(写真中央)ヒビノ株式会社 取締役常務執行役員 芋川淳一氏、(左)菊地茂則氏、(右)東田高典氏

大型コンサートやイベントでの映像、音響の分野で大きなシェアを誇るヒビノ株式会社が、In-Camera VFXスタジオ「Hibino VFX Studio」のサービス提供を開始して4ヶ月が過ぎた。PRONEWSではサービス開始前の5月に取材を行ったが、その後のスタジオの取り組みや機材のアップデート、Hibino VFX Studioの強み、そして日本国内でのIn-Camera VFXスタジオそのものの展望などについてお話を伺った。

スタジオオープン後の反響

――7月のオープンに先立ち、6月にオープンハウスを開催されました。反響などはいかがですか?

芋川氏:

2021年6月2~4日にオープンハウスを開催しました。地上波、ストリーミングサービス、ビデオプロダクションなど様々な業種の方々にご来場頂きました。前回の記事を読んで当スタジオに興味を持ち、お問い合わせ頂いた方々も多かったのではと考えています。
オープンハウスでは、In-Camera VFXを取り入れた、皆様が納得できるクオリティの作品を作り上げたいと考えました。全てインハウスで提供するのではなく、業界で多くの経験を持つ会社様を迎えて作品を作りたいと考え、前回取材いただいたChapter9の小林基己氏に撮影監督及び全体の監修をお願いしまして、3D背景の制作をデジタル・フロンティア様、美術をサンク・アール様、照明をTOKYO GRIP様にご担当頂きました。
おかげさまでYouTubeでも多くの再生を頂きましたし、直々に多くの方々から驚きのコメントも頂き、非常に大きな反響を頂きました。制作にご協力頂いた皆様のお力によって非常に良い作品ができあがったと思っております。
PRONEWSに記事が掲載され、その後に開催したオープンハウスの成功もあり、それ以降バーチャルプロダクションの記事を目にする機会も増えた印象をもっています。このテクノロジーに対する皆さんの注目度の高さを実感しつつ、業界に向けて一定の刺激というか影響を与えられたのではと思っています。

オープンハウスの様子

スタジオ設備をアップデート。要望に応えた進化点とは

――オープンハウス開催後にスタジオ設備をアップデートされたと伺いました

東田氏:

オープンハウスや、その後の撮影を通して様々なご意見を頂いたり現場での気づきもあり、いくつか改良点があります。
1つ目は、3D背景を投影する正面のLEDディスプレイRuby 1.5Fを1パネル50cm追加し高さが増しました。同時に天井の環境光用LED Carbon5の吊り位置も上げステージは4.5mのクリアランスを確保する事ができました。そして天井のLEDを少し手前に移動させて、正面のLEDとのスペースを空けて照明を設置できるようにしました。環境光用LEDのみですとどうしても柔らかいライティングになりがちなので、太陽光の表現などより強い照明をセット奥の天井側から演者さんにあてたいというご要望に対応しました。

3D背景を投影する正面のLEDディスプレイ「Ruby 1.5F」はオープン当時の400cmから450cmへ高さが変更された

東田氏:

2つ目は両サイドに設置している2面の環境光用LEDをライザーに設置して自由に場所、角度を変更できるようにしました。演者さんの正面にまで回り込ませて配置するなど、設置場所の変更も短時間で可能になります。

環境光用LED「Carbon5」がライザー(キャスター付き)に設置され、演者へのフォロー効率が向上

東田氏:

3つ目はスタジオ内でスモークの使用が可能になりましたのでより幅広い演出に対応できるようになりました。
4つ目はサーバーなどのマシン群をスタジオの外に移動しました。これによってスタジオ内の静音を確保できたと思います。

スタジオの外に移動したサーバーなどのマシン群

複数マシンでのレンダリングで負荷分散-Cluster Rendering

東田氏:

背景に表示させる3Dアセットをレンダリングしているメディアサーバーを、rxからGPUにNVIDIA A6000を使用するrxIIにアップデートし、さらにインナーフラスタム(カメラが撮影しているエリア)でrxIIを2台、アウターフラスタム(外側の環境光や映り込み用の映像)でrxIIを3台使用しています。また、LEDプロセッサーへのアウトプット等全体のコントロールを担っているメディアサーバーvx4とrxIIとの間を100Gで繋いでいます。
初期はインナー、アウターそれぞれをrx 1台ずつで処理してましたが、それぞれを複数マシンで負荷分散させることで処理能力を高め、より複雑なアセットに対応できるようになりました。このCluster Renderingは世界的にみても弊社が先陣を切って採用し、安定した運用を実現しています。
以前の環境ですと、クリエイターが凝った3Dシーンを作ってもその世界をリアルタイムでスムーズに動かすことが難しい場合もあり、どの部分のクオリティは残し、どの部分を削るのかといった調整が必要になることもありました。Cluster Renderingが可能になったことで、クリエイターの要望に対してより妥協しない、高いクオリティレベルでお応えできると考えています。

Cluster Renderingは安定した動作を実現
(アウターフラスタム rxII×3台(モニター画面左)、インナーフラスタム rxII×2台(モニター画面右)

――オープンハウス以降の事例について教えてください

菊地氏:

Hibino VFX StudioでCMをいくつか撮影しています。HADA NATUREのCM「生まれ変わり篇」、「毎日ヘッドスパ篇」では、浜辺の表現としてアクティブエリアにプールを設置して水をオーバーフローさせて水面を撮るということをやりました。
外部スタジオでの撮影ですと、マルチアーティストVaundyさんの「泣き地蔵」のミュージックビデオを、Media Gardenさんのスタジオにシステムを持ち込んで撮影しました。LEDのサイズはHibino VFX Studioとほぼ同等です。こちらのケースでは早い段階からHibino VFX Studioで何度かテストを繰り返した後に実際の撮影に臨みました。搬入、準備に2日、撮影に2日というタイトスケジュールで、カット数が非常に多かったのですが、事前のテスト撮影でCG、照明、美術、カメラ、LEDなど全てのセクションが一緒に試行を重ねてワークフローを確立できたことや、ロケではなくバーチャルプロダクションでの撮影のおかげでこのスケジュールでも無事撮り終えたと思っています。
また、LEDの技術協力ということで、トヨタさんのカローラ クロスのCM「個性を駆け抜けて篇」では、東宝スタジオさんにて500mm幅のLEDを5°ずつ角度を付けて全体で300°、全長30mの範囲で囲み、天井も床もLEDで埋め尽くすというセットを設置しました。ご存知の通り弊社ではLEDを豊富に所有していますので、このような外部スタジオの撮影にも機材と技術を提供していきたいと考えています。

In-Camera VFXスタジオとしてのHibino VFX Studioの特長・強みとは?

――In-Camera VFXスタジオとして、Hibino VFX Studioの強みはどのような点でしょうか

北米のトレンドを忠実に再現

芋川氏:

Hibino VFX StudioではROE Visual社のLED、そしてdisguise社のメディアサーバーを使用しています。ROE Visual社はマンダロリアンのバーチャルプロダクションでの成功を機に今や北米で多くのバーチャルプロダクションで採用されていて業界のスタンダードと言えます。disguise社も北米で採用しているスタジオは多く、またエンターテインメント業界で勢いのある韓国でもバーチャルプロダクションの会社が増えていますが、そちらでもdisguise社の販売実績は年々上がっています。
当社は世界の有力メーカーであるこの2社と10年来の信頼関係とパートナーシップ体制があります。両社の実績を常にチェックすることでバーチャルプロダクションには現在何が必要なのか、何が最先端なのか、といったトレンドがわかります。弊社はそれぞれの本社と連携を密にすることで数多くの実績を参考にできますし、情報も受け取ることができます。そしてこちらからも得た知見や日本のお客様のニーズを伝えるなど、情報共有、コミュニケーションをとり合うことでお互いのクオリティを上げていくという非常に良い関係にあります。
また、Lux Machina社などを含むNEPグループとも直接のコンタクトを持っているので、こちらとも情報共有をしてお互いのレベルを上げていくという活動をしています。このような関係性は他社には無い大きなポイントだと思っています。
バーチャルプロダクションは現在北米主導で動いています。そのトレンドを上記のような関係各所との関係性なども含め忠実に国内で再現できているのがHibino VFX Studioです。スタジオ正面のLEDに角度をつけて湾曲した形で配置して没入感を効果的に出すことや環境光用のLEDを天井や、移動動可能なライザーに乗せて活用するといったスタジオセットは北米ではスタンダードなわけですが、例えば天井からLEDを真下に向けて吊り込む設置というのは安全性が要求される非常に難しい作業になります。弊社ではコンサート・イベントLED映像で長年に渡って培った実績、技術力があり、LEDの運用については設計からリギングを含む設置、オペレートまで全て自社で賄うことが可能です。このようなレベルでスタジオを構築できている会社は国内ではまだ少ないのではという印象です。
また、リアルタイム性を高めるCluster Renderingについては上述のように世界に先駆けて弊社で安定運用していますし、正面LEDとして1.56mmピッチという超高精細を誇るRuby 1.5Fを採用している場所もまだ聞きません。弊社はROE Visual社のLEDもdisugise社のメディアサーバーも以前から運用しており、コンサート・イベントで培った映像技術が土台にありました。バーチャルプロダクション構築についてはゼロから始める会社さんとはスタート地点が違います。世界レベルでみても最高のIn-Camera VFX環境を構築できる技術力も弊社の強みだと考えています。

リーズナブルな価格設定

芋川氏:

スタジオの使用料金につきましては、港区という立地、LEDディスプレイ等の付帯設備を考慮すると非常にリーズナブルな価格で提供しています。今はIn-Camera VFX 撮影を国内に広めていく段階でもありますし、Hibino VFX Studioを使ってまずはテスト撮影をして頂き、その後本番撮影が行われるスタジオで弊社LED、システムをご活用頂ければと考えています。

シネマカメラ、レンズの強化

芋川氏:

弊社の子会社で放送・映像制作用機器のレンタル業務を行っていたヒビノベスコが、10月1日よりヒビノ株式会社ヒビノビジュアル Div.の一部門「プロイメージングユニット」となりました。今後はARRI等のシネマカメラおよびレンズについてもサービスを強化していきます。

取材時にヒビノ社内のスカイラウンジで行われていた撮影のセット

――バーチャルプロダクションの今後の展望についてはいかがでしょうか

可能性は無限大

芋川氏:

コロナの影響で今はロケそのものが難しい状況です。バーチャルプロダクションは様々なロケシーンを再現できますし、刑務所、病院、滑走路、公共交通機関などロケが可能であっても限られた時間しか使えないようなシーンでも時間制限なく撮影できます。今後もアイデア次第で様々な可能性が生まれると考えています。

SDGs(持続可能な開発目標)という観点

芋川氏:

「つくる責任、つかう責任」という観点でいうと、LEDやバーチャルプロダクションによって再生利用可能な背景を提供していると考えています。今まで展示会などでは装飾された壁がブースを囲って設置され、会期後に全て破棄されてきましたが、現在は環境に配慮してLEDウォールに置き換える事例が増えてきました。テレビの番組でも美術セットにLEDを採用して対応するケースが増えていますし、バーチャルプロダクションでの撮影は、廃棄物の削減や、ロケを行わない、飛行機に乗らない、機材の移送をしないという観点では地球環境に優しい活動だと考えます。
弊社では現状シネマカメラも含めたハードウェアのご提供はできていますが、今後は3Dアセットの制作や照明、カラーグレーディングといったソフト面についてもパッケージとしてご提供できるようにしていきたいと考えています。
クライアントさんにも変化が生まれる事を期待しています。環境に考慮し、今年1年間のCMは全てバーチャルで行う。このような年間契約はコスト削減に繋がり、またクオリティを向上させます。そんなWinWinな関係を築けるよう営業活動して参ります。

取材時にHibino Sky Loungeで撮影されたLEDとxR技術を使ったデモ作品「LED Runway × xR」。Hibino VFX Studioでは、レインボーブリッジと臨海副都心のビル群が広がるこのロケーションを土日限定で撮影場所として提供中


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