
放送業界におけるIP化の流れが加速する中、「Media over IP(MoIP)」の導入が進む現場では、複数のベンダーによって構築された設備同士の連携が新たな課題となっている。
そうした背景の中、朋栄が提唱する「Hi-RDS(階層型RDS)」は、マルチベンダー環境下においても柔軟な機材共有と運用効率の向上を実現するソリューションとして注目を集めている。
今回は朋栄 エグゼクティブ・アドバイザー 和田 雅徳氏に、Hi-RDS(階層型RDS)の仕組みや開発背景、放送局のワークフローに与えるインパクト、今後の展望について詳しく話を伺った。

和田 雅徳氏(エグゼクティブ・アドバイザー)
「Hi-RDS(階層型RDS)」とは?その仕組みと開発背景
――Hi-RDS(階層型RDS)とは具体的にどのような概念・システムなのでしょうか?

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和田氏:
最初にNMOSによるシステム動作を説明します。主なモジュールとして、BC(ブロードキャストコントローラー)/RDSがあり、図中の①~④の流れで機器のI/Oが接続されます。
Hi-RDS(階層型RDS)というのは、単に「新しいRDSを作った」という話ではありません。AMWAのNMOS仕様に則って、複数のRDS(Registration & Discovery System)を階層的に配置し、共通のリソースを上位の「プライマリーRDS」に集約します。そこから、サブごとに存在する「ローカルRDS」に対して必要な機材を貸し出す、ある意味"論理的な貸し出し"を可能にする仕組みです。

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和田氏:
その結果、BCは、接続されたローカルRDSに共有リソースがIS-04で登録されることにより、BC制御対象の機材があると"認識"し、従来通りの操作で制御できます。Local側に特別なAPIは不要で、NMOSのIS-04/05だけで完結します。これが「Hi-RDS(階層型RDS)」です。
――従来のRDSやBCを変更せずに機器が共有される、その仕組みを教えてください。
和田氏:
AMWA NMOSに基づくIS-04/05だけで動作するため、従来のBCをそのまま使えます。
たとえば報道サブと制作サブが異なるベンダーで構築されていても、共通のリソースをプライマリーRDSに登録し、必要なタイミングでローカルRDSに貸し出せば、あたかもそこに存在するかのように制御できます。
ポン付けで導入できる点は大きなメリットですね。
――Hi-RDS(階層型RDS)の開発背景について教えてください。どのような課題や業界ニーズからスタートしたのでしょうか?
和田氏:
背景にあったのは「バーチャルやCGテロップをどこでも共通して使いたい」というニーズです。特に日本の放送局は"縦割り構成"が多く、報道サブ、制作サブ、中継車、マスターそれぞれが異なるベンダーで構成されていることが多い。そうなると、1つの機材を複数の現場で使い回すのが非常に困難になるわけです。
IP化が進めば機材の共用が容易になると思われがちですが、逆に論理構成の整合性が必要になり、SDIのように"持っていって繋げば使える"というわけにはいかない。そこで、IP環境でも柔軟な共用を可能にする階層型の仕組みが必要だと考えたのです。

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ワークフローの変化と導入メリット
――Hi-RDS(階層型RDS)を導入することで、制作ワークフローはどのように変化するのでしょうか?
和田氏:
一言で言えば、「機材の使い回しが論理的にできるようになる」ことです。たとえば、バーチャル演出に必要なCGマシンやスイッチャー、特殊仕様のプロセッサーを、放送局内の任意のサブで時間帯や番組ごとに使い分けることが可能になります。
これはSDIでは"ミニラックで移動してパッチ盤で繋ぎ直す"という手間がかかっていましたが、Hi-RDS(階層型RDS)ならボタン一つで制御可能。特にリハーサルから本番、そして現状復帰までを高速に切り替えたい特番対応などでは、大きな威力を発揮します。

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――運用面やコスト面でのメリットは?
和田氏:
最大のメリットはリソースの集約とシェアリングです。今までサブごとに同じ機材を2セット用意していたようなケースが、1台の機材を分割して使えるようになります。
たとえば32入力・32出力のスイッチャーを番組ごとにME単位で分けて割り当てるといった運用も可能です。これにより、機材コストはもちろん、電力やスペースの面でも効率化が図れます。
――貴社が想定するHi-RDS(階層型RDS)のユースケースについて教えてください。
和田氏:
代表的なのは、複数の放送局が1つのデータセンター内で共通のCGシステムやAVサーバーを使いたいというケースですね。
あとは、スポーツ中継や選挙特番など、短期集中で機材リソースを必要とする局面。そうしたときに、予約ベースでリソースを割り当て、時間ごとに共有することで、設備全体の利用効率が劇的に向上します。

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放送業界の未来と朋栄のビジョン
――IP化・クラウド化・AI活用といった技術革新を踏まえ、貴社は今後放送業界にどのような価値を提供していく予定でしょうか?
和田氏:
私たちが目指すのは「自律分散型の放送システム」です。すべてをクラウド化してセントラルで制御する方法は一見効率的に見えますが、災害時に回線が切れれば全てが止まってしまう危険性もあります。
一方、ローカルにも機能を分散させておけば、中継局一つだけでも放送を継続できる可能性があります。これは放送局が持つ"社会インフラ"としての責任に直結する部分です。
SDIからIPに変わることで距離の制約が実質なくなり、自律分散やクラウド・オンプレハイブリッドシステムが可能となります。
また、今後はソフトウェア・デファインド(Software Defined)化が進み、1台の機材が複数の機能に切り替わる時代が本格化します。IPと仮想化を活かし、マルチベンダー環境でも柔軟に対応できるアーキテクチャを提供するのが、私たちの使命だと考えています。

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まとめ
放送業界のIP化が進む中、マルチベンダー環境への対応と柔軟なリソース管理は、今や現場の喫緊の課題となっている。
Hi-RDS(階層型RDS)は、そうした要望に対して実用性の高いソリューションであり、既存システムの延命と進化の両立を実現するアプローチでもある。朋栄の提唱するこの新たなモデルが、今後の放送設備構築にどのような影響を与えるか、注目していきたい。

