もう一つの重要な意味合いがあります。ズーム機能とコンパクトさという要素が組み合わさることで、従来の大人数で行う映画撮影チームだけでなく、YouTubeやミュージックビデオなど、より少人数かつ短期間での撮影が求められる現場のニーズにも合致すると考えられます。

アナモフィックレンズ「Proteus」への挑戦

――Rangerシリーズなどの開発を経て、御社はアナモフィックレンズを発売されました。このアナモフィックレンズを発売されたきっかけは何だったのでしょうか。

李社長:

アナモフィックレンズは、非常に強い特性を持っております。普通のレンズとは異なり、写真や映像を見たときに、特にボケ味が大きく異なります。例えば点光源の場合、普通のレンズでは丸いボケになりますよね。アナモフィックレンズでは楕円形のボケになります。これは、横方向と縦方向の焦点距離が異なるため、ボケ方が異なり、夢のような独特のボケ味になるのです。これはなぜかというと、レンズの中にシリンドリカルレンズが入っているからです。

――円筒状のレンズのことですか?

李社長:

そうです。水平方向に湾曲したレンズです。例えば、ある焦点距離において、縦方向の焦点距離を0にするような円筒形のレンズです。このレンズを入れることで、性能設計が非常に難しくなります。設計だけでなく、組み立て自体も難しい。そのため、製造コストが非常に高くなります。これも難しさの一つです。

しかし、ユーザーは、独特のボケ味や、後から付け加えるような効果を求めております。そのため、アナモフィックレンズへのニーズは高まってきています。

――やはり需要があったのですね。

李社長:

ええ、そうです。さらにフレアも重要です。フレアには様々な種類があり、滑らかなグラデーションを実現するアポダイゼーションやブルーフレアなど、多くの要素が求められます。最近はそのような需要がますます高まってきています。昔からアナモフィックレンズは存在しましたが、非常に高価で、一般の人が手に入れることはできませんでしたし、性能もあまり良くありませんでした。しかし、現代の若い世代や一般のユーザー様は、アナモフィックレンズの個性を求めています。

自分たちの作品を他の人の作品とは違うものにしたい。アナモフィックレンズで撮影すると、普通のレンズとは全く異なる印象になり、独自の個性を出すことができます。そのため、アナモフィックレンズの市場は拡大しており、当社もアナモフィックレンズの開発に取り組むこととなりました。

――OOOMの時も、アダプターを使ってアナモフィック風にできるようなものを御社は発売したことがあったと思います。

李社長:

ありました。OOOMの後ろにアナモフィックのアダプターを取り付けて、アナモフィックの特徴を出すようにしていました。しかし、後ろに取り付けるタイプは、あまり特徴が出ません。前に取り付ける方が効果的です。しかし、前にアダプターを取り付けると、レンズ全体のサイズが大きくなってしまいます。特徴は出るものの、サイズとコストの面であまり良くありません。

NanomorphからProteusへ

――アナモフィックは、どのようなシリーズを製品展開されていますか?

李社長:

最初に出たのはNanomorphシリーズです。その後にProteusシリーズを発売しました。実は両方一緒に設計していましたが、Nanomorphシリーズの「Nanomorph 27mm T2.8 1.5x Cine/35mm T2.4 1.5x Cine/50mm T2.4 1.5x Cine」を先に発売しました。Nanomorphはサイズが小さく、1.5倍という倍率なので、製造上、2倍よりも簡単です。コストも安く、サイズも小さい。そのため、まず一般のユーザーに使ってもらい、「もっと倍率の大きい2倍が欲しい」という要望に応える形で、徐々に高価でサイズの大きい製品を投入していく戦略を取りました。

最初から大きくて高価な製品を市場で発売しても、受け入れられないかもしれないと考えたのです。まずは安価で小型な製品を提供し、ユーザー様に「これは良いものだ」と認識してもらった上で、徐々に性能や価格帯を上げた製品「Proteus 2X Anamorphic 35mm/45mm/60mm/85mm Blue/Silver/Amber」を発売しました。

――アナモフィックレンズを発売するうえでやはり2倍という倍率にこだわりましたか?

李社長:

そうですね。アナモフィックレンズの倍率は、1.33倍、1.5倍、1.8倍、2倍などが一般的です。そもそも、なぜ2倍のレンズを開発しようとしたのかというと、1.3倍のレンズでは、アナモフィックレンズ特有の特長が出ないからです。1.5倍は2倍よりも個性が弱いものの、1.3倍よりは特徴的です。そのため、当初はサイズ、性能、コストのバランスを考慮して、1.5倍のNanomorphを選びました。

――Proteusが2倍というスペックで登場し、結果的に非常に高い評価を得ているとのことですが、LAOWAさんの製品としては、これまでにない価格帯の商品として登場となったことも事実です。

李社長:

そうですね。日本では参考売価で100万円近い金額ですので、確かに高価になりました。しかし、アナモフィックレンズとして、2倍という倍率を考慮いたしますと、決して高くはありません。例えば、Cookeのレンズは3万ドルもいたしますから、5倍、6倍の価格になります。それと比較すると、Proteusは安価であると言えます。

大型のシネマレンズは、製造が非常に難しく、調整にも時間を要します。人件費も高くなるため、価格が高くなってしまうのは仕方のないことです。当初はLAOWAの製品として、1万ドル以上の価格では販売できないだろうと考えておりました。そのため、このような価格設定としました。

――結果的に、アナモフィックレンズの世界で、質が高くて非常に安価と評価されているのは、そういった背景があるのですね。価格設定にはかなり悩まれましたか?

李社長:

もっと高い価格で販売したいという気持ちもありましたが、最初から高価な製品を販売いたしますと、ユーザー様は購入をためらうと考えました。そのため、最初は利益を低く抑え、市場を確立することを優先いたしました。市場の反応が良ければ、次のバージョンをどんどん投入していくことにいたしました。

――2倍というスペックを実現するために、また、価格を抑えるために、特に苦労された点やこだわった点はどこにありますか?

李社長:

一番苦労いたしましたのは、大型のシネマレンズを製造できる中国のメーカーが少なかったことです。実は、Proteusの開発準備は2019年に始まり、発売は2023年初頭でした。2、3年間かけて準備したことになります。

特に難しかったのは、シネマレンズを製造するだけでなく、評価・測定・調整を行うことでした。シネマレンズは、通常の球面レンズとは異なり、中心が一定ではありません。調整方法も異なり、通常のレンズのように斜め方向への調整はできません。そのため、調整には専用の設備が必要になります。性能を十分に引き出すことが非常に困難でした。

――Proteusを製造している工場は、これまでとは異なる特別な工場であり、量産化も難しいということでしたか?

李社長:

難しいですね。設計、成形、調整のすべてが初めての経験でしたから。以前からレンズ設計の経験はありましたが、Proteusのようなレンズを手掛けるのは初めてでした。すべてが新しい挑戦でした。私自身は、以前にアナモフィックレンズを設計した経験はありませんでした。初めて資料を調べながら取り組み、生産もすべて初めてでした。

毎回、何度も試作を繰り返し、性能を調整いたしました。特に、フランジバックが少しでもずれると、性能が急激に悪化します。これは、アナモフィックレンズが縦方向と横方向の焦点距離が異なるためです。

結像性能が良い焦点距離は、1つしかありません。少しでもずれるとすぐに性能が悪化するため、調整が非常に難しいのです。これこそが、アナモフィックレンズが高価である理由の一つでもあります。

Proteus Flexの開発とユーザーニーズへの迅速な対応

――Proteusが登場した後、「Proteus Flex 2X」アナモルフィックシリーズという別のシリーズが発売されました。その後、異なるバージョンを発売された理由はなぜですか?

李社長:

当初のProteusは、フレアの色は、アンバー(Amber)、ブルー(Blue)、シルバー(Silver)の3種類で、1本のレンズにつき1色のみでした。しかし、ユーザーの皆様から「LAOWAのレンズでフレアの色を交換できるようになれば嬉しい」というご要望を受け、ユーザー第一主義の当社は、迅速に対応することにいたしました。大企業であれば、対応が煩雑で、製品価格も高くなってしまうかもしれません。当社はユーザー様からのご要望があれば対応いたします。

Proteus発売から約1年後、フレアの色を交換できる「Proteus Flex 2X」を発売いたしました。すぐに発売したわけではなく、約1年かけてユーザー様からのご要望に対応いたしました。

――フレアの色を変えられるのは、大変大きなニュースだと思いました。Flex開発の当初から「これは実現できそうだ」という手応えがあった感じでしたか?

李社長:

当初はそのような機能に対応していなかったため、対応できるようにレンズの中身を再設計する必要がありました。ボケ味も調整し、ネジを外して簡単に交換できるような構造にいたしました。

ProteusとProteus Flexは光学系は同じですが、メカ構造が異なります。交換可能な構造にするためには、より高い精度が求められます。精度が低い場合、例えばシルバーのモジュールでは問題なくても、ブルーに変えますと性能が出ないということが起こります。そのため、交換可能な構造にするためには、高い精度を確保する必要があります。

さらに、取り外しやすく、交換しやすい構造にするために、再度設計を行いました。そのため、最初のProteusは交換できませんでしたが、1年後のバージョンでは交換が可能になりました。中身は異なっております。

フレアが不要な場面もあります。例えば、画面を綺麗に映し出したい場合、フレアは一切不要です。そのため、Flexには、フレアの色が異なる3種類のモジュール(シルバー、ブルー、アンバー)と、フレアを発生させないクリアモジュールがあります。

様々な場所で撮影を行い、同じレンズで異なる特徴を表現したい、というニーズに応えるために、4種類のモジュールを用意いたしました。価格はレンズ2本分程度です。

つまり、従来のProteusと比べますと、Proteus Flexは価格が2倍になります。2倍になりますが、4種類のモジュールが付属するため、2本のレンズの価格で、4本分の仕事ができる、ということになります。

――他社で、このような交換機能を採用している製品なんて聞いたことがありません。

李社長:

技術的には可能だとは思いますが、おそらくコスト面で難しいのではないでしょうか。当社はユーザー第一主義を掲げているため、迅速に対応いたします。「New Idea, New Fun」という理念のもと、皆様からご要望があれば、可能な限り対応いたします。

New Ideaは私たちが提供し、ユーザーの皆様にはNew Funを提供したいと考えています。他社は技術的に不可能というわけではなく、おそらく対応しないだけだと思います。

万人受けするProteusの描写力

――中国の競合レンズメーカーからもアナモフィックレンズが販売されており、モジュール式ではないモデルにおきましては、倍率2倍などのスペックが共通の製品もございます。おそらく購入を検討される方が悩まれることも想定されます。最後に競合製品に対する御社の強みなどをご紹介いただけますか。

李社長:

シネマレンズ市場は、お客様のご要望が非常に多岐にわたります。Proteusの特徴は、他社製品にはない独自のものです。ただ両方ともご購入されるお客様が多いと思います。写真レンズとは違う点ですね。

シネマレンズは、フレアも異なれば、フレアの形も異なります。形が同じでも、色も違います。フレアが似ていても、ボケ味が異なります。楕円形のボケも、非常に綺麗な楕円形もあれば、周辺部がそうでないものもあります。

各ブランドによって特徴が違うため、悩むこともあると思いますが、最終的には自分の好きな特徴、レンズカーブで選ぶことになると思います。同じ2倍のアナモフィックレンズでも、ブランドが異なれば、画面で見ると全然違うんです。

私たちはできるだけ多くのユーザー様が綺麗だと感じるような、万人受けする形を目指しています。そのため、Proteusは大きく、ボケ味は非常に綺麗で、癖があまりありません。中には、わざと癖のあるボケを出すレンズもありますが、好みが分かれると思います。一般的なユーザー様は、綺麗ではない、何か変だと感じるかもしれません。当社は、幅広いユーザー層をターゲットにしているため、癖の少ない、綺麗なボケ味を目指しています。そのあたりにも注目していただいて、実機をご確認いただければと思います。

今後も、皆様の映像制作をより一層豊かなものにできるよう、新たな製品開発にも積極的に取り組んでまいりますので、ご期待いただければ幸いです。

LAOWAは、その小規模な組織ながらも、独自の技術力、柔軟な発想、そして利用者との緊密なコミュニケーションを武器に、写真・映像レンズ市場において一定の地位を築きつつあると言える。既存の製品ラインナップに捉われず、独自の製品コンセプトを生み出す力は特筆される。李社長の情熱とビジョンは、今後ますますシネマ業界や放送業界においても影響力を及ぼす可能性がありそうだ。