前回から引き続き、小型カメラの付加価値を大きく上げる周辺機材を紹介しよう。ワンマンオペレーションを効果的にする3軸ジンバルだ。

小型カメラ用3軸ジンバル「e-ジンバル」

DG_vol25_11

GH4やα7SなどDSLRの中でも軽量な4Kカメラが登場している今、軽量なe-ジンバルは、大きな武器となることは間違いない

そしてもう一つの機材がRedWolfのe-ジンバルという3軸ジンバルのスタビライザーだ。もちろん「3軸ジンバル」の先駆けでもあるFreefly SystemsのMoVIはすでに多くの現場で使用され実績も多いのだが、その分遅れて登場したe-ジンバルに求められたのはReady-to-shootというシンプルで高い機動力だ。この手の機材は必ず撮影前にキャリブレーションをしないといけない。e-ジンバルの特徴は、カメラを取り付ける際に行うバランス調整、そして撮影直前に行うセンサーのキャリブレーション、全てのプレシューティングの作業を5分以内で行えるところにある。

センサーのキャリブレーションに至っては、ものの10秒の作業だ。一度カメラを取り付けてしまったら、おそらく現場でもたつくこともなく初心者であってもガンガン撮影を進められるというのは素晴らしい点だと思う。

全てが軽量・シンプル~ジョイスティックで「理想のワンマンオペレーション」

DG_vol25_12

仕様として、カメラの最大積載重量は最大で2.8kgとなっており、DSLR系のカメラであればほとんどのものが載せられる設計だ。このジンバル自体の重さが、付属のモニターとバッテリーを付けても2kg程度なので、全体の重さはせいぜい4kg程度となり、女性でも片手で持てる重さだ。テスト撮影ではカメラマンが2時間続けて持っていたが、重さに問題は全くなく、理想の機動力を発揮した。

DG_vol25_13

カメラのRECボタンは自分で押すこととなるが、e-ジンバル自体が軽量なため、片手で持つのも非常に楽だ

そして更に「理想のワンマンオペレーション」を実現しているのが、ハンドルのグリップ位置に搭載されているジョイスティックだ。MoVIと同様にジンバル自体を横に5度以上回転させれば、カメラもその方向へのパン移動を追従する(スウェイ機能)のだが、それとは関係なくカメラ自体のオフセットとしてパン・チルトを操作するのが、このジョイスティックである。

DG_vol25_14

ハンドルに設置されたジョイスティックは、ゲーム感覚でパンとチルトを調整することができる。しかしハンドリングに集中しすぎるとジョイスティックを無意識に触れてしまうこともある。練習は不可欠だ

ジョイスティックを横方向に操作するとカメラのパン、縦方向に操作するとチルトを動かせる仕組みで、ゲーム感覚ともいえる操作で多彩なカメラワークを可能にした。どうしても被写体をあおりたい時や、微妙にパンしたい時など効果的に撮影を挑むことができる。ジョイスティックの感覚に慣れてしまえばカメラマン曰く「最強の3軸ジンバル」だそうだ。

Made In Japanの高精度設計

DG_vol25_15

e-ジンバル背部には32bitセンサーを搭載したジンバルコントローラーがあり、ここで3軸のジャイロをコントロールする

使用するバッテリーはラジコンヘリで使われるLiPoバッテリーである。1本で連続使用2時間は問題なく、現場には3本あれば十分だ。2200mAhで充電時間は1時間半程度(高速充電で30分ほど)なので、使い勝手もいい。もともとジンバルの技術は多軸のラジコンヘリで応用されている技術である。

RedWolfブランドのジンバルは、FlightEditという空撮会社が製作を行っており、長年の撮影技術のノウハウを凝縮してプログラミングしているため、どの3軸ジンバルよりも「高精度」なスタビライズが可能になったという。200以上のパーツを国内外から集め、日本で組み立てているMade In Japanの機材だ。アフターケアや(自然故障1年)、リモートコントロールや空撮システムへのカスタマイズも合わせて技術的な保障は万全な体制で取り組んでいる。

ジンバルにはカメラユニットとフレームに独立した2つの高性能ジャイロセンサーと、コントローラーには最新の32bitのセンサーを採用した。従来機ではシングルジャイロと、8ビットコントローラーが主流であったために、高い精度がe-ジンバルの最大の特徴となっている。そのため、初心者でもだいたいのオペレーションは行えるのが素晴らしい。機材に慣れている人であれば1日の練習で、ほぼマスターできる「特機」なのだ!

すぐに撮影できる機動力が魅力

DG_vol25_16

カメラの取り付けは、レンズを付けた状態で3か所のバランスを調整する。まずは光軸が中心に来るようにカメラをジンバルに取り付けて、前後のバランスを整える。そしてレンズを上に向けて、ジンバルのマウントのバランスを整える。そして最後に本体のチルトバランスを直角に調整するだけだ。おそらく5分程度で終わる作業だ。後は電源を入れて、両手でハンドルを持ち、カメラが接地する状態で全てのパーツの角度が90度になるような状態でキャリブレーションを行う。

2か所のジャイロセンサーが位相差を計算し、自動でキャリブレーションが行われる。おおよそ10秒で完了だ。このキャリブレーション作業は、撮影中でも頻繁に行うことになる。少し激しく動いてしまったときや、時間や場所の経過の中でより精度の高いスタビライズを可能にするために必要な作業だ。といっても10秒で終わる簡単な作業なので特に問題はないだろう。

DG_vol25_17

とにかく慣れは必要だが、非常に軽いため、長時間持っていても疲労はそれほどひどくない。ドキュメンタリーなどでも重宝されると感じた

撮影の日に初めての使用だったのだが、3時間に及ぶ収録の中で調整時間に惑わされることも一切なく、トラブルもなかった。もし演者の動きのリハーサルなどが行えるのであれば、より完璧なステディショットを狙えることは間違いないだろう。一つだけ気を付けなければいけないことは、上下の動きにはスタビライズが効かないということだ。物理的にジンバルを上下に動かしてしまうと、この手の3軸ジンバルは動きを吸収できない。カメラマンはその点だけは注意してオペレートする必要がある。

コストパフォーマンス抜群の一台で4K映像を効果的に

DG_vol25_18

今回は同梱の7インチのモニターを使用したが、今後ATOMOS SHOGUNが登場すれば、モニタリングをしながら4K外部収録が行える。e-ジンバルとの組み合わせはいいだろう

このe-ジンバルにはHDMI接続で、取り外しの可能なフード付きモニターが同梱されており、バッテリー1本と充電器も一緒だ。別途必要なのは、必要な長さのウルトラスリムタイプのHDMIケーブル(カメラにあわせたタイプのもの)だけだ。今回はGH4だったので、micro HDMIからHDMIのウルトラスリムケーブル1m(2500円程度)を用意した。ケーブルが太いとスタビライズ動作に影響が出る恐れがあるので、このあたりは載せるカメラに合わせて購入するといいだろう。

今回はマイクロフォーサーズのセンサーだったので、フォーカスはそこまでシビアにはならなかった。それどころかLUMIX G VARIO 7-14mmのオートフォーカスが非常に優秀で、記録中も被写体へのオートフォーカスが可能だったため、4K撮影であってもそれなりにフォーカシングが行えた。ここまでのオペレーションが行えるのは、正直夢のようでもある。いやはや素晴らしい時代だと、撮影しながら少々感動すら覚えた。e-ジンバルについてはこちらを参照していただきたい。

総括

4Kカメラのみならず、さまざまな撮影機材がダウンサイズされる中、撮影にかかわるマンパワーも減少傾向にある。とはいえ最近のカメラが捉える映像クオリティは飛躍的に上がっている。今流行りの「視点移動」のショットを組み合わせるだけで、映像の持つ力も最大限に演出させることが可能だ。レールショットやステディショットがここまでお手軽に組み込めるとなると、限られた時間やバジェットの中でも無限の可能性を作品に活かせていけるのではないだろうか。


◀︎Vol.01 [DigitalGang! Extra]

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。