txt:川田十夢(AR三兄弟)

映像とAR。その未来を考える

PRONEWSをご覧のみなさま、はじめまして。公私ともに長男、川田十夢です。僕のことをご存知ない方は、まずこの冒頭の自己紹介に違和感を持つでしょうね(計算です)。僕は普段、AR三兄弟という開発ユニットの「長男」をやっています。AR技術を使ったり使わなかったりしながら、メディアを拡張するのが主な仕事です。こないだ、ARをつかった作品の合計が100を越えました。このペースで十年続ければ、星新一のショートショートの記録をうっかり抜けるので、それまではがんばろうと思っています。

さて、今回のテーマは「映像について考える夏2011」。映像とAR、字面だけ見るとあんまり関係なさそうですが、そうでもありません。というか、映像の未来の一端は、AR三兄弟が担っていると言っても過言ではありません。その理由からまずはお話しましょう。

まず、上の映像をご覧ください。これは、AR三兄弟が2011年5月にシアタープロダクツとともに手掛けたARファッションショーの模様です。お客さんに郵送された部屋の間取り図にARマーカーが仕込んであって、それをWebカメラ越しに見てみると、手の平サイズのファッションショーが繰り広げられるという仕組みです。構造的にはさほど難しいことはしていません。ARマーカーという目印を根拠に、リアルタイムで映像を再配置し続けています。このデモ映像では、特にマーカーを動かしていませんでしたが、以下のように動かせば、その動きに映像もついてきます。

技術自体、さほど新しいものではなかったのですが。現実と物語の間を自由に行き来できる装置として、まさに現実を拡張するための表現として技術を使い始めたことが、AR三兄弟のエポックなところだったのだと思います(計算です)。

新しい映像のための温故知新

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SF映画といえば何を思い浮かべるでしょうか。トランスフォーマーでしょうか。スターウォーズでしょうか。戦国自衛隊?北京原人??ジュブナイル???(例を挙げるたびに恣意的になっているのは気のせいです)何にせよ、これからする話と比べると、新し過ぎます。実はうっかり100年以上も歴史のあるSF映画、今回紹介する本『魔術師と映画』は、この源流を作った魔術師たちのお話です。

100年前、魔術師(マジシャン)は娯楽の王様として君臨していました。多くのマジシャンは、マジック専門の劇場で公演をし、人々を驚嘆させていました。SF映画を世界で最初に撮ったのは、この娯楽の王様のうちの一人でした。名前をジョルジュ・メリエスといいます。『月世界旅行/”Le Voyage dans la Lune”(1902)』を撮った監督といえば、ご存知の方もいるのではないでしょうか。

この映画、いま観てもあまりその斬新さが伝わってこないかもですが、当時の観客はド肝を抜かれました。だって、映画が発明されたのが1895年ですからね。迫りくる鉄道の動画を見て、観客がビビって席から立ち上がってよけようとしてた時代ですから。物語構造を為していた映画自体、存在しなかったのですから。ここに宿る斬新は、予想を遥かに超えるものであったと思います。

さて、少しだけ話を現代に移しましょう。2011年7月、僕の元に「SF映画を撮らないか?」というオファーが舞い込みました。ショートショートムービーフェスティバルのゲスト監督として、SF映画を撮って欲しいとヨーロッパ企画主宰の上田誠に言われたのです。僕は、クリエイターとしての自覚とは別に、発明家としての自意識もうっかり持ち合わせているタイプの人間なので、SF映画を撮るに当たっていろいろと考えました。上記の本との出会いも、SF映画というジャンルそのものを刷新したいという気合いの現れだったのだと思います。(本を紹介してくれたマジシャン:高橋ヒロキに感謝!)

色々調べて思案した挙げ句、僕は「スクリーンの向こう側、つまり物語の登場人物と会話ができる装置」を発明しようと考えました。そして完成した作品が『プロトコル』です。きっとまたどこかで再演するし、言葉で説明してもディティール伝わらないので省きますが、この映画を鑑賞したお客さんは驚愕を隠せない様子でした。ゲスト審査員として、いとうせいこう氏や本広克行監督も同席していたのですが、「出品する場所を間違えている」「間違いなく、生まれて初めて観るタイプの映画だった」と、彼らなりの一流の賛辞をいただきました。上映会が終わったあと、興奮冷めやらぬ関係者は、この映画を「魔法みたいだった」と評してくれました。そもそもSF映画を発明したのが魔術師だったし、手品のトリックを考えるように映画の構造を作ったので嬉しかったです。

さて、また100年前に話を戻しましょう。ジョルジュ・メリエスは、魔術師として編み出してきたトリックの数々を、惜しげもなくスクリーンに収め、SF映画の基礎を作ってゆきます。が、皮肉にもこのことが、娯楽の王様であった魔術師の存在を引きずりおろすことになります。簡単にスクリーンで観られるようになった魔術は、希少価値の低いものになり、娯楽の王様の座は映画にとって替わられます。自分が発明した魔術をより多くの人に観てもらいたい、自分の仕事と仲間を守りたい。とても切ない結末です。

折角なので、最後に映画の紹介もしておきましょう。この魔術師の悲哀が、違った視点から描かれた良質なアニメーションです。2011年10月にDVDが出るらしいですが、こればかりは映画館で観た方がよさそう。最後まで魔法の存在を信じられる人と一緒に、是非。

川田十夢 Tom KAWADA

未来開発プロダクション ALTERNATIVE DESIGN++代表。自身が考案した開発ユニットAR三兄弟の長男としても活躍。テレビ・ラジオ・雑誌・広告など、メディアを駆使した大胆なマッシュアップ作品を展開している。「AR三兄弟の企画書」が日経BPより絶賛発売中。8/31ユニコーン「ZⅡ」発売、9/10 0.8秒と衝撃。とWombで共演するなど、音楽と映像の新しい可能性を拡げている。
http://alternativedesign.jp/
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Vol.03 [PRONEWS課題図書] Vol.05