「RAW」で撮影できることこそ、タイムラプスの強み
記録設定はRAW&JPEGがいいだろう。ちなみにノイズリダクションなどの処理はポストで行う
前回は4Kタイムラプスを撮影する際の具体的な話を記したが、後半となる今回は編集の話に進みたいと思う。Canon EOS 5D MarkIIとNikon D700の2台を使って撮影を行ったのだが、前回私がこだわった点は「RAW」で撮影することであった。その理由として、色温度はもちろんのこと、ノイズリダクションやレンズ補正といった様々な補正を編集時に行えるほか、8bitのJPEGにしてしまうとポストプロダクションにおける色補正にも少々の限界があるからであった。もちろんRAWはデータ量が重いため、容量やビットレートに対して相応のCFカードを用意しなければいけなかったり、インジェストやバックアップにも時間がかかったりしてしまうのだが、より「高画質」な4Kタイムラプス映像を手にするための選択肢を確実に得ることができる。実際、記録は「RAW+JPEG」で行い、あくまでもJPEGはパソコンですぐに映像を確認・再生させて、オフライン編集するためのプロキシとして使用した。RAWとJPEGで記録する場合、ファイル名が全く同じになるのでそのあたりの扱いは非常に楽だ。ちなみにRAWのままだと、パソコンにおけるリアルタイムの再生はどんな強力なPCであれ不可能であるといっていい。RAW、JPEGのメリット・デメリットを知りつつ効率的なワークフローを組むのがいいだろう。
After Effectsは最高の編集ツール
連番を読み込む際は「Camera Raw シーケンス」にチェックをいれて、最初のフレームを選択すればOK※画像をクリックすると拡大します
それでは編集のワークフローをここで紹介する。私が使うのはAfter Effectsだ。After Effectsは32bitFloatのRGBで演算を行えるコンポジットソフトウエアのため、スチルのRAWデータの情報を余すことなく使い切ることができる。もちろん解像度フリーなので、5D MarkIIのように5616×3744ピクセルという大きなキャンバスであってもドットバイドットで編集が可能だ。当然色補正のプラグインの数も豊富だし、最終書き出しのフォーマットも、配信先の仕様に柔軟に合わせられる。そしてRAWのデータをそのままネイティブで読み込めるというのが素晴らしい点だ。
現像設定。一枚目さえ設定すれば、あとのファイルには自動的に適応される※画像をクリックすると拡大します
まずインジェストの際には必ずカットごとにフォルダーを作成し、一つのフォルダーには一つのシーンのRAWとJPEGのデータだけが入っているようにする(もちろんRAWだけでもOK)。撮影の写真素材は数字の連番になっているため、これらを動画の連番ファイルとして扱えるということになるわけだ。基本的な作業は全く難しくない。After Effectsを立ち上げる際のスタートアップスクリーンでは「閉じる」をクリックし、コンポジションを作る前に素材をそろえる作業を行う。プロジェクトパネルをダブルクリックし「ファイルの読み込み」を行い、シーンの連番ファイルの一番最初のRAWファイルを選択し、シーケンスオプションの「Camera Raw シーケンス」のチェックを入れて「読み込み」をクリック。そうするとRAWの現像設定のパネルが現れる。これはCanonであってもNikonであっても同じだ。このRAWの現像設定はあくまでもメタデータの設定となるため、編集中どのタイミングでも変更・編集が可能だ。最初のフレームの設定が、同一シーンの全ての連番データにも自動的に反映されるという点が、今回のRAWデータの編集を実現している大きなポイントである。
フレームレートの設定を忘れずに
また一度OKを押して設定を終了しても、プロジェクトパネルの素材を右クリックし、「フッテージを変換」から「メイン」で表示されるパネルの左下にある「詳細オプション」で、いつでもこの現像設定を呼び出すことができる。そして必ずやっておかなければいけないことが、全ての素材において、このパネル内にあるフレームレートの「予測フレームレート」を必ず29.97または、23.976に設定することだ。連番の場合ジャスト30や24となっている場合が多いので、ここの数字は読み込みと同時タイミングで再設定しておくように心がけたい。Windowsの場合、このパネルの表示はCtrl+Alt+Gというショートカットが割り当てられているのだが、頻繁に使うため覚えておくと便利だろう。タイムラプスは、すでにリアルタイム性を失っているため、少しでも尺を稼ぐのであれば23.976で設定するのがお勧めだが、スムーズな動きを狙うのであれば29.97というのも賢い選択だ。私は極力29.97でスムーズな動きの表現を演出するようにしている。
現像設定はシンプルに~各エフェクトはAfter Effectsで
色温度と露出の設定。ヒストグラムを見ながら行えば間違いはない。スポイトツールでホワイトバランスを一発で設定できる※画像をクリックすると拡大します
ちなみに現像設定で調整するメインのパラメータはズバリ3つだ。まずは「色温度」。必ずしも撮影時の色温度に合わせる必要はなく、画面を見ながら自分の納得するところを決めるのがいい。星空などの場合は3000Kぐらいが個人的には好きだ。また現像パネル左上のスポイトツールを使えば、ワンクリックで画面上にある白点を白として定義させることもできる。そして次に調整するのが「露光量」、つまり露出だ。大切なのは時間経過による露出の変化も念頭に入れて設定することで、例えば夜から夜明けなどの時間の経過を見せたいときは、中間画像でジャストな露出を右上のヒストグラムを見ながら合わせる。どうしても動画の中で露出を動かしたいときは、After Effectsプラグインの「露出」でリニアに値を動かすと自然な露出調整を行える。
ノイズ軽減も簡単に行える。効果はてきめんに表れるが、かけすぎに注意だ※画像をクリックすると拡大します
そして最後に行うのが「ノイズ軽減」だ。これはあくまでも高いISOでの撮影時などでノイズが生じている場合に調整する。輝度とカラーの2方向からノイズ調整を行えるのだが、拡大表示をさせながらノイズを減らす作業を行うといい。あまりかけすぎると、ディティールを失っていくのでシャープとの掛け合いで上手に調整するといいだろう。
他の色補正などはAfter Effects内蔵のエフェクトを使用するほうが、編集が楽だ※画像をクリックすると拡大します
現像パネルではコントラストやRGBカーブといった様々な調整も行えるのだが、そういったパラメータはAfter Effects内のエフェクトで処理するほうが操作しやすいのでここでは敢えて行わない。明らかに直した方がいい色補正などは施してもいいのだが、連番ファイルの「一枚目」しか現像設定で確認が行えないのと、微調整の度に現像パネルを表示させることになるので、普段使い慣れた色調整のツールでRAWデータを編集するほうが作業を効率的に進められる。
4Kで制作できる、スチルデータの可能性
Ultra HDのサイズでも5D MarkIIの解像度は非常に大きい。余裕の大きさだ。16:9のアスペクト比を撮影時には心がけよう※画像をクリックすると拡大します
現像を終えると、動画の連番ファイルとしてRAWデータがプロジェクトファイルに配置される。シーケンスファイルを右クリックし「複数アイテムから新規コンポジション」を選べば、RAWの解像度に最適化されたコンポジションが簡単に作成できる。あとは通常のAfter Effectsと同様の作業でトーンカーブや各種色補正、加工、テロップ入れなどを行えばよい。注意点としては2つ。まずはプロジェクトのbit深度を32bitFloatに設定しておくこと。プロジェクト設定パネルで色深度のプルダウンを32bit/チャンネル(浮動小数点)にすればOKだ。もう一つ、4Kシーケンスを作成する際は、改めて3840×2160のコンポジションにRAW連番のコンポジションをネスト化させる必要があるということだ。RAW連番の方が解像度が高いのと、アスペクト比が異なるため、リサイズ&上下のクロップが必要となる。撮影の際に「16:9」を意識したフレーミングのことを少し触れたが、縦方向の情報に関しては、結構な領域を捨てることなるため注意が必要ということが分かってもらえるだろう。もちろん4096×2160の4Kの場合も同じだ。
RAWをネイティブのまま編集を行っているので、パソコン上での描画はかなり負担がかかる。基本的には1/4解像度で作業を行うことになると思うが、ノイズ軽減などの処理をしていると更に時間がかかる。1/4解像度であっても3秒~4秒は描画にかかることもあるため少し編集にはストレスを感じるかもしれないため、どうしてもという場合はTIFFやDPXなどの連番で一度中間ファイルを作るというのも手だろう。
ゴミ処理はLightroomのスポット修正~TIFFを中間コーデックで使用
ちなみに雲などのタイムラプス撮影をしていると予期せぬトラブルが生じることがある。それが「鳥や虫」だ。ランダムな動きでフレームインしてくる鳥は、タイムラプス撮影ではレンズのゴミのような映像の原因となってしまう。これに関しては手で一つ一つ消していく作業をするしかないのだが、画像の修正は同じくAdobeのLightroomで行うといいだろう。Lightroomの「スポット修正」を使えば、比較的簡単に消すことができるので、何枚も作業をする際はオススメだ。RAWデータをネイティブで直接修正できることが非常に便利で、After Effectsに修正を反映したデータを使用する場合は、16bit TIFFなどの中間コーデックに書き出す必要がある。
最適な4Kの配信先は現状としてYouTubeか
書き出しの設定。H.264なら一発で4K配信が可能だ。YouTubeを活用しよう※画像をクリックすると拡大します
最終的な4Kへの書き出しはH.264が現状として効率がいい。4096×2160であれば23.976fpsまで、3840×2160であれば29.97fpsまで出力できる。ビットレートは100MB/sあたりであれば問題ないだろう。また書き出したファイルをそのままYouTubeにアップロードできるので、簡単に4K映像の配信が行えるということだ。レンダリング時間こそはかかるもの、ワークフローさえ固まれば実に安定した4Kタイムラプス制作をAfter Effectsとともに行うことが可能だ。
スライダーを使ったタイムラプス撮影
スライド撮影の様子。2本の三脚で両端を固定すれば、安定した撮影ができる
VARAVONのSLIDECAMとTimelapse Controller。コストパフォーマンスがいい
話はそれるが、今回スライダーを使った撮影も行った。撮影機材はVARAVON社のSLIDECAMにTimelapse Controllerを併用した。Timelapseで使用するスライダーは、特殊なモーターを搭載していることが多く、設定した時間間隔でシャッターを切り、その後設定した距離動くように設計されている。たとえば1mあるスライダーでカメラを右から左に動かすとして、30分の事象を10秒のタイムラプスとして収めると仮定しよう。10秒ということは300枚のスチルデータが必要で、スライダーに載せられたカメラは、6秒間隔で約3mm動けばOKということになる。このようなスライダーに載せられたカメラで撮影した素材を動画にすると、見事にレールの動きを再現させられるという仕組みだ。
4Kタイムラプスのスライダー映像
最近はこういったスライダーが割と多く発売されており、パンチルトのコントロールができるものや、設定の方法がシンプルなものなど、いろいろある。タイムラプスでカメラを動かしたい場合などは、こういったスライダーを活用することで作品がよりダイナミックになるだろう。