いよいよ4Kの時代!
4Kという言葉がいよいよ浸透してきたと言っていい。この間電車の中で、高校生らしき男子学生が「これからは4Kらしいよ、テレビ」「4K?デカいんだろ?そのテレビ」「そうだろね。相当デカいんじゃねーの」といった会話を繰り広げていた。高校生が4Kという言葉を口にするとはちょっと不思議な感じもしたが、それだけ4Kという言葉が日常になってきたということだ。実際にSONYの55インチ4Kテレビはいよいよ40万円を切る価格まで下がってきており、普通の家電量販店や価格コムなどで簡単に買える時代になったというのも、ちょっと驚きである。割と早い段階で一般家庭のテレビ環境が4K化される可能性も考えられるだろう。確かに4Kのコンテンツが圧倒的に不足しているこの状況は、一時期の3Dブームを彷彿とさせるところもあるようだが、どうやらポストHDの進む道は4Kであることは間違いないようだ。
となるとやはり撮影も4Kで進める機会がどんどん増えてくるだろう。まだ4K解像度を持つ収録が行えるカメラは少ないが、パネル同様に次々とカメラの4K化も加速度的に進むことになる。もちろんここまでの4Kカメラまでの道のりは割と長かったというのが個人的な印象だ。RED Digital Cinema社がRED ONEをリリースし、世界初のデジタルシネマカメラの登場となったのが2008年で、日本の各メーカーが現実的な4Kカメラを発売するまでにはそこから4年以上の歳月がかかった。CanonはC500を昨年の秋に、SONYはF65に続きPMW-F55をようやく今年完成させ、いよいよ4Kデジタルシネマカメラが揃ったと言えるのではないだろうか。今年の夏以降に発売される4Kのカメラもあるようだが、現在はRED EPIC、SCARLET、SONY F65RS、PMW-F55、CANON EOS C500、EOS-1D Cの6機種が具体的な4Kデジタルシネマカメラの選択肢となる。
浮上する4Kフォーカスの問題
無論どのカメラもその完成度は非常に高い。価格や性能にもちろんバラつきがあるし、ここでカメラの比較をするつもりはないが、それぞれに個性があっていいと思う。収録フォーマットや編集のワークフローをもってみても、カメラごとに違いが多々あるのが面白い所だ。SONYのPMW-F55の解像感は実に圧倒的だし、EOS-1D Cの機動力は素晴らしい。無論REDのRAWワークフローは実に効率的である。ただ共通して4K撮影の現場で一つ大きな問題にぶつかることがある。それは「フォーカス」の問題だ。
露出のコントロールは通常と同じ
デジタルシネマの撮影において適正な露出の確保と、しっかりとしたフォーカスコントロールは非常に大切な作業だ。一般的に「露出」はシャッタースピードと絞りから得られるのだが、デジタルシネマにおいてはISOの調整も非常に有効である。特にREDで得られるRAW素材はISOの数値自体も現像メタデータとなるため、概念自体が他のカメラとは変わってくる。もちろんISOの設定で得られる明るさの調整は基本的に電気的な処理のため、光学的な機構となるシャッタースピードと絞りの調整で得られる露出とは異なるものだ。しかしデジタルシネマカメラの性能が上がるにつれセンサーの高感度化が進み、ノイズ特性の優れたカメラが次々と登場することで、露出そのものをシャッタースピードと絞り、そしてISOでコントロールするという概念が生まれた。統一した画を収録するためにワンシーンの中でISOをいくつも変えることは行わないが、フィルム感度としてのISOがデジタルに置き換えられるということは、自由にISOも変えていいということだ。そして最終的に適正露出を確認する方法は、ヒストグラムやウェーブフォーム、あるいは誰でもすぐにその映像の露出を見ることのできるフォルスカラーなど、その手段は千差万別だ。しかし4Kになっても適正露出の図り方は全く変わらない。4Kだからといって、その作業が大変になったり、調整が難しくなるということは特にないと言っていい。
4Kで求められるファインフォーカスの問題
しかしフォーカスのコントロールは、4Kになることで途端に難しくなる。HDの画面の中では問題のなかった「ピントがきている」フォーカスでも、4Kのように高解像度になるとHDよりも更に細かい描写を行えるため、ピントのわずかなズレまでもしっかりと捉えてしまうということになり、「実はピントがボケていた」などということが頻繁に起きる可能性があるのだ。また大判センサーのカメラの特徴は「美しい被写界深度のコントロール」でもある。デジタルシネマ4Kのような更に解像感の高い撮影に関してはかなり細かいフォーカスコントロールが現場では求められることになる。4Kのおけるファインフォーカスの課題は非常に深刻といっていい。
現場で必要なのは少なくともフルHDのモニター
現場で使えるフルHDモニター SONY PVM-1741A。有機ELで視野角も広い
先日SONY PMW-F55で4Kの撮影を行った。屋外だったため電源のない環境でシステムを組む必要があったのだが、現場でのモニタリングとしてカメラマン用に7インチ、ディレクター用に15インチのモニターを2台用意した。ところが現場での機動力を重視したこともあって、2台とも解像度が1280×720のモニターを選んでしまったのだ。その結果として、大切な1カットにフォーカスズレが起きてしまった。実際にポストプロダクションのタイミングになって初めて「やっぱりピントがずれている!」と気づくことを経験したひとは少なからずいるだろう。フィートメーターを使ったとしても、最後の確認はやはりモニターを通じての目視で行われるものだ。
4Kの切り抜き。よく見ると歌い手のフォーカスが外れている。現場では問題ないと見えていた※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。約5.3MB
もちろん現場で確認している限りではフォーカスはきていると思っていたのだが、1280×720のモニターで、面積にして約10倍も違う4096×2160の映像を監視するのには無理があるということだ。もちろん4Kのモニターを使用するのが理想的ではあるが、現時点ではコストやシステム設計からみてもまだ実用的ではない。ただHDの映像のモニタリングを1280×720のモニターで行うことで問題がないとするならば、やはり4Kの撮影においては少なくともフルHDの解像度を持ったモニターが現場では必要であると言える。実際にこの時のミスを全てカメラマンのせいにはできないのだが、フォーカスのミスは正直致命的である。
シネマレンズが持つフォーカスの機能性
更にもう一つ、現場での4Kファインフォーカスの精度を上げる方法がある。それが「シネマレンズ」を使った撮影だ。Canon EOS 5D MarkⅡから始まったデジタルシネマの大きな特徴として「スチルレンズ」を使った撮影が有効であることが挙げられる。5K以上の解像度をもつスチルイメージの撮影を目的として作られたスチルレンズは、全く問題なく4Kの撮影に使用することが可能だ。特にCanonのEFレンズ群は、絞りの明るさもあるだけでなく、解像感豊かなレンズも多くあり、特に単焦点をはじめとするLレンズシリーズは多くのカメラマンから高い評価を得ている素晴らしいレンズである。DSLRの動画が爆発的に人気を博したのも、こういったEFレンズが捉える映像が美しいというのも起因していたといっていいだろう。我々もこのEFレンズは、EOSだけでなくSONY PMW-FS700やBlackmagic Cinema Cameraなど多くのカメラで使用している。
ところがこのEFレンズを4Kで使用するとなると少々厄介な問題がある。それがフォーカスリングの開角度が狭いことが多いということだ。もともとオートフォーカスをメインとして設計されているスチルレンズは、当然マニュアルで動画撮影を行うようには作られていない。そのためリングのストロークが非常に短いというのが特徴だ。
例えばCanon EF35mm F1.4L USMの場合、1.0-3.0feetの開角度は90度程度であるのに対し、カールツァイスのシネマレンズであるコンパクトプライムCP.2 35mm/T2.1は、1.0-3.0feetの開角度はズバリ180度だ。しかもフォーカスリングの直径がEFレンズは約7.5㎝に対してCP.2は約11.5㎝ある。単純計算でCP.2の方が同じフォーカスを合わせる際に約3倍のストロークを確保できるということになる。要するにシネマレンズの方が約3倍細かくフォーカスを合わせることができるということだ。実に4Kなどのシビアなフォーカシングを行う上では、非常に大切な要素になるといえるだろう。もちろんスチルレンズに比べて高価なシネマレンズではあるが、レンズそのものが捉える画には大きな差がなかったとしても、「操作性能」という面では動画撮影のために設計されているレンズはそれなりの価値があるということだ。
あとは監視業務をしっかりと行う
あとは現場でのマンパワーを確保することも大切な要素だ。特にフォーカスや露出、色の管理をモニターから行う「監視業務」の作業は、撮影のミスを最大限に防ぐことができる。4Kの場合こういった監視業務に人を配置することを怠ってはならないだろう。もちろんバジェットと直結する人件費の部分は簡単に増やすことはできないかもしれないが、ポストプロダクションで修正の効かない、露出やフォーカスには最大の気配りが必要だ。デジタルシネマの市場がどんどんと拡大し、いよいよ4Kという舞台が多くの人に開かれる時代になった。もちろんHDの延長線上に4Kがあるわけだが、従来のワークフローだと細かいところにおいても越えなければいけない壁がある。そういう壁を越えていくのも4K撮影の醍醐味といえるのかもしれない。