欠かせない”映像”というメディア
昨今、様々な場所でイベントが行われている中で、映像コンテンツが活用される機会は着実に増え続けている。イベントと一口に言っても、その中にはセールスプロモーションや各種プレゼンテーション、製品解説や学術発表などの解説コンテンツ、そしてUSTREAMやニコニコ動画などでのネット配信放送など、様々な形態の映像手法を活用したイベントが存在する。今や映像コンテンツが使われない現場はほとんど無いと言っても過言ではない。その背景にはデジタル化により機材全般が安く入手しやすくなったことに始まり、大型であってもレンタル機材が充実してきたこと。そして以前ほど映像のコンテンツの制作や設定、また生放送など配信設備にコストも手間も掛からなくなったことも大きい。また観る側が視聴するための機材や環境を構築することも安価で簡便になり、レンタルも簡単に利用できるようになったことは、その活用の幅をさらに拡げている大きな要因だ。
いま活況を帯びているイベント映像演出を専門に手がけている企業は、こうした現状をどのように捉えているのだろうか? 1968年に創業され、Audio Visual Communications=「AVC」の商号で有名な、展示会系イベントへの映像機材レンタル会社としては日本最大手企業である、株式会社 映像センター。代表取締役社長である大村一彦氏と、同社イベント映像事業部 首都圏営業部 ソリューション営業部 部長、山下修二氏に、業界の現況などについてお話を伺った。
イベント映像演出の概況
映像センターは、東京・江東区有明の本社のほか、国内には名古屋、大阪の営業拠点と、海外には中国の北京、広州、上海、香港にも現地法人を持つなど、その事業活動はイベント映像業界を常にリードしている。事業内容としては、イベント映像のトータル・ソリューションとして、4つの大きな柱を掲げている。
その内容は、様々な業界のプロモーションイベントで映像空間演出を総合的にサポートする『Sales Promotion』、世界各国からVIPが招かれて開催される国際会議や専門性の高いセミナーなどの[Meeting][Incentive][Convention][Exhibition]を総称する『MICE』、コンサートや演劇、フェスティバルイベントなどのエンターテインメント演出をサポートする『Stage Visual』、そして博覧会や学術、スポーツイベントなど、規模が大きい長期間のイベント映像演出を手がける『EXPO & Entertainment』だ。イベント映像演出という分野は、これらの各分野における映像機材とそのテクノロジーの提供、そして現場に応じた有機的ソリューションの提供を通じて、視聴者や観客に直接感動を届ける、”映像コミュニケーションのプロフェッショナル”である。
株式会社 映像センター 代表取締役社長 大村一彦氏
大村氏:我々は以前から、展示会などのイベントにおける映像演出を手がけてきましたが、いまは各種ステージイベント、コンサートなどのビッグイベントにおける大型サイズの映像演出にその事業規模も次第に広がってきています。それは映像単体というよりも、もはやステージセットの一部であり、いま流行となってきた3Dマッピング=プロジェクションマッピング等を使用した大掛かりな演出なども、我々の手がける一つの領域になってきているからです。現在はこうした演出効果も、映像なのか、マッピングなのか、照明なのか区別できないような様々な凝った演出手法が出て来た中で、これまではそれぞれが別の分野であったものが段々とクロスオーバーして、演出効果の結果重視で混在して来ていますね。
以前はコンサートなどのライブ演出の中にあっても、照明チームと映像チームはある意味で互いに背反する立場であり、照明を目立たそうとすれば映像が犠牲になってしまい、映像をちゃんと見せようとすると照明効果は目立たなくなってしまうという、演出上のせめぎ合いがあった。しかし時代は経過して、お互いの利点を認めつつ、融合した新たな演出創造という方向に向かっているのは興味深い。
大村氏:照明の方も今は映像をどんどん取り込んできています。しかし当初のその使用目的は(映像自体の)クオリティを求めているのではなく、そこに来ているお客様に感動を与えることが目的でした。逆に我々映像系の人はいかにちゃんとしたカタチで美しい映像を見せるかというところにこだわってきました。いまはその両者がお互いに良いところを持ち寄って近い存在になってきています。これからはもっと我々の持っている技術的なノウハウと、彼らの持っている演出力という部分を組み合わせれば、より良いステージ演出が生み出せるでしょう。
プロジェクションマッピング(PM)は、こうしたイベント映像演出として注目の動きになっている。PMはここ近年、一般にも急速に浸透して来た。最近のPRONEWSの記事でもPMの話題を何度か取り上げる毎に多くの関心が寄せられている。映像業界においても一般社会的にも注目の分野だが、PMの隆盛は当然ながらイベント映像業界としても新しいチャンスと捉えているようだ。
大村氏:専門展示会などは一般の方が頻繁に来るものでは無いので、イベント映像演出の認知としては、そこでなかなか一般に浸透するものではありませんでした。しかし東京駅のPMイベントなどを機に、いまや家庭の主婦にもPMという言葉が浸透してきた状況というのは、これまでなかったことです。しかし我々としてはそれをビジネスとしてちゃんとお金に変えて行かないといけない。これまでのPMは、まずはクリエイターの人達の夢を一緒に叶えて行こうという入り口から始まって、我々も機材協力などでPMを盛り立ててきました。そこはどちらかと言えば、クライアントもPMの効果をそれほど認知しておらず、ある意味で”客寄せパンダ”的な発想でやってきたと思います。しかしこれからPMを今後ちゃんと発展させていくためにはこれをどうやってビジネスパッケージとして変えていけるか、ということだと思います。これはあくまで経営者的な発想ですが、そのために我々も努力が必要だと考えています。
JVRA:協会としての役割
こうしたイベントやライブなどの映像機器(映像・音声・コンピュータ関連機器)のレンタルサービスとそのオペレーションなど、総合的なソリューションサービスを行う国内の業者が参加する業界団体『JVRA=日本映像機材レンタル協会』がある。1980年に設立された当初は、16mmフィルム、スライドフィルムなどの光学映像機器を主流とした、企業の社内研修や教育現場での視聴覚機器利用の現場がほとんどだった。現在は広くイベントや展示会、ライブ会場などのパブリックビューイングまで、多くのジャンルのイベント映像演出企業が参加しており、現在、正会員として全国39社が加盟、その他メーカーも18社が参加している。こうしたレンタル業者は、例えば大掛かりな規模のイベントを行う場合であれば、到底1社で全てを賄うことはできないため、横のつながりと連携で仕事を進めるケースも多い。JVRAはそうした際の連携ネットワークの基盤となっている。また地方の小規模な会社や新規の会社であっても、経営者の出身がJVR協会加盟企業であったりするなど、その人的ネットワークはこの業界の基盤となっている。大村氏はこのJVRAの会長でもある。
大村氏:(JVRAの)正会員企業だけでなく、この同業者は全国でも100社以上あると思います。首都圏等では大きなイベントが多くありますが、地方ではやはり学術学会や研修など従来からのイベントが仕事の主流です。東京で受注した場合でも、地方開催のイベントではやはり地元企業の協力が必須です。
地方では展示会イベントといったものよりも、やはりホテル等での学会や研修会といったイベントが主流になってくる。特に最近の医学系学会/研修会などでの映像利用はさらに頻繁に使用されるようになり、例えば遠隔地の病院で行われている手術を3D映像で勉強会に中継したり、イブニングセッションと言われる学会などを全国へネット放送で配信したりという機会も増えている。
現場での機材選びと人材
映像センターでは社員210名中、イベント映像演出のレンタル部門では130名ほどのスタッフが稼働しており、その中でもイベントの現場で活躍するスタッフは約80名の人員が動いている。その中での機材選択についても、特にイベント映像演出の業界では、ビデオ信号とPC信号を両方扱うケースがほとんどなので、入出力に関しては様々なタイプものを取り扱うことが多い。またビデオでは次第にHDへの移行は行われているものの、まだまだSD素材が混在する現場も多い。さらにPCでもVGAから最近ではHDMI、Display Portなどの新たな入出力形式が混在するため、常に多くの入出力への対応を求められる。
株式会社 映像センター イベント映像事業部 首都圏営業部 ソリューション営業部 部長、山下修二氏
山下氏:最初私の部署で様々なケースに合わせて技術検証をして、現場で使用する機材選択やソリューションの構築をしています。もちろん現場によって、サイズもシステムも様々ですので、製品も使用規模や用途に応じて大小様々な製品ラインナップを揃えています。その使い分けとして考えるのは、例えば新しく入って来た新人の若いスタッフがオペレーションをするような現場では、例えば、ローランドのVRシリーズやV-800HDなどのスイッチャー製品は、多くの入出力タイプを受け入れられるとともに、比較的オペレーションも簡単な製品です。これを使用して現場の操作オペレーションに慣れることで自信がついていきます。そうした現場で何度か経験して自信を持たせた上で、次なる新製品や新しいシステムへステップアップしていくというプロセスは非常に重要と考えています。機材もいまは技術革新が激しいので、技術情報には常にアンテナを張っています。
いま、イベント映像業界の若い人材は、こうした映像に対して最初から興味を持って入って来るというよりは、この業界に入ってみて初めてその現場やイベント本番の機会に触れたことで、映像自体に興味をもつことが多いという。そこには技術や演出の面白さ以上に、観客や視聴者との映像を通じたコミュニケーションと感動が、イベント映像演出の一番の魅力だからだ。
大村氏:若い人にもぜひこうした仕事があることを知って頂き、これからもっとこの分野に興味をもって欲しいと思っています。様々な映像という仕事の中でも、直接お客様からの感動を得られる現場というのは、このイベント映像演出しかありません。映像で観客が歓声をあげて喜んで頂いたりする現場を直接目の当たりにした時の感動は他では味わえないものですから。