土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

撮影より編集の方が面白いんだよ

10月になると川崎の公立小学校で映像授業が始まる。彼等にはひと通り「わかりやすい映像」の説明後、カメラを見せ、監督やカメラマンの役割を説明し、何人かに手伝ってもらい撮影してノートパソコンで編集する様子を見せる。

撮影では特に同ポジを使って人物を撮影し、編集で瞬間移動させたり、消したりするとものすごく喜んでくれる。同ポジとは同一ポジションの略で、同じカメラ位置でいくつかのカットを撮影することにより、特殊な効果を出す、映画の誕生時代からある古典的なテクニックだ。

しかし、「撮影より編集の方が面白いんだよ」というと「は?どう考えてもカメラでの撮影が楽しいでしょ!」という顔になる。さらに「編集では時間や空間を簡単に変えることができるんだ」と言うとポカーンとなる。でも、毎年の事だが、撮影が終わり、編集になる時が一番盛り上がるのだ。

なぜ子供達は編集で歓声をあげるのか?それはやはり、撮影されたカットが、絵コンテどおり順番通りに組み合わさって、カットとカットがつながりリズムが生まれ、1つのシーンとなるからではないだろうか。

さらに、ものすごい壁にぶつかる事を発見する子供も出てくる。それは映像の中の時間と実社会の時間の違いだ。例えば教室で撮影し、体育館(最近ではアリーナと呼ぶ!)を紹介するために移動する場合、子供達は教室から体育館までをずっと撮影している事がある。

実際、それだけの時間がかかった移動時間。それを編集で切るかどうかを悩むのだ。映画の素晴らしい所の1つにこの時間をコントロールできることがある。つまりドアを開け教室を出たら、次の瞬間には体育館の前でもおかしくなく、そう編集すればいいだけなのだが「残す」「残さない」で泣く子が出た事もある。

フィルムとデジタルが混在しはじめた時代

僕が学生だったときの編集事情はちょうど、フィルムとデジタルが混在しはじめた時代なので、その両方の編集を体験することが出来た。1996年からロサンゼルス市立大学で学んだのだが、当時はまだフィルムでの撮影が一般的で数年後にソニーのハンディカムで撮影された、ドグマ95スタイルのデンマーク映画「セレブレーション」が上映され、デジタル世界の足音が聞こえてきた時代だった。

撮影はもっぱらフィルム、スーパー8で、編集も日本から持ち込んだ8ミリビューアー(手動)で見ながら、ハービックのスプライサーでカットと接続をしていた。授業で16ミリのフィルムを扱いだすと、現在リメイクされている「HAWAII FIVE-0」のオリジナル版未編集フィルムを教材に使い、実際に編集するという授業を受けた。このフィルムの編集ではポジフィルム(ネガで撮影して現像、プリントしたもの)を使って行い、スプライサーでフィルムの1コマと1コマの間をチョキンと切って不要な部分を取り除き、セロテープ状のもので必要な部分をくっつける。これの連続だ。

16ミリになると、ムビオラという、自動で勢いよくフィルムをまわして映像を見せてくれる機械が使えた。この機械のお陰で初めてちゃんとしたスピードで映像を見ることが出来るのだ。ちゃんとしたスピードとはご承知の通り1秒間に24フレームだ。しかし、ムビオラでは、数秒だけまわして止めたり、戻したりができない。

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それで手動のビューアーで見て、写真にあるこの銀色の定規(1フィート尺、40コマ)で何コマだかを計ってカットの長さ、秒数を頭に入れる。こうしてカットをつなげ、ムビオラで確認しながらポジフィルムを使っての編集が完成します。シンクロカメラで撮影したのであれば、フィルムシンクロナイザーという機械を使って映像と音(カチンコとカチンという音)を合わせていく。

このフィルムシンクロナイザーで映像と音をシンクさせた状態がノンリニア、つまりパソコンの動画編集ソフトでいうタイムラインになっているのだ。だからほとんどの動画編集ソフトのレイアウトは似ている。フィルムの時と同じ手動ビューアーのように使って素材を見極め、タイムラインに並べて、スプライサーを模したような刃のアイコンでカットを切り、カット同士をつなげたら、別のビューアーで(ムビオラのように)つながり具合の流れを確認する。

編集の醍醐味とおもしろさ

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フィルム編集の場合、ここまでがだいたいラフカット、ビデオ編集でいう所のオフライン編集となる。そして本編集、オンライン編集で文字を入れたり、様々なエフェクトなどをかけていく。低予算作品であればオフライン編集もオンライン編集も同じコンピューターでやることになるのだが、基本は同じで、素材をよく見て1カット1カットをつなげて1つのシーンをつくり、ラフ編集が終わったら文字やエフェクトをかけて映像を仕上げ、最後に音を仕上げていく。そして出口に合わせて(劇場公開なのかWebでの公開だけなのか)ファイル形式を指定して書き出す。

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子供達の映像編集もこの段取りを踏んでいく。編集を楽しく学んで今年も大作がたくさん生まれることを切に願う。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。