ソニーが提案する空間再現ディスプレイの新たな可能性

ソニーブースにおける主要な注目点は、発売予定のフルサイズイメージセンサー搭載Cinema Lineカメラ「FX2」であると事前に予想されていた。しかし、空間再現ディスプレイのデモンストレーションがその予想を上回る注目を集めた。このデモンストレーションは、立体視映像の経験がある来場者、特に多くの映画関係者から高い関心を引きつけた。

展示された空間再現ディスプレイには、27インチの「ELF-SR2」、15インチの「ELF-SR1」、そして米国で初公開となる75インチのプロトタイプモデルが含まれていた。特に75インチのプロトタイプモデルの映像は、その没入感で驚きを与えた。このディスプレイはメガネ不要で、裸眼で複数の視点から自然な空間を再現する。

75インチ空間再現ディスプレイのプロトタイプを展示

ソニーの空間再現ディスプレイは、当初45°の傾斜でパネルを設置する形式であった。しかし、ELF-SR2については2024年10月29日に公開されたSDK 2.4.0により垂直設置が可能になった。また、マルチディスプレイ設定にも対応し、複数のディスプレイを連結して使用できるようになった。一方、75インチのプロトタイプモデルは、巨大な単一ディスプレイによりフレームなしでの表示を実現していた。

従来のソニー空間再現ディスプレイは、視線認識センサーを備え、このセンサーで人物の位置を認識し、それに基づいて映像を出力する仕組みを採用している。これは75インチ空間再現ディスプレイにも同様に適用されており、内蔵されたカメラが視聴者を捉え、立体的な映像をディスプレイに表示する原理は共通である。

視線認識センサーで視聴者の顔を検出
展示コーナーでは、視線認識センサーで捉えた様子が確認できるようになっていた

75インチモデルのパネルには8K解像度のものが使用されており、リフレッシュレートは60Pである。今後、製品化に向けて必要な変更点が生じる可能性があり、それらは開発段階で検討される見込みである。

一方、27インチの空間再現ディスプレイを使ったデモコーナーでは、VENICEエクステンションシステムMiniのカメラヘッド2台を並列に配置した3D撮影と連携して展示された。これにより、リアルタイム性と奥行き感のある映像表現が可能になっていた。

VENICEエクステンションシステムMiniのカメラヘッド2台で撮影した3D映像を即確認可能

ソニーは今回のデモにおいて、空間再現ディスプレイの制作ワークフローについて、撮影から視聴にいたるまでのトータルソリューションを提案した。このソリューションは、ステレオスコピックデータで撮影された映像のリアルタイムモニタリングを可能にし、収録・編集後のカット単位での確認やプレゼンテーションでの活用を想定している。

立体映像の制作では、カメラの高速な動きが視聴者に不快感を与えるといった問題が指摘されていた。しかし、ロボットアームの導入により、これらの問題は克服されつつある。ロボットアームは、被写体に対する適切なモーション制御を可能にし、立体映像における酔いの発生を抑制する。

さらに、この技術は、被写体との奥行き感、ボケ具合、解像度、ピント調整といった要素をリアルタイムで監視しながら空間コンテンツを制作することを可能にしている。このようなリアルタイムでの映像処理能力は、特にライブプロダクションの分野において、その活用が期待される。

VENICEエクステンションシステムMini2台を約65mmの間隔で並べて配置することで、ステレオ3Dリグを構築できる

ステレオスコピック(立体視)映像の撮影は、視差の問題などから難易度が高い。ソニーのソリューションは、撮影中にリアルタイムで映像を確認できるモニタリング用途を重視しており、これにより制作過程での課題解決を図っている。最終的な出力物は、従来の3D映画と変わらない形式である。

ソニーVENICEエクステンションシステムMiniはサードパーティとの連携で新たな制作領域を実現

ソニーは、今年4月に開催されたNAB 2025において、VENICEエクステンションシステムMiniを展示した。このシステムは、様々なアクセサリーメーカーとの連携を強化しており、Cine Gearのソニーブースでは、Bright Tangerineなどのエコシステムが展示された。

NAB 2025のソニーブースでは単体展示であったが、今回はグリップなどのアクセサリーが装着された状態での展示となっていた

NAB 2025において、VENICEエクステンションシステムMiniのヘッドは単体で展示され、グリップなどのアクセサリーは付属していなかった。しかし、Cine Gearのソニーブースでは、このVENICEエクステンションシステムMiniのヘッドが、サードパーティ製アクセサリーとの連携により機能拡張が進められていることが示された。

これは、ユーザーからの多様な要望に応えるため、アクセサリーメーカーがカスタマイズの可能性を追求し、ソニーとの協業を通じて実現にいたっている状況である。

ソニーブースでは、来場者がSecond Reef社製「Coral Anamorphic」レンズを装着し、特定の映像ルック(質感や色彩)を体験しながら撮影できた。これは、VENICEエクステンションシステムMiniが発表から短期間で実用的な運用環境が整備されつつあることを示している。

ソニー「FX2」は新搭載ビューファインダーと進化した操作性に注目

ソニーのFX2は、Cine Gearで初めて公開された。国内では、日程限定でソニーストアにて試用機会が設けられているが、2025年8月の発売を控える中、来場者は展示された実機に触れることができた。

展示機にはG Masterのズームレンズと単焦点レンズが組み合わされていた。FX2の主な特徴の一つは、FX3やFX30には搭載されていなかったビューファインダーである。ソニーは、動画撮影に最適なビューファインダーについて検討を重ね、任意の角度で固定でき、かつ目を離した状態でも内部を確認できる新しい視野角を実現した。このビューファインダーを実際に覗くことで、その使いやすさを体感できるだろう。なお、展示機に取り付けられたビューファインダーの向きは、用途に応じて変更可能である。

FX2のチルト式電子ビューファインダーは、必要に応じてアイカップを取り外したり左右反転させることで左右どちらの目でも使用できるように変更できる設計である。これはユーザーの利き目に応じて最適な視認性を確保するためである。

ビューファインダーは368万ドットOLEDを採用し、デジタル一眼カメラ「α7 IV」に近い仕様を実現しており、ユーザーに高品質な視覚体験を提供する。また、FX3と共通のインターフェースを採用しているため、サイズ感やボタン配置に変更はなく、既存ユーザーも直感的に操作できる。下部に2つのネジ穴が設けられている点も特徴である。

新機能として、ホーム画面が「BIG6」に更新され、より直感的な操作が可能となった。さらに、Fixed、Variableというスローモーション設定が追加されている。これは従来のS&Q(スロー&クイック)とは異なり、VENICEやBURANOと同様に1つのモード内で固定と可変のフレームレートを切り替えられる機能である。これらのユーザーインターフェースの改善点は、実機に触れることで確認できるだろう。

FX2は、静止画と動画の両方に対応しており、そのデザインも高く評価されている。また、希望小売価格が税込416,900円という点も魅力の一つである。