土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

経験の違う俳優たちの演出と撮影

前回のコラムで書いた「ネットシネマ・ゴールデンエッグ」の短編制作の撮影が、この原稿の締め切り直前に終了した。ワークショップに参加している50人の俳優から、筆者が制作する3本の短編用にオーディションを経て30人を選んだ。この30人は演技初心者からベテランまで演技経験は様々だ。

甲府市での撮影風景

オーディションで筆者が高得点をつけた3人を主役とし、それまでの講義や面談での印象を元に脚本を書いた。甲府市で撮影するものは一番早く脚本が仕上がったので、細かい準備を全面協力していただいている甲府商工会議所の方々と進めていきつつ、東京と川崎で撮影する2本の脚本の完成に力を注ぎ、多少の紆余曲折があったが撮影の3週間前にはどうにか仕上げることができた。

脚本を書くうえで、10分~15分の短編に10人を俳優をキチンと出演させるというのは非常に難しいと感じた。以前も演技ワークショップの最後に短編を撮影したことがあったが、どうしても独立した小話がそれぞれ繋がり、まとまって一つの話になってしまう。しかし、今回はオーディションを行い主役を決めたので、主役を話の軸に持ってこなければならなず苦労したが、ほかの俳優にもできるだけ見せ場をつくるよう工夫した。

「じゅ☆エリー」

短編3本の内容は、甲府で撮影する作品は地元の産業、宝石を題材に若者が地元の地域活性を考える「じゅ☆エリー」、名前を書いた人間が自分の記憶を忘れるという、不思議なノートを手にしたサラリーマンの話「あんた誰だよ」、暗黒街で男ばかりを狙う、女殺し屋の話「カマキリ」と決めた。

「あんた誰だよ」

撮影は、基本筆者一人で行い、全体スケジュール、日々の香盤表やショットリストを作成し、ミラーレスカメラには外付けマイクとレンズフィルター以外は何も付けずに3本の単焦点レンズで撮影を行った。さらに数回だけアクションカメラをジンバルに付けて撮影し、三脚も軽くて簡単に移動できるものを選択した。

「カマキリ」

照明はカメラバッテリーで点くLEDの軽いものを大中小の計3つ、アイキャッチ用に手のひらサイズのものを1つ準備した。録音はブームマイクとワイヤレスマイク3つを各シーンで俳優が付け、4チャンネルレコーダーの操作とブームマイクを甲府では商工会議所の方にお願いし、ほかの現場では、そのシーンに出番のない俳優が担当して、最終的に音が悪かったらアフレコするというスタンスでのぞんだ。

現場ではベテラン俳優が経験の浅い俳優をうまく引っ張ってくれて助かったが、筆者自身は効率を優先して引き画をまとめて違うシーンの分まで一挙に撮った結果、アップのカットを取り忘れてしまうことがあった。各俳優のアップを想像しながら書いた脚本だったので、アップを撮るべきシーンが多い。マスターショット(1シーンを引き画ですべて撮影する手法)をおさえているので話がつながらないことは避けられるが、やはりアップは欲しい。結局、各短編ごとに作ったグループLINEで「私のアップは大丈夫ですか?と僕に聞いて」と書き込み、アップの撮り忘れは最小限に抑えられ、どうにか撮影を終わらせることができた。

俳優が撮影を自ら行うこと

今回、一番学んだことは、経験の大きく違う俳優たちを演出し、撮影を自ら行ったことで、いくつかの画角をチャレンジできたことだと思う。演技経験が浅い俳優たちには自分の出番がない時にもできるだけ現場に足を運び、ほかの俳優の演技や撮影の流れを見るようにうながした。実際に現場に来てくれた俳優は多かったし、録音を通してセリフの言い方を学んだと話す俳優もいた。普通の撮影現場で出番のない俳優が長居することはないので、彼らには良い経験になったと思う。

これから編集が待っているが、俳優たちが全力をつくして演技したものを編集するのが楽しみでもある。作品は2017年9月16・17日に渋谷ユーロライブにて公開される。興味のある方には是非観ていただきたい。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。