Japan Mobility Show 2025のトヨタ自動車ブースでは、横幅91mにもおよぶ巨大なLEDバックドロップが来場者の目を奪った。波打つような曲線を描いたこの映像システムを担当したのはヒビノであり、長年のパートナーであるROE Visualとの協業体制もあって、求められる規模とクオリティを短期間で実現することができたという。
今回、両社の関わりやプロジェクトの背景について、ヒビノ株式会社 取締役 常務執行役員でコンサート・イベントサービス事業ヒビノビジュアルグループ担当の芋川淳一氏、ROE Visual CEOのJason Lu氏、CSOのGrace Kuo氏に話を聞いた。

91mの巨大湾曲スクリーンが生み出す没入空間

トヨタブースのメインステージには、間口91m・高さ5.5mのLEDバックドロップが設置された。2023年度の60m×5mをさらに上回る規模で、緩やかに波打つカーブが特徴的だ。ステージ全体を包み込むような造形により、映像が空間と一体化したような視覚効果を生み出していた。
LEDシステムには、ROE Visualの湾曲対応パネル「Topaz Curve 2.6」が中核として採用された。2.6mmピッチの50×50cmモジュールを組み合わせていくこの製品は、大型面においても滑らかなカーブを描けることが特徴だ。今回のバックドロップでは、そのモジュールを中心に34,944×2,112ピクセル(4K映像9面分相当)の解像度を構成。約500m2におよぶ巨大スクリーン全体を複数のメディアサーバーで同期させ、1フレームのズレもない精密な制御が行われていた。
これほどの大規模システムを実現できた背景には、ヒビノがクライアントの要求仕様に合わせたLEDディスプレイ・システムを短期間で確保できたこと、そしてその裏に、ROE Visualとの10年以上にわたる戦略的パートナーシップがあったことが挙げられる。必要な物量をスムーズに揃えられたことも、今回のスケールを成立させた要因となった。
Japan Mobility Show 2025 トヨタブース 91mの巨大LED。プレスブリーフィングの様子
10年以上続く戦略的パートナーシップの原点

ROE Visualは2006年に設立。LEDステージやバーチャル撮影用ディスプレイなどを手掛ける。同社とヒビノの関係が始まったのは2011年、ROEがまだ「Radiant Opto Electronic Technology」という社名だった頃だ。
「当時は社員100人に満たない小規模企業でした」とJason氏は振り返る。その時期にいち早く取引を始めたのがヒビノだった。
芋川氏は、ROEとの関係について次のように語った。
「ROEは戦略的ビジネスパートナーであり、我々の成長に貢献してきました。ヒビノは、企業・コンサート・スポーツ等様々なイベントに映像機材・人材の役務提供オペレートを行っています。
その事業拡大のエンジンはLED screenであり、各マーケットでのLEDの需要拡大に対応するため継続的投資を行ってきました。ROEとのアライアンスがなければ、現在の我々の成功はありません」
この成功をきっかけに、両社は単なる取引を超えた「戦略的パートナー」へと発展。Jason氏は「日本市場の"精密さ"や"卓越性"の精神を学んだことが、ROEの成長に大きな影響を与えた」と語る。

コロナ禍が生んだ"第3の柱" バーチャルプロダクションへの進化
2020年のパンデミックによってライブイベント市場が停滞する中、バーチャルプロダクション事業を立ち上げた。
芋川氏は当時を振り返り、次のように語る。
「当時は、倉庫にLEDやメディアサーバーが眠ったままで、スタッフも現場で働く機会がなくなっていました。そこで、社内にあるリソースを活かして、どんな新しい事業領域を生み出せるのかを徹底的に考えました」
こうして誕生したのが「Hibino VFX Studio」だ。背景映像をLEDウォールに投影し、そのまま実写として撮影するこの手法では、LEDウォールの品質が作品の完成度を左右する。ROEは『マンダロリアン』でLEDウォールを提供した実績を持ち、同社の技術力がヒビノの導入を後押しした。
現在では、電通クリエイティブピクチャーズが運営する「FACTORY ANZEN STUDIO RED studio」、東北新社が運営する「Virtual Production Shooting Lab.」のLEDディスプレイ・システムにも展開。ヒビノの機材および技術スタッフが各所に派遣され、CM・ミュージックビデオ・ドラマ制作などで活用されている。
芋川氏は「バーチャルプロダクションは、コンサートや企業イベントに続く"第3の事業の柱"として成長しました。この決断は、私たちの歴史の中でも大きな節目となりました」と語る。
トヨタブースで実現した"かつてない"規模のLEDシステム

今回のトヨタブースでは、前例のない規模のLEDバックドロップを構築する必要があった。当初、ヒビノの在庫では仕様も物量も対応が難しく、ROEに相談したところ、湾曲特化型の「Topaz Curve 2.6」が提案されたという。
芋川氏は「ROEはタイトな製造工程でしたが、全ての機材を予定通り納品しました。Topaz Curveの採用により、完璧な凹面凸面を描くLEDバックドロップにより隙間のない洗練されたデザインを実現しました」と語る。
Grace氏は、世界的にライブイベント市場が活況を呈していると指摘。「コンサートステージは数千m2規模に拡大し、巨大スクリーン需要は急増している」と述べた。

軽量化と没入体験――これからのLED演出に向けて
LEDバックドロップは、イベントごとのレギュレーションや設営条件によって、設置できるサイズが左右されることもある。そうした中で、より大規模なスクリーンを実現するには、パネルの軽量化や施工効率の向上が求められる。
芋川氏は、今後は床や天井も含めた立体的な演出や、空間全体を映像で包み込む「没入型」体験へのニーズが一層高まると見ている。
Grace氏も「若年層を中心に、光や音に没入できるコンテンツに対して積極的に対価を支払う傾向がある」と述べ、同社が光・音・体験に特化した製品開発を進めていると明かした。
Jason氏は「両社の協業によって、日本市場にさらに最適化された製品を提供できる」と強調。芋川氏も「これからも日本での営業活動から得たマーケットニーズやお客様の声をROEと共有し、これを反映いただくことで、イベント業界に特化した製品をアップグレードしていきたい」と展望を語る。
2次元から3次元へ。壁から床、天井へ――。ヒビノとROEは、これからも新たな空間演出の可能性を切り拓いていく。
芋川氏は、現在のステージ演出の変化について次のように語る。
「現在、イベントやコンサートでは、ステージ正面の壁面すべてをLEDウォールで覆うケースも珍しくなくなってきました。これからは、3次元的に映像をデザイン・設営し、空間全体を活かすことで、より没入感のある体験を提供していきたいと考えています」
