txt:茂出木謙太郎 構成:編集部

試行錯誤のVR元年

2016年もいよいよ後半に突入。バーチャル・リアリティ(以下:VR)元年ももう半分過ぎたわけだ。今年の前半は、360°VR動画の撮影案件が顕著に増えた。どこの仕事なのかとか、どこで見ることができるかなど何故か言えないものばかりなのだが、観光、ファッション、アイドル、行政などなど、あらゆる分野の撮影をさせていただいた。

私は、2013年にVRや、360°VR動画に対してチャレンジを始めた。ろくな文献もない中、まさに手探りでのスタート。2014年にはアイドルとデートするもの(バイノーラル録音付き)や、Music Videoなどはすでにテスト撮影していて、雑誌や大手サイトなどにも掲載させていただいていたのでご存じの方もいるかもしれない。

一般的に360°VR動画というとどのようなものを想像するだろうか。

アスリートによるサーフィンやスキーなどのアクロバティックな動画、ドローンで撮影した空撮、観光地の美しい風景、攻殻機動隊のようなアニメもこれから出てくるだろう。また、前回も話題にしたAVも注目されている。一時期はジェットコースターが360°VR動画の代名詞のように反乱していた時期もあった。わかりやすさではトップクラスだが、なにより本物には絶対にかなわないという欠点がある。

そこで今度は、ジェットコースターを模した椅子に座り、映像と連動した上下左右移動をさせることによってまるで本物のジェットコースターに乗っているかのような気分を味わうことができるようになった。さらに進化?させて、本物のジェットコースターに乗って、映像はまた別の宇宙やCGで作られた世界などの空間を楽しむコンテンツが出てきている。ここまで来ると、もう主題は映像コンテンツなのか、アトラクションなのかという区別もまた難しいところだ。

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最近では、東京駅のそばにある丸の内KITTEにて行われたGalaxy S7 edgeのイベント「Galaxy Studio」では、このジェットコースターの他にもサーフィンを楽しむことができるコンテンツの体験会を展開していた。サーフィンの方は床に不安定に置かれたサーフボードの上で映像を見るものだったのだが、実際に体験しても特に映像と連動して動くわけでもなかったので、「雰囲気作りといった程度かな」と思っていた。後日見たニュースでは、コンパニオンの女性陣がサーフボードに一緒に乗って揺らしてくれるなどのサービス?が加わっており、そのサービスがむしろVRよりも楽しいのではないかと余計なことを感じたものだ。

先月YouTubeで発表された「360 Google Spotlight Story: Pearl」は、YouTubeで見ることができる360°VRアニメ。車の中という閉鎖的な空間で、過ぎゆく時間とともに変化する親子の関係を描いたロードムービー。5分38秒という時間を飽きさせずに楽しませることや、視線を変えずにストーリーを進めていく手法など、映像の作り方についてかなりの時間検討を重ねた結果といえる秀逸なアニメーション。

スマートフォンを始めとして、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)があれば誰でも楽しめる360°VR動画を目指すのであれば、他の機械に頼ることなく楽しめる映像作りが必要なのだが、そのためには制作側に、映像づくりに対しての深い理解が必要だ。しかしながら、実際の撮影現場ではそこまでの理解がなされていないような場面がまだまだ多い。技術的な障壁よりも、実はこういったコンテンツに対する理解のほうが、壁は高いのではないかとさえ感じるのである。

WRITER PROFILE

茂出木謙太郎

茂出木謙太郎

株式会社キッズプレート代表。「楽しいInternetコンテンツ」をテーマに活動。現在VRの可能性をまさぐり中。CG-ARTS協会会員