Thunderboltの可能性

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コストパフォーマンスも抜群のZ10000。その機能はもはや業務レベルだ

最近Windowsユーザーの私がMacBook Proを購入した。その目的はズバリ、Thunderboltだ。実はこのThunderbolt、すでに知っている人も多いが、その転送速度が本当にすごい!特に映像の新世代のインターフェースとして大きな期待をかけられているのだ。HDのみならず3Dや4Kといった言葉が飛び交う中で、映像のやり取りは何かと「速度」が求められるようになったのだが、Thunderboltはその期待にズバリ応えてくれる。今回紹介したいのは3Dの映像収録の新しいワークフローで、是非とも参考にしていただきたく記事にした。使用するカメラはPanasonic HDC-Z10000。これをThunderboltにつないだUltraStudio 3DとPromise TechnologyのHDDを併用することでかなり効率的な3D収録が行えるのだ。

 

3Dカメラの代表機になるか?HDC-Z10000

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収録はMPEG-4 MVC。HDMI1.4による3D出力を持つ

注目のPanasonic HDC-Z10000は昨年12月に発売されたものだが、その3D表現力に大きな期待がかかると言っていいだろう。HDC-Z10000は民生用のラインナップとして位置づけられているが、その機能は正直、業務用レベルである。もちろんMPEG-4 MVC形式による収録であるため、高画質を追及するには工夫が強いられるのだが、従来のハンディタイプの中では群を抜いて「操作性」「機能」「立体感」、あらゆる面で高い能力を持っている。いくつかZ10000の魅力を具体的に箇条書きにしてみると

  1. 交差法によるコンバージェンス調整が可能
  2. ステレオベース42mm、最近点45mmの表現能力
  3. 新センサーによる高画質記録
  4. 充実した3Dガイド表示
  5. 3連リング・XLR入力など業務用としての操作性を追求

などが挙げられる。細かく記せば、SDカードがデュアルスロットでリレー記録やバックアップ記録などに対応していることや、強力な手ブレ補正がついていることなど、その魅力は枚挙に暇がない。スペックなどの詳細は公式のページを参照していただきたいのだが、業務機でもなしえない「全部入り」のカメラが民生機の価格で手に入れることができるという点が見逃せない。

 

機能・能力ともに◎

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ステレオベースは42mm。交差法による3D撮影が可能というのがすごい

まず注目に値するのが、(1)の交差法によるコンバージェンス調整が可能という点だ。これは初代の3DカメラAG-3DA1と同じ機構を搭載していると言えば、その価値をわかっていただけるだろう。本来ならばこの価格帯(MPEG-4 MVC収録)のカメラであればオーバースキャンによる平行ずらしの3D映像表現となるのだが、Z10000はきちんと左右のレンズの傾きを動かしてコンバージェンス位置の調整をしっかりと行っている。これは手振れ補正で使用しているOIS機構を利用した輻輳角の制御が可能にする技術で、民生用としては画期的な仕組みといえるだろう。さらに左右のレンズの相性を合わせるための技術も相当なレベルのものだ。平行ずらしの場合はそれほど左右のレンズ精度は求められないが、輻輳角を調整してきちんとした立体視映像を捉えるためには、いわゆるレンズ生産過程で「歩留り」の向上を図らなければならない。おそらく開発時には相当な課題であったに違いない。

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二眼式一体型3Dカメラのエポック機、AG-3DA1。新しい3Dの世界を切り開いた。しかし課題も多かった一台だった

そして(2)。ステレオベース42mm、最近点45mmの表現能力というのはAG-3DA1を超えるものだ。エポックメイキングな一台となったAG-3DA1は非常に評価の高いカメラではあったが、一方で「寄れない」「引けない」「感度が悪い」という声が高かった。実際にAG-3DA1は広角側で47.1mmまでしか引くことができなかったが、Z10000は32mmまでのワイド端を実現している(更にテレ側は320mmまで光学で寄れる)。また、3D表現として3DA1の場合、被写体は約1.2mまでしか寄ることができなかったのに対し、42mmというステレオベースを持つZ10000はなんと45mmまでの被写体を3Dで捉えることができる。

そして(3)にも記されているが、新しい3CMOSのセンサーは感度も高く、描画能力も高いため暗い場所でもその表現力に期待することができるのだ。

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赤文字部分が、基準値を超えたときの警告表示。設定したコンバージェンスとズーム距離から、安全に撮影が行える被写体の距離が表示される

また3Dのアシスト表示も明快でわかりやすい。合わせたズームとコンバージェンスの値で、無理のない3D視聴が可能な「3D表現領域」を画面で表示させることができる。77インチ以下と200インチ以下のモニターの視聴環境を選択し、その環境を考慮したうえで基準の値を超えた場所に被写体があると、赤字で警告もしてくれる。最終的な上映環境に併せて「安全な」撮影を誰でも行えるというのが大きな魅力となっている。3Dの物理的な知識がなくても、簡単に撮影に挑めるというのがこのカメラの売りのひとつでもあると言えるだろう。

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3連リングは非常に評価が高い。もちろんボタン類も業務機そのものだ

加えて個人的には操作が非常にやりやすいというのが大きな特徴であると考える。民生用と謳っているにも関わらず、ズーム・アイリス・フォーカスをそれぞれのリングで調整できるというのは驚きだ。いわゆる3連リングを採用したことで、現場での操作は一段とやりやすく、2Dカメラとしても十分なスペックをもつZ10000であれば、この操作性は大きな武器になることは間違いない。更にはXLR端子を搭載し、外部マイクであれ、ワイヤレスピンマイクであれ、様々な音声入力に対応しているところも注目に値する。ユーザーボタンも3つあったり、RECボタンやズームレバーも2つあったり、ホワイトバランスもゼブラのボタンもすべてが従来のPanasonic業務用カメラと同じだ。素晴らしい。

問題は記録形式、MPEG-4 MVC

ところが、このカメラの弱点はその記録形式だ。もちろん民生用として開発されているため、その記録形式はMPEG-4 MVCとなっている。これは他社からも出ている記録形式と同じで、AVCHD Ver.2.0に準拠した1ファイルに左右の映像をパッキングする形式のものだ。1ファイルに効率的に左右の映像を圧縮できるのは大きな特徴ではあるが、残念ながらその編集方法がまだ「簡単」ではない。もちろんビットレートも左右併せて(1ファイルで)最大28Mbpsしかないため、合成撮影や大型スクリーンによる上映などの撮影には少々心配が残る。そこで登場するのがBlackmagic DesignのUltraStudio 3Dだ。

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Thunderboltの特徴を十分に活かしたUltraStudio 3D。素晴らしいインターフェースであることは誰もが認めるところだ

 

Z10000の機能を完全に補うUltraStudio 3D

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Z10000のHDMIはフレームパッキングで3D映像が出力されている。これをUltraStudio 3Dで分離キャプチャする

UltraStudio 3DはThunderboltをインターフェースにもつHDのキャプチャーユニットである。この機材の特徴はその名の通りHDを2系統同時にキャプチャできる点だ。しかもHDMI1.4規格に対応しており、なんとフレームパッキングの映像を左右分離してフルHDで左右それぞれ記録することができる。つまりZ10000のHDMI出力を左右個別にProResなどのコーデックで収録ができるという優れモノだ。

実はこれを使うと、もう一ついいことがある。Z10000は民生用ということもあって、もちろんHD-SDIの出力は持たないのだが、UltraStudio 3DにはなんとHD-SDIの出力が2系統備わっており、キャプチャと同時にこの2系統のHD-SDIから左右の映像を出力させることができるのだ。つまりコンバーターとして左右の映像をUltraStudio 3DからSDI経由で業務用の3Dモニターなどに出力させることが可能になる。更には同時にHDMIからもフレームパッキングで3D映像を出力することもできるというのだから恐ろしい。

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今回はUltraStudio 3DのHD-SDIから業務用モニターBT-LH910GとHDMIから家庭用の3Dテレビにダブルで出力した。UltraStudio 3Dは驚きの機能を満載している

Z10000からHDMIでUS3DにHDMI1.4のフレームパッキングで3D映像を出力し、UltraStudio 3DからThunderboltでMacBook Proにつなぎ、HDDに左右の映像を収録。同時にUltraStudio 3DからHD-SDI経由で左右の映像を同期出力し、またHDMIから同時に3D映像も出力し、3Dパネルに収録中の映像や収録映像を立体視で確認することができる。このワークフローによって、Z10000の機能を十二分に発揮した3D収録が可能になるのだ。使い方によってはAG-3DA1よりも高画質で多様な画作りが可能になるといえる。

HDDもかなり高速~Pegasusシリーズがおススメ

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ThunderboltのHDDの鉄板、Pegasus 6TB (6x1TB) R6 RAID System。読み書きとも400MB/sを超えるスピードを実現。容量・スピードともに頼りになる

もちろん収録用のハードディスクは相応に早いものを選ばなければならない。当然ThunderboltのHDDをチョイスすることになるのだが、今回は実績・能力ともに素晴らしい、Promise TechnologyのPegasus 6TB(6x1TB)R6 RAID Systemを使用した。おそらく現時点で最も実用的で結果の期待を裏切らないデータ転送の実力を持っているHDDと言えるだろう。価格も安いため、かなりお勧めだ。

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非圧縮のQTで余裕の3D収録。グリーンバック撮影も安心だ。またMedia ExpressというBMDのソフトウエアの使い勝手も最高。キャプチャ・再生ともに簡単に行うことができる

この方法でグリーンバックの3D収録を行ったところ、AG-3DA1よりも広角に収録できて、感度も良く、被写体に寄ることが可能なため効果的な画作りを行えた。今回は13インチのMacBook Proを使用したのだが、残念ながらProResの変換を左右の映像で同時に行うとドロップフレームを起こしてしまったため、収録はQuickTime 8bit非圧縮で行った。左右の映像を同時に収録してもスピードには全く問題はなく、かえって合成にも耐えうるグリーンバック素材をファイルベースで収録する形になった。収録は40分ほどで800GBという膨大なデータ量になったものの、5TBという余裕の容量があるため心配事は全くなく、この方法による3D映像の収録はかなり面白く実用的なワークフローを現場にもたらしてくれることが実証できたといえる。

総括

Z10000の良さはこういった機材と組み合わせて使うことで、価格以上の価値になると言えるのではないだろうか?1台で300万円程度する業務用の二眼式一体型カメラのことを考えると、今回のシステムは安価でかつ安全で、確実な3D映像を収録できるスタイルと言えるだろう。ノートパソコンを含むすべての機材を購入したとしても60万円程度だ。こういった手法による3D制作が広まれば、更にコンテンツが充実していくのではないかと期待したい。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。