txt:手塚一佳 構成:編集部

例年に無い熱気の会場

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CP+2016は今回は複数会場をまたいで行われた。移動も大変だが、充実感がある

CP+は言わずと知れたスチルカメラの祭典だ。そしてもちろん、スチルと動画の一体化しつつある昨今では、重要な動画機材のイベントでもある。今回のCP+2016は、パシフィコ横浜のみならず、大桟橋や周辺ホテルなども利用した更なる大規模イベントへと成長した。カタログスペックな記事は他の方に任せ、本稿ではその会場の様子を、なるべくマニアックにオタク的に解説してゆきたい。

CP+は2つのパターンがある。一つは、新型カメララッシュの年。もう一つが周辺機材ラッシュの年だ。今年は、オリンピックイヤーのため見事な新型カメララッシュの年となり、例年に無い盛り上がりを見せた。が、しかし、この記事的なマニアックな映像屋的見所は、むしろ周辺機材、特に映像を意識した撮影サポート機材や新興レンズメーカー製レンズ、現像関連にこそあるといえるだろう。そのあたりを各ブースを周りながら追求してゆきたい。

スマホ攻勢を一足飛びで飛び越えたカシオブース

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カシオブースは滝が流れ、キャンピングカーが置いてあるアウトドアショー的なブースに

まず、今回のCP+を最も体現していたと筆者が感じたのが、実はこのカシオブースだ。何が凄いって、ブースにキャンピングカーまで持ち込んで展示してあるのが腕輪カメラと腕時計なのだ。スマホカメラの高性能化どころの騒ぎでは無い。

CP+だけでなく、スチルカメラ全体の問題として、スマートフォン、いわゆるスマホによるカメラ業界への急速な浸食があり、カメラ機材側からはスマホはかなり敵視されている存在だ。今の若い世代はカメラを持たず、全ての撮影をスマホで済ませる傾向がある、というわけだ。気の効いたメーカーは自社カメラ機能を搭載したスマホを売り出したりもしているが、スマホユーザーはプロの目にわかるような程度の画質の違いにはあまり注目せず、正直いまいち振るわない。そんな中、カシオはスマホを通り越して、何と、スマートウォッチとの連携を前面に打ち出してきたのである。

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「Outdoor Recorder EX-FR100」はキャンピングカー前の鍋に並んで展示

現状の他社カメラでスマートウォッチとの連動をしようとしたら、どうしてもスマホによるコントロールが必要となり、スマートウォッチ側とカメラ側は別々のスマホアクセサリとして扱われ、全く切り離された存在となってしまう。いちいちスマホによる操作を必要とするのは、いささか面倒で、しかもバッテリーなどの不安も大きかった。

しかし、カシオの「Outdoor Recorder EX-FR100」と「WSD-F10」は直接連携して、腕時計をファインダー代わりに出来る。元々のEX-FR100も「着るカメラ」であったがファインダー部分は携帯型で持ち歩く費用があった。しかし、WSD-F10を身に付けてさえいれば、ファインダー部分はカバンにしまい込んでいていい。まさにウェアラブルカメラ。これはすごい。

ブースも当然に本格派で、何と、スノーピークの機材による本格的過ぎるキャンプ風景が人工の滝と共に出現していた。ウェアラブルカメラの頂点を出したという自信がうかがえるブース構成であった。

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スマートウォッチ「WSD-F10」の実機展示は実は世界初。凄い盛り上がりだった

無論、スマートウォッチとの連動は無線であるので、「Outdoor Recorder EX-FR100」はフルHDまでの動画撮影だ。しかし、実際に使う素材はまだまだHDが主流であり、これで充分であろう。むしろ、フルHDをこうして「着こなせる」ことに強い意味を感じざるを得ない。スマホに食われつつあるとされるコンパクトカメラの未来形がここに見える気がした。

レンズ大攻勢その1:KOWAブースのゴールドラッシュ!

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KOWAブースはマイクロフォーサーズユーザーでごった返していた

今回のCP+の特徴の一つが大量のシネレンズの登場だ。それも、既存大手メーカーでは無く、中小新興メーカーによるシネレンズ攻勢が面白い。その一つ、KOWAブースをご紹介したい。

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ついにオフィシャルで登場したシネレンズ!今まで参考出品で見かけたものがついに製品化される

KOWAのPROMINARレンズは以前からご紹介の通り、アイリスのクリックオフが出来るなどマイクロフォーサーズ向けの動画を意識したプライムレンズであったが、この度、ついにシネギア搭載タイプのオフィシャルレンズが登場した。しかも、その色は金色!色に驚いた向きもあったようだが、実はシネレンズはこうした派手な色のものが多いので、何の問題もない。むしろ金色はかつての名機、同社製PROMINARレンズの色でもあって、歴史に則った色とも言えるのだ。

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シネレンズシリーズにはフィルタ装着用リングも用意される予定

8.5mm F2.8、12mm F1.8、25mm F1.8の定番三本にシネレンズ向けの金属ギアが装着され、8.5mmと12mmには、フィルタ径調整用リングまで用意されるという。その光学性能故に大きく前に張り出した同レンズはフィルター装着に難しさがあったので、そこがオフィシャルで解決されるのは大変にありがたい。同シネマレンズは本年中の発売を目指しており、Cine Gear当たりでの続報があると思われる。

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マイクロフォーサーズマウントの同レンズだが、S35サイズまでなら使える領域も多く、MUKカメラサービス製マウントコンバータでSonyのα7Sに搭載実験もされていた

レンズ大攻勢その2:ケンコー・トキナブースの大量出展!

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ケンコートキナーブースは超巨大ブースと化した。これ以外に、映像専門ブースもあり、その総面積は膨大なものだった

シネレンズのその豊富さが特長の今回のCP+。なかでもケンコー・トキナブースでは、大量のシネレンズが出展されていて、その充実に驚かされた。

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同社製シネズームレンズ群は健在だ

同社ブースではかねてからスチルズームレンズを改造したシネズームレンズが発売されていたが、今回はついにトキナーブランドで独自プライムレンズも発売され、それも100mm T2.9マクロレンズだというから驚きだ。同レンズは、色合いでちゃんと実明度もわかるようになっている本格的な作りであり、レンズギア部分の回転角度も充分。ハイクオリティなシネレンズそのものの出来であった。もちろん、同社が輸入しているSAMYANG社製プライムシネマレンズ群も健在で、その本数は必要充分と言えるだろう。

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新開発の100mm T2.9の高性能マクロシネレンズ!筆者のEOS-1D Cに装着させて貰ったがその画質は素晴らしいものであった

もちろん、ハイエンドな映画にはまた別の意見もあるだろうが、インディペンデントであればこれらのレンズは商業映画にも十分耐える質が保たれており、格安で4Kデジタル対応クリティのシネマレンズが手に入るのはとても重要なことだと言える。

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韓国製格安輸入シネレンズのSAMYANG。コーティングに癖はあるが光学性能は充分だ

デジタル化開始以来長らく、映画映像から機材的にローバジェットインディペンデントやアマチュアが排除されてきた状況が続いていたが、確実に時代が変わりつつある事がわかる展示であった。

レンズ大攻勢その3:KIPON Hande Visionブースでの中華系本格参入

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KIPONもレンズメーカーに仲間入りをしたと言っていいだろう

安価で高性能な中華製マウントコンバータで知られるKIPON。そのブースではレンズへの本格参入が前面に出されていた。

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IBELIT 50mm F2.4。何とフルサイズ対応!F値はカタログスペック重視の中華系らしい

KIPONは、IB/Eオプティックスとの共同ブランドでHandeVisionとしてF0.85のレンズを出した事で知られているが、今回のCP+では、フルサイズ版プライムレンズであるIBELIT 50mm F2.4が発売となったのだ。同レンズはSony Eマウント専用ではあるもののフルサイズ対応であり、こうした新興メーカーの大半が採算性の高いAPS-Cやマイクロフォーサーズに焦点を当てる中、思い切った戦略に出たと言っていいだろう。その画質は必要充分な様子であり、実発売がとても楽しみなレンズだと言える。

レンズ大攻勢その4:SIGMAブースにみるスチルレンズの動画応用

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SIGMAブースは新型カメラとレンズ群で大変な盛り上がりだった

SIGMAは言わずと知れた交換レンズメーカーであり、最近はDP、SDシリーズでカメラ本体にも本格参入したメーカーだ。その中でも、動画屋として注目せざるを得ないレンズが今回一本出ていた。それが、Artライン、50-100mm F1.8 DC HSMである。

同社製のハイエンドラインであるArtライン、そのズームレンズとしての一本なのだが、APS-Cサイズ対応でF1.8の超高速、さらに全域F値固定の動画向きとあって、CP+開催前から映像業界でも注目されていた一本だ。

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映像屋注目のArt 50-100mm F1.8 DC HSM。APS-C対応とはいえ、動画用にはかなり使える

SIGMA側も動画サイドでのその話題は理解していたようで、なんと、スチルコーナーの他に、Blackmagic Cinema Cameraに装着された状態での同レンズの実機展示もあり、実用レベルで同レンズを試すことが出来るようになっていた。ハイテクレンズらしい歪みの無いクリアな映像は、シネマ用途にも充分に使えるものと言えるだろう。

プロ向け動画エリアにおける新型シネマカメラ対決とEDIUS8.2の大進化!

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プロ向け動画エリアは、不便な場所ながら大人気であった

毎年おなじみになりつつあるスチルカメラマン向け一眼動画専門エリア「プロ向け動画エリア」も相変わらず大盛況だった。場所こそ、例年通り休憩所の奥という微妙な場所ではあるが、常に大メーカーブース並みのごった返しで、その人出の多さがスチルと動画が既に不可分である事を如実に語っていた。

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Blackmagic URSA mini 4.6K。ついにほとんどの機能が使える状態での展示となった

まず注目されたのが、海外新興メーカー産シネマカメラの直接対決だ。ほぼ完成版の実働実機としては国内初展示のBlackmagic URSA mini 4.6Kと同じく国内初展示のRED RAVEN(4.5K)を実機で比較できたのは、大変大きな収穫であったと言えるだろう。

共に、4Kオーバーの実用シネマ機でありながらフルセット100万円を切る価格帯で、一眼動画の次を考えるユーザーには強くアピールする機械であるに違いない。しかも両機共にEFマウントを標準として(URSA mini 4.6KはPLマウントも用意)、RAW収録を前提としており、スチルカメラマンには適合性の高い機種だ。

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RED RAVEN。REDシネマカメラの正統な系譜を継ぐカメラだけに、その資産を生かせるのが強みだ

URSA mini 4.6Kの方が完全非圧縮RAWであるだけにデータは大きく、その代わりにCPUパワーも喰わず一枚の写真としてのクオリティを保て、反対にRED RAVENはRAWながらも軽いデータ容量で運用コストを抑えられるという利点があるが、その代わりに圧縮解凍にCPUパワーを喰い、画質の圧縮が多少出る。とはいえ、ストレージが急激にコストダウンする近い将来にはデータ量の大きさはさほど問題にはならなくなるだろうし、現実的には4.5Kをそのまま使う事はありえないためREDの圧縮は画質上問題にはならない。どちらを買うべきか、本当に悩まされる対決だと言えるだろう。さらにはこの2台の他に一昨年出たAJA CIONも実機展示されており、ローコストシネマ機の黄金期を感じさせる展示であった。

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ついにEDIUS8.2でカラーグレーディング機能搭載!LUTの読み込みが出来るのはそれだけで大きなメリットだ

次に、大勢の人が足を止めていたのが、Windows向けPC編集ソフトEDIUS、そのバージョン8.2のデモ展示であった。たかが編集ソフトのマイナーアップデート版の展示、と見逃した人は実に残念なことをしている。何とこのバージョン8.2では、ついにEDIUS本体内でのプライマリカラーグレーディングに対応し、メジャーなカメラについてはソフトウェア内に解凍LUTまで搭載したのである。

EDIUSは性能に比べてのその価格のリーズナブルさもさることながら、とにかく動作が軽く作られており、ちょっとしたノートパソコンで充分に編集が可能である事が特長の編集ソフトだ。多くの編集ソフトが豪華な環境でも苦しむ4K編集ですらノートPCで軽々こなし、編集室外の現場ソフトとして不動の地位を築いているソフトだと言っていい。それにカラーグレーディング機能が乗るという事は、撮影現場での簡単なグレーディングが行えるということであり、今まではハイエンド環境でしか手に入らなかった「現場ならではの色味」を編集室に持ち込むのが容易になる、ということである。大きく期待されていた機能の搭載だけに、大勢の人の立ち寄りがあったのは当然のことだと言えるだろう。

小ブースに見る未来像

■NAOJ
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国立天文台NAOJのブース。こういう発表主体のブースがあるのもまたCP+の面白さだ

様々なイベントの例に漏れず、CP+もまた小さなブースに驚くべき展示がある。その中でも今回最も人目を引いていた小ブースは、国立天文台NAOJのブースだろう。

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建設中の新型30m級望遠鏡の動作模型。人を感知して動作をする

特に最新機材があるはずのない展示中心のブースだが、そこに飾られた30m新型望遠鏡の動作模型は、現在建設中の同望遠鏡の完成を期待させ、多くの人の目を輝かさせていた。自分たちが普段構えているレンズというモノの究極のカタチがそこにあるのだから、まさにCP+にこそ相応しい展示だったと言えるだろう。

■TOAST TECHNOLOGY
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TOAST-TECHNOROGYは、定番の赤道儀の他に赤道儀を応用した機材を出すことが多いのが特徴の会社だ

また去年、一昨年と赤道儀をタイムラプスに応用して話題を集めたTOAST TECHNOLOGYブースでは、新型の自走式カメラコントローラTP-7を実機展示して、話題をさらっていた。モーションコントロールカメラは、筆者のようなCG合成をやるものにはおなじみの装置だが、本来は大変に大がかりなものであり、多くのコストがかかる(そしてその割には毎度毎度結構ずれて手作業での修正が必須で、お陰で筆者のところに仕事が来る)。

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TP-7は、赤道儀の上下左右への回転を利用した自走式のモーションコントロールカメラだ。何と参考出品では無く年内に実機を発売する気らしい!

それを一気に解決するアイディアとして、LibecのスライダーALX-Sに自走式の赤道儀を取り付け、モーションコントロールカメラとしてしまったのがこのTP-7なのだ。もちろん、事前プログラムで動くモノだけにリアルタイムでの難しい事は出来ないし、SF映画にあるようなクレーンと同期するような複雑な動きも無理だ(そういうのは読者諸賢の工夫でどうにかなる片手間仕事では無く、筆者の本業の出番である)。

しかし、モーションコントロールカメラの出番となるほとんどのシーンで必要なものは単に正確で機械的なドリーとパンだけであることが多いのもまた事実だ。あらかじめ撮影現場を測量して正確なレール配置とカメラコントロールを記録しておけば、CG合成も楽になる(決して手作業がゼロになるわけでは無いが、初めの1~2時間分程度の下準備くらいまで出来上がった素材が手に入る確率が上がる)。特にタイムラプスに関しては、TP-7があるのと無いのとでは全く結果が異なってくるだろう。この装置一つで多くの表現がミドルレンジ映像にも加わってゆくことと思われる。こうした大胆な変化が見られるのも、動画系の枠に縛られないCP+ならではと言えるだろう。

■大連謙益技有限公司
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大連謙益技有限公司のブースは、安価なカメラに様々な機能を追加するWi-Fiコントローラと、中型以下のカメラに外部電源を追加するUSB電源コンバータが売り物だ

海外からのオモシロ機材が見られるのも、CP+の小ブースの面白さだ。今回筆者が注目したのは、USBバッテリーコンバータ。

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USBバッテリーコンバータは、USB電源を昇圧し、安定化させ、カメラを動かそう、というもの。電源の入手のしやすさとコストパフォーマンスを考えると、僻地での撮影や学生作品などでは便利そうだ。筆者の学生時代に、一眼カメラ動画とこの装置があれば、と思わずにはいられない

これは、スマホ用に発売されている大型のUSBバッテリーをカメラの電源としてしまおう、というコンバータで、要するに電子制御された昇圧コンデンサーだ。USB電源は安価に手に入るため、このコンバータを使えば長時間の撮影が簡単にできるようになるだろう。もちろん、EOS-1D X系のような大型カメラは無理で、中型以下のカメラ限定での動作となるが、一眼動画を使う現場を考えたとき、バックに一本くらいこのコンバータがあると、現場での電源確保に困らないかも知れない。

大規模イベントにおける周辺会場との連携の重要性

話は大胆に変わるが、私はオタクの中では珍しいコミケ否定派である。いや、実はオタクの中ではコミケ否定派は珍しくもなんともないのだが、世間一般の目からすると珍しいように見えるらしいから日の当たる世間の皆様には珍しい否定派であると自称している。

私のコミケ否定の理由は大きく二つ。一つが著作権の問題。オリジナルで無い同人誌の多くはパロディを主張していて、実際にはそこで版権元の他人のキャラクター世界観での無断の金儲けが発生している。世界的な著作権の現状と比較して、これはちょっと頂けないと思っているわけだ。パロディはもっと慎ましく、身内でとはいわないが、せめて金儲け抜きでやるべきでは無いかと思っているわけである。

そして、否定要素の二つ目が、コミケイベント自体の広がりの狭さ。オタク世界に関係無い一般の大規模イベントは会場の「外」こそが実はメインであって、イベント会場は単にきっかけの場に過ぎない。NABやCESは言うに及ばず、ドイツの巨大ゲームコンベンションであるRPGコンの類ですら、周囲のホテルは高い部屋から、レストランも高級なところから埋まってゆく。これらの施設は接待に使うからである。一般来場者はあくまでも賑やかしに過ぎず、会場外やブース裏での商取引こそが本当のお客さんであり、本当の経済の場なのだ。

ところが我らがコミケは会場内だけに経済が閉じてしまっていて、精々が食事や宿泊に周辺施設を使う程度。漫画やアニメの権利関係の取引すら行われず、周辺ホテルの会議室やパーティ会場はがらんどうだ。食事は安いところから恐ろしい勢いで無くなって行き、接待など存在しないので高級店はがら空きだ。幕張にコミケが一時期移動した際、その押し掛ける巨大な人口負担に比べてあまりの地域経済への貢献の少なさに地元が怒ってしまい、幕張は二度とコミケを受け入れてくれなくなったという都市伝説はあまりに有名だ。

今、官僚たちがコミケに色気を出して、なんとか国を代表する大規模イベントとして盛り上げられないかと画策しているようだが、上記の理由から筆者はそれには否定的だ。国策として展開するには、コミケはあまりに展開力が(下品に平たく言えば会場外も含めた全体で動く、公にできるお金の金額が)足りないのである。

本題に戻ると、筆者はそうした視点から、イベントの成否とは、如何に街を巻き込み周辺会場との連携を上手くやるかにかかっていると固く信じているのだ。

さて、CP+2016を見て見ると、会場は大きく4つ。メインのホールと、中古バザーの駐車場、会議棟、そして御苗場を行っていた大桟橋会場となる。これ以外にも、周辺のホテルの会議室には各メーカーの看板が掲げられ、積極的な商品PRや商取引が行われていた。まさに街を巻き込んだ大成功イベントであると言っていい。その中でも、オフィシャルでない、セミオフィシャル的な展開こそがイベントの成否を分けるが、これが非常に活発に行われていたのが今回のCP+だったといえるだろう。今回のCP+は体感的な数年ぶりの大成功感に比べ、実は一般参加人数は例年並みでさほど増えていなかったという驚きの結果が出ているのだが、この体感と数字との違いも、実経済の大きな部分が一般来場者以外の部分で回っているからこそ生じたものだといえるだろう(とはいえ、実経済も一般参加者の人数に引っ張られて動くので、油断は禁物なのだが)。

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Photokinaの開催に関する記者会見もCP+に時期と場所を合わせて行われた。こうした周辺イベントこそがイベント成功の肝だ

筆者も参加して、かつニュース性のある周辺展開の一例をあげると、例えばドイツケルンで二年に一度行われる世界最大の写真の祭典「Photokina 2016」の開催に関するケルンメッセ、マルクス・オスター氏やドイツ写真工業会会長ライナー・フューレス氏らによる記者会見などもその一つであり、これは近くのホテルのパーティ会場を借りて行われていた。

Photokina 2016は本年2016年9月20日から25日の6日間を予定しており、前日の19日から前夜祭的なイベントが始まることを考えると、1週間の長期間にわたるイベントだ。その歴史は長く、第二次世界大戦直後、ドイツ連邦政府発足直後の1950年に第一回のイベントが執り行われている。

しかし、Photokinaは変化をしないイベントではない。写真というテクノロジーに直結したテーマのイベントだけに、常に時代に合わせて変化を遂げてきた。そして今年、2016年には「Imaging-Unlimited」と題して、製品主体から体験型イベント主体へと、今までになかったほど大きな変化をすることとなる。

その変化の大きなものは、動画のメインテーマ化だ。ここ何回かのPhotokinaは動画のイベントも兼ねており、各ブースで動画の展示があったが、それもそのはず。そもそも今の動画のムーブメントのメインである一眼動画の誕生は、2008年のCanon EOS 5D Mark IIのPhotokinaでの動画展示があったこそなのだ。いわば、他ならぬPhotokinaこそが今のロー~ミドルバジェットの映像手法の誕生の地であるともいえる。

とはいえ、Photokinaはあくまでもスチル写真の祭典であり、今まで、そうした動画イベントとしての動きは、歓迎されこそすれども、あまり表だって展示されることは少なかったのである。それを思い切って公式にして、ホールを一つ与えてしまおうというのだから、なかなか大胆だ。ホール5で行われるこの動画のイベントは、もちろんPhotokinaらしく、ハイエンドの機材を使わない、ロー~ミドルバジェットの機材手法を中心としたものになるそうだ。体験型イベントを中心に据える新しいPhotokinaが、動画専門ホールでどういう体験をもたらしてくれるのか、今から楽しみでならない。

他にも、動画関連でいうと、YouTubeなどの個人による動画配信もPhotokinaの新しい中心の一つとなる。これは非常に大胆なことだ。なぜなら、そうした動画配信はその多くがスマートフォンで行われ、そしてスマートフォンは多くのカメラメーカーにとって、コンパクトカメラを滅ぼし、今ついには一眼の領域までも犯しつつある天敵であると考えられてきたからである。

しかし、冷静に見つめかえして見れば、スマートフォンの撮影機能もただの写真機の形の一つでしかなく、今起こりつつある、スチルと動画の融合の表現型の一つに過ぎない、というのがPhotokinaの結論だという。だからこそ、敢えてPhotokinaで動画配信を取り扱うべきだというのだ。

マルクス・オスター氏に伺ったところ、この動きは、スチルとムービーの融合したカメラの未来形に付随した展開の一つであり、それが今はたまたまスマートフォンという形なのではないか、というお話であった。だとすれば、先の会長ジム・ジャナード氏がスチルとムービーの境目の無い「デジタルスチルモーションカメラ」を唱えた米国RED Digital Cinema社のカメラ群がカメラであるのと同じように、間違いなくスマホもカメラであり、Photokinaの範疇に入るのだろう。

こうしたPhotokinaにおける動画のメインテーマ化に関しては「フォトキナ・モーション」というスローガンで取り扱われ、Photokina会場のあちこちで、主に短編動画として様々な動画が上映される予定となっている。もちろん、この短編動画は世界中の参加者からのコンテストで集められる予定であり、そのためのWebサイト作りも急ピッチで進んでいるという。Photokinaのこの新しい動きに参加される意思のある読者諸賢は、ぜひとも、このコンテストに応募されてみてはいかがだろうか?

スチルとムービーの融合した先に

さて、あちこちに話が飛びつつも今回のCP+2016を追いかけてきたが、スチルカメラを銘打ったイベントで動画を扱うことにもはや誰も違和感はない、と強く感じるイベントであった。そもそも映画とは、毎秒24枚の連続した写真のことである。もちろんスチル・ムービーそれぞれの手法はそれぞれ独自に発展してはきたが、その根本である一コマ一コマの芸術性はいたるところで共通している。そしてそれこそが我々が考える映像の根本であり、本質であるはずだ。

カメラの性能が上がり、ついには反射鏡も物理シャッターも多くの場合に不要となった。フォーカスや色味は機械の補助どころか後から自在に変えられる機能も登場し、高性能カメラまで小型化し、動画機能まで込みで携帯電話のおまけとなった。カメラは文字通り常に身に着けている時代になったのだ。そんな時代だからこそ、カメラとは何か、動画とはなにか、語るべきは何なのか、そして未来の写真とは、動画とはどうあるべきかを真摯に考え、メーカー、参加者それぞれが自分たちなりの答えを出し合った、そんなイベントであったように思える。

これからもスチルとムービーの融合は進み、おそらく次回のCP+ではさらに新しい手法も当たり前のように登場しているだろう。この激変の時だからこそ、こうしたそれぞれの考えた答えを出し合うイベントは重要なのだと強く感じて、会場を後にした。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。