データのHall 1-3から、体験のHall 4-7へ
Vol.02では、Hall 1.0〜3.0における「AVとITの融合」をレポートした。そこは信号やデータが飛び交う、いわばシステムの「論理」の領域だった。対して、会場の奥に広がるHall 4.0から7.0は、そのデータを人間が知覚できる「体験」へと変換する「身体」や「出力」の領域だ。
ここには、映像演出のコアとなるメディアサーバーやインフラ(Hall 4-5)、物理的に空気を震わせるプロオーディオ(Hall 6)、そして空間を染め上げるライティング(Hall 7)が集結している。本稿では、日本未上陸の尖ったメーカーとの出会いや、オーディオ展示における「体験」への配慮など、現地を歩いてこそ分かるプロフェッショナルの視点でレポートする。
Hall 4.0 & 5.0:演出のコアと、放送・インフラの深化
Hall 3.0を抜けて最初に広がるHall 4.0と5.0(Content Production & Distribution / Multi-Technology)。ここは一見雑多な印象を受けるかもしれないが、ショーコントロールやインフラの専門家にとっては、宝の山とも言えるエリアだ。
日本に拠点なき「メディアサーバー」たちと、統合制御の要

まず特筆すべきは、高度化する映像演出を支えるメディアサーバー群だ。DisguiseやPixeraといったメジャーどころはもちろん重要だが、ISEの醍醐味はそこだけではない。LightAct、Modulo Pi、7thSense、Green Hippoといった、非常に強力だが日本にメーカー本拠地や大きな拠点を持たないブランドが、ここでは存在感を放っている。
彼らのブースでは、非圧縮再生へのこだわりや、生成AIとの連携など、尖った技術思想を開発者から直接聞くことができる。
さらに、これら複雑化するサーバー群やトラッキングデータを一元管理する「ハブ」として、Stage Precisionのようなツールが不可欠になっている現状も見て取れる。個別のサーバー性能だけでなく、システム全体をどうオーケストレーションするか。そのヒントがこのエリアには詰まっている。
信頼の足回り:BrightSignやKVMソリューション
ハイエンドなサーバーの一方で、システムを底支えする「足回り」の進化も見逃せない。サイネージや展示再生のデファクトスタンダードであるBrightSignは、ここでも揺るぎない存在感を示している。単なるプレーヤーの展示にとどまらず、CMSとの連携や管理機能の進化など、「絶対に止まらない現場」を作るための実直なアップデートは、多くのインテグレーターにとって安心材料となるだろう。
そして、コントロールルームの統合化において影の主役となるのがKVMソリューションだ。特にBlack BoxやAdderLinkといった信頼性の高いブランドは、放送局から航空管制まで、クリティカルな現場の「神経」を担っている。IPベースでの低遅延伝送やマルチビュー機能の進化など、オペレーターの負担を減らすための強力なソリューションがここにある。
放送機器のAV進出と、朋栄(FOR-A)の初出展
放送機器メーカーの動きも見逃せない。Blackmagic DesignやROSS Video、Vizrtといった放送業界の常連たちが、IPベースのワークフローをProAV市場に持ち込んでいる。
そして今年、特に注目したいのが朋栄(FOR-A)の初出展だ。日本の放送品質を支えてきた老舗メーカーが、満を持してこのヨーロッパのAV市場に乗り込んできた。ブースでは、放送グレードの信号処理技術がいかにイベントや企業の現場で有効かをアピールしており、ビジネスパートナーを含め多くの来場者が足を止めていたのが印象的だ。
Hall 6.0:ラインアレイの森と、音響メーカーの「思考」
Hall 6.0に入ると、視界は「黒い箱」の海となる。プロフェッショナル・オーディオの最前線だ。
静寂の中の「ラインアレイの森」
見渡す限り、天井からは各社のラインアレイ・スピーカーが吊り下げられ、まるで森のような景観を作っている。d&b audiotechnik、L-Acoustics、CODA Audio、RCF、K Arrayといった主要ブランドが顔を揃える。特徴的なのは、このスピーカーが林立するホール内自体は、思いのほか「静か」だということだ。各メーカーのブースでは、派手に音を鳴らすことよりも、リギング(吊り金具)の安全性や施工のしやすさ、そしてアンプやDSPのソフトウェアUIを見せることに重きを置いている。
最高の「体験」を提供するための棲み分け
では、肝心の「音」はどうするのか?ISEの運営と出展社は、その点において非常にユーザーファーストな設計をしている。騒音まみれの展示会場で音を流すのではなく、「Audio Demo Rooms(屋内)」と「Outdoor Sound Experience(屋外)」という、音を聞くための専用環境を別途用意しているのだ。
屋内のデモルームではイマーシブオーディオの繊細な定位を確認し、屋外のデモエリアでは大音量での遠達性や風の影響を確認する。「見る場所」と「聞く場所」を分けることで、プロフェッショナルが正しい環境で評価できるように配慮されている。この構造こそが、ISEが世界最高峰のAV展である理由の一つだろう。
Hall 7.0:ISEで最も「ライブ感」あふれる空間
最深部のHall 7.0(Lighting & Staging)。ここは、今回のISEの中で最もエモーショナルで、エンターテインメントの原点を感じさせるエリアだ。
光と構造体の競演
ホールに入った瞬間、スモーク(ヘイズ)の匂いと、視界を切り裂くレーザーやビーム光に包まれる。Robe、Claypaky、Elation、Ayrton、MA Lightingといったライティングメーカーが、派手なデモを行っている。光だけではない。ここには巨大なトラスや、精密に制御されるホイスト(チェーンモーター)など、ステージング(舞台機構)の技術も集結している。
光、音、煙、そして動く構造物。これらが一体となって生み出す「ライブ感」。Hall 7.0を歩くことは、エンターテインメント業界の心臓部を歩くことと同義だ。
バルセロナまで来る「本当の理由」
Hall 1.0から7.0までを振り返ると、ISEが単なる「設備展」から、放送・ライブ・ITを含む巨大な統合展へと変貌したことがよくわかる。
そして、最後に強調したいのは「出会い」の価値だ。会場には、日本に代理店や支社を持たないニッチなメーカーや、大手だが日本には代理店しかないメーカー、新興のインフラ系ブランドも多数出展している。
LightActや7thSenseのエンジニアと直接話し、日本未上陸の尖ったソリューションを見つけ出すこと。あるいは、For-Aのような日本メーカーの世界への挑戦を目撃すること。ネットでスペックを見るのではなく、実機を触り、作った人と話す。この泥臭い収穫こそが、バルセロナまで足を運ぶ最大の意義なのだろう。