小型カメラの定番として、多くのクリエイターに支持されているDJIのOsmo Pocketシリーズ。
現在では旅行やVlogはもちろん、取材やイベント撮影、撮影業務の現場などでも見かけることが珍しくなくなった。しかし、初代Osmo Pocketが登場した2018年当時、この製品は決して「王道のカメラ」ではなかった。
むしろ「面白いガジェットではあるが、本格的なカメラとしてはどうなのか」と見る人も少なくなかった。それがなぜ、ここまで多くのユーザーに支持されるシリーズへと成長したのだろうか。
実は、Osmo Pocketシリーズの歴史は、単にスペックが進化してきたわけではなく、この8年間における動画制作文化の変化と重なっている。本記事では、初代Osmo Pocketから最新モデルまでを振り返りながら、その進化の歴史と人気の理由を探ってみたい。
歴代Osmo Pocketシリーズ比較表
| モデル | 発売日 | センサー | レンズ(35mm判換算) | 主な進化・特徴 |
| Osmo Pocket | 2018年12月15日 | 1/2.3型 | 26mm F2.0 | 世界初をうたう本格的ポケットサイズ3軸ジンバルカメラ。4K/60p、ActiveTrack、Motionlapse搭載。 |
| DJI Pocket 2 | 2020年10月20日 | 1/1.7型 | 20mm F1.8 | センサー大型化、広角化、4マイク搭載、CreatorコンボでVlog向け機能を強化。 |
| Osmo Pocket 3 | 2023年10月25日 | 1型 | 20mm F2.0 | 1型センサー、回転ディスプレイ、4K/120p、D-Log M、DJI Mic 2対応でシリーズ最大の進化。 |
| Osmo Pocket 4 | 2026年4月22日 | 1型 | 20mm F2.0 | 画質やトラッキング性能、操作性をブラッシュアップ。シリーズの完成度をさらに高めた定番モデル。 |
| Osmo Pocket 4P | 2026年6月29日 | 1型(広角) / 1/1.28型(中望遠) | 20mm F2.0 / 60mm F1.8 | シリーズ初の中望遠カメラを搭載。撮影表現の幅を広げ、よりクリエイティブな映像制作に対応。 |
初代Osmo Pocketがもたらした衝撃
2018年、DJIはシリーズの初号機となるOsmo Pocketを発表した。
当時の動画撮影環境を振り返ると、手振れを抑えながら高品質な映像を撮るには大きく分けて二つの選択肢があった。ひとつはミラーレス一眼カメラや一眼レフにジンバルを組み合わせる方法。もうひとつはアクションカメラを使う方法だ。
ただし前者は機材が大きく重くなりやすく、後者は携帯性に優れる一方で、映像表現には限界があった。そんな中で登場したのがOsmo Pocketだった。
手のひらに収まるサイズのボディに3軸ジンバルを搭載し、誰でも簡単に滑らかな映像を撮影できるというコンセプトは、多くのユーザーに衝撃を与えた。
画質そのものでは大型センサー搭載カメラに及ばなかったものの、「ポケットから取り出してすぐに本格カメラ機材のような映像が撮れる」という体験は、それまでのカメラにはない魅力だった。
DJI Pocket 2で「実用的なVlogカメラ」へ
2020年に登場したDJI Pocket 2は、一見すると外観の変化が少なく初代のマイナーチェンジにも見える。しかし実際には、シリーズの方向性を決定づけた重要なモデルだった。
センサーは1/2.3型から1/1.7型へ大型化され、レンズは26mmから20mm相当の広角化を実現。さらに4マイクシステムを搭載し、音声収録性能も大きく改善された。
特に広角化の恩恵は大きい。初代Osmo Pocketでは、ジンバルらしいダイナミックなカメラワークを実現するには画角が狭く、また自撮り時にも窮屈さを感じる場面も少なくなかった。Pocket 2では画角が広がったことで使い勝手は大きく向上した。
また「Creatorコンボ」によるアクセサリー類とのセット販売も特徴的だった。ワイヤレスマイクや各種アタッチメントを組み合わせることで、単なる小型カメラではなく「ひとりで撮影・収録・発信ができるシステム」へと進化したのである。
コロナ禍によって個人の動画発信がさらに広がった時代背景もあり、Pocket 2はVlogger向けカメラとして確固たる地位を築いていった。カメラに関心を持たない一般層にも認知が広がることとなった。
筆者も当時DJI Pocket 2を使って、その映像体験に驚いた。ミラーレス一眼とジンバルの組み合わせよりも遥かに気軽で、スマホで撮るよりも明らかに高画質で豊かな映像表現力を持つ。「荷物を減らして旅の動画を記録するなら最も魅力的なカメラになる」と感じたことを覚えている。
今回の記事の執筆にあたって改めてDJI Pocket 2を使ってみると、最近のOsmo Pocketシリーズと比べると、機能や操作の面で大きく異なることに気づいた。
例えば、面白い特徴として、電源を入れるボタンによって、起動時のカメラの向きが異なる。側面の電源ボタンではセルフィー向きで起動し、ファンクションボタンでは前方を向いて起動するようになっている。その後のOsmo Pocketが前方での起動を原則としていることを鑑みると、Pocket 2は自撮りのニーズをより色濃く反映した設計だ。
また、ジンバルモードをボタンで変更できるようになっていたり、チルト角度を手動で調整できる仕様になっているなど、その後のOsmo Pocketシリーズと比べて、ジンバル制御に対する設計の違いが目立つ。
シリーズ最大の転換点となったOsmo Pocket 3
Osmo Pocketシリーズの歴史を語るうえで、最も重要なモデルを挙げるなら、多くの人がOsmo Pocket 3を選ぶだろう。2023年に登場したPocket 3は、それまでのシリーズとは別次元とも言える進化を遂げた。
まず目を引く特徴は1型センサーの採用だ。これによって暗所性能やダイナミックレンジが大幅に向上し、従来の「小型カメラらしい画質」というイメージを大きく覆した。 さらに2型の回転式タッチディスプレイを搭載したことも大きな変化だった。モニターを回転させてカメラを起動させるという仕組みが視覚的にも面白く、Osmo Pocketを象徴する特徴のひとつとなった。
ワイヤレスマイク「DJI Mic 2」との連携も使いやすく、DJIのことを知らなくてもなんとなくマイクを見て知っているという人も増えた。現在では「エコシステム」などと呼ばれるように、DJIの豊富なアクセサリー群は、多くの人がDJIのカメラを選ぶ理由のひとつとなっている。
筆者もOsmo Pocket 3を使ってみて、その画質はさることながら、総合的な撮影体験が非常に快適であることに感銘を受けた。難しい操作をすることなく安定した映像を撮れるジンバル性能や、電源を入れるだけですぐに連携されるワイヤレスマイクなど、手軽なのに収録できる映像や音声のクオリティが高く、すっかりこのカメラに魅了されてしまった。
ディスプレイを回転させるだけで縦動画と横動画を切り替えられるため、ショート動画制作にも対応しやすくなった。振り返れば、Pocket 3はその流れを的確に捉えた製品だった。Pocket 3は単に性能を向上させただけでなく、動画制作環境そのものの変化に合わせて進化したモデルだったと言えるだろう。
その結果、Pocketシリーズは「サブカメラ」や「旅行用カメラ」という立場から、「メインカメラとして使えるカメラ」へと評価を変えていった。DJIを代表するヒット商品と言えるだろう。
Osmo Pocket 4でシリーズは「完成形」から次のステージへ
Pocket 3はシリーズ最大の転換点となるモデルだったが、その一方でOsmo Pocket 4は「完成した製品をさらに磨き上げたモデル」という印象が強い。
基本的なコンセプトはPocket 3から受け継ぎながら、画質やトラッキング性能を向上させ、さらに内蔵ストレージの搭載や高速データ通信によりワークフローをブラッシュアップ。すでに完成度の高かった小型ジンバルカメラを、より快適に使えるよう進化させている。
実際にOsmo Pocket 4を使ってみて気に入ったのは「使いやすさ」だ。Pocket 3の時点でも十分完成度は高かったが、新たに「ズームボタン」と「カスタムボタン」が追加されたことで、操作性はさらに向上している。
例えば、これまでジョイスティックがズームの役割も兼ねていたが、ズームボタンを使えるようになったことで役割を分担できて操作性が明快になった。またカスタムボタンに好きな機能を割り当てられるようになったことで、これまでスティックの押し込みでしかできなかった「ジンバルロック」にボタンでアクセスできるようになった。
さらに、USB-C(ユーエスビー・シー)接続でパソコンにデータを転送する速度が大幅に上がったことで、その恩恵を強く感じた。正直なところ、Pocket 3ではUSB-C接続の通信速度は実用に耐えず、いつもmicroSD(マイクロエスディー)カードを取り出してカードリーダーを使ってデータを取り込んでいた。
Pocket 4ではそうした手間がなくなり、ケーブル1本で動画や写真を高速コピーしてすぐに編集作業にとりかかれるようになった。Pocket 4では、こういったかゆいところにまで手が届く進化が随所に見られる。
さらに注目したいのが、上位モデルとして登場したOsmo Pocket 4Pだ。シリーズで初めて中望遠カメラを搭載したことで、単眼だったPocketシリーズに新たな表現の幅をもたらした。
これまでのPocketシリーズは「広角で気軽に撮る」ことが得意なカメラだったが、4Pでは人物を自然な遠近感で切り取ったり、背景を整理した構図で撮影したりと、作品づくりの自由度は大きく向上している。
これまでは、あくまで「広角専用」として割り切っていたジンバルカメラに「望遠」という選択肢が加わったことで、より万能なカメラになった。例えば、これまで旅行用のカメラを持っていくときには、望遠用のカメラも追加で持っていくことがあったが、4Pなら一台で済ませられるので荷物を軽量化できる。
また、D-LogやDJI公称で最大17ストップのダイナミックレンジを誇るD-Log2など、Log撮影に本格対応。カラーグレーディングを前提とした制作フローにも組み込みやすく、初心者だけでなく上級ユーザーからも支持を集めている。単なる画質向上ではなく、「撮れる映像の幅」を広げたことが4P最大の進化と言えるだろう。
「新しいガジェット」から「定番機材」へ。競合が現れても揺るがない理由
初代Osmo Pocketが登場した当時、多くの人は「面白い製品」として受け止めていた。しかし、現在ではその評価は大きく変わった。Pocket 4やPocket 4Pに対するレビューを見ても、「定番ジンバルカメラの最新モデル」という評価が目立つ。つまり、「ジンバルカメラならOsmo Pocket」というブランドイメージがすでに確立されているのだ。
これは歴代モデルを通じて積み重ねてきた信頼の結果とも言える。Pocket 3で完成度を大きく高め、その評価が市場全体に浸透したことで、最新モデルは安心して選べる定番製品として受け入れられている。
近年は、競合メーカーも小型ジンバルカメラ市場へ参入し、選択肢は少しずつ増えてきた。しかし、それでもDJIが高い人気を維持している背景には、スペックだけではない強みがある。
例えば、
- 長年培われたアプリやソフトウェア
- 修理・サポート体制
- 純正だけでなくサードパーティー製も含む豊富なアクセサリー
など、シリーズを通して築かれてきたエコシステムの存在は大きい。
映像制作の現場でもDJI製品に慣れたユーザーは多く、ドローンやジンバルを含めてDJI製品を使っているクリエイターは少なくない。そのためPocketシリーズも導入しやすく、仕事道具として選ばれる理由のひとつになっている。
4世代・約8年にわたって改良が積み重ねられたことで、「ジンバルカメラならOsmo Pocket」という安心感がユーザーの間に浸透した。現在は競合製品が登場しても、その安心感自体がDJIの大きな強みになっている。 これから競合製品が増えていくとしても、この8年間で築いてきたブランド力やユーザー基盤は、DJIにとって大きなアドバンテージになり続けるだろう。
尾田章|プロフィール
カメラのある日常の楽しさを発信する"くらしフォトグラファー"。カメラ機材の使い方、写真の撮り方などをYouTube、運営ブログ「KOBE FINDER」にて"Aki"として初心者にもわかりやすく解説。