満を持して登場、EOS-1D C
遂に発売となったEOD-1D C。世界初のDSLR、4Kデジタルシネマカメラだ
発売になってから実質4か月が経つCanon EOS-1D C。DSLRとして世界初の4K解像度の動画を記録できるデジタルシネマカメラである。EOS 5D MarkⅡが「Game Changer」として世の中を席巻してから約4年。いよいよテクノロジーは4Kシネマをとらえるまでとなった。1D Cはキヤノンがハリウッドシネマ進出を高々と宣言した2011年11月には「コンセプトモデル」として既にラインナップにあがっており、いよいよ満を持しての登場となったといえるだろう。
今回の撮影ではナイトショットをメインに行った。ノイズやその表現力に注目したい
このカメラが「デジタルシネマカメラ」である所以は4096×2160というシネマ4Kで撮影できるということに加えてCanon Logを使った収録を行えるということだ。従来のEOS 5D MarkⅡのようなDSLRで撮影をする際にTechnicolorのCineStyleといったピクチャースタイルをインストールして「Log撮影」を何とか実現しようとしていた人も多いはずだ。昨今デジタルシネマと言われる大判センサーを使った撮影では、Logガンマのおけるハイダイナミックスレンジの確保は必要不可欠とも言えるだろう。その点でCanon Logを1D Cが搭載したことは当然ながらこのカメラの付加価値を大きく上げているだけでなく、4K撮影の際は「必ず」Canon Logで行うといってもいいかもしれない。
圧巻の高感度センサー
今回の最終出力。その表現能力の高さは驚異的だ。素晴らしいの一言に尽きる
今回の撮影において2つのコンセプトを立てた。一つは「人肌の描写」だ。もともとスチルカメラから生まれたカメラであるために、人間の肌がどれだけ魅力的に表現できるか非常に興味があるところだ。そして最も試してみたかったのが「ナイトショット」である。常識破りの高感度センサーという噂を聞いていたため、ISO 3200や6400といった感度におけるノイズ感や描写能力は是非とも見てみたいところだった。
まずは今回の撮影におけるグレーディング前のCanon Logの素材そのものの出力をYouTubeの4KでUPしたので見て頂きたい(再生設定をオリジナルにすると4096×2160の解像感で再生できるが、相応の帯域が必要となる。HDでもその感じは感じて頂けると思う)。人肌の描写は完璧であった。そして何よりもナイトショットの美しさには、驚きを隠せなかった。ノイズの少なさもそうだが、暗部とハイライトの絶妙なバランスはDSLR機とは思えないものである。ちなみに撮影のほとんどをISO 3200に設定し、レンズはCanon EFマウントのLレンズ群を使用した。
外での撮影ではLED1灯のみを使用。ノイズの少なさは素晴らしい
人物の撮影はスタジオの白ホリで行った。使用した照明は合わせて2kW程度ある。そしてナイトショットはLED 1kW相当のものを1台だけ使用。正直「こんなに照明が少なくて大丈夫なのか?」と現場では不安もあったが、どちらかというとそれ以上の照明は必要なく、カットによっては照明の出力を50%以下に落としたり、一切使わなかったりしたところがあったほどだ。とにかく1D Cの感度の高さには驚かされることが多かった。
Canon Logによる4K切り抜き。表現力の高さが分かる
※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。1枚目:約3.5MB 2枚目:約9.2MB
CFカードという汎用メディアを使用できる利点
今回使用したLexar社のCFカード。安定した4K撮影の運用が可能である
順序が少々逆になるが、1D Cの機能について少し触れておきたい。そもそも1D Cは外観や機能のほとんどはスチルカメラのフラッグシップモデルであるEOS-1D Xと同じである。35mmフルサイズの超高感度センサーとデュアルDIGIC 5+プロセッサーが生み出す描写能力は異次元だ。デジタルシネマカメラである1D Cでは4K動画撮影が可能となり、4096×2160のシネマ4Kサイズで24pまでの撮影が可能。コーデックはイントラフレーム圧縮によるQuickTime形式のMotionJPEGである。更に驚くべきことは、4K撮影時におけるビットレートは約500Mbpsにも及ぶということだ。これはRAWで撮影するREDと同等であり、非常に高画質であるという証である。
しかし当然ながら、このビットレートに耐えうるCFカードを用意する必要があるため、4K撮影の際は注意が必要となる。現時点ではLexar Professional 1000x CompactFlash CardとSandisk Extreme ProのUDMA7であれば4K収録に対応していることが確認されている。今回の撮影ではLexarのカードを使用したのだが、運用上なんの問題もなく快適な収録を行うことができた。また当然ながら128GBでも35分弱しか収録ができないため、数枚の128GBのCFカードの用意がないと撮影は現実的でない。1枚あたり5万円程度するものなのでそれなりの出費も覚悟の上になる。
4K on Canon Logがデフォルトか?
ちなみに4K撮影時にはフルサイズのセンサーは使用しない。ドットバイドットにおけるスーパー35mm相当のAPS-Hのクロッピング使用となる。この点においては通常のシネマカメラと同サイズのセンサーとなるため、それほど気になるところではないのだが、5D MarkⅢのようなフルサイズシネマではないことと、レンズの運用には少し気をつける必要があるだろう。ちなみにHDによる撮影はフルサイズモードとスーパー35mmクロップの両方を選ぶことができる。またHD収録は8bit 4:2:0になってしまうのに対して、4K撮影は8bit 4:2:2で行える利点がある。HDの場合60pで撮影できるというオプションがあるものの、やはり1D Cの場合動画は4K on Canon Logでおこなうのがデフォルトであるといっていいだろう。
あらゆる編集ソフトでネイティブに。一気に4Kでポストプロダクション
DaVinciでの様子。ネイティブで読めるのが嬉しい
編集はAdobe Premiere Pro CS6で、グレーディングはBlackmagic DesignのDaVinci Resolveで行った。編集ソフトからはEDLやXMLなどでEDIT情報を書き出せばDaVinciでネイティブに色編集が行えるので、この点は非常に便利である。DaVinciの詳細はここでは割愛するが、今のところ1D Cの素材との相性は抜群だ。またPremiere ProやAfter Effectsから4KのH.264ファイルを書き出すことができる。これをそのままYouTubeへ!一気に4Kワークフローの道のりが現実的になったといえるだろう。
グレーディングのBefore & After。グレーディングをした作品は別の形で公開する予定
※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。1枚目:約8.4MB 2枚目:約9MB
昨年のNABでASCのシェーン・ハルバット氏がEOS-1D Cで撮影した「The Ticket」が4Kシアターで公開になり、一躍その解像感溢れる4Kイメージが話題になった。ハルバット氏が「数あるデジタルシネマカメラの中でも1D Cは素晴らしいシネマイメージを捉えてくれる。DSLRとしての機動力だけでなく、デジタル一眼レフという場所から生まれたシネマカメラの描写力は、とにかく素晴らしい」と語ってくれたほど、このカメラのポテンシャルは規格外なのかもしれない。
1D Cで撮影された「The Ticket」。ナイトショット満載のショートムービー