アスクは8月31日、東京都千代田区にある富士ソフトのアキバプラザでAJAのKi ProやキヤノンのEOS C300、オートデスクのSmoke 2013を使った実践形式のワークフローイベント「Canon Logで撮影するCM制作実践セミナー」を行った。制作スタッフはアキバプラザの10階にある撮影スタジオで実際にCMの撮影や照明、仮のキーイング、オフライン状態までの工程を実際に行いつつ来場者に向けて各分野を解説していく。来場者にはCMの香盤表やコンテが配られて、撮影スタジオ内に用意された30席で直接その様子を観覧したり、同ビルの5階の大ホールに用意された180席で350インチのスクリーンに上映される中継をリアルタイムに視聴して現場の様子や解説を聞くというセミナーだ。8月20日に事前登録を開始してから2日後には210名の定員に達して締め切られるほど人気の高いセミナーで、当日の会場は広いホールが満席になるほど人が集まっていた。注目のセミナーの内容を早速紹介しよう。

現場からポスプロを繋ぐ最短でのワークフローを解説

このセミナーで制作するのは、「キヤノン、キヤノン、キヤノン。Canon Logで撮影するのよ」といったオリジナルの曲に合わせて、「Canon」、「AJA」、「Autodesk」の文字が入った衣装を着た三人の女の子がダンスをしながら商品を紹介するという三社合同のCMだ。グリーンバックのスタジオでキヤノンのEOS C300の24pで撮影を行い、EOS C300の24pに対応するようになったKi Proシリーズで収録し、Logで収録した素材の管理はQTAKE HDで行い、仕上げはSmoke 2013編集するというワークフローで制作する。あくまでもセミナーのために作られるCMだが、冒頭でカメラマンやVEが「いつもの撮影と同じ」と語った通り、スタッフも機材もワークフローも通常のCM制作のレベルやクオリティも変わらないような感じで行われた。

司会を担当した能勢雄一氏

セミナーの司会を担当したのは照明技師として活躍している能勢雄一氏だ。このセミナーの企画を担当したのも能勢氏で、テーマに「ポスプロを繋ぐ最短でのワークフロー」というのを挙げた。ホールで行った冒頭の挨拶で「ファイルベースの撮影になってきて、凄く納期の短い撮影が多くなってきていると思います。僕が行った現場で、4日後オンエアというコマーシャルがありました。そういうのをやろうとすると現場でキーイングしないと間に合いませんので、こういう現場での制作工程やデータ管理も含めて早く処理ができるようなワークフローを考えました」と、このセミナーの発想や最短のワークフローで制作するきっかけを語った。ここで紹介するワークフローは能勢氏の中では割と”最強”ではないかとのことだが、ワークフローの中から気に入ったものだけを使ったり、組み合わせを変えても成立するだろうともアピールをした。

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参加者の中から抽選で選ばれた人のみ着席できる撮影スタジオに用意された30席。スタジオはグリーンバックだが、全体のグリーン感をなくすために白い布で囲まれている

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5階のセミナー会場には、10階で行われている撮影スタジオの撮影状況がライブ中継される

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キヤノンのEOS C300の商品カットの撮影と、その手前でモニタをチェックしているのは演出を担当する藤瀬直之氏

EOS C300を使った撮影のポイント

セミナーが始まると、実際のCM制作そのものが行われた。各カットはリハーサルから始まり、「本番いきます」とか「はい。カットです」という大きな声が繰り返される。そのカットとカットの合間の時間で、機材の紹介や使い勝手などが紹介されていく感じだ。例えば、今回のEOS C300と一緒に使用したレンズはEFマウントのズームレンズ「CN-E30-300mm T2.95-3.7 L S」だが、カメラマンの岡村良憲氏は「今までいろいろなレンズを使ってきましたが、その中でも収差が少ないレンズです。あと今までスチール玉のズームレンズを使うとフォーカスなどが大変でした。しかし、EFシネマレンズはフォーカスの動き方とかよくてその問題が一気にこれで解消しますね」というふうに語った。別のスタッフも「EFのスチルレンズではフォーカスがきちんと送れる指標がほとんどなかったのですが、EFシネマレンズはフォーカスの刻印もきちんと細かく刻んであるので、CM制作や映画製作でアシスタントがついてフォーカスを送れるレンズであると思います」とも語った。

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ズームレンズ「CN-E30-300mm T2.95-3.7 L S」を搭載するEOS C300。ベースプレートの上にはSDIと電源の分配やマウントの後ろにKi Pro Miniを搭載している

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EFシネマレンズについて語るカメラマンの岡村氏(左)と能勢氏(右)

EOS C300での撮影はCanon Logで撮影が行われた。能勢氏はCanon Logについての感想をこう語った。

能勢氏:情報量をしっかり残して撮ると、後でグレーディングをかけたときに楽しい映像が作れます。結構面白くいじれるし、その辺は凄くいい。軽く使えるという言い方は変なのですが、工程、マシンスペックの要求も高くないし、手間がかからない。流行ったEOS 7D、EOS 5D Mark IIのあのトーンを継承しつつも、グレーディングができるようになったような感じです。

ユニークなのが、EOS C300を使うことによって照明も変わるという話だ。「撮影自体が省エネではないのですが、省エネに向いているカメラ」という独特の表現でこう説明した。

能勢氏:Canon Logの800%のダイナミックレンジを得ることのできるベース感度の850は、実はかなりの省エネになります。今回使っているライトは1.2kWのHMIを6台、4kWを1台がメインであとは場合によって足すライトがあります。しかし、以前のライティングであれば4kWと18kWというふうに、倍々になります。多灯数にはなるのですが、絶対的な光量は少なくて済むために、機材代は安くなります。そのへんは凄くEOS C300に助けられている撮影になっています。

ただEOS C300の特徴であるCanon Logについては万能な記録方式であると勘違いしないでほしいという。

能勢氏:Canon Logでハイの部分がカラーグレーディング上で今までのHDカメラよりも余裕をもって操作ができるようになりました。しかし、凄く余裕があると思っている人もいるのです。テストをしてください。”余裕がある”といってもみんな違うのです。僕が見ている光量も皆さんが見ている光量もみんな違うのです。そこの解釈を間違えないでCanon Logを使っていただきたいです。凄くドンといけるという万能なHDカメラはないと僕は思っています。逆にいえば、ちょっとタッチが合っていれば、あとでグレーディングで持ってくることもできる。基本的には撮影のやり方は変わりません。その中で持っている感覚の幅が広がるのがCanon Logだと思っていただければいいと思います。

Ki Proでの収録とSmoke 2013での編集

EOS C300で撮影されたものはKi Pro MiniやKi Pro Rackで収録される。Ki ProはカメラのHDMIやSDIのアウトをProRes 422 10ビットで記録できるれレコーディングユニットだ。

能勢氏はまず最初にKi Proを採用する理由を「EOS C300はコンパクトフラッシュカードが2枚搭載できますが、ファイルベースの撮影だとどうしてもデータの破損が怖い。そこでKi Pro Miniに収録して、ProRes 422 10ビットに変換して使う方法です。24pにC300とのマッチングができていますので、このような使い方はありかなと思います」と説明した。このほかにも、「いろんなコーデックを集めて編集をすると色が変わってしまったりとかのトラブルが起きることがある」と能勢氏。なので、統一されたフォーマットの中で1つのタイムラインで編集するほうが安全に作業ができる。このようにコーデックを統一できるのがKi Proのいいところではないかなと語った。また、EOS C300との相性のよさもKi Pro MiniやKi Pro Rackの特徴という。例えばKi ProのCONFIGメニューの「13.1 Camera Data」を「Canon C300」に設定すると、EOS C300のカメラ側の撮影を開始すればKi Proも自動的に回りはじめる。もちろん、EOS C300の撮影を止めるとKi Pro側にストップがかかる。「C300の24pで撮って24pを受ける側としてKi Pro Mini、Ki Pro Rackというのはかなりの武器になるし、SDIでつないで連携ができるのもKi Proのいいろころではないでないでしょうか」とのことだ。

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EOS C300の背面に搭載されたKi Pro Mini

素材の管理やキーイングに使用しているのはQTAKE HDだ。QTAKE HDのいいところは、Canon Logで撮った素材にルックアップテーブルを当てることが可能なことだ。現場では実際にCanon LogにVideoガンマを当てるようなデモを行ったり、当てた状態でグレーディング操作が可能なことも行った。暗部の開け閉めやハイを操作した状態をLUTを当てた状態でこういうのが現場で確認ができることや、現場でキーイングがリアルタイムにできる。「最近流行のオンセットのような形で面白いのではないかと思います」というふうに語った。

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ビデオアシストソフトウェアの「QTAKE HD」。事前に用意された収録素材と収録されたばかりの素材の合成確認をしている

編集はSmoke 2013だ。ここではキーイングやトラッキングといった作業が行われた。今回のセミナーで使われのは8月28日に公開されたばかりのSmoke 2013 Pre-Release 3だ。能勢氏も「Logの素材を持ち込んでグレーディングをしてみたりとか、オートデスクさんが得意としているキーイングを試してもらえれば」とアピールをした。Smokeのプレリリース版は2012年いっぱいまでは利用可能だ。詳しくはオートデスクのAREA JAPANを参照してほしい。

能勢氏はSmokeの作業に入る前に改めてSmokeを選んだ理由をこう語った。

能勢氏:本当に僕の行っていたコマーシャルの現場で、即納品に近い状態の現場があります。その場合は、キーイングが結構鍵になってくると思います。つまり、待ち時間にキーイングが進められていれば、ポスプロの方は作業に入るのが早くなります。そういうことをイメージして、今回このワークフローで、Smoke 2013を使っています。現場でキーイングってないなと思われてる方も多いと思うのですが、ファイルベーになれば取り込み時間はありません。現場でキーイングをすることはおかしいことではないと思います。

また、現場でSmokeをインストールしているのはMacBook ProのRetinaディスプレイモデルだ。このようなノートブックタイプのコンピュータでもSmokeは動くことも紹介した。

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8月28日にPre-Release 3が公開されたばかりのSmoke 2013。MacBook Proで動作させているところにも注目だ

最後に完成したオフラインの試写が行われ、セミナーは閉会した。「今日のセミナーは現場からだったので、伝わってもらえなかった部分もあると思う」とのことで、さらに掘り下げた技術的なセミナーを9月21日に行うという。今回申し込みを募集したWebサイトにて、後日9月21日のセミナーの募集を改めて開始することや、今回の映像が出来次第アップを行うとのことだ。引き続き、同セミナーの動向に注目だ。

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