ユーザーを満足させたFS700の更なる進化

おそらくほとんどのNEX-FS700J(以降FS700)のユーザーは、そのカメラの性能に満足をしているはずだ。何といっても60万円という価格にも関わらず、フルHDサイズで240fpsという10倍のハイスピードを記録できるというのは注目に値する。更にはNDフィルターを内蔵し、HD-SDIとHDMIの出力をネイティブで搭載するなど、大判センサーのシネマカメラとしては、昨年発売されたカメラの中でも群を抜いて高い使用感と安定性を備えている。私もこの一年で「使い倒した」といってもいい位、多くの現場で活用させてもらった。何度か、このFS700のセミナーなども行わせてもらったが、心底素晴らしいと感じるカメラだけにその魅力を伝えることは大変有意義であったと感じる。

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発売から1年。数多くの作品でFS700を使わせてもらった。満足度の非常に高い1台である

実はこのFS700、発売当初から「4K対応のオプション」を謳っていたのをご存じであろうか?もちろんハードウエアの追加はあるものの、4Kという解像度を見据えた設計をされているとのことだった。正直当時は「へぇーそうなんだ」程度しか考えていなかったのだが、いよいよそのオプションが発売となり真相が明らかになったのである。それがFS700による4KのRAW記録を可能にするHXR-IFR5とAXS-R5を使ったソリューションだ。「AXS-R5」は、既にPMW-F55やF5といった4Kカメラに対応しているRAWレコーダーなのだが、このRAWレコーダーとFS700をつなげる「HXR-IFR5」というユニットが遂に6月発売になった。商品名が一見ややこしいため若干の混乱を招きかねないのだが、要するに新たに2つの機材を導入することでFS700が4Kカメラになるというのだ。

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今回新たに発売になるHXR-IFR5と、4K/2KRAWレコーダーのAXS-R5。R5にはHD-SDIの出力が搭載。S-Log2のガンマがかかって出力される

4K120fpsの驚異的な表現力

色々な機能や、細かい話をする前にまずは撮影した映像をご覧いただきたい。個人的に「すごい!」という驚きの連続で、一体このカメラはどこまで進化するのか?びっくりしてしまった。なぜなら、何と4Kで120fpsまでのハイスピード撮影が可能になっているからだ。もちろんバッファーの限度で4秒間という制限はあるものの、その技術力は想像を超えている。

今回はこの120fpsを使った演出を考え、新体操のリボン演技を撮影した。映像をご覧になって、よくあるハイスピードの撮影だと感じている方も多いだろうが、この映像が「4096×2160の4K解像度」であると言えば、そのすごさを分かっていただけるだろう(実際にYouTubeでは4Kでアップロードしております。再生設定を’Original’にすると4K解像度になります)。そしてお気づきの方もいるだろうが、この素材は何とS-Log2のガンマカーブで撮影している。今回の4K収録を行うにあたり、FS700のファームアップを有償で行う必要があり、そのファームアップで搭載されるのが、待望のS-Log2ガンマなのだ。S-Log2のガンマ設定でFS700の撮影を行うと、何とISO2000でDレンジが1300%!!!という映像を実現できる。もちろんRAW収録に限らず従来のFS700のHDワークフローでも使用できるため、「4K撮影はまだ運用しない」というユーザーにとっても、このファームアップはかなりの効果を期待できるものになるといえる。ちなみにこのファームアップにかかる費用は3万円程度ということなので、これは是非ものだ。

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FS700で撮影したS-Log2ガンマの切り抜きとグレーディングの結果。ピクチャープロファイルから簡単にS-Log2を選ぶことができる

S-Log2の実装で広がる可能性

発売当初からFS700に挙げられた一番大きな課題が「Logガンマ」がなかったことである。しかし遂にS-Log2が搭載されることになり、デジタルシネマカメラとして大きな飛躍をすることになるだろう。グレーディングの余地が大きくとれるということにもなり、そのワークフローの可能性が更に広がることとなる。今のところまだFS700を使ったRAWコーデックは新しいためネイティブ運用はできないのだが、おそらくDaVinci Resolveなどのソフトウエアでのコーデック対応は近い将来に期待できるだろう。今のところ、SONYが無償でリリースするRAW現像ソフトであるRAW Viewer「RWV-10」を使ってDPX連番などの中間コーデックにするのが現実的なワークフローといえる。今回はこのRWV-10でDPX10bitの連番に書き出し、それをPremiere Proで編集し、そのままAfter Effectsでカラーグレーディングなどのコンポジットを施した。全て4Kでの編集となったため、多少の時間を要したがプロジェクト全体のファイルサイズは1TB程度に収まった。最終的な作品は、追って公開する予定なので機会があれば是非ご覧いただきたい。

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SONYのRAW現像ソフトRAW Viewer「RWV-10」。RAWにS-Log2のガンマを充てて、そのまま4KDPX連番で出力

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DPX連番をPremiere Proで編集。さすがに4Kの再生は重いが、After Effectsへの移行は一瞬だ

追加のオプション費用は「割安」か

さてここで、具体的な機能について触れておきたい。FS700のRAW記録は2K(2048×1080)と4K(4096×2160)の2種類の記録画素数を選ぶことが可能で、2Kでは24fps、30fps、60fpsに加え、なんと記録時間制限のない120fps、240fpsの記録を行うことができる(音声は記録不可)。今までのFS700のハイスピード撮影はHDで8秒間という制約があったのに対して、この撮り続けられる240fpsのRAWハイスピードは、非常に大きな可能性をもたらしてくれるだろう。そして4Kでは24fps、30fpsに加え、なんと60fpsまでの記録に対応しているのも注目だ。また前述の4K120fpsに関しては、約4秒まで対応(ハイスピードで426フレーム)しているということで、正に前代未聞のハイスペック仕様となっている。

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2KRAWにも対応しているが、やはり4Kによる収録がメインになるだろう

まず4Kの収録をFS700で実現するためには、具体的に導入しなければいけない機材が結構ある。まずFS700を有償でアップデートし、HXR-IFR5とAXS-R5を購入する必要があるのだが、それに加えRAW記録を可能にするAXS-R5の記録メディア「AXSM(AXSメモリーカード)」を導入しなければならない。AXSMは超高速のSONY独自メディアであるが、512GBで実勢価格18万円程度する。ちなみに512GBで記録できる時間は、2K24fpsで約2時間、4K60fpsで約24分となっている。また2台のRAWモジュールを動かすバッテリーも必要だったり(これは汎用のVマウントバッテリーでも運用は可能)、当然そのバッテリーチャージャーや、AXSMのカードリーダーといったものも購入が必要なため、従来のFS700ユーザーであれば、追加で更に100万円近くの投資が必要となってしまう。しかしここまでの4K記録のスペックを考えるとコストパフォーマンスは決して悪くはないことは、わかっていただけるだろう。ほかの4Kデジタルシネマカメラと比べればすぐわかることなのだが、スペックを見ただけでも、この投資で得られる新しい映像表現の世界は間違いなく未知数である。

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RAW記録なので当然映像のビットレートは高い。512GBであっても通常の4K24fpsは約1時間しか収録できない。記録媒体はAXSM512GBで価格は約18万円。大きさはFS700のFMUと同じくらいである

SDI1本で結ばれる4Kユニット

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カメラ本体でもHDで記録できるため、自分のスタイルでシステムを組める

ちなみにこの4K収録ユニットとカメラ本体は一本のSDIケーブルで結ばれる。SONY独自の圧縮RAW信号のため、4K60fpsの記録を見事に一本のケーブルで転送が可能だ。そのためカメラのSDI出力からケーブルを伸ばしてしまえば、収録自体はカメラと離れた場所で行える。もちろんユニットには1/4インチネジが切ってあるため、リグなどを活用してカメラと一緒にドッキングすることもできるだろう。今回はモニタリングを兼ねて、カメラとは別の場所で収録を行った。またRAW記録の際にAXS-R5には1系統のSDIのHDアウトプットが備えられており、常時S-Log2のガンマが充てられた映像が出力されている。もし709のような映像をモニタリングしたい場合はカメラ本体のガンマをそれに合わせ、カメラ本体のHDMI出力からの信号を利用すればOKだ。

ハイスピード以外の収録は本体のHD記録を同時に収録することができるのだが、本体とRAWモジュールの機能をうまく組み合わせれば、様々なシステムを現場で組むことができるというのも個人的には魅力的だと感じる。もちろんバックアップという考え方もできるし、本体の記録をオフライン用などの素材に利用したりなども可能ということだ。また現場での収録素材のプレビューなどは、サムネイルが表示できる本体の記録を再生するほうがやりやすかったりもする。

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今回の撮影ではカメラ本体からSDIを伸ばし、RAW収録は離れた場所から行った

日本の技術が凝縮した一台

ここまでの機能を備えてFS700が進化するとは、正直驚いた。4K120fpsという世界もさることながら、RAW収録という超高画質のフローをここまでの価格で実現できるというのも注目に値する。無論S-Log2ガンマの実装は何よりも素晴らしいのだが、カメラの内部収録の処理が実質8bitであることや4Kの可能性を考えると、やはりRAWモジュールを使用した運用であれば更に美しく、グレーディングの可能性を持つ映像を手にすることができるだろう。日本の技術が凝縮したシステムを武器に、FS700はデジタルシネマカメラとして、新たな可能性を見出すこととなった。

最後に

無論2K240fpsの無制限記録も魅力的ではあったが、今回の撮影はとにかく4Kにこだわった。4Kという言葉が今大きく注目される中、4K120fpsが捉える映像美は形容しがたいほどの力を持っている。FS700という決してハイエンドではないカメラがこの世界を実現したことは非常に意味のあることだと感じている。最後に、収録にあたり東京ジュニア新体操クラブの波多野先生ならびに、笠井菜々子選手には大変お世話になり、この場を借りて心から御礼を申し上げたい。

編集部よりお知らせ:6月7日(金) 4K&ハイスピード収録セミナー 開催決定!

NEX-FS700J/AXS-R5/HXR-IFR5による4KRAW収録・ハイスピード撮影ワークフローをご紹介するセミナーを東京・半蔵門にて開催します(無料)。

  • 日時:2013年6月7日(金) 13:00-15:00 / 16:00-18:00
  • 講師:株式会社マリモレコーズ 江夏 由洋氏
    ソニービジネスソリューション株式会社 製品担当 後藤 俊氏
  • 場所:株式会社システムファイブ PROGEAR半蔵門セミナールーム
  • 参加費:無料

セミナー内容の詳細、参加申し込みは下記ページをご覧ください。
http://proportal.system5.jp/proseminar/archives/7140

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。