今回のコラムではRED EPIC DRAGONについて書きたいと思う。このカメラはその名前の通り「怪物」といっていいだろう。DRAGONが捉える映像は息をのむほどに美しい。しかし、思い通りに操るにはなかなか骨の折れるカメラだ。少し長い文章になってしまったが、REDがDRAGONで実現した新しい世界を見ていただけると幸いだ。このYouTube映像は6Kで撮影した後にUltra HD 4Kにダウンコンしたものである。視聴環境に合わせてみていただきたい。

DG_vol21_00.jpg

DRAGONが捉える6K映像の大きさ。その解像度の大きさは「圧倒的」だ

RED EPIC DRAGONの抱えていた問題

DG_vol21_01.jpg

新たにDRAGONセンサーが搭載されたEPIC。全面と側面にDRAGONの刻印が

4KデジタルシネマのパイオニアであるREDがRED EPIC DRAGONの具体的なリリースを発表してちょうど一年が経った。実際に日本でも数台のDRAGONがすでに入荷済みで、新しい6Kセンサーの実力を楽しみにしている人も多いはずだ。しかし、未だほとんど、DRAGONの映像の情報は明らかにされていない。NABも終わり、本来ならばいろいろな場所でDRAGONの画がUPされ始めてもおかしくない時期だ。しかしまわりで「撮影でDRAGON使っています」なんていう人はおそらく皆無であるし、その実際の映像スペックは未だ闇につつまれている。実はそれには、それなりの理由があったのだ。

DG_vol21_02.jpg

BRAIN上部のファンも新たに改良され、空冷が強化された

そんなはずはない??ノイジーな画質

我々がDRAGONを手にしたのが今年2月の半ばなのだが、なかなか現場で使えない諸事情があったと言っていい。正直な話、これまで何度も撮影テストを繰り返してきたのだが、納得できるレベルの映像を収録することができなかった。正直なところDRAGONの画はお世辞でも前身のEPICよりキレイな映像とは言えないような始末だったのだ。それなりの投資をしているのはもちろんだが、世界最強のスペックを誇るカメラであると信じているが故に、「そんなはずはない!!!」と自分に言い聞かせる日々が続いた。

一番の懸念は、何といってもノイズレベルが大変高いということだった。デイライト下で撮影したISO400の素材でも、暗部には気になるほどのノイズが発生しており、到底現場で使えるレベルに達していなかったと言っていいだろう。確かに6Kの解像度は素晴らしいと感じつつも、特に合成などを目的としたグリーンバックの撮影などには怖くて使えないというのが現状だった。

DG_vol21_03a.jpg DG_vol21_03b.jpg
ISO400で撮影した素材。一枚だけでみると綺麗に見えるが…暗部の部分を100%表示すると、ノイズが顕著にわかる
※画像をクリックすると拡大します

新OLPFがもたらした問題

DG_vol21_04a.jpg DG_vol21_04b.jpg
写真左:6K(6144×3160px)という解像度を収録できるDRAGONセンサー。写真のセンサーは新OLPFが搭載されている
写真右:5K(5120×2700px)を最大解像度とするMysterium-Xセンサー
※画像をクリックすると拡大します

更に、撮影したDRAGONの素材がAdobe Premiere Proのタイムラインに載らないという大きな問題に直面した。本来ならばAdobeはすでにDRAGONのネイティブ対応を済ませているはずなのに、なぜが「サポートしていない形式」とされてしまう。これには正直驚いた。実はREDは2月にDRAGON用の新しいOLPF(オプティカルローパスフィルター)の実装を開始したのだが、この新OLPFのDRAGONで撮影された素材はPremiere Proでは扱えないのだ。むむむむ!手元にあるDRAGONは新しいOLPFではないか!あるDRAGONのユーザーからも「江夏さん、DaVinci Resolveでも読める素材と読めない素材があって困ってます」というメールをいただいた。旧OLPFと新OLPFの2種類があるDRAGONの素材は、編集ソフトで読めたり読めなかったりすることが起きているということだ。とりあえず4月になってPremiere ProでもDaVinci Resolveは新OLPFの素材にも対応したのだが、ポストプロダクションのワークフローが未だ不透明であるという事実は否めない。

DG_vol21_05.jpg Premiere Pro CCも遂に新OLPFの素材も対応した
※画像をクリックすると拡大します

ただし新しいOLPFはレンズフレアを抑えたり、解像感をUPさせたりといった多くの改良がなされている。カメラという点では大きな進化を遂げているDRAGONはREDの並々ならぬ思いが形になったものだといえるだろう。このOLPFに関してはREDUSERのページを見ていただきたい。

DG_vol21_06a.jpg DG_vol21_06b.jpg

REDUSERのサイトに掲載された新OLPFと従来のOLPFとの比較画像。従来のOLPFには幾何学模様のフレアが入るなどの症状があった


そして登場。DRAGONのためのカラーサイエンス

DG_vol21_07-1.jpg DRAGONセンサーに対応した最新版Build 30.33198。待望の機能が満載だ
※画像をクリックすると拡大します
DG_vol21_07-2.png

カラーサイエンスも新しくなり、ついにREDgamma4、そしてDRAGONcolorというカラースペースに対応することとなった
※画像をクリックすると拡大します

っと長い前置きになってしまったが、遂に、ここで本当のDRAGONが捉える映像を伝えられる時が来た!と、少し大げさかもしれないが、ようやく胸を張ってDRAGONの素材を見せることができるようになった。それがNAB2014に合わせて発表になったDRAGONセンサーにオプティマイズされた最新の現像設定の登場だ。

DRAGON用のDebayerプロセス、A.D.D.がREDCINE-Xに搭載され、DRAGON素材に最適化されたカラーサイエンスであるDRAGONcolorとREDgamma4が併せてリリースされた。これにより公称通りの6Kハイクオリティ素材がノンリニアで走らせることが可能になったのだ!いよいよ6Kの世界が現実的なワークフローの中で動くことになる。ちなみにREDCINE-Xも正式にCUDAに対応することとなり、NVIDIAのグラフィックカードの恩恵をワークフローの中で組み込めるようになったのも嬉しい知らせだ。


DG_vol21_07-3.jpg

さらにREDCINE-XがCUDAに対応し、現像作業も高速化する

DG_vol21_07-4.jpg

Preference内にあるA.D.D.の設定画面。CUDAに対応したこともあり、A.D.D.を使用したポスプロが増えることだろう

A.D.Dがもたらす、最高画質の世界

Advanced DRAGON Debayer(A.D.D.)は今回の大きな目玉である。もともとEPICのMysterium-Xというセンサーから大幅に改良されたのがDRAGONセンサーであるため、従来のEPIC用のDebayerプロセスでは「DRAGONセンサーの良さを活かしきれていない」という状況を生んでいた。通りでノイズも多いはずだし、現像された映像が納得できるものにならないわけだ。A.D.Dをかけて現像を行うと、ノイズが抑えられて、今までに見たことのないような美しい映像に仕上げられる。ちなみに、今回RED CINE-Xで90秒のフッテージをA.D.Dをアクティブに6KDPXの連番にレンダリングしたところ、8時間ほどの時間がかかった。長尺の作品の場合は、ファイルの格納場所も含めてワークフローの見直しが必要となるだろうが、CMなど短尺のものであればA.D.Dを常にアクティブにするのもいいだろう。

RAWの圧縮を決めるREDCODEの設定にも注意が必要だ。今回、6KでREDCODEを8:1、10:1、12:1の3パターンでテストをしたところ、ビットレートの高い8:1に比べて12:1の方が当然のことながら暗部へのノイズは目立つ結果であった。30fpsのビットレートを計算したところ、おおよその大きさとして8:1=950Mbps、10:1=750Mbps、12:1=630Mbpsとなり、8:1と12:1では1.5倍ほどファイルサイズが違うことがわかった。DRAGONの圧縮RAWは10:1でProRes4Kと同等になるという計算だ。実際、12:1で収録した素材は若干ではあるがノイズ感が多く感じられるため、8:1での撮影や、A.D.D.との組み合わせを考えたワークフローを上手く取り入れるといいだろう。また6Kから4Kのダウンコンを行うと、物理的にノイズを減らすことが可能で、おおよそ68%の縮小に伴い、約4db程度のノイズリダクションを行える。当然HD納品であっても、撮影は6Kの10:1での撮影をスタンダードにすれば、A.D.D.プロセスをしなくてもかなり高画質を得られることになるというのが大きな魅力の一つだ。

DG_vol21_8_01.png DG_vol21_8_02.png

写真左:ノーライトでのナイトショット。6KのR3Dファイルを100%表示したところ、暗部へのノイズは顕著である


写真右:008_01にA.D.D.をアクティブにしたところ、ノイズは大きく軽減されている


強化されたフォーカスアシスト機能

DG_vol21_09.jpg

6K収録をEFレンズで行うとフォーカスがシビアで非常に難しいので、アシストを駆使して行うといいだろう

4K撮影時に撮影現場で特に注意を払わなければならないのが、フォーカシングである。Super35mmサイズのセンサーで収録解像度が大きくなればなるほど、被写界深度は浅くなるため、解像度の拡大化はカメラマンを悩ませる種になっている。当然6K対応型のモニターは存在していないため、撮影時の6Kチェックはできない。またEPICで4Kをモニタリング用に出力したいのであれば、EPIC本体のBRAINの他に、この夏以降に発売となる4K出力モジュールが必要になるなど、4Kモニタリングシステムはあまり現実的ではないだろう。4Kモニターに頼ることができないのであれば、4Kカメラに求められる力はフォーカスアシスト機能だ。

2013年12月にリリースされたEPICのファームウェアver.5.1から、拡大フォーカスの位置を任意に選択できるようになった。これによりタッチスクリーン上のスポット枠を指でドラッグして移動し、任意の場所でToggleボタンを押すことで拡大フォーカスを行えるのである。ちなみにこの拡大はドットバイドットで確認できるため、6Kでも正確にフォーカシングを確認できるのでありがたい。

またスポット内の対象物にフォーカスが合っていない場合は、スポット枠のフレームが赤に、ファインフォーカス時はグリーン、そしてその中間のほぼあっている状態では黄色に色が変化するため、拡大フォーカスと組み合わせることでフォーカシングはやりやすくなっている。ただし、対象物のコントラストが薄い場合はスポットがグリーンであってもフォーカスが合っていない場合もあるようだ。またREC中はこの機能が使えない。とはいえ、非常に現場では待望ともいえる機能だけに、このフォーカスアシストは非常に重宝することになるだろう。

DG_vol21_10a.jpg DG_vol21_10b.jpg 写真左:ファインフォーカスになるとスポットはグリーン表示されるが、その範囲は非常にシビアだ
写真右:おおまかにあっている場合は黄色に表示されるが、外れていることも多いため注意が必要となる
※画像をクリックすると拡大します

「RED Key Mapper」と「RED Guide Creator」

今年の2月に「DSMC TOOLKIT」というRED製品の使用をアシストするソフトウェアのパッケージがアップデートされた。その中に「RED Key Mapper(以下、RKM)」というカメラアサイン設定を行うためのソフトウェアが追加された。実はこれが意外と使い勝手がいい。EPICはサイドハンドルやLCDモニターなど、アサインボタンが何個もあるため、どこに何のボタンがあるか意外と混乱しがちだ。そんなとき、RKMを使用すれば膨大な数の機能(なんと177個!)から好きな場所に簡単に設定できるのだ。ソフトを入れたら、保存先をREDMAGのSSDにし、本体で再度読み込むだけである。注意点として、SSDにKeyMappingのデータを書き出す際は、必ず「Presets」というフォルダを作成し、その中に保存しなければならない。個人的には、サイドハンドルのアサインはデフォルトですべて何かしらが設定されているが、移動時などに間違えて触ってしまうことが多発したため、思わず触ってしまうような位置にあるボタンのアサインはすべて解除している。

DG_vol21_11.png RKMのインターフェイスはシンプルで、アサインのためだけに作られているため、どこに何をアサインするかが一目瞭然だ
※画像をクリックすると拡大します

RKMとともにTOOLKITに同梱されている「RED Guide Creator(以下、RGC)」は、モニター上にフレームガイドを表示させるためのソフトウェアだ。EPICは6Kだけでもフルサイズの6K、6K WS、6K 2:1、6K HDなど、解像度がわかれている。もちろん必要となる解像度を選択すればいいが、フルサイズの6Kであれば遊びも含めてポスプロで画角を微調整できるため、基本的に6Kで収録するのがいいだろう。その時にRGCのフレームガイド表示でフレーミングを行えるのは魅力である。RGCのUIはシンプルで、収録解像度の選択、フレームの選択、フレームの色・形状の選択、タイトル/アクションセーフの表示項目などフレームに関するもののみで構成され、撮影用途に適したスタイルのフレーム表示をできるのだ。撮影に応じてフルカスタマイズできるのは嬉しい。

DG_vol21_12.png

RGCは任意のフレームを表示させられる。6K FULLで収録し、ポスプロでクロップするワークフローが一番いい

4Kパイオニアの進む道

DG_vol21_13a.jpg DG_vol21_13b.jpg
NAB2014のREDブースの様子。4KのSDI出力モジュールも発表された
※画像をクリックすると拡大します

どうしてもREDにはいい噂が少ない。アメ車のような感じで、少々荒削りなイメージを持っている人も多いだろう。カメラ自体中々手にできない状況にある中、悪い印象が先行してしまうようだ。2007年にRED ONEをリリースし、7年の月日を経て、いまだにデジタルシネマの世界をけん引するRED。今回DRAGONの映像を編集して、このカメラの持つポテンシャルの大きさに圧倒された。NAB2014をキッカケに、4K出力のモジュールなども発表し、進化をし続けるREDにはこれからも期待していきたい。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。