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ProAV業界において、ドイツの「LANG AG」という名前が持つ意味は、単なる機材レンタルカンパニーの枠を遥かに超えている。彼らは長年、欧州における映像技術の「審美眼」であり、インテグレーションにおける「事実上の標準(デファクトスタンダード)」を規定してきた存在だ。

かつてオランダ・アムステルダムのRAIで開催されていた頃のISE(Integrated Systems Europe)を思い返すと、広大な会場のなかで、最新のプロジェクション技術やLEDの品質基準を最も厳格に、そして最も美しく提示していたのは、常にLANGのブースだった。彼らがどのメーカーのプロジェクターを採用し、どのプロセッサをラックに組み込むか——その選択自体が、その年のインテグレーションの正解となる。そんな、ある種の「羅針盤」のような役割を彼らは担ってきた。

2026年、バルセロナへと舞台を移したISEにおいても、LANGの立ち位置は揺るがない。しかし、今年の彼らが見せた姿は、単なる「機材の選定者」から、より能動的な「ソリューションの定義者」への進化だった。今回、現場を指揮する3名のキーマンに、その戦略の核心を訊いた。

「ブラックボックス」からの脱却:SMPTE ST 2110とIPMXへの完全移行

LANGブースで最も熱く語られていたのは、信号配信(Signal Distribution)における「オープン規格への回帰」だ。この数年、業界がいかにIP化を進めるべきか試行錯誤を続けるなか、LANGは明確な答えを出した。

長らくこの業界は、メーカー独自のプロトコルや、高価なライセンス料を伴う「ブラックボックス化」された信号伝送に依存してきた。しかし、LANGは今、SMPTE ST 2110IPMXといったオープンなIP伝送規格を強力に推進している。その理由は極めてシンプルだ。「メーカーに縛られず、誰にでも開かれた技術であること」が、レンタルやイベント現場における真の柔軟性を生むからである。

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Sven Bauschke氏 Signal Distribution担当

Netgearとの協調が生む「現場のIP化」

特筆すべきは、Netgearのスイッチ(M4250/M4300シリーズなど)をベースにしたネットワーク構築だ。

「レンタル業界やイベント業界には、ネットワークのコーディングに精通したITスペシャリストが必ずしも潤沢にいるわけではない。だからこそ、直感的なGUIを持ち、プラグアンドプレイに近い感覚で扱えるNetgearが不可欠だった」

彼らは、複雑なPTP(Precision Time Protocol)やNMOSによるデバイス管理を「Engage Server」という形でパッケージ化し、複数のデバイスを寸分の狂いもなく同期させる環境を標準化した。また、物理的な接続部にはNeutrikのEtherCONを採用し、基幹には100G QSFPスイッチを据えるなど、現場の過酷な運用に耐えうる「質実剛健なIPインフラ」を提示してみせた。

メディアサーバーの「心臓部」をIPへ:ネイティブ実装の衝撃

インテグレーションの要となるメディアサーバーにおいても、LANGは妥協のない姿勢を見せている。特に注目されているのが、Pixera(AV Stumpfl)によるSMPTE ST 2110のネイティブ実装だ。

多くのメーカーがDisplayPort出力をコンバーターでIP変換する「疑似IP」に留まるなか、PixeraはMellanoxのNICをサーバーに統合し、直接2110信号をネットワークに流し込む。LANGの担当者は「彼らは2110をメディアサーバーで実現させた先駆者だ」と称えつつも、「まだ完全な安定性には至っていない」と、プロフェッショナルな現場ならではのシビアな現状評価を隠さない。

対するDisguiseを含め、トップエンドのサーバー群がいかにして超巨大解像度の映像変換の手間(レイテンシー)を省き、ネットワークの帯域をフルに使い切るか。この「サーバー内部のIP化」こそが、次世代映像制作の最大の争点となるだろう。

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通常は見れない裏まで見せていただいた

自社開発LED「AURA」と「LIAM」に込められた、インテグレーターとしての意地

これまでのLANGは、世界のトップブランドから最高級のLEDパネルを買い付け、それを自社の厳しい基準で校正して提供してきた。しかし、今年のISEで彼らが主役に据えたのは、自社開発のLEDシリーズ「AURA」と「LIAM」だった。

なぜ、LANGは自らハードウェアを作る必要があったのか。その答えは、既存の市場製品では彼らが求める「インテグレーションの精度」に限界があったからに他ならない。

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LED担当 Svenja Mevissen氏

AURA:1.5mmピッチが描く、MiniLEDの到達点

「AURA」は、1.5mmピッチのMiniLED-in-Package (MIP) 技術を採用した最新鋭のレンタルパネルだ。

  • 圧倒的な画質:最大1,600nitsの輝度と、7,680Hzという驚異的なリフレッシュレートを実現。低輝度時でもフリッカーが発生せず、カメラ越しでも完璧な映像を再現する
  • 柔軟なインテグレーション:「Flex」バージョンでは、±30°(設計により最大45°)もの曲げ半径をサポートし、滑らかな凹凸状の設置が可能だ
  • 5Gの衝撃:NovaStarの最新プロセッシング(XA50 Pro)を組み込み、5G帯域でのデータ伝送を実現。配線の簡略化と信頼性の向上を両立させている

LIAM:透過型LEDの「軽さ」という革命

一方、透過型LEDの「LIAM」は、これまでの常識を覆す以下のスペックを誇る。

  • 透明度85%:視覚を遮ることなく、空間に映像を浮かび上がらせる
  • 驚異の軽量化:1x1mのキャビネットでわずか12kg。これは従来の透過型パネルと比較しても極めて軽く、吊り構造への負担を最小限に抑える
  • 高輝度:4,200nitsを確保し、明るい環境下でも鮮明な視認性を維持する

空を舞う600台のピクセル:ドローンショーとDante同期の舞台裏

LANGの今年の挑戦は、地上だけに留まらない。バルセロナの夜空を彩った600台のドローンショー(UVify IFOシステムを使用)は、まさに彼らのインテグレーション能力の集大成と言える。

このショーにおける最大の技術的課題は、「空中のドローン」と「地上のLED・音楽・照明」をいかに完璧に同期させるかであった。

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Drone担当 Marta Germes氏

オーディオ信号が指揮するドローンの軌跡

LANGが導き出した解は、驚くべきことにオーディオプロトコルであるDanteを同期の主軸に据えることだった。

  • Danteタイムコード:ショーのマスタークロックとしてDante経由のオーディオ信号を使用
  • 絶対時間への変換:制御ソフトウェア(ミドルウェア)がこのタイムコードを、ドローンのオートパイロットが理解できる「絶対時間」へとリアルタイムで計算・変換する
  • 風との戦い:ヘリポートという強風が予想される環境下において、この緻密な同期がドローンの正確な位置制御と映像演出の合致を可能にした

これは、映像技術だけでなく、音響、ネットワーク、航空制御を横断的に理解しているLANGだからこそ成し得た、究極の「マルチメディア・インテグレーション」の姿だ。

LANGが守り続ける「ヨーロッパ・スタンダード」

LANGの歴史を振り返れば、彼らは常にメーカーに対して「現場が本当に必要としているものは何か」を問い続けてきた。時にはメーカーと共に製品をブラッシュアップし、時には自らツールを開発することで、ProAV業界の品質の底上げに寄与してきたのである。

今年のISEで彼らが示した「SMPTE ST 2110への全面傾倒」と「自社ブランドLEDの展開」は、市場のコモディティ化に対する彼らなりの回答だろう。

「誰でも機材を買える時代だからこそ、誰にも真似できない精度でそれを繋ぎ、運用する」

この哲学こそが、アムステルダムからバルセロナへと場所が変わっても、LANGが欧州の、そして世界のProAV技術のスタンダードを決め続けている理由なのだ。

今回の調整は長年の友人であるChief Innovation OfficerのFrancesco Elsing氏に多大な協力を頂いた。ありがとうございました。