Adobe Premiere Proに対して「遅い、不安定、etc…」といったマイナスのイメージを抱いてきた人は少なくないだろう。ノンリニア編集の黎明期に染み付いてしまった負のイメージは、払拭されることなく人々の先入観となってきた感がある。やはりノンリニア編集ソフトといえばApple Final Cut Pro(以下FCP)。確かにその操作性の良さやテープ編集との親和性の高さなど、評価に値するだけの性能を有していたと筆者も感じる。またProResという極めて優秀な編集コーデックを有していたことも評価を高めた一因だろう。
だが、2012年現在、4Kや3DといったポストHDへと制作環境が移りゆく中で一切の先入観を排除しノンリニア編集ソフトを比較すれば、Premiere Proが先頭を走っていることに気付くはずだ。Adobeの提唱する「64bit・ファイルベースネイティブ」というコンセプトは、確実に時代の潮流をとらえ、中間コーデックを排除したワークフローは、まさに理にかなっていると言えるだろう。すでに2010年の時点で64bit環境にネイティブ対応していたPremiere Proは、今回CS5.5からCS6となってさらなる進化を遂げ、更に我々に多くの「可能性」を与えてくれるツールとなって登場した。今回はPremiere Pro CS6となって強化された機能面や操作性について、より詳しく触れてみたい。
Premiere Pro CS6となり改良された主なポイント
- ユーザーインターフェイス(UI)の改良
- Mercury Playback Engineの強化
- マルチカメラ編集機能
- ワープスタビライザー&ローリングシャッターの修復
- 3Wayカラー補正
- 調整レイヤーの搭載
- マーカーの改良
- トリム機能の強化
ユーザーインターフェイス(UI)の改良
最も大きな変更点といえるのがユーザーインターフェイス(UI)だ。よりシンプルに、余計なものが削ぎ落とされたという印象だ。基本の画面構成はソースモニタパネルとプログラムモニタパネル画面上部に大きく配置するようになっている。各種ボタンが小さくなり、プログラムパネルやソースパネルでボタン表示をカスタマイズすることが可能。無駄なスペースを無くし、作業する人間の好みに合わせて、自由自在に編集画面を構成することができるようになった。
作業効率をアップさせるという観点で、素晴らしい進化だと感じるのがクリップのサムネール表示だ。メディアブラウザやプロジェクトパネルで映像を確認でき、なおかつマウスオーバーするだけで再生・スクラブすることができる。ソースモニタパネルを使わずともクリップを確認でき、さらに、プロジェクトパネルやビンパネルでin点とout点も打つことができるので大変使い勝手が良くなった。また、JKLによるプレー(スロー&正逆再生)も可能だ。
プログラムモニタやソースモニタをフルスクリーン表示(シネマモード)できるようになったのも大きな進化だ。「Ctrl+@」でモニタの解像度に合わせて「映像だけ」をPCのプライマリモニタ上でフルスクリーン表示できるようになったのだ。
Premiere Pro CS6のユーザーインタフェース。シンプルに一新されボタン表示もカスタマイズできる。基本構成として画面上部にソースモニタとプログラムモニタが配置
プロジェクトパネルやビンパネルで素材のサムネール表示が可能に。マウスオーバーでスクラブもでき、in/out点も打てる
Mercury Playback Engineの強化
Mercury Playback Engine(以下MPE)とは、対応GPUや64bit環境の大容量メモリ、CPUを活用したPremiere Proの強力映像再生処理エンジンだ。MPEはCS5から搭載されていたのだが、CS6となり一層パワフルとなった。MPE対応のグラフィックスカードと連携し、強力なGPUアクセラレーションを発揮してくれる。リアルタイム再生中にモニタパネルのサイズを変更したり、設定を変更したりしても再生は止まらない。それどころか、3ウェイカラー補正といったカラー補正エフェクトのかかったクリップで、補正パラメーターを操作しながらノーレンダリングで再生することもできるのだ。また、PCのスペックやフッテージの重さに応じて再生時の解像度を調整することで、スムーズな再生を維持することが可能だ。筆者のPCではRED ONEの4K、16:9(4096×2304)の素材でも、再生時の解像度を2分の1に設定すればスムーズに再生させることができる(CPUにCore i7、グラフィックスカードにNVIDIA Quadro 4000、メモリ24GB搭載)。このMPEこそがAdobeの考える「64bit・ファイルベースネイティブ」を形にする心臓部であると言って良い。
PCのスペックや素材の重さに応じて再生時の解像度を調整すれば、ストレスなく編集することができる
マルチカメラ編集機能の強化
そしてついにマルチカメラ編集も強化され、マシンのスペックが許す限りカメラ数を設定することが可能になった。手順はいたって簡単だ。まず、マルチカメラ編集したいクリップをあらかじめ同じビンに入れておく。そしてビンパネルでマルチ化したいクリップを全て選択し、右クリック→「マルチカメラソースシーケンスを作成」と進めば完了だ。同期ポイントは複数の中から選べ、作成したマルチカメラソースシーケンスは1つのクリップのように扱えるというのが素晴らしい。タイムラインに作成したシーケンスをそのまま新しいシーケンスに並べれば、マルチカメラモニター内ですぐにスイッチング編集が行える。あとはMPEのパワーでそれらのクリップを同時にリアルタイム再生させ、ライブスイッチングの感覚で編集を開始することができる。スイッチングは、マウスでもテンキーでも操作できるため、自分のやりやすいスタイルが組めるだろう。筆者のPCでもフルHDのEOSムービーで9カメまではスムーズに再生できることが確認できたので、かなりのものだ。
同期ポイントを選択肢から選ぶ
ワープスタビライザー&ローリングシャッターの修正
元来、After Effects CS5.5に搭載されていた手ぶれ補正エフェクトであるワープスタビライザーが、Premiere Proにも搭載されることとなった。ワープスタビライザーのためだけにAfter Effects CS5.5を使用することもあったほど強力・優秀なエフェクトで、待望のバージョンアップといえる。使用方法は至ってシンプルで、クリップを選択し、エフェクト→ディストーション→ワープスタビライザーと進む。ワープスタビライザーを選択すると同時に解析が始まる。解析はバックグラウンドで行われるので作業を中断する必要はない。解析が終了するとエフェクトが反映される仕組みだ。手ぶれは見事に補正され、ステディカムや三脚を使用したかのように変身する。ただし、補正する際に拡大クロップされるので顔のアップなどは注意が必要だ。また、解像度を失ってしまうことも認識しておくべきポイントだ。更に解析を精密に行うためには、撮影時のシャッタースピードを速めに設定し、モーションブラ―の映像がない素材を収録しておくといい。1/120程度が無難であると個人的には実感している。
ローリングシャッターの修正エフェクトも大変便利だ。ローリングシャッターとは大判センサーを搭載したカメラで、早い動きの被写体を撮影すると発生してしまう「こんにゃく現象」だ。センサーの大型化がトレンドとなっている現在、使用頻度は高くなりそうだ。
ワープスタビライザー。待望のエフェクトがPremiere Pro CS6にも搭載された
3ウェイカラー補正&調整レイヤー
Premiere Pro CS6は、前述した3ウェイカラー補正というエフェクトが新しくなって装備されカラーグレーディング機能も充実した。シャドウ、ミッドトーン、ハイライトそれぞれのカラーホイールが用意されていて非常に直感的に操作でき、扱いやすい。プライマリーのみならずセカンダリーまで詳細なパラメーターが用意されているので、かなり追い込んだグレーディングができるようになった。なお、この3ウェイカラー補正エフェクトは、クリップをコピー&ペーストでAfter Effectsでも使用することが可能だ。
また、調整レイヤーという機能も非常に便利だ。これもAfter Effectsでおなじみの機能だが、調整レイヤーにかけられたエフェクトは、その下に配置された全てのクリップに反映される。カラー補正エフェクトなど、同じ情報をまとめて適用したい時などに活躍する機能だ。このほか、マーカー機能やトリム機能なども強化・改良され、操作性が向上しているので編集のスピードアップも実感できたところだ。
Premiere ProはCS6となり「欲しかった機能」が的確に拡充されたという印象だ。筆者は従来、Premiere Proで尺にしたらAfter Effectsに移行するというワークフローがほとんどであった。しかし、機能と操作性が飛躍的に向上したことにより、Premiere Pro CS6だけで1つのプロジェクトを完遂させることも増えるのではないかと感じている。