北陸放送機器展2026のA-02、オーディオ/アクセサリー部門に出展したシュア・ジャパン株式会社のブースを訪れた。今回の展示で「ほぼこれ一本」と担当者が紹介したのが、放送用マイクロホンアレイ「DCA901」である。

シュアの放送用マイクロホンアレイ「DCA901」。1台のコンパクトなアレイから最大8chの独立した音声を収音できる

一見すると、細長い1台のマイクである。しかし説明を聞き始めると、一般的なマイクとは考え方がかなり違うことが分かってきた。DCA901は1台のコンパクトなデジタルアレイから最大8chの独立した音声を収音でき、指向性を調整できるローブによって、必要な場所に収音範囲を設定できる。

担当者はその仕組みを、「中に8本のガンマイクが入っているようなイメージ」と説明した。もちろん、実際に8本のガンマイクを内蔵しているという意味ではない。1台のマイクロホンアレイから最大8つのローブを作り、それぞれの収音範囲をソフトウェア上で設定する仕組みだ。

1台のマイクから最大8つの「狙い」を作る

ブースの設定画面を見ると、その仕組みが分かりやすい。DCA901を起点として複数のローブが伸び、それぞれ異なる場所に収音範囲が設定されていた。マイクを何本も並べるのではなく、1台のマイクから複数の収音エリアを作るという考え方である。

DCA901のピックアップゾーン設定画面。上面図と正面図を確認しながら、ローブの位置や向き、幅などを調整して収音範囲を設定できる

ローブはPC上から調整できるため、物理的にマイクの位置を変えなくても収音ポイントを変更できる。さらに内蔵DSPでEQ、コンプレッション、ディレイ、オートミックスを処理でき、最大8chの音声をそれぞれ扱いながら、必要な音声処理までDCA901側で行える。

DCA901のチャンネル設定画面。最大8chの各チャンネルを個別に確認・調整でき、内蔵DSPによるオートミックスなどの音声処理にも対応する

配線もシンプルだ。DanteまたはAES67の接続1本で、音声、電源、制御信号をまとめて伝送できる。複数のマイクとケーブルを配置する構成に比べて機材や配線を減らせるため、セットアップや撤収の簡素化につながる。DCA901は、収音だけでなく、その前後を含めたワークフローを整理することまで考えられた製品である。

バスケットコートを「音のエリア」に分ける

では、この複数のローブを実際の中継でどう使うのか。取材中に具体例として出てきたのがバスケットボールだった。

例えばゴール付近にDCA901を設置し、コート上の複数のエリアへローブを向ける。選手が動き続けるコート全体を一つの大きな音として拾うのではなく、拾いたい場所を複数の収音エリアとして設定する考え方だ。

ここまで聞くと、先ほど設定画面で見た複数のローブの意味が見えてくる。画面上の図は単にマイクの指向性を示しているのではなく、広い競技空間の「どこの音を拾うか」を設計するためのものだった。

スポーツ中継では選手やボールが絶えず移動し、その周囲には観客席や場内PAなどさまざまな音が存在する。必要な場所へローブを向け、それぞれを独立した音声として扱えるDCA901の仕組みは、こうした広い競技空間での収音方法を考えるうえで分かりやすい。

映像の「画角」を決めるように、音を狙う

取材前は、1台のマイクで広い範囲を収音する製品なのだろうと考えていた。しかし実際に設定画面を見ながら説明を聞くと、印象は少し違った。DCA901のポイントは、単に広く音を拾うことではなく、「どこの音を拾うか」を複数のローブで設定できることにある。

カメラであれば、レンズを向け、画角を決めて撮りたい場所を切り取る。DCA901の設定画面を見ていると、それに近い感覚で収音する場所を決めているように見えてくる。いわば、1台のマイクから複数の「音の画角」を作っていくイメージだ。

放送機器展ではカメラや映像処理の進化に目が向きやすい。その中でDCA901を実際に見て印象に残ったのは、マイクそのものの形状や本数ではなく、収音する場所をソフトウェア上で設計するという発想だった。

最初に目にしたのは1台のマイクだったが、説明を聞き終える頃には、その周囲に複数の収音エリアを配置する姿が見えてくる。シュア・ジャパンの展示は、マイクを「何本置くか」だけではなく、「どこの音を狙うか」から収音を考えるDCA901の特徴が伝わるものだった。