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txt:土持幸三 構成:編集部

今の子供たちが映像に求めるクオリティ

求めるクオリティは年々高まっている

川崎市のある小学校で6年生に行っている映像授業はミュージックビデオを制作するもので、現在、撮影がほぼ終了した状態である。撮影の様子から察するに彼等が見ているYouTubeなど、動画サイトから得た知識と自分達のアイデアを融合させた個性的な作品が多くなっている。また、ミュージックビデオだけあって、撮影時に彼らの実現したい映像のテクニックに関する質問が多くあった。

いろんな映像から刺激を受けている子供達

その中で筆者の注意を引いたのが「雨を立体的に見せたい」というもので、最初は意味が解らなかったのだが、要するにシャッタースピードを上げ、雨つぶを静止しているよう見せ、さらにスローモーションをかけて撮影したいのだとわかった。残念ながら彼らが使用しているビデオカメラにはマニュアルモードがついておらず、スローモーション撮影しかできなかったのだが、動画サイトで多くの映像を見ている彼らの撮りたい映像の基準はとても高く、編集ソフト同様にカメラ側もシャッタースピードや絞りがマニュアルで設定できるように機能アップが求められているのかも知れない。

レンズにシャッターが付いているタイプ

一昔前のフィルムカメラのシャッタースピードの基準は1/48秒が基本だった。これは半円形(180°)のシャッターがフィルムゲートの前で一秒間に24回まわっているからだ。フィルムカメラのシャッターはスチルカメラとは構造が大きく違う。昔から写真をやっている方ならわかるが、手振れ補正等のないカメラでシャッタースピード1/48秒はきちんと脇をしめ力を入れて撮影しないと写真がボケる。逆にこのおかげでカクカクとかボケた感じと表現されることのある「映画っぽい」映像となる。

後にシャッター角度を変更できるタイプのカメラが出現するが、それまではシャッタースピードを上げて雨つぶなど動きの速いものを静止させシャープに写すことは不可能だったのだ。ちなみにスローモーションはシャッタースピードを変化させるのではなく、フィルムを送るスピードを1秒間24コマより速くすることで、それを普通の速さで見せることでスローモーションとなる。

シャッタースピードを速くできないという事は絞りだけで光の量をコントロールする事である。例えば絞りをF2.8で撮影し、人物の背景をボカしたい場合、シャッタースピードは1/48で決まっているのでNDフィルターで光の量を減光させたり(濃度の違う数種類のNDフィルターが必要)、感度の違うフィルムを使ったりと相当の手間がかかることになっていた。

スチルカメラのシャッター

一眼レフやミラーレスなど、ビデオカメラでないスチルカメラで動画が撮れるようになったことは、筆者にとってシャッタースピードが自由になるということで画期的なことであった。もうNDフィルターを重ねるなどの手間から解放されるからだ。確かにビデオカメラではシャッタースピードが変えられたが、スチルカメラほど細かい設定はできなかったと思う。様々な機能を持ったカメラや、その撮った映像を編集するコンピューターソフトのもの凄い進化で映像の表現方法がより簡単に、とても身近なものになった。

さらに様々なテクニックを使って仕上げた映像作品も手軽に数多く見ることが可能になっている。それらに接している子供達や新しく映像を創ってみたいという人々の映像クオリティに対する要求も高くなっていると感じる。

現在、家庭用のビデオカメラでマニュアルモードが設定できるのは高額なものに限られ、シャッタースピードはおろか絞りも変えることができない。映像の楽しさを教えるのであれば、全てオートでも問題ないと思うのだが、映像の基本や、さらにクリエイティブな作品が撮りたいと思った時にはやはり自分で全てをコントロールできるマニュアルモードが必要だと思う。安価なビデオカメラにも是非、マニュアルモードを設定できるように各メーカーにお願いしたい。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。