35年も生きているせいで、並大抵の刺激では心が動かなくなってしまったのか。最近、映像が面白くない。面白い、の捉え方は好みにもよるのでさておき、公共のメディアで露出されるべきではない低レベルな作品が多すぎる。

MVは革新的な映像表現の実験の場といわれて久しいが、ドシロウトの下手なお遊戯を放置して良い場ではない。革新的な表現もフレッシュな感性もプロの仕事の裏打ちがあってこそ。プロ意識も品性も腕もない子供はイチから勉強し直しなさいよ!

と、愚痴っていたところ、久しぶりに刺激的なニュースが舞い込んだ。間違いなくプロの映像表現者であるELECROTNIKと長添雅嗣が、映像界の「最強」を掲げたクリエイティブ団体を旗揚げするとのこと! その名も『N・E・W(New Elecrotnik World)』! 

今回はこの2組の作品を紹介いたします。

RIZE「KAMI」 UNIVERSAL MUSIC

dir:ELECROTNIK

ELECROTNIK作品の魅力は、色彩溢れる濃密な空間演出。「KAMI」では、肌を様々な色に塗り分けたメンバーとカラフルな着ぐるみが登場。この着ぐるみはこのMVのために作られた架空の生物たちだが、 ELECROTNIKは今までも自らデザインした美術小道具やセットを立体化し、実写撮影している。同デザインはアニメーション化されることもある。つまり、イメージさえ固まれば、二次元化も三次元化も自由自在。今回は想像上の生物(妖怪?)に実態を与え、現実ではお目にかかれない RIZEと不思議生物の百鬼夜行を実現させた。

 それにしても不思議生物たち、なんと愛くるしい顔つきをしているんだ!

UZUMAKI feat.JESSE「 RUSH」avex

dir:ELECROTNIK

膨大な量のグラフィックとメンバーのパフォーマンスを、スピード感溢れるトラックに合わせて超高速合成。たたみ掛けて来る過密な画作りにも圧倒されるが、じっくり見ると、平面を立体的に重ねて空間に厚みをつけたり、実写カメラのアングルを細かく変えたりと、随所に繊細な仕事が成されている。既存素材を合成編集しただけのMVとは比較にもならない点は、前もって完成図を想定した上で撮影や作画に向かう思考力。計算ずくでここまで濃厚な空間を構築できるプロの手腕にこそ、圧倒されることうけあい。

Boom Boom Satellites「easy action」 Sony Music Associated Records

dir:長添雅嗣

以前は、teevee graphicsに所属していた長添雅嗣氏。独立した以降はMVにCMに引っ張りだこの人気ディレクターとして活躍している。Boom Boom Satellitesとは「 Kick it out」以降、数々のスタイリッシュなMVを生み出して来た。

「easy action」ではグロッシーなブラックをベースに、スローモーションの撮影素材とモーション・グラフィックスが入れ替わり立ち代わり登場させた。他のMV群とも共通しているシャープでシックなトーンは、Boom Boom Satellitesというアーティストの音楽性や存在感そのものを体現。一連のMVを見ると、フォーマルなスーツをものすごくオシャレに着崩して尚、TPOに反さない格好の良い大人の男を思い出すのは私だけ?

m-flo「SOUND BOY THRILLER feeeeeeeeeeat.LISA」 avex

dir:長添雅嗣

永子ママの今月のMVA大賞はこの作品よ。

筒型の謎の飛行物体が、なぜか頭にすっぽりはまってしまった少年とそのお友達を、手持ちカメラが追う。少年たちは街を失踪したりいきなりダンスを披露したり、謎の物体からは煙が出たり、触手が伸びたり、唐突かつ無茶苦茶な展開からは目が離せない。手持ちの臨場感も面白みを増長させている。

頭にかぶった物体は、実はジャケットデザインとリンクしている。作品では、Boom Boom Satellitesとは真逆のやんちゃボーイぶりを炸裂させているが、さりげなくジャケとのイメージリンクを企てる辺りが心憎い。

作風も違えば経歴も違う2組のタッグによる『N・E・W』には、互いを刺激し合い、高め合い、現代の映像表現のレベルを底上げする存在になってほしい。期待しています!

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。