I am 4K野郎!

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主にENG系を生業にしている王道的なミドルレンジの筆者。正直4Kと言われても「ふーん、綺麗だなぁ」程度の感想しか無かった。理由は簡単で、自分の撮影形態が4K云々よりも収録はHD、納品はまだまだDVDが多いこと。そんな中でも何だかんだと4Kのカメラには触れる機会が多く、4K映像制作のお手伝いもしてたりする。この事自体はいちカメラマンとしての参加なので当人は4Kと言うのを余り意識せずにいつも「ふ~ん4Kね」位のポジションのつもりだったが、クリエーターの高野光太郎氏に「あんた全然4K野郎だよ、オレが認定するw」と呟いてくれたので素直にその言葉を受け止めることにした。

確かに考えてみれば昨年後半からJVC GY-HMQ10に始まりCanon EOS-1D C、SONY PMW-F55、そして今回のCanon EOS C500と、国内最新の4Kカメラは全て触ってるんだなと。しかし1D Cでの映像制作の時も感じたのがピントの合わせ。C500も同じくピンには苦労した。丁度SDからHDに変わった時もピンが解らん!と各所でカメラマンが嘆いていたが当にその状態。同じようにHDから4Kに変わってそのレゾリューションをしっかりどうやって把握するかというのがやはりポイント。今回も当初は4KモニターとEVFとカメラのLCDを見比べて何がどういう風に映っているのかを確認しながらの進行であった。しかし人間何とか順応する物で撮影開始時には6割ほどしか掴めなかったピンが、後半にはほぼ8割以上は掴めたのかな?と言う手応えは感じることが出来た。SDからHDの時よりもその辺の感触は厳しくない様に思えたのが今回の一番の収穫かも知れない。

EOS C500

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今回使った2SETのC500+Ki Pro Quad。左:ショルダーベース 右:三脚ベース

今回使用機材の内1セットは、HDUsersでの簡易照明講座でもお馴染みのa team株式会社の能勢氏がオーナーの個人所有物。実は2月にも映像制作のお手伝いをさせて貰ってるのでC500自体は2回目の運用。C500に関しての細かい数字等はいつもの如くメーカーHPを参照にして貰いたい。

C500、何が一番印象的か?そのオペレーションの気軽さに尽きる。今回も特に追い込んだ設定ではなくCanon Logベースなのでその設定とWB(ホワイトバランス)、及びSSの設定のみ。マニュアルを見る事無くアクセスが出来た。確かにメニュー自体がXFシリーズ以降殆ど共通で、大まかなカメラ設定は側面のダイヤルとジョイスティックで出来てしまうので重宝する。それも全てが単純で、大まかに言えばボタンを[押す]-ダイヤルで[変更]-[決定]、というような感じで各々の設定が出来てしまう。この操作感の良さはバジェットが少なくタイトな現場では特に恩恵を受けるはずだ。

話を戻そう。CINEMA EOSシリーズにはDSLRベースの1D Cは別にしてC500・C300・C100の3つのラインナップがある。このうちC100はAVCHDをベースとし他の機種より一廻り小型化された物でかなりオールマイティ的な使い方を得意とする。筆者もこのカメラでENGの現場を何回も行ったがレンズの選定を間違わなければ今までのデジ代わりに確実に使えるカメラだった。そしてC500とC300の外見上で違いのある部分と言えばボディ右側のハンドグリップ。C500はこの部分を潔く廃止しその代わり各種出力系の端子を装備した。その使い勝手の違いは…。実はC300は未だに運用どころか触ったことがない。なので両者の違いが実は良く解ってない部分もある。C500では当たり前に付いていた機能がC300には無かったりする。

例えばアサインボタンの6に割り当てられている機能として、C300はヘッドホンの音量調整だったがC500はLUTボタンになっている。普通に当たり前に使っていた機能だったがC300と同様なボタンがない。Canon Log運用の際に本体LCDにはどちらもビューアシスト機能で通常のビデオガンマに近い色調で確認することが出来るが、C300ではモニター出力されない。C500はこのLUTボタンを押すことによってモニター出力することが出来る(因みにその時はRec.709及びWideDRの何れかをメニューから選ぶことが出来る)。

とにかくこの様な細かいところが実践的と感じる事が出来る。他にも色々あるだろうと言われる方も居ると思うが、小バジェットかつ少人数で回す場合、カメラをワンマンオペレートで対処しなけらばならない。

1D Cなら更に内部RECが4Kだからもっと使いやすいのでは?と言う問いには敢えて「NO」と言いたい。確かに連番ファイルとはいえ4K内部RECは本体その物のセッティングで収録が出来るが、問題はモニターチェックの時に諸々と煩わしさがある。途中で何アクションかを加えないとポン出しでモニターを見れる環境ではないと言うことだ(含む結線や変換)。カメラマンとして一番気になる手触り感と言うニュアンスの扱いやすさではC500はかなり好印象だった。F55も勿論悪くは無いが、今までのSONY機とは若干作り方や考え方が違うのか、多少の前知識がいる。更にPLレンズでの運用前提と言う事でワンマンOPにはチョット慣れが居る。

C500はEFレンズが使えると言う部分を特に評価したい。PL系のズームレンズを使うことを考えるとスチルレンズだけ在って若干操作に慣れは必要だが、ENGレンズライクの超スローズームも勿論可能だ。フォーカスリングがややストロークが足りなく特に3m以上の距離を取るにはかなりシビアだがそれも3時間程の運用で8割は克服できるはず。今回の撮影では余り浅い深度は使わず、常時F5.6~6程度の絞り値でどちらかと言えばパンフォーカスライクな映像だったが、それでも被写体との距離3m程度で40cm位の距離のピン送りが感じられるのは4Kセンサーの恩恵なのかも知れない。しかも慣れればその動きが純正のLCDモニターでも感じることが出来る。これにはチョット驚いてしまった。最後に簡単にセンサーを踏まえた主要部分の比較をしてみよう。

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やはり適材適所とでも言うべき出力系にコレだけの違いがある。内部レコーディングだけ見ればC300とC500は大差がないが、4Kレコーダーが各社で発表された中、C500のポテンシャルはまだまだ伸びるはずだ。

AJA Ki Pro Quad

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大きさ的には丁度長さがKi Pro Miniの2倍程度高さ幅は同サイズ

出る出ると言われてかなり時間が経ってしまったが、ようやく今年のNABで実働機のベールが取れ一般的にリリースされた4K収録機がKi Pro Quadである。専用SSDに4K RAW & ProRes(※1)での収録が可能で、C500とは3G-SDIを2本使って(※2)接続し4K収録が可能となる。因みにF55では4本繋げばOK!特に後は何をするわけでもなくそのまま4K収録が可能となる。今回の特色としては専用SSDを使うためメディアの相性や転送レート不足と言うことは考えなくて良い。またKi Pro Miniの時には出来なかったスロット間のリレー記録に対応し、長時間録画が可能となった。また本体にもLCDが搭載されたので、収録中の簡易モニタリングやプレイバックも可能となった。入出力系のI/Oに関しては4Kモニタリング用途に使える3G-SDIx4とHDモニタリング用にHDMI&3G-SDI(出力のみ) 、更にキャノン音声入力も踏まえるとKi Pro Miniと比較しても特殊という感じは全くない。

(※1)4K RAW収録には、本体背部のThunderboltポートからPC経由でAJAのソフトウェアを使ってThunderbolt接続のストレージに収録。(参照:AJAサイト
(※2)4K/24pならC500との結線も1本で行けてしまう

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C500本体と4Kモニター、ダウンコンしたHDモニターまで接続するとこんな感じに…

今回の現場ではメーカーさんが来てくれたお陰でセッティング等も難しい事は無しでC500とは2本のBNCケーブルでの接続で、C500のトリガーでRECが掛かってくれる。今回の筆者的な目玉はKi Pro Quad本体でLUTを当てられると言う事だろう。但し標準では載ってないのでEthernet接続してブラウザからWeb UI経由で本体にアクセス、.lut(1D LUT)もしくは.txtファイルを読み込ませることによってLUTが生きてくる。因みにLUTは入力か出力どちらか選択することが出来、モニタリング用途で使用する場合は出力にLUTをあて、収録時に使用したい場合は入力にあてて使用。ビデオ・TV関係などで特にLogをいじる時間が無い場合は、このように入力に709等のLUTを当てて収録すれば大幅に作業時間が減ると言う事で、ProResコーデックを使えば収録後にPCにコピーしすぐに作業開始と言うフローを視野に入れることが出来、やはりコレも低バジェットにはかなり有効な手段だ。因みにLUT自体は一つしか記憶できないので、違うLUTを使用したいときはEthernet接続でのやり直しが必要となる。

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ぱっと見ただけだとどちらも同じカメラ、同じレコーダーには見えない。今回のRIGはSYMPLAとARRIの両方を使ったハイブリッド仕様

総評

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C500とKi Pro Quadの組み合わせは、初めて使ったとはとても思えないほど使い勝手が良い。カメラ部に関してはC300とほぼ同じ筐体(サイズ感)の癖に痒いところに手が届いてる。LUTのアサインもその内の一つ。でもC100のイージーさとは違う感じの簡略感とでも書けば良いのだろうか?今回のように数字では見えない部分は現場で実践的に使わないと解らない事が一杯あると言う事。やはり実践の現場で鍛えられると光も見えるし影も見えてくる。その中で影が出た時の対処がどれ位簡単に出来るのかがもしかしたら良いカメラの条件なのかも知れない。

C500+Ki Pro Quadはイージーだけど簡単じゃない。ワークフローは他の方に任せるとして撮影だけを考えるとピンの掴みに最初は四苦八苦したがコレも結局体で思えれば慣れという言葉で片付いてしまうのだろう。そう言う部分は「借りたカメラ」ではなくて「自分のカメラ」ではないとやはり厳しい。カメラマンを生業にしているなら使うカメラの機能や性能はやはり100%引き出したい。その中から編集や最終的な出力がどうなるかを与えて貰いつつそこに向かって一番単純に出来る方法を提案するのもこれからの4K時代には必要かも知れない。

余談

今回の現場は勿論照明部がしっかりと明かりを作って頂けた。ここだけでも絞りを気にすることが無くピンに専念できたわけだが、最近の大判センサーカメラの高感度低ノイズだからと言う理由で照明が要らないとまで言う方が居るがそんなことは絶対にない。色を作る部分をスルーしてしまってはいくらRAWだろうと4:4:4だろうと非圧縮だろうが全く意味がない。筆者自身も低バジェットの現場が多くなって四苦八苦しているが4Kになって更に色のごまかし?が出来なくなった昨今、最低限の色・光はしっかり作っておきたい。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。