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プロジェクションマッピングが隆盛した理由
2012年は、東京駅丸の内駅舎で記憶に残るプロジェクションマッピングイベントが行われた。
今回ご紹介するのは、2012年9月に開催された「TOKYO STATION VISION」だ。こちらは2万ルーメンのプロジェクターを46台使って120メートルにも及ぶファンタジックなコンテンツを駅舎に投影したことで大変に話題になった国内最大級のプロジェクションマッピングイベントだ。
近年、全国各地でプロジェクションマッピングイベントの開催が増えているが、この「TOKYO STATION VISION」がプロジェクションマッピングイベントにブームの火をつけたといっていいだろう。この国内最大級のイベントの技術面を影で支えたのが、株式会社エス・シー・アライアンス メディアエンターテイメント社 執行役員COOの内田照久氏とシステムラサ有限会社の高嶋一成氏だ。「TOKYO STATION VISION」の制作の舞台裏や、近年のプロジェクションマッピングイベントでの使用機材などの最新事情を取材した。
ソフト面とハード面で強みを持った2社がチームを編成
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エス・シー・アライアンス メディアエンターテイメント社 執行役員COOの内田照久氏とシステムラサの高嶋一成氏
内田氏と高嶋氏に話を伺うためにお伺いしたのは東京・新宿区にあるエス・シー・アライアンスの早稲田オフィスだ。国内では前例のない規模の「TOKYO STATION VISION」を成功させた背景には、どんなノウハウがあったのか?まずは、内田氏と高嶋氏の会社の概要から聞いてみた。
内田氏のエス・シー・アライアンスはコンサートやミュージカルのPAやSRのサポート、演出設備のシステム設計などの空間演出を手がけて設立されてからそろそろ50年になるという老舗の企業だ。その中でも映像部門は、もともと別会社だったフィルムスライドプロジェクターのPIGIで有名なウーテーセー・ピジ・ジャポンを2008年に合併して設立されたものだ。
内田氏自身もウーテーセー・ピジ・ジャポンでコンサートや企業イベントの背景などの大型映像の世界に10年以上携わってきたという経験の持ち主だ。そしてなんといってもエス・シー・アライアンスの強みは、ビデオや大型プロジェクションを簡単かつ統合して同期させることができるマッピングコントロールシステム「Onlyview」を運用していることと、そのコンテンツを作ることができることだ。
Onlyviewというと、バンクーバーオリンピックやソチオリンピックの開会式といった最高の舞台の演出にも使われている著名な機材だ。Onlyviewは買えば誰でも使えるというものではなく、フランスのウーテーセー・フランスから認められた代理店のみが使えるというシステムで、国内のみならずアジア圏ではエス・シー・アライアンスだけが扱うことができるというものだ。
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エス・シー・アライアンスの早稲田オフィス内で稼動していたOnlyview。画面は調整をしているところで、Onlyviewで映像をゆがませて投影物に合わせていくといったことが可能だ
一方、高嶋氏のシステムラサは、もともとはソフトウェアの開発からスタートした企業で、録音と音響をやるようになり、そこから映像も加わってきてイベントや設備設計寄りにシフトしてきて、2000年代ぐらいからはイベントや舞台の企画、制作が中心になったという。
特に内田氏と出会った2011年ぐらいからプロジェクションマッピングが多くなってきているとのことだ。システムラサの強みはイベントや展示会、セミナーなどを実現するための機材を豊富に取り揃えていることや、これらの機材の運用のノウハウを十分にもっていることだ。
つまり、エス・シー・アライアンスはソフト面が強くて、システムラサはハード面が強いというわけだ。そこで両社は、それぞれの強みを生かしてチームを組んで数々のプロジェクトの制作協力を行っている。
プロジェクターメーカーの各社から2万ルーメンもの大型のプロジェクターが登場してきているが、1社でドンと揃えるというのはなかなかできることでないと内田氏はいう。
そこで、エス・シー・アライアンスがOnlyviewを使ってマッピングの工程を担当し、システムラサがプロジェクターを用意して、調整するという部分を行うチームを組んで、ソフト面専門とハード面専門のお互いの得意分野をうまく出し合いながらプロジェクト制作を実現するようになったという。
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「鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか 2014」のプロジェクターの調整中の様子。グリッドが投影されている
両社が手がけたのは「TOKYO STATION VISION」以外にも、2013年3月や2014年3月に行われた福島県会津若松市の鶴ヶ城に投影する「鶴ヶ城マッピング はるか」や2013年12月の東京スカイツリークリスマスプロジェクションマッピング、2013年7月に東京都港区の東京ミッドタウンで行われた「深海4Dスクエア」では高さ15mを超えるダイオウイカに360度投影するなど、主にNHKエンタープライズの企画する誰でも聞いたことがあるようなメジャーなイベントの制作の部分で活躍中だ。
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「鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか 2014」の調整後の様子。城のエッジを投影している
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「鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか 2014」の本番コンテンツの様子。影絵作家 藤城清治氏が描き下ろした地元ゆかりのキャラクターが投影されている
チームワークや横のつながり、短期集中の集中力が成功の要因
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2社が制作を協力したプロジェクトの中でもっとも象徴的なイベントといえば前記したが、やはり「TOKYO STATION VISION」だ。「TOKYO STATION VISION」といえば、2万ルーメンのプロジェクターを46台を使って実現したことが有名だ。
46台分のうち、4台から5台のプロジェクターは同じ映像を投射するスタック投影というのが行われていて、それが上部と下部の2段に分けて10枚の異なる映像を同時に投影して1枚の大きな映像を実現するという構成で行われている。プロジェクターに関する苦労話や工夫などを語って頂いた。
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内田氏:「TOKYO STATION VISION」ではプロジェクターを最大5台重ねています。想定では4台でいいんじゃないか?と思ったのですが、心配ということでさらに追加されました。これほどの台数のプロジェクターを国内だけでは用意できなないために、海外からも20台借りてきました。クリスティ・デジタル・システムズとバルコという2大メーカーのプロジェクターを両方使うという裏技も使っています。
高嶋氏:たまたまシステムラサはバルコとクリスティ・デジタル・システムズの両方をずっと使ってきました。そして、そのズレがないことだったり、お互いのよさをわかっていたのもあって、両方合わせて使用することができました。そして、両社合わせて46台揃えられました。両社合わせて使うということはほかの会社さんだとされていないと思います。
内田氏や高嶋氏が今回の企画の話を聞いたのは、イベントまであと2ヶ月と迫っている時期だったという。この2ヶ月でどのようなことをしたのか?そしてたったの2ヶ月でなぜ、成功したのだろうか?
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内田氏:まず東京駅に写真撮影にいきました。しかし、あと2ヶ月と時間が迫っているのに、現場は工事中で入れません。駅舎の3Dモデリングがあるということで提供してもらいましたが、実際の駅舎と違います。
一方、NHKエンタープライズさんのほうでも、結局2ヶ月で全体のコンテンツを制作してレンダリングして書き出すということは間に合わないということで、2分ずつの作品を5人の作家さんで同時並行で進めるというやり方で行うようにしました。
おかげで2ヶ月で完成させることができましたが、もし6ヶ月ぐらいの期間があれば、逆に結果はよくないものになっていたのかもしれません。短期集中でみんなが一気にまとまれたというのが成功の要因だと思います。
あと設営の現場では、スタッキングや大きな調整のほうはシステムラサのほうで進めてもらっていますが、そこの部分に関しては完全に信頼をしています。
そして、ハード側のほうの準備が終わると、ソフト側にタッチしてもらって最終的な合わせはこちらでやっていくという工程で行っています。ハード側の合わせと、ソフト側の合わせの両輪を1社でやるのではなくて、このチームでやっているというところも成功の秘訣だと思います。これが結構あうんの呼吸でできるようになっていて、とても作業のしやすい環境を実現しています。
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前日の調整時の様子。行幸通りからの東京駅を観たところ
高嶋氏:東京駅の現場ではやっぱり熱の問題とかでプロジェクターが何台か故障して動かなくなってしまうこともありまして、「次はどこから借りてくるんだろう」など悩みながらどうにか適宜取り替えたりしました。この時に特に感じたのは「日常からの横のつながり」というものです。
やっぱり私たちはスタッフの人数もいないですし、機材も大手さんと違って豊富に取り揃えているというわけではありません。ですので、普段から横のつながりというものでずっと仕事をしてきました。このときは同業他社さんの連携の協力によってどんなトラブルがあっても乗り越えることができました。
調整自体も自分たちだけではなくて、各社の優秀なオペレータさんが集ってきてくれました。「TOKYO STATION VISION」はいってみれば連携によってスペシャリストが集まったオールスターみたいな形で実現できました。
新しく送出機材としてPR-800HDを導入
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「鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか 2014」のオペレーションルーム。手前にあるのがOnlyview一式で、奥のシステムがOnlyviewからプロジェクターまでの送出システム
次に、システムラサでは普段からどのような機材を使ってプロジェクションマッピングイベントを実現しているのか?使用機材について聞いてみた。エス・シー・アライアンスとチームでやっているので、まず核となるのはOnlyviewとのことだ。
Onlyviewはメインとバックアップを用意して、それを切り替えるスイッチャーは現場のソース数によってビデオスイッチャーやDVIマトリックススイッチャのどちらかを導入する形になっている。そこから、モニタリングをしてプロジェクターに投影するという基本的にはシンプルなシステムになっているという。
そして、最近からその構成に加えてローランドのマルチフォーマットビデオプレゼンター「PR-800HD」を4台導入したとのことだ。今後のプロジェクションマッピングイベントではマッピングをしたものをPR-800HDに取り込んで、2台のPR-800HDは定期的に流すサーバとして使うことを考えているという。
高嶋氏:PR-800HDを導入する以前は、ビデオプレゼンターのPR-80を使っていました。PR-80は、アテンションであったりコンサートでも講演会やセミナーなどの映像ポン出し機としては他社さんよりも確実にレスポンスも早いです。
そのうえ、現場での切り張り編集もできるなど自由度もあってずっと使用しています。PR-80は名機だったので、やはりそれに次ぐHD版のものをずっと待ち望んでいたのです。そして実際にPR-800HDが導入されると、PR-80がそのままHDになったという印象で、迷わずそのまま使えるという感覚です。
ぎりぎりの状態で本番にオペレーションをしていくと簡単にイージーミス、例えば数字を読み間違えたりとかというのが起きてしまうこともありますが、PR-800HDではビジュアルとしてクリップが見えますので失敗も少なくなるでしょう。あと、シーンによってパレットを分けていけるので、それで全部事前に組んでいける。現場に合わせて変えていけるというのが強みではないかと思います。
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山梨県で9月に行った劇の背景用送出機材としてPR-800HDを使用したシーン。キーボードとモニターの間にビデオスイッチャーのコントロールパネルを置き、PR-800HD×2をスイッチングして使用している
地元を活性化させつつ自分たちもその街を好きになるようなイベントを実現していきたい
全国各地のプロジェクションマッピングイベントで、感動的な映像演出を実現している内田氏と高嶋氏。では、最後に大型映像ビジネスで今後どういったこと実現していきたいのかをお二人に語って頂いた。
内田氏:最近のクライアントさんからのご要望で私が思うことは、特にフランスとかでもそうなんですけれども、いろいろな地方の活性化でマッピングイベントが発展してきた経緯があります。
それは日本でもやっぱりみなさんお考えだと思います。特にわれわれも参加させてもらっている中の例でいうならば「鶴ヶ城 はるか」はよい事例で、1回1,500人と人数も限られています。2013年は6回ぐらい行い、常に満杯になりました。
2014年はそれを1週間やってほしいというご要望がありまして、それも事前予約があっという間に埋まるような状況です。閑散期にお客さんを呼ぶということが完全に成功しているし、見た人たちが本当に感動してわれわれに声をかけて帰る姿を見ていると、本当にやってよかったなと思います。
単純にOnlyviewを持って、ドンをやって「どうだ!」ということではなくて、その街でご要望を頂いたときには、スタッフもそこでたたずみ、スタッフ自身がその街を好きになってきちんとそこの街に適したもの、できれば、地元の映像会社さんにも加わっていただくとか、そういう活動ができていくのが理想かなと思っています。
将来的には、2020年のオリンピックなどいろいろ控えていまして、そこにはどう関われるかまったくわかりませんが、日本全体を元気にしていくその一助になれればと思っています。
高嶋氏:基本的には内田さんと一緒にやらせていただいているので、気持ちは一緒です。やっぱり街を活性化させて、日本全体が本当に元気になる。人と人をつなぐ一種のツールとして、映像を使って思いを伝える架け橋になれればいいなという風に思っています。
内田氏や高嶋氏たちが制作に携わった2012年の「TOKYO STATION VISION」や2013年と2014年の「鶴ヶ城プロジェクションマッピングはるか」は、開催されたプロジェクションマッピングの模様を収めたDVDがNHKエンタープライズから販売中だ。各作品は音楽も魅力で、音楽と共に映像ストーリーをしっかりと楽しむことができるようになっている。興味のある方はDVDでぜひ作品を楽しんでみてほしい。
WRITER PROFILE
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