安定&ストレスフリー CS6スタート
六本木ニコファーレで開催されたAdobe CS6 Production Premiumお披露目イベント
去る5月25日、六本木ニコファーレにてAdobe Creative Suite 6 Production Premiumをお披露目するイベント、「Adobe CS6 Video Evolution」が開催された。Production Premiumの中核を成すPremiere ProとAfter Effectsに待望の新機能が搭載。また、それ以外の主要アプリケーションが64bitネイティブ化を果たすとともに新たなアプリケーションもラインナップに加わった。
Adobeは2010年、1世代前のシリーズであるCS5からPremiere ProとAfter Effectsをライバル他社に先駆けて64bit OS環境にネイティブ対応させてきた。32bit環境を切り捨てるというAdobeの決断に、当時は思い切ったことをするなと感じていたものだが、今となると時代の流れを的確につかんだ英断であったといえるだろう。4Kや3DといったポストHDへと移行する流れの中で、最早64bit環境でなければ「仕事にならない」と強く実感するからだ。そしてAdobeの提唱する「64bit・ファイルベース・ネイティブ」の制作環境が、CS6でより洗練され使いやすく、一つの完成系に到達したと感じる。
64bitで動くものが増え、ワークフローが効率化された
Adobeのビデオ・オーディオ制作ツールセットであるProduction Premiumのラインナップは以下の通り。
- Premiere Pro CS6(編集)
- After Effects CS6(合成・コンポジット)
- Media Encoder CS6(ファイル変換)
- Encore CS6(オーサリング)
- Audition CS6(オーディオ編集)
- Photoshop CS6 Extended(写真編集)
- Illustrator CS6(イラスト作成)
- Flash Professional CS6(WEBアニメーション)
- Prelude CS6(素材管理)
- SpeedGrade CS6(カラーグレーディング)
32bit環境と64bit環境の違いとは―。CPUの処理能力も違ってくるが、一番の違いは搭載できるメモリの最大容量だ。32bit環境では最大4GBまでしか搭載できなかったものが、64bit環境であれば最大192GBまで搭載できるのだ。扱えるメモリ空間が広がれば、計算処理能力が格段にアップするのは言うまでもない。特にAfter Effecstsのような広大なメモリ空間を要求されるソフトウェアにおいてはその恩恵は絶大で、RAMプレビューの快適さは32bitとは比べ物にならないほどだ。
筆者の作業PCのスペックの一例。CPUにIntel Core i7 、グラフィックスカードにNVIDIA QUADRO4000を搭載。実装メモリは24.0GB。64bit環境で実に軽快に動作してくれる
ネイティブ対応のさらなる強化 Premiere Pro CS6
Premiere Pro CS6のUI。大幅に見直され、素材がサムネイル表示、フーバースクラブもできる。各種ボタンの配置はシンプルにPremiere Pro CS6の大きなコンセプトとなっているのが「ネイティブ対応」である。ここでいうネイティブとは「無変換」という意味だ。カメラで撮影したファイルを変換せずにそのまま編集タイムラインにのせることができることをいう。Premiere Proは現存するあらゆるファイルベース収録フォーマットにネイティブで対応しているといえるだろう。HDVやAVCHD、XDCAMといった汎用的なフォーマットからEOSムービーに代表されるDSLR、RED Epicの5Kにもネイティブ対応している。さらにCS6からARRI Alexaで撮影されたARRIRAWもサポートするようになった。とにかく中間コーデックへの変換作業など一切なし。素材をパソコンにコピーしただけで編集環境ができあがるのだ。
Premiere Pro CS6では幅広いファイルフォーマットをサポート。ARRIRAWもネイティブ対応
Premiere Proの再生エンジンであるMercury Playback Engine(以下MPE)も大幅に強化された。MPEとはPremiere Pro CS5から導入されたCPUとGPUを使う画像再生エンジンだ。特に再生時におけるGPU加速の威力は絶大で、MPE対応のNVIDIAおよびAMDグラフィックスカードと連携してグングン高速処理してくれる。CS6からは新たにNVIDIA MaximusデュアルGPU構成をサポートし、驚きのパフォーマンスを実現している。
Premiere Pro CS6のレンダラ―選択画面。再生時におけるGPUアクセラレーションの威力は絶大
また、一部MacBook ProにおけるOpenCL環境にも対応するようになった。強化されたMPEでは、レンダリングをしないでリアルタイム再生しながらエフェクト調整ができるほどである。また、再生時の解像度を落とすことであらゆるスペックのPCで快適に動作させることができる。さらにハードウェア統合向けのサードパーティーAPIであるAdobe Mercury Transmitが改良され、Blackmagic Design、AJA Video Systems 、Bluefish444製のキャプチャーカードなどで、更に効果的にMPEを活用できるようになった。
より快適に!After Effects CS6
After Effects CS6の作業画面。グローバルパフォーマンスキャッシュでRAMプレビューは驚くほど快適
After Effectsで作業する際のフラストレーションといえば、「RAMプレビューの待ち時間」で異論はないはずだ。CS6となりこの悩ましい問題点が大幅に解消されることとなった。グローバルパフォーマンスキャッシュという新機能によってキャッシュメカニズムが改良されたのだ。一度レンダリングしたキャッシュ情報を保持、再利用し、レンダリングが必要最小限のエリアで済むような仕組みとなったのだ。エフェクトのパラメーターを変えたりしてもプレビューの待ち時間は最小限で済み、驚くほど快適だ。より多くの作業を短時間で進めることができるだろう。また、編集の試行錯誤段階でのストレスが減ることで、よりこだわった編集、緻密な編集にも繋がるはずだ。
新たに加わったニューファミリー
Prelude CS6のインジェスト設定パネル。Media Encorder CS6と連携し、素材をトランスコード(変換)しながら取り込むことも可能
CS6からProduction Premiumに新たに加わったアプリケーションがPrelude CS6とSpeedGrade CS6だ。PreludeはPremiere Proの前段階で使用するソフトで、撮影した素材のインジェスト(取り込み)と素材管理を行える。取り込み時にはMedia Encoderと連携し、任意のファイル形式にトランスコード(変換)しながら取り込むこともできる。また、ラフカットにクリップやサブクリップを追加することで荒編集作業を行うこともでき、ラフカットデータをPremiere Proに送ることもできる。必要に応じて有効活用できる機能だろう。
SpeedGrade CS6は32bitの不動小数点演算処理を施すハイエンドのカラーグレーディングツールで、Premiere ProやAfter Effectsとの連携が可能だ。DPX、R3D、ARRIRAW、QuickTimeなど幅広いファイル形式をサポートしている。いよいよ入口から出口まで、統合的なプラットフォームとなってCS6はデビューすることになった。
Adobeネイティブが可能にするシームレスワークフロー
個々のソフトウェアの強化・向上は、もちろんユーザーにとってありがたい。だが、Adobeの持つ一番の強みはそれぞれのソフトウェア間を「ネイティブ」でラウンドトリップできることだろう。ソフトウェア間の「横」の連携・連絡が実にシームレスなのだ。Premiere ProとAfter Effects間ではAdobe Dynamic Linkで連携すれば、素材に加えた調整は相互に反映することができる。また 両者間ではコピー&ペーストでの連携も可能だ。
Adobe Dynamic LinkでPremiere Pro CS6のシーケンスをAfter Effects CS6にシームレスで移行。中間レンダリングを省けば作業効率は格段にアップ
After EffectsではPhotoshopのレイヤー情報やIllustratorのパス情報などもネイティブで読むことができる。一切の変換作業や中間レンダリングから解放されるのだ。これは手間と時間とディスクスペースを節約するという意味でも、人為的ミスを防ぐという意味でも大きい。さらに、変換作業に忙殺されていた時間を取り戻すことで、クオリティの向上にも結び付くにちがいない。
AdobeはCS6のスタートとともに、Adobe Creative Cloudというサービスも発表した。CS6全てのアプリケーションをクラウドサーバーからダウンロードして利用することが可能となったのだ。年間プランであれば月額5,000円で購入でき非常にリーズナブルな設定となっている(月々プランであれば月額8,000円)。
以上、Adobe CS6を俯瞰でとらえ、駆け足で紹介してきた。次回はPremiere Pro CS6に的を絞り、より深くその使用感をお伝えしたい。