東京都江東区にあるタケナカの東京支店

3月5日から7日までの3日間、映像・音響機器のレンタル、販売を手がけるタケナカが東京江東区の東京支店で内覧会「TAKENAKA PRIVATE SHOW 2014 TOKYO」を行った。タケナカは定期的に名古屋支店や大阪支店で内覧会を開催しているが、東京支店では初の開催だ。同社はレンタル会社というより社内にクリエイターが何名も在籍していてレンタルのほかに企画やプロデュース、コンテンツなどのサービスも含めた空間や映像演出を行っている会社であり、内覧会でもプロジェクションマッピングや空間映像演出の事例を通じて、「タケナカだったらこんなコンテンツも含めて実現できますよ」とアピールしていた。今回はその様子を紹介しよう。

ミニチュアを使ってプロジェクションマッピングを再現

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二階で行われていたプロジェクションマッピングコーナー

内覧会の行われたタケナカの東京支店は、JR亀戸駅から歩いて約7分のところにある。2012年9月に移転してまだ日は浅いということもあり、広くて綺麗というのが第一印象だ。タケナカといえば、プロジェクションマッピングで有名だ。プロジェクションマッピングをサービスする会社はたくさんあるが、ハードとソフトの両方を取り扱う会社はあまり多くない。そんな中でタケナカは提案、企画、制作、設営、オペレートなど、全て自社で一貫して行っているところで抜け出ている。内覧会でもっともスペースを割いて紹介していたのは、プロジェクションマッピングの事例紹介だ。三階の照明を落としたフロアには、ずらりと投影する対象物のミニチュアにマッピングを投影して過去17のプロジェクトを紹介していた。

ミニチュアで再現された”太陽の塔”プロジェクションマッピング。めくるめく変わっていく映像に圧倒

タケナカが手がけたプロジェクションマッピングショーでもっとも世の中で話題になったイベントといえば、2011年、2012年、2013年の3年連続で手かげている大阪府万博記念公園の太陽の広場で行われた「イルミナイト万博X’mas BeamPainting」。高さ約70メ-トルもある太陽の塔をスクリーンにして、15,000ルーメンのプロジェクターを7台使って行われた日本最大級のショーだ。マッピング技術と効果音を駆使した幻想的な世界が大好評で、2012年の年末のショーは空間デザイン大賞2013の「優秀賞」や「地域賞」、第32回ディスプレイ産業賞2013の「ディスプレイ産業奨励賞」を受賞するなど高いクオリティも話題になった。

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奈良国立博物館のなら仏像館西側で行われた「ならファンタージア」


このほかにタケナカが手がけて話題になったショーといえば、2011年と2012年の夏に行われた奈良国立博物館の「ならファンタージア」だろう。なら仏像館の壁をスクリーンにして6台のプロジェクターを使って行ったものだ。3Dレーザーによる演出も注目だった。

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ホンダのCR-Z「MOVE」篇のテレビCMではターンテーブルの上で回転する車体に映写するという今までにない新しい試みに挑戦している


2013年2月に配信が開始されたホンダのCR-Z「MOVE」篇のテレビCMでは、車の演出にプロジェクションマッピングが使われた。プロジェクションマッピングというと静止しているものに投影するものと思われがちだが、こちらのCMの場合はターンテーブルの上で回転する車のフォルムに雨、木もれ日、街灯、流れる風景といったイメージを光にしてプロジェクションマッピングを投影している。動く立体物に誤差なくマッピングを実現しているその様子は、「プロジェクションマッピングでこんなこともできるのか?」と誰もが驚くはずだ。

多くの実績があるタケナカのプロジェクションマッピングは他社と何が違うのだろうか?数々のプロジェクトを手かげているスタッフに聞いてみた。まず、レーザーや照明の演出がトータルで可能であること。タケナカの場合はメディアサーバーからレーザーや照明、特殊効果に対して同期することが可能だ。さらに他社は2Dの平面的なマッピングが多いが、タケナカの場合はメディアサーバーを使ってオブジェクトを補正し、立体物に映像を投影できるのも強みだという。数をかなりこなしているタケナカは、ノウハウを蓄積しているとも加えていた。

もう1つは、すべてのコンテンツを社内で制作していることが強みだという。内覧会のコンテンツもほとんど社内で制作されたものだ。ソフト制作とハード運用を一緒にしてプランを考え、スムーズに作業が行える。

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おしゃれな空間を実現していたパフォーマンスステージ。テーブルにもマッピングし、統一感を実現

一階ではプロジェクションマッピングを使った空間演出のアピールをするためのDJスペースを再現したパフォーマンスステージが行われていた。90インチのモニターやLEDと共に、テーブルにもマッピングされるなど、イメージが統一されていて、CLUBのようなおしゃれな雰囲気を実現していた。タケナカはステージ演出やアミューズメント系の映像演出なども手がけているが、そのプランニングの提案として再現したものだ。

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豪華な空間演出でもこのような感じでコントロールを実現している

ステージは、パナソニックの20000ルーメンのプロジェクター「PT-DZ21K」を3台使って、DJブースの左右に配置したキューブのオブジェクトとDJブースにプロジェクションマッピングを行っている。それと同時に、映像、照明、音響が同期して演出されているところも特徴だ。同期の部分は従来のプロジェクションマッピングのショーとはちょっと違って、音に反応するVJ的なものに切り替えられるようになっている。音がきっかけで照明が変わるように組まれることによって、大きな照明卓というのもいらなくなるのも特徴だ。このような同期の技術はお台場の東京ジョイポリスのメインステージのマッピング映像演出ですでに活用されているとのことだ。

現場で必要なものを自社で実現するタケナカのオリジナル商品

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フレームの中でもプロジェクションマッピングの調整が可能な微調フレーム。スタックも可能だ。調節はすべての方向に可能で、細かな調整ができる


ソリューションなどの展示についても紹介しよう。まず目に映ったのはタケナカのオリジナル商品のブースで、その中でも注目だったのがプロジェクターの向きを微調できるフレームだ。プロジェクションマッピングを実現するにあたりプロジェクターの向きの微調整というのが問題になる。フレームごとに動かそうとすると、どうしても投影された画面は大きな移動になってしまう。そこでこのオリジナルフレームは中に調整の機構を導入して、フレームの位置は固定したままで向きの微調節が可能になるというものだ。

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中央のものがtiledの金具。自在な形に設定することが可能だ

こちらはスクエア型ディスプレイの金具だ。タケナカの扱う機材に画面比1:1のタイル型液晶ディスプレイがあるが、メーカーのほうで吊りの金具が用意されていない。そこでタケナカが独自に吊りのユニットを制作したというものだ。全方位につけることができ、Tの文字のようになにかの形に組めるのも特徴だ。

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こちらは太陽の塔のミニチュアを設置してHolocubeとBeamPaintingを組み合わせた例



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Holocubeの15インチモデル

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Holocubeの19インチモデル


メディアインタラクティブコーナーに展示されていたソリューションも紹介しよう。Holocubeは映像が浮かび上がるような3Dの投影システムだ。特殊フィルムや特殊アクリルパネルを使って空中に浮かび上がるような映像表現を実現できる。

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複数で楽しむことができる「Big Live AR」

こちらはLEDディスプレイを使用して大型ライブAR「Big Live AR」だ。画面の中にキャラクターが現れて、撫でたり一緒に写真を撮ったりできるようになっていた。

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タイル型ディスプレイを自在に組み合わせたものにセンサーが搭載してあり、パズルができるようになっていた

3×3のボード上で、8枚のコマを元の形に戻す8パズルゲームを体で操作できる「タイルドパズル」だ。22型(960ドット×960ドット)のタイル型ディスプレイを組み合わせたものにレーザーセンサーを搭載して、インタラクティブな演出を可能にした。

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ショーケースに置かれただけの状態。時計が見える状態で、商品の特徴を表現しやすいコンテンツを流すことができる


画面前後の商品が透かされて見える透過型ディスプレイ「Digital Showcase」だ。ケースの中央には時計が配置されていて、ケース前面にはタッチパネル式の47インチ透過型ディスプレイが配置されている。タッチすると時計をアピールするコンテンツや説明などが流れるようになっていた。映像と実際の製品を融合させたような感じだ。ショールームとかに商品の演出の1つとして置いておくと面白いだろう。

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透過型のカーブディスプレイ

透過型カーブディスプレイも展示されていた。数インチから40インチまでラインナップされていて、今までにない形状にも対応可能というのが特徴だ。

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最多24台までの連結が可能な「マルチタッチマルチディスプレイ」

こちらは24台まで連結可能な「マルチタッチマルチディスプレイ」だ。手の形や向きまで認識することが可能で、観覧者の向きに合わせてコンテンツの表示が可能。認識するタッチの数も無制限で複数の人がプレゼンを行ったりすることができる。

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Photo+本体での撮影。写真の内容をすぐに確認できる

こちらは会場内で撮影した写真をリアルタイムに表示したり、触って拡大縮小したり、テキストを吹き込んだりできるソリューション「PHOTO+」だ。イベント会場などに設置し、その場で写真撮影をして、その場で写真をダウンロードすることも可能だ。具体的には、写真撮影をすると写真をモニターからモニター、モニターからスクリーンに映像や写真を移すことができる。QRコードから写真をダウンロードも可能だ。写真にはフレームをつけたり、写真に落書きをしたり、Facebookにアップロードしたりすることもできる。

実用的なところまで近づいてきたイベント業界向け4Kソリューション

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4Kの映像演出ソリューションのデモ。左が4Kの民生の液晶テレビで、真ん中がHDの液晶のモニターを4つマルチにして4K対応にしたもの。右が4Kのマスターモニター。実際のライブイベントでの運用を再現した状態だ

今回の内覧会で、4Kの映像演出ソリューションのコーナーというのも興味深い展示だった。イベント業界では4Kの案件というのはまだ数は多くないが、2020年の東京オリンピック開催に向けての影響や、今年7月の4K試験放送スタートなどによって4Kへの機運がどんどん高まってきている。しかし、現在のところ4Kにはどういった送出やスイッチャーなどの機材があって4Kでどういったことができるのかあまり知られておらず、恐らくみんな情報収集している最中なのではないだろうか。今回の内覧会には実際に4Kのライブカメラから入力された映像や、ビデオ送出機から非圧縮の映像素材を切り替えて民生用の65インチ4Kテレビや46インチ×4台のマルチに出力するライブ演出のデモが実際に行われていた。

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4KのマスターモニターSony PVM-X300。有機ELで4K送出の品質管理ができる

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4Kの映像演出ソリューションのシステム図

興味深いのは、4K映像送出の部分だ。この部分は今年6月に発売予定のローランドのマルチフォーマットビデオプレゼンター「PR-800HD」を4台同期させて実現していた。PR-800HDというと1080/60pの本出しというイメージの製品だが、フルHD 1080/60pの機材を4台同期させて4Kのソリューションを実現していた。PR-800HDを4台シンクロさせて非圧縮の4K 60pのポン出しの実演デモというのは今回のタケナカの内覧会が初公開とのことだ。

ゲンロックによるフレーム同期とMIDIによる操作の同期に対応しているとのことだ。しかも、4KであってもPR-800HDでお馴染みのクイックレスポンス再生が可能というところも特徴だろう。ブースのスタッフは「HDの素材をシンクロして送出できる機材というのは実は世の中にはあまりないのですが、PR-800HDはできます。そのシンクロを4台重ねてみれば4Kになるわけです」とアピールしいていた。

EMPW_04_39.jpg PR-800HDがシンクロして4K非圧縮の4K 60pの本出しを行っている

スイッチャーのほうも注目だった。こちらもローランドのビデオスイッチャー「V-800HD」が4台設置されていてMIDIで4台が同期していた。1台がマスターで、ほかの3台がスレーブになっている状態で、マスターのフェーダーを操作すると4台同期して4Kのキー合成の結果を操作できるようになっていた。4KであってもフルHDと変わらない感覚で操作が可能といった感じだった。

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V-800HDもシンクロして動いていて、4Kのキー合成を試せる状態になっていた

このソリューションのポイントは、あくまでも全部ばらばらのHDが4本送出されていて、スイッチャーと送出側でシンクロしているというところだ。4K映像演出というと「まだまだ先になるのではないか?」と思われがちだが、このようにHDの機材でも4Kに対応できるというところを見るとだんだん手が届くところになってきたということを実感する展示だった。

タケナカ 代表取締役 武仲秀晃氏インタビュー

今もっともホットなイベントアトラクションとして注目を集めているプロジェクションマッピング。それをリードしているのがタケナカだ。そこでタケナカの強みやどういった経緯でプロジェクションマッピングを始めたのかなど、タケナカの代表取締役 武仲秀晃氏に話を聞いてみた。

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タケナカの代表取締役 武仲秀晃氏

東京支店での内覧会は初めての開催ですね。

武仲氏:東京支店はお披露目をしたいと思っていたのですが、なかなかできませんでした。今回はお披露目も兼ねて、一階から三階まで見ていただけるようにしました。

タケナカは名古屋や大阪のほかに海外にも拠点がありますが、それぞれの特色はどうでしょうか?

武仲氏:実はやっている内容がちょっと変わっていまして、東京のほうがイベントとかコンサートなどのエンターテイメント系、マッピングなど多岐にわります。大阪とか名古屋は比較的セミナーなどコンベンションとか、どちらかといえば比較的企業様とかMICE系とかそういった仕事が多いです。

タケナカの強みというのはどんなところにありますか?

武仲氏:まずベースの部分ですが、社内でクリエイターとテクニカルをやられている会社さんもほかにあると思うのですが、我々の場合はそこのコミュニケーションを密にしています。状況によっては一人が複数のことをやったりとか、あるいは音に対しても情熱をもって取り組んでいます。複数人が当然コミュニケーションをとるのは当たり前なのですが、かつ一人の中でも業務の範囲を広げるようなことを命題にしてやっています。

「私はこの部分だけを」とかではなく、お客様のユーザーエクスペリエンスを高めるような「なにが面白いか」というのを、1つのベクトルとしてみんな考えていこうというふうにしています。そして、コンテンツ制作から、企画、ハードの設営、運用までというワンストップの部分が特徴です。今後はその部分を空間演出とかのほうにも広げていきたいと思っています。

タケナカは映像を作るチームにしてもブランドみたいなものも立ち上げられていますね。

武仲氏:日本の場合はどうしても、あそこは「何屋さん」というイメージを決める傾向があります。例えばレンタル屋さんとか、コンテンツ制作屋さんとかいった感じです。ある程度、カテゴライズを決めてしまう感じです。我々の場合はもともと映写機を作っていたり、機材レンタルとか販売をやっていたこともあり、お客様によって見かたが異なっているのが現状です。そこである程度「こういうことをやっています」ということをアピールするために、ブランド的な名前や、チームを作っています。

ここ数年で案件の傾向などに変化はありますか?

武仲氏:以前からの株主総会や学術会議、企業セミナー、式典は従来通りあるのですが、最近は「こういう機材を貸してください」とかではなく、「こういう場でこういうことをしたいのですが、なにかいい案はないですか?」というのが非常に多いですね。その中で「今回はマッピングがいいですよね」とか、「今回はサイネージがいいですね」といった事例は増えてきました。

プロジェクションマッピングについてお聞きします。日本でもリーディングカンパニーといわれるぐらいかなり早くから手がけてきていますが、なにがきっかけでプロジェクションマッピングを始められたのでしょうか。

武仲氏:もともと我々は「コンテンツチーム」と「映像制作チーム」「ハードチーム」がばらばらのことが多かったのです。そこで、なにか1つのチームでできることがないかというのを探したのですね。その中で、プロジェクションマッピングというのがある程度、見聞きする場がたまたまありました。これは面白い、チャレンジしたいというのがきっかけでした。

プロジェクションマッピングも2009年ぐらいから始められているので、リピーターのようなプロジェクトも増えてきているのではないでしょうか。

武仲氏:おっしゃる通りです。一度行えば効果測定というのもお客様のほうでも見えてきます。その結果、比較的毎年やりたいというお客様の声が非常に多いです。「今回はこうしましょう」とか「ああしましょう」とか一緒に考えながらやらせていただく場が増えてきましたね。

上質なコンテンツをつくらなければいけないというプレッシャーはありますか?

武仲氏:そういう意味では、コンテンツ制作のレンダリングシステムやクリエイターのチーム含めて、今は常に見直しております。当然チームを増やしていくのもそうですが、コンテンツ制作から送出までのワークフローの見直しというのも大事で、最適化も常に考えています。あと、我々は音も非常に注力しています。社内にはタケナカオーディオというPA部門があります。やっぱりイベントは、まず音からです。われわれは音には心のスイッチがあると思っています。音というのはすごいいい空間を作っていくために必須だと思っていて、音も自社でオリジナルを実際に作っているものも多いです。

最後に、タケナカが今後手がける大掛かりなコンテンツにどんなものがありますか?

武仲氏:東京ドームシティに、いろいろな視点から宇宙を楽しめる宇宙ミュージアム「TeNQ」というのが今年7月上旬にオープンします。タケナカは4Kコンテンツ制作及び機材プランをさせていただいております。ハイエンドなマッピングの映像技術と音の融合したシーンというのを生で見ていただけると思います。ぜひ楽しみにしていただければと思います。

総括

タケナカのプロジェクションマッピングのプロジェクトにはいつも驚かされるばかりだが、東京ドームシティで公開予定の「TeNQ」は、直径11mの大型円形高解像度シアターに映像は4Kの高解像度が使用される予定で、今までのところからさらに飛びぬけたコンテンツを実現する予定だという。常にプロジェクションマッピングの最先端をリードしてきたタケナカだが、今年もいろいろなプロジェクトで話題をさらいそうだ。

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。