ついに発売になったD800とNikonの逆襲

3年前に登場したCanon EOS 5D Mark IIは、それまで注目の低かったデジタル一眼レフカメラによる動画撮影(HDSLR)に注目を集め、HDSLR市場を一気に確立した。ニコンやソニーも5D Mark IIを相手に次々とデジタル一眼レフを発表し追い上げを図ったものの、5D Mark IIの実力に勝ることはできなかった。キャノンはその実力とともにデジタル一眼レフ市場を常にリードし、この3年を走ってきたが、ついにニコンがキャノンの立場を揺るがすカメラをついに発表!新たなフラッグシップモデルNikon D4とミドルレンジモデルのD800は、どのDSLRもできなかったフルHDのクリーンアウトを可能にするなど、ユーザーが求めていた機能を新たに搭載し、DSLRユーザーを唸らせている。現在、3か月のバックオーダー待ちというその状況をみてもユーザーがD800に寄せる期待の大きさがうかがえる。果たしてD800は5D Mark IIに変わり、DSLR市場をリードするカメラになれるのだろうか?

驚きのスペックと機能

驚異の3630万画素。Canonが画素数を据え置いている反面、Nikonは画素数を大幅に上げてきた

なによりもまず驚かされるのが、有効画素数である。なんとセンサーサイズは7360×4912pxで有効画素数は約3630万画素という中判カメラに勝るとも劣らない大きさのセンサーを持っているのだ。

耳を疑うその大きさに、ニコンの本気を感じずにはいられない。ミドルレンジモデルに関わらず、フラッグシップモデルD4の1620万画素、そして5D MarkⅢの2230万画素を遥かに超えているのだ。しかし、動画記録方式はH.264のM-PEG4 AVCで収録され、Nikon D7000と同じであり変更点はない。そしてD800の最大ビットレートは24MBと5D MarkⅢだけでなく、Mark IIと比較しても低いと感じざるを得ない数字ではある。しかしビットレートの低さをセンサーサイズの描写力でカバーしているのかもしれない。約3630万画素のセンサーで撮影するとどう映るか気になるところである。

またカメラ機能として新たに追加された機能に、ホワイトバランスの微調整がある。ホワイトバランスを10刻みで調整を行えるようになったのだ。DSLR撮影における注意点の1つを「できるだけ現場で100点に近い撮影を行うこと」だと思っている。そのため、自分の欲しい色を出すためには、極力現場できちんとした設定にしておく必要があるのだ。

またインターフェイスは基本的にD7000を踏襲しているものの、ヘッドフォン端子が追加されステレオヘッドフォンによりモニタリングができるようになったことは非常に大きい。5D MarkⅢとD800が発売されるまで、DSLRユーザーは音声のモニタリングをすることができなった。3年間、待ち望んでいた機能がようやく搭載され、カメラマンは撮影だけでなく、音声のチェックもDSLRでは必要な時代となったのだ。また、液晶パネルには音声インジケーターの表示も可能なため、今まで以上にクオリティの高い撮影を行えるようになった。実際、撮影時におけるモニタリングとインジケーターによる視聴性は非常に高く、ピンマイクをつけて収録をしたが全く問題はなかった。逆にカメラマイクで収録の場合、D800には5D MarkⅢのようなウィンドカットがないため、風が吹くと多少厳しいこともあったが、それでも充分クリアであろう。

ついに出たクリーンアウトと非圧縮

そして、最も期待できるインターフェイスの改善にHDMI出力がある。なんと「フルHD」が「非圧縮」で出力されることになったのだ。ついにDSLRでフルHDの非圧縮の外部収録ができる時代が来た。しかし、実のところ出力は1080pの30pではなく60iの8bit出力になってしまうのだ。せっかくの30p収録を外部収録では60iになるのは非常にもったいない。(ちなみに、カメラ側の解像度を720pに落とせば、出力は30pになる)またインターレースではクロマキー合成が向かないため、外部収録によるクロマキー合成は向かないだろう。

編集部註:後日判明。HDMI機器側のEDIDが60pに対応していれば、60p出力が可能(60iのみではない)となります。D800の出荷時初期設定が30p出力となっており、記録モードが60pの状態では画が出ません(記録モードを60iにすると、設定無しで60iで出力される)。60p出力するには出力解像度を「Auto」にする必要があります。

また、カメラのCFカードで収録する場合はHDMI出力が自動的に720pになってしまうので、注意が必要だ。そのため、カメラと外部収録機による同時フルHD収録をすることはできない。もしフルHDが収録中もクリーンアウトで出ていたら、撮影中のフォーカスコントロールも更に容易になったであろう。但し、これは5D Mark IIが収録時にSDでの表示になってしまうことを考えれば、充分な進化と言える。また、今回は試すことはできなかったが、外部モニターをモニター側で拡大表示コントロールをできるものを使用する場合は、収録中は外部モニターを常に拡大表示してフォーカスチェック用モニターとして使用し、カメラ液晶パネルをフレーミングのチェックとして使い分けても面白いと感じた。

3630万画素を生かした解像力はいかに?

高解像度ゆえに、拡大しても情報は細かく残っている。解像度の「潰れ」や「にじみ」は非常に少ない

日中の町中を撮影し、その描写力をチェックしてみた。今回、同時に外部出力を収録して比較を行うため、外部収録機としてNINJAをお借りしてProRes HQで出力を収録し行い、検証を試みた。まず、CFカードに収録したデータを見てみよう。建物の窓を400%で拡大すると細かい部分までつぶれることは少なく1つ1つをきちんと描写しようとしていると感じた。

外部収録のデータはコントラストがあったが、きめ細かさやノイズに関しては違いはない

暗部も簡単に黒潰れするのではなくきちんと階調も表現されていたため、以前と比べて綺麗になっていることがわかる。しかし、空とのエッジ部分や建物の壁全体に偽色やモアレが出てしまっているのが見受けられた。従来のDSLRに比べて非常に細かい部分まで描写はされているものの、センサーサイズからか偽色が出てしまっているのは否定できなかった。もちろん、従来のDSLRと比較すれば非常によくなり、改善されているのは間違いはない。そして、NINJAで撮影した素材であるが、基本的に描写に大きな違いは見られずカメラで記録したものと比べて全体的にコントラストがあるように見受けられた。

きめ細かい肌の質やグラデーションなどもしっかりと表現し、拡大しても髪の毛も潰れずに1本1本残っている

CFの方がlog収録のような緩いカーブで記録されているような印象だ。またProRes HQの200MB以上出ているビットレートをそこまで強く感じられなかった。また肌の質感の描写も非常に美しい。率直な感想として、従来のデジタル一眼レフで撮影したスチル写真のようなイメージだ。もちろん、RED ONEのようにムービーを1フレーム切り出してスチル写真にしてしまう程の力はないにしろ、D800のセンサーの描写力の高さは同じベクトルに向いているだろう。

大判センサーによるローリングシャッターの抑制

ローリングシャッターは解像度があるため発生しやすいが、実際にはかなり抑制されていた

大判センサーによる最大の弱点のローリングシャッターはセンサーが大きければ大きいほど顕著に表れるため、約3630万画素では余計に出てしまうのではないかと思ってしまう。しかし実際に手持ちで撮影してもローリングシャッターが気になることがなかったのに驚かされた。DSLRの手持ちらしいローリングシャッターはだいぶ抑制されているため、リグに乗せなくてもある程度の安定感がある映像を撮影できるだろう。手持ちだけでなく、時速80キロ近く出ている電車の外観を撮影したが、今までのDSLRと比較し歪みは減っていた。

さすがにスピードが80キロ近い場合、以前ならかなり歪んでしまっていたが、その歪みはだいぶ抑えられたと液晶モニターを見ているだけですぐに感じた。実際にこのテストで数日カメラをお借りしたが、大胆に歪んでしまうことは皆無であり、歪んだとしてもこの写真のレベルがMAXであり、ローリングシャッターはだいぶ改善されたと感じた数日間だった。

高感度撮影による予想を超えた美味しいISO感度

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カメラが新しくなるたびに、高感度低ノイズの発展は著しく、ISO10000を超えてもノイズが少ないカメラもあるほどだ。そこで今回、夜景によりその感度をチェックしてみた。センサーが大きければ大きい程、1ピクセルあたりによる演算処理能力は落ちていくため、D800のセンサーではいい結果は得られない可能性を感じていたが、実際の画を見るとその高感度低ノイズは優秀であると感じる。まず、設定条件はISO400から適正露出を変えないように一定にし、ISOを1/3上げるたびに絞りを1/3ずつ下げ、露出を一定に保って検証を行った。結果としてISO2500まで充分ノイズは少なく撮影で使用できることがわかった。

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ISO2500でもノイズは少なく充分に使用できる許容範囲

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クローズアップ

もちろん、400%の拡大を行えばノイズはかなり出てきてしまうが、100%表示ではそれほど気にならない。もちろんこの素材をポスプロで色補正するとノイズはさらに出てきてしまうが、そのままの状態で使用する分にはなんら問題ないと感じる。特に最終書き出しが720pだったり、web用であるならばISO2500でギリギリ攻められる部分であろう。もちろん、ノイズをほとんどない状態で撮影をしたいのであれば、ISO1000がオススメだった。

ISO1000であればほぼノイズはないと言っていいだろう

無理してISOを上げるならば、絞りを開いてISO1000で撮影すればフルHDの納品でも充分に耐えうるレベルだと言える。ただし5D MarkⅢで検証した時のインプレッションでは、感度に関しては5D MarkⅢの方が高いように感じた。もちろん、完全に比較したわけではないが、感度だけを比較すれば5D MarkⅢの方がより「高感度低ノイズ」なのかもしれない。しかしこの結果はD800のセンサーの大きさから起因している問題であり、日中の解像度検証はいい結果を得られたため、D800の良いところとがはっきり分かれた結果といえるだろう。

次のDSLRとは!?

結果的に、D800の強みである大判センサーと良い面と悪い面が出た結果となった。画のキメ細かさには非常に驚かされ、丁寧に画作りをしていると感じた。だがしかし、偽色やモアレがどうしても出てしまうのは否定できず、今後の改良を期待したいところである。細かい部分の描写ではきちんと輪郭を残し描写しているものの、細かい部分の色使いが違う(偽色が出ている)と言った印象だ。それでも過去の5D Mark IIや7Dと比べれば偽色も抑えられており、今後のアップデートで更に使いやすいカメラとなるだろう。とにもかくにもNikonが行ったクリーンアウトというステップは今後のHDSLRの進む道を示してくれたのかもしれない。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。