
Cine Gear LA Expo 2025において「Sigma Cine Lens Aizu Prime Line」登場!
2025年のCine Gear LA Expoにおいて、シグマは映像制作用交換レンズの新ラインアップ「Sigma Cine Lens Aizu Prime Line」を発表した。
このシリーズは、そのコンパクトな設計にもかかわらず、全ての焦点距離で開放T1.3を実現。まさにシグマがすべての技術を投入して実現した最新プライムレンズといって間違いない。気になる高性能と小型化の両立、デザイン、価格について、代表取締役社長である山木和人氏へのインタビューを通じて、その背景を紹介する。
新規シネマレンズ開発の軌跡
――今回のレンズの企画意図、そしてこのタイミングでの発表に至った経緯についてお聞かせください。
山木氏:
2016年のシネマレンズ発表、そして2017年の市場参入以来、私たちは映画制作市場への貢献を目指してまいりました。これまで提供してきたフルフレーム対応のハイスピードレンズは、当初、オーナーオペレーターの皆様に向けて価格を抑えて開発したものでした。しかし、これらのレンズが予想以上に多くのフィーチャーフィルム、つまり本格的な映画制作の現場で採用されている実態が明らかになったのです。
この状況を受け、私たちは本格的なシネマ用レンズを一から開発することの重要性を認識いたしました。市場参入当初からの目標を改めて見直し、より高度な要求に応えられる製品の必要性を痛感した結果、2022年に今回の新規シネマレンズの企画が始動しました。そしてこの度、その成果を発表する運びとなりました。
――今回のレンズは、シネマ撮影に特化した光学設計を新規に開発して実現したということですね。
山木氏:
はい、その通りです。今回の製品では、光学設計もメカニカル設計も、すべてがシネマ用途向けに一から再構築されました。これは、映画制作における厳しい要求を満たすため、従来の設計を流用するのではなく、シネマ専用として設計したことを意味しています。
新たなシネマレンズへのこだわりと挑戦
――今回のシネマレンズ開発においては、どのような点にこだわりましたか。
山木氏:
映画の世界では、シャープな描写を求める声もあれば、レンズの特性が際立つ表現を重視する声もあります。このような多様なニーズに対応するため、当社が持つ最先端の技術を最大限に活用しました。これにより、優れた描写性能を持ちながらも、コンパクトかつ軽量なレンズの実現に至っています。
また、本製品はすべて会津工場(日本)で製造しており、高い信頼性を確保しています。これにより、制作者が安心して使用できる、新しい時代のシネマレンズのスタンダードを確立することを目指しました。
T値1.3の光学性能と本体サイズの両立
――シネマレンズでありながらT値1.3というのは驚きですが、この数値は当初から目標として設定されていた感じでしょうか。
山木氏:
企画当初から、T1.3という開放F値は目標として設定されていました。既存のハイスピードフルフレームレンズがT1.5を実現している中で、同等またはそれ以下の重量とサイズでT1.3を達成することは、製品の差別化と性能向上において重要な要素であると認識されていました。
――今回のプロジェクトにおいて、T値1.3という光学性能と、現行の本体サイズを両立できた背景について教えてください。
山木氏:
T1.3の明るさを実現しつつ、このサイズを達成できた背景には、特定の単一技術ではなく、長年にわたる多様な技術の積み重ねがあります。特に、民生用スチールレンズの分野で培ってきた、いかにレンズをコンパクトに設計するかというノウハウが大きく貢献しています。
具体的には、レンズの個々の要素を可能な限り薄くする設計や、その他の様々な設計技術を駆使することで、全体としての小型化を実現しました。これらは、これまで当社が培ってきた技術の集大成とも言えるでしょう。
-―今回25mmと27mm、32mmと35mmといった近接した焦点距離がラインナップされています。多くの方々が驚かれると推察されます。この焦点距離を選択された背景について教えて下さい。
山木氏:
今回のシネマレンズの焦点距離ラインナップは、特に映画制作における多様なニーズに対応するために綿密に構築されています。一般のスチール用レンズではあまり見られない、例えば25mmと27mm、32mmと35mmといった近接した焦点距離が存在するのは、映画制作者が慣れ親しんだクラシックな焦点距離を細やかに提供するためです。
シネマレンズのデザインと価格設定
――シネマレンズに個性的なデザインを持つ製品が増えてきていますが、Aizu Primeは初期段階から方向性は決まっていたのでしょうか。
山木氏:
今回のデザイン決定においては、いくつかの検討が重ねられました。シネマレンズ業界では、色彩豊かなデザインで個性を主張するメーカーが多く見られます。当初は、そのような傾向に合わせてより華やかなデザインも検討されました。
しかし、ユーザーからの意見、特にハリウッドの制作者からは、当社のクリーンで現代的なデザインが評価されているとの声がありました。現代社会においては、装飾的なものよりもシンプルなデザインが好まれる傾向にあり、この方向性が支持された形です。
最終的には、他社の動向に左右されず、当社が追求する「美しい」と感じるデザインを具現化するという方針が採用されました。この結果、基本的なデザイントーンを踏襲しつつも、随所に工夫を凝らした製品が完成しました。
――製品の価格設定については、検討段階で様々な議論があったのでしょうか?
山木氏:
今回の価格設定は、開発当初の計画から変更された経緯があります。シネマ専用にゼロから開発され、生産数が限られるため、本来であれば現在の発表価格よりも2〜3割高い設定が検討されていました。
しかし、開発期間中に映画業界がストライキなどの影響を受け、多くの企業が財政的に厳しい状況に直面していることが明らかになりました。こうした状況を鑑み、販売代理店やレンタルハウスなどのパートナー企業が導入しやすいよう、価格を抑えることが決定されました。この判断は、業界全体への貢献を考慮したものです。
――提供された品質水準を考慮すると、現在の価格設定は非常に競争力があると感じられます。
山木氏:
今回の価格設定は、戦略的な判断によって達成されました。特に日本円に換算すると高額に感じられるかもしれませんが、米ドル換算では市場から「安価である」との評価を得ています。
現在の経済状況において、1本あたり2万ドルや3万ドルといった高額な投資を行う体力がない、という声が業界内で聞かれる中で、本製品の価格は非常に好意的に受け止められています。これは、市場のニーズを正確に捉え、導入しやすい価格を実現した結果と言えるでしょう。
eXtendedメタデータの導入とLマウントについて
――eXtendedメタデータの導入が市場から好意的に受け止められていることは注目に値します。この機能の採用は、どのような背景にあって採用されたのでしょうか?
山木氏:
eXtended Data (拡張メタデータ) の導入は、市場からの様々な意見を考慮した結果です。この機能については、使用しないという声と、使用するという声の両方が存在しました。
しかし、シネマレンズは頻繁に新製品が投入される分野ではないため、長期的な視点に立ち、業界の標準となるレンズセットを目指す必要がありました。数年後のポストプロダクション工程では、データ活用の重要性が増すと予測されたため、eXtended Dataや/i Technologyといったメタデータ記録機能への対応が決定されました。これは、将来的なワークフローの変化を見据えた戦略的な判断と言えます。
――Lマウントの採用が見送られた点については、多くの方々が疑問を抱いていると認識しています。この決定は、なぜでしょうか?
山木氏:
現在の市場において、特に今回のレンズのような製品ではPLマウントが主力であると判断されたためです。また、近年市場が拡大しているEマウントは、今回ラインナップに加えることになりました。
Lマウントについては、現在、当社に本格的なLマウントシネマカメラがないこともあり、今回の導入は見送られました。しかし、今後の市場からの要望や状況の変化を注視し、Lマウントへの対応も検討していく方針です。
――今回の発表を経て、今後の製品ラインナップの展開については、多くの方々が関心を寄せていると認識しています。今後のさらなる製品拡充など教えていただける範囲でお願いします。
山木氏:
今回の発表では25mmから75mmまでのレンズが公開されましたが、今後はラインナップの拡充を計画しています。具体的には、広角側として18mmと21mm、望遠側として100mmと125mmの開発を進めており、これらは今年中のリリースは難しいものの、来年以降の発表を目指しています。
その後の展開については、今回発表したレンズや新しいAF Cine Lineの市場からの反応を注視しながら検討していく方針です。当社はシネマレンズ業界において確固たる地位を築くことを目標としており、そのためにも継続的な新製品の発表を予定しています。

