txt:岩沢卓 構成:編集部
2011年のミラノサローネでの展示。2010年から毎年参加している

インタラクティブ・リアルタイムに制御される映像・照明による空間演出を中心に、広告イベント・CM・MVなど幅広い分野で活躍されているアーケ株式会社代表の筒井真佐人氏にお話を伺った。

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2014年にミラノサローネにパナソニックが出展した際の空間演出作品。天井には照明&映像が配置されている

──まずは、映像制作を始めたきっかけについてお伺いできますか?

筒井氏:子供のころに鍵盤を習い、高校時代はバンドを組んで、いろんな楽器を演奏したりする流れで、音楽や音響に関わる仕事に就きたいと考えていました。そこから、音響系の専門学校へ行ったり、現場へのインターンを経験したりしていくのですが、映像よりも音楽・音響への興味が中心でした。

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アーケ株式会社 代表 筒井真佐人氏

──音楽から、映像へ興味が向くきっかけがあったのですか?

筒井氏:好きなアーティストが、Max/MSP/Jitterというソフトを使っていたので、自分も使いこなせるようになりたいと思って、そのソフトを触り始めました。気づいたら、15年近く1本のソフトを触り続けることになりました(笑)。最初は、音楽・音響ソフトとして使っていたんですが、映像も同時に扱うメディアアートが増えていたことや、音と映像が同期しているMVなどが好きだったこともあり、自然と音と映像の両方を扱うことになっていきましたね。

そこから、どんどん情報を集めて、ワークショップに参加したり、実際に活用している事務所にインターンで入ったりして、現場で使い方を習得していきました。

※Max/MSP/Jitter:音楽と映像を総合的に扱えるビジュアルプログラミング言語として90年代から使われている。現在の呼称は「Max」

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Maxを使用したVJの様子

──徐々に音楽から映像方面にシフトされていくことになるんですね。VJ活動もソフトありきだったのですか?

筒井氏:そうですね。最初から「VJをやろう」ということではなくて、Max/MSP/JitterのワークショップでVJ用のパッチを作ったり、講師が作っていたVJソフトを再構築してみたりと、ツール作りの面白さにハマったのが先にあります。そうやってプログラミングを楽しんでいたら、知り合いのイベントオーガナイザーから「VJをしてみないか?」と誘われて、実際にプレイしてみたら、すごく楽しかったんですよね。

そこからVJ活動もしつつ、プログラミングをしていること自体が楽しかったこともあり、Max/MSP/Jitterを使った活動を続けていきたいなぁ。と、思うようになりました。

──VJというとムービーファイルを用意して、それを切り替えるようなプレイのイメージがあるんですが、筒井さんのVJプレイの特徴はどういったところにありますか?

筒井氏:最初に作ったVJソフトでは、ABロールのスタイルでMovieファイルをミックスしてたんですけど、僕のスタイルは、リアルタイムレンダリングができることが強み。それならば、ムービーファイルを一切使わずにプレイすることを売りにしたいと考えました。

当時やっていたことをいま見ると、恥ずかしいレベルなんですけど、テクスチャも貼られていないOpenGLのプログラムを走らせてプレイしていました。OpenGLならばフルHDの描画も出来るので、320×240のムービファイルを流すVJが主流のなかで、HDVJを名乗って活動していました。コンポジット接続/SD画質が主流のなかで、XGA、フルHDの解像度で流すことで線の綺麗さなどを褒められるようになりました。

※OpenGL:シリコングラフィックスによって開発された、クロスプラットフォームなコンピューターグラフィックスAPI

──他のVJはSDだから交代するのも大変ですよね?

筒井氏:そうですね、自分用にアナログRGBのケーブルを持って行って、ブースからプロジェクターまで引き廻すなんてこともやっていました。V-440HDが出てきてくれたおかげで、他のVJと一緒にミックスしたり、HD画質のままで混ぜたりできるようになったのが機材面での大きな変化ですね。最近の現場では、V-800HDが定番機材になっています。

当時は、HDVJへのこだわりから、自分がVJとして参加する際には、HD対応の機材選択までしていました。それを通じて、他のVJやイベントオーガナイザーからのテクニカル面での相談に乗ったりなんてこともしていました。

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Big Beach Festival 2010でのプレイ。真ん中に写っているのがV-440HD

──VJだけでなく空間演出など、いろいろな表現を手がけられていますね。

筒井氏:ミラノサローネに参加したことが大きいですね。空間に対する映像、四角いフレームに囚われない映像作りを体験できたのが大きいです。曲面スクリーンやマルチディスプレイを用いた表現など、例えば、プロジェクターの光であれば、四角錐の立体であることを意識することで、空間の中で何が表現できるかなどが見えやすくなりますね。

※ミラノサローネ:ミラノ郊外で開催される世界最大級の国際家具見本市

──広告・イベント向けの映像なども手がけられていますが、制作する際のスタンスなどはありますか?

筒井氏:クライアントが居る仕事の場合には、極力作家性を出さないようにしています。MV制作でも、インタラクティブ広告の展示物を作る際でも、クライアントが実現したいと考えているビジョンのために、必要なシステムを選択し、調整していくことを一番に考えています。

使用する映像素材も、他の映像チームが制作したものを目的や展示空間に合わせて、より効果的になるように調整していく作業を行っています。

──どういった範囲を担当されていますか?

筒井氏:規模によりけりですが、少人数でチームを組む場合には、企画会議から参加して、その後の実装部分含めて全部担当することもあります。10月中旬まで品川駅で公開されているソニーショーケースでは、カメラの認識テストや被写界深度のチェックなどを含めて、事務所内で仮組みをしてテストまで行いました。

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ソニーショーケースの様子

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前に立つと写った人がピクセル化される

──インタラクティブな表現の場合、技術面だけに注目されたり、その逆もあったりと、イメージ共有が難しいこともあると思うのですが、心がけていることはありますか?

筒井氏:クライアントにも、技術的な知識を持っていただいた方がありがたいのですが、それよりも“何がやりたいのか、何を伝えたいのか”というイメージをハッキリ持っておいてもらえることで、技術的に正しくて、最適な解を出せると考えています。

例えば、打ち合わせの段階で「見せる相手が人なのか、カメラなのか」という話もしますし、それで結果的にインタラクティブ要素が無くなったとしても、アウトプットされたものが、正しく目的どおりになっていれば、どんな手法を使っても恥ずかしいことでは無いと思っています。その考え方が、依頼や相談してもらいやすいポイントなのかもしれません。

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事務所内に多くの機材がラベル付きで保管されている

──今後、映像業界を目指す人たちへメッセージをお願いします。

筒井氏:僕の場合は、作品を作りたいというよりは、作っている行為自体を楽しみたい。と思って続けています。作っている行為を楽しむのであれば、特別な才能が無くても続けていけるし、ソフトも自分と合うソフト、使い続けられるソフトとの出会いが重要なんだと思っています。ソフトごとにやれる事の違いも、昔ほど無くなってきていますしね。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。