近年の放送業界では、REMI(Remote Integration Model)という新しいアプローチを取り入れ、制作フローを最適化する動きが注目されている。

グラフィックスカード、AV over IP製品、産業用画像入出力装置などで知られるMatroxは、このワークフローで先行する北米市場をはじめ、国内の放送業界にも幅広くソリューションを提供している。

REMIをサポートするエンコーダー/デコーダーの特徴や課題、今後の展望を含め、Matroxの日本連絡事務所所長である山下卓氏と、ジャパンマテリアル株式会社グラフィックスソリューション事業部部長の早坂悠吾氏にREMIの最新動向を伺った。

ジャパンマテリアル株式会社 早坂 悠吾 氏(左)、Matrox 山下 卓 氏(右)
山下 卓 氏

Matrox
日本 連絡事務所 所長

早坂 悠吾 氏

ジャパンマテリアル株式会社
グラフィックスソリューション事業部
グラフィックスソリューション部 部長

REMI(Remote Integration Model)とは

REMIの基本的な概念と、その導入がもたらす利点

山下氏:

REMIは「Remote Integration Model」の略称で、番組制作に必要な人的・機材的リソースを現地(ロケーション)に大規模に持ち込むのではなく、遠隔地のスタジオやプロダクションセンターなど"拠点側"に集約して運用する手法を指します。
従来のOB(Outside Broadcasting)中継では、多くのスタッフや機材を現場に投入する必要がありましたが、REMIの場合は主にカメラや音声の収録要員を現地に配置し、映像制作・編集・ミキシングなどは拠点側で行います。
このように「現地と拠点を統合」して運用するモデルなので、リモート制作ワークフローに近いものと理解されがちですが、REMIはあくまで現場・拠点・機器・ネットワークをどのように組み合わせるかという"設計思想"に近い概念です。遠隔制作(リモートプロダクション)の一形態といってもよいですが、REMI全体を"リモートプロダクション"と呼ぶのは誤解を招きやすいので注意が必要です。

REMIが注目される背景として、放送業界の現状や技術進化の要因は何でしょうか?

山下氏:

放送業界でもコスト削減や効率化への要求は高まっており、少子高齢化に伴う人材不足などの課題もあります。また、視聴者や広告主のニーズの多様化に対応しようとすると、コンテンツ制作の量を増やす必要が出てきます。そこで注目されているのが、機材やスタッフを極力現場に張り付けなくても運用しやすいREMIです。
さらに、IP伝送技術や5Gのインフラが進化したことで、大容量かつ低遅延の映像・音声伝送が以前よりも容易になってきました。コロナ禍におけるリモートワーク普及の流れも後押しとなり、北米をはじめとしてREMIの導入事例が徐々に増えつつあります。

早坂氏:

REMIの特徴は、スタジオや編集拠点にエンジニアやディレクターを集約することで、より少人数での現場対応が可能になる点です。メイン機材やサーバー設備を拠点側に置けるので、技術サポートも拠点側で集中的に行えます。現地ではカメラや音声スタッフだけが作業すればよいので、運用負荷とコストを減らせるメリットがあります。

中継先の映像をほぼリアルタイムでスタジオ編集・確認できるシステム図。少人数でも拠点側とスピーディに連携できるのがREMIのワークフローの利点だという
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REMIを取り巻く最新動向と導入メリット

REMI導入は実際どの程度広がっているのでしょうか?

山下氏:

ここ5年ほどで、スポーツ中継やライブイベント、報道番組など幅広い分野にREMIが適用されています。特に米国のメディア大手やスポーツ専門チャンネルでは、ほぼ標準ワークフロー化しているところも少なくありません。日本でも放送局やプロダクションの多くが導入を検討し始めており、遠隔配信と連動した収益モデルを探る動きも出ています。

早坂氏:

ジャパンマテリアルのビジネスの観点からも、REMIに関連する映像伝送ソリューションへの引き合いが増えています。特に「回線コストを抑えながら、いかに安定・低遅延で映像を伝送するか」という相談が多いですね。もともと放送業界は新技術導入に慎重な傾向がありますが、実績や事例が増えるにつれてREMIの導入障壁は着実に下がっている印象です。

国内と海外の運用で違いはありますか?

山下氏:

北米ではすでに大規模スポーツ中継やイベントでREMIが広く活用されており、インフラ面の整備も進んでいます。一方、日本の地方局や小規模プロダクションでは、ネットワーク環境の整備にばらつきがあるなどの課題があります。しかし今後、5Gや光ファイバーのさらなる普及に伴い、REMIに適したネットワークインフラが整うことが期待されています。
また、国内の放送局には独自の音声基準や運用ルールがあるため、そこへの最適化も一つのハードルになるでしょう。

REMI 海外の事例記事

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MatroxのソリューションがもたらすREMIの価値

REMI導入を検討する際、Matroxのどのような製品が支持を得ているのでしょうか?

山下氏:

代表的なのが「Monarch EDGE」というエンコーダー/デコーダーです。高品質な映像を低遅延で伝送できるうえ、エンコード・デコードを同時に処理できます。一般回線で運用しやすい設計になっており、映像制作現場の多様なニーズをカバーしている点が評価されています。
また、REMIを運用する上で重要なタリー(CUEランプ)とインカム機能に対応しているのも大きいですね。現地と拠点側でのスイッチングや連絡がスムーズに行えるため、遠隔制作を導入しても従来の現場ワークフローを大きく崩さずに運用できます。

早坂氏:

地方局や小規模な制作プロダクションからは、「機材をコンパクトにまとめたい」「遠征取材が多いので持ち運びしやすい機器がよい」という声も多いです。Monarch EDGEは1Uサイズで比較的軽量なため、設置場所や輸送の手間を抑えたい現場に好評です。

左から双方向同時エンコード・デコード対応「Monarch EDGE S1」、エンコーダー「Matrox Monarch EDGE E4」、デコーダー「Matrox Monarch EDGE D4」、Over IP変換・伝送シリーズ「Matrox ConvertIP」
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「Monarch EDGE S1」の各種端子。SDIやネットワークなど多様なインターフェースを備える
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Monarch EDGEは変換機能に加え、タリーやインカム機能も搭載しているため、機材をスリム化しながら現場とスタジオの連携をスムーズに行えるという
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実際の運用上で挙がる課題や注意点はありますか?

山下氏:

ネットワーク回線の品質・安定性がやはり最大のポイントになります。大容量の映像を安定して伝送するには相応の帯域が必要です。また、音声と映像の遅延・同期管理など、SDIベースとは異なるノウハウが求められる場面もあります。
Matroxでは、クラウドネイティブなリモートプロダクションプラットフォーム「ORIGIN」やSDIとIP間のプロトコル変換を担う「ConvertIPシリーズ」などを展開し、あらゆる規模のREMIワークフローを支えるソリューションを提供しています。

今後の展望とREMIがもたらす可能性

今後3~5年のうちに、REMIはどのように進化していくとお考えですか?

山下氏:

スポーツ中継やライブイベントなど、多くのスタッフや機材が必要な現場を中心にREMIの導入が進み、やがて幅広い番組制作へと展開していくと思います。SRTやST 2110、NDIといった新しい伝送プロトコルや5Gの活用により、小規模チームでもハイクオリティな放送が可能になります。
Matroxとしては、この流れに合わせて製品ラインナップを拡充し、拠点・現場それぞれが柔軟にスケールアップできるシステムを提供し続けたいと考えています。

IPベースのワークフロー拡張が進み、リモート制作が標準化する未来はそう遠くない

REMI(Remote Integration Model)は、現地スタッフと拠点側の制作リソースを効率的に統合し、遠隔地での撮影と拠点側での制作作業を組み合わせる設計思想として注目されつつある。
このモデルを導入することで、放送業界はスタッフや機材の配置を柔軟にしながら高品質な番組制作を実現し、コスト削減や働き方改革にもつなげられる可能性がある。
Matroxが提供する製品群は、REMIのメリットを最大限に引き出すための安定した映像伝送と運用性を実現し、今後もさらなる進化が期待されるだろう。
番組制作の手法が多様化するなか、REMIがもたらす変革からますます目が離せない。

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