txt:石川幸宏 構成:編集部

ARRI祭の撮影関係ゲストスピーカーのもう一人の主役として、会期3日間を通じて河津氏とともに登壇した山田康介氏。「シン・ゴジラ」(2016)で、日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞して以降、今の日本映画撮影を支える存在として映画ドラマを中心に各分野でも活躍している。また東宝の撮影部時代には、あの木村大作氏の作品にも撮影助手で参加するなど、経験も豊富だ。

2021年初頭にARRI ALEXA 65で撮影された、WOWOWの4K放送開始の記念番組「4K HEALING 41°-45°north latitude」の裏側などを中心にお話をお聞きした。

山田康介:撮影監督
1976年 福岡県久留米市生まれ。 東宝入社後、撮影部として数多くの作品に参加。木村大作氏(撮影技師・文化功労者)の「赤い月」「単騎、千里を走る。」「憑神」「劒岳ー点の記」などの撮影現場にも撮影助手として参加後に、カメラマンとしでデビュー。「神様のカルテ2」(2014)で第58回三浦賞を受賞。大ヒット作品「シン・ゴジラ」(2016)では日本アカデミー賞 最優秀撮影賞を受賞。2020年にはWOWOWの4K/HDR番組「4K HEALING 41°-45°north latitude」では、日本初のALEXA 65による番組撮影に挑む。

ALEXA 65で撮影した「4K HEALING 41°-45°north latitude」について

山田氏:WOWOWの4K放送開局を記念した番組として、いわゆるフィラー番組という、番組と番組の間を埋めるような作品の撮影オファーを頂きました。2020年末から2021年の初頭にかけて、ちょうど北海道で別番組(TEAM NACS 25周年記念番組・WOWOW開局30周年記念番組 WOWOWオリジナル「がんばれ!TEAM NACS」)の撮影をALEXA Mini LFで撮影予定だったのです。

それが年跨ぎのスケジュールとなっており、一度東京に帰ってくるスケジュールでした。だったらそのまま北海道で撮影した方がいいなと思い、またせっかく北海道の大自然で4Kを撮るなら、これまでとは違ったアプローチをしたいと思いました。

4K放送にあたっての最高の画質とは何だろう?と考えた時、やはりALEXA 65だと思いました。日本の映画・ドラマ等ではまだ誰も使ったことがなかったですし、これはチャレンジする価値があるなと思い、プロデューサーに打診して、ALEXA 65で撮影できるようになりました。

ALEXA 65

これまでに日本では、海外のDPが来てCMとかでは撮影されていたようですが、番組としてのALEXA 65作品としては日本初になります。5年前に国内お披露目があリましたが、海外ではすでに「JOKER」や、韓国でも「パラサイト」など、アカデミー賞作品がどんどん撮られています。

もちろんレンタル費用もかなり掛かりますが日本ではまだ誰も撮ったことがない!なんて悔しいじゃないですか?そんな中で僕もずっとALEXA 65で撮ってみたいと思い続けて来たので、それがようやく叶ったという感じです。

――具体的にどのような撮影でしたか?

自然の風景を撮ったドキュメンタリー作品なので、(ロケ地は)北海道全般でいいところを撮りたいなと思い、やはり土地勘のある場所にしようと思いました。富良野~美瑛周辺と道東の釧路を中心に撮影しています。

でも正月の2週間程度という限られた時間内ではなかなか天候が厳しく、道東は晴れているけど冬の北海道でも雪がなかったり、富良野は雪はあるけどなかなか晴れなかったりと、かなり毎日天気の様子を伺いながらの撮影でした。

それでも撮れ高としては充分撮れたと思います。番組自体は、全体で45分の番組で、そこからフィラー用に25分、13分、8分、3分と編集でバージョン違いが出来上がりました。

――実際にALEXA 65で撮った映像はいかがでしたか?

実際撮影でファインダーを覗いた時よりも、むしろポストプロダクションで4K/HDRのモニターで見た時に本当に感動しました。今まで自分で撮ったもので、うわー!って思ったことはめったにないのです。しかしALEXA 65の画に関しては本当に自分の撮影フッテージを見て感動したんですよね。映像の奥行きというか、解像度もさることながら、ALEXA 65の持つパースペクティブの正しさとか、それらが映像にちゃんと表現されていました。

Prime DNA for 65mm

レンズは今回、ARRIレンタルの「Prime DNA for 65mm」を使用しました。ヴィンテージ仕様のレンズで、現代のシャープなレンズとは違い、オールドレンズっぽいボケ方でちょっとまた雰囲気の違ったニュアンスが出るレンズなので、これがALEXA 65自体の高性能のセンサーと組み合わさることでドラマチックな画になるというか、ストーリーを感じさせる映画の情感を持ったような画が撮れました。

最近の新製品のシャープなレンズを使って、高解像度バキバキで撮るのはちょっと感情が載らないですし、今回の作品ではちょっと違うなと思いました。もっとドラマを感じるような画にしたいなと思ったのでPrime DNAを使いました。

よくALEXA 65の映像は人間の見た目に近いと言われますが、本当にそうだなと感じました。特にワイドレンズを使ったときの、パッと開いて撮ったときに、円形に感じていた背景がグッと手前にきた感じですかね?そこがラージセンサーの良さかなと思いました。僕は他にこういう画を見たことがなかったので、これを知ってしまうとちょっと元に戻れなくなるというか(笑)、あのワイド感の魅力は他では出ないと思いました。

今回は自然を撮りましたが、やはり次は人を撮ってみたい、芝居を撮ってみたいと思いました。新しいカメラに触れてそういう感覚になるのも僕の中ではなかなかなかった感覚で、新しい発見でした。

――ALEXA 65が、他のシネマカメラと大きく違うところはなんでしょうか?

まさにフィルムの感覚に近いと思います。それは画質の話ではなくて、撮り方の感覚というか。フィルムも現像するまでは、その仕上がり状態は見えないですよね。例えば(完成前までの)現場で見ることができるのはビジコンの映像や、キーコードテレシネしたビデオの映像のみです。

それを見続けた最後にフィルムに焼き付けたものを映写機で投影して見た時に、初めて撮れていた映像が見れて、おお凄いなと感じます。それまではあくまで脳内でこの画はこういうものになると想像しながら、フィルムカメラを回していた時代がありました。

ALEXA 65もファインダーから見える情報よりも、実際はものすごく多くの情報量を持っているので、それを4K/HDRのモニターで見た時に、その情報量が初めて目に見えるので、撮ってる時の感覚と、最終的に見た時にそれを超えてくるものが映っていた時の感動が、フィルムに通ずるものがあるなと感じました。

ALEXA 65はとてもシンプルですし、操作もALEXAの延長線上なのでなんら難しいことはありません。それであの映像が撮れるわけですから、世界中のDPが使いたくなるのもわかりますね。

ARRI祭に参加した感想

本当に良いイベントでした。ARRI Japanが出来て改めてご挨拶を受けた時、今回のARRI祭みたいなことを考えてるという話はお聞きしてたんですが、元々この時期に次回作のクランクインも控えており、参加できない予定でした。

しかし、スケジュールがずれ、河津太郎さんからも一緒に出て欲しいというお誘いを受けて参加しました。

せっかくALEXA 65で撮った作品もありますので、そのことを皆さんと共有したかったですし、なかなかラージセンサーで撮ることに二の足を踏んでいる方もいらっしゃると思い、その点についても今回の経験からアドバイス出来ればいいなと思っていました。

京都・太秦のスタッフの方は本当に優しい人ばかりで、現場でもよく動いて下さる方ばかりなので、そういう方とこういったイベントをご一緒できたのもよかったです。杉本(崇)さんとは、「憑神」(撮影:木村大作)で助手時代に一緒にやらせて頂いた以来だったのですが、久々にご一緒できて嬉しかったです。

山田康介氏と河津太郎とのセッション

河津太郎さんとの2日目のトークセッションでは、内容は特に決めてませんでしたが、せっかくなので撮影監督システムについて話して頂きたいと思いました。ちょうど照明の日だったので照明部の方も多くいらっしゃっていたので、やはり皆さん気になっていたでしょうし、僕個人としてもその話が聞けたのがとても良かったです。

僕はやはり撮影監督ではなくて、あくまで撮影ですから撮影スタイルも違います。しかもこれからはもう出ないであろう、撮影所出身の最後のカメラマンなので絶滅危惧種なんて言われています(笑)。でも今回ARRI祭で、河津さんや皆さんと一緒にお話しできたのは貴重な機会だったと思います。

皆やり方や素性は違っていても、やはり目指しているところは同じで、いい作品、いい映像を撮るということです。方法論は100人カメラマンがいれば、100人違うということですよね。トークセッションでの浜田毅さん(JSC理事長)のお言葉にも響きました。「こういう場を介して、この業界の様々な人たちが交流を経て分かり合えることが大切」とこの言葉、僕は素敵だなと思いました。

特にこの一年はコロナ禍ということもあり、なかなか横の繋がりが持てる機会がなかったので、カメラマンや照明部とも色々意見が交換できました。僕も本当に沢山の刺激をもらって、さらにこれからまた色々な挑戦をしたいと思いました。

txt:石川幸宏 構成:編集部


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