北陸放送機器展2026の開催初日、会場で少し異色のセミナーが行われた。登壇したのは、元クリエイターで衆議院議員の古井康介氏。「クリエイター×政治の視点で語るAI/DXの未来」と題し、クリエイターとしての現場の視点と、国会議員としてのマクロな視点の両方から、AIやDXによって変わる働き方や社会について語るセッションである。
カメラ、レンズ、照明、音響、ネットワーク機器などが並ぶ放送機器展で、「クリエイター×政治」という組み合わせは目を引いた。しかも登壇者自身が、映像やデザインの制作に携わってきた国会議員だという。セミナー終了後、古井氏本人に話を聞いた。
そこで見えてきたのは、AIやDXというテクノロジーだけではなかった。クリエイターとして現場にいた経験が、現在の政治や政策を見る視点にどうつながっているのか。話は次第に、クリエイターと政治の距離そのものへと広がっていった。
クリエイターと国会議員、二つの視点を持つ
古井氏は現在、衆議院議員として活動しているが、もともとはクリエイティブの現場にいた人物である。本人によれば、Adobe PremiereやAfter Effectsなどを使い、自らデザインや動画制作に取り組んできたという。
今回のセミナーでは、そうしたクリエイターとしての現場経験と、国会議員として政策や社会全体を見る立場を組み合わせ、AIやDXの現在とこれからを考えることがテーマとなった。
取材で古井氏に今回のセミナーについて尋ねると、自身がクリエイター出身で国会議員になったという経歴を紹介しながら、コンテンツやクリエイター業界に関わる人が利用できる制度や、新しい政策についても紹介したと振り返った。
AIやDXによって制作手法や働き方が変わっていく一方で、クリエイターを取り巻く環境はテクノロジーだけで決まるものではない。制度や政策もまた、その環境を構成する一つの要素である。セミナー終了後の話を聞いていると、「クリエイター×政治」というテーマが、次第に具体的なものとして見えてきた。
制作する側から、制度をつくる側へ
では、クリエイティブの現場にいた古井氏は、なぜ政治の世界へ進んだのか。その背景を尋ねると、自身の経験に話が及んだ。
古井氏は、経済的に余裕のない家庭で育つ中、兄弟3人が奨学金と出会ったことで進学への道が開けたと振り返る。その経験から、政策や制度が必要とする人に届けば、その人の選択肢を広げることができると考えるようになったという。
その後、政策や行政の情報を発信する会社を立ち上げ、広報に携わった。しかし、さまざまな制度を調べて発信する中で、情報を分かりやすく伝えるだけでは解決できない課題にも気付いたという。「もっと使いやすい制度にできないか」。そう考えるようになったことが、制度そのものをつくる政治の側へ進むきっかけになったと説明する。
映像制作であれば、使いにくい機材やソフトウェアに出会ったとき、別の方法を考えたり、メーカーへ改善を求めたりすることがある。古井氏の話を聞いていると、その対象が政策や制度へ広がったようにも見える。クリエイターとして「使う側」にいた経験と、現在の「制度を考える側」という立場が、一つの線でつながっていた。
「政治は使ってなんぼ」――現場から声を届ける
最後に、クリエイターが集まる北陸放送機器展だからこそ聞いてみたかった。これからクリエイターと政治をどのようにつないでいきたいのか。
そこで古井氏が口にしたのが、「政治って、使ってなんぼだと思うんですよ」という言葉だった。
クリエイターが業界やコンテンツについて感じている課題があれば、その声を政治家に届けてほしい。国の動きを待つだけではなく、現場から声を届けることで政策が動いていく部分がある。政治家や政治を使いこなしてほしい。
古井氏が説明していたのは、単に政治への関心を求めるという話ではない。代議士は人々に代わって議論する存在であり、クリエイターが現場で感じている課題や、変えてほしいこと、守ってほしいことを伝えることで、それを議論へ持っていくことができるという考え方である。
北陸放送機器展では、新しいカメラや照明、音響機器、ネットワーク技術を見ながら、「これを現場でどう使うのか」を考える。その会場で、AIやDX、さらには政策や制度についても「クリエイター側からどう向き合い、どう使うのか」という話を聞くことになったのは興味深かった。
AIやDXによって制作現場が変われば、クリエイターの働き方も変わる。その変化を技術だけから見るのではなく、制度や政策を含めて考える。元クリエイターと国会議員という二つの視点を持つ古井氏への取材は、北陸放送機器展をいつもとは少し違う角度から見る時間になった。