txt:ノダタケオ 構成:編集部
新型コロナウイルス感染症が与えた展示会・イベントへの影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防および拡散防止のため、様々な展示会が中止または延期となる動きが、日本だけでなく、世界中へ広がっています。
PRONEWSでも既に報じられていますが、海外においては2月下旬にバルセロナで開催が予定されていた「MWC Barcelona 2020」をはじめ、「NAB Show」(4月/ラスベガス)や「BroadcastAsia & ConnecTechAsia」(6月/シンガポール)、そして、国内では「CP+」(2月)「After NAB Show」(5月)など、通信や映像関連だけでなく、多くの展示会が中止または延期となりました。
もちろん、中止や延期となったのは国内外の展示会だけではありません。
製品発表会、音楽ライブコンサート、演劇公演、学校の卒業式や入学式、企業の入社式や(年度初めを迎える前に行う社員向けの)戦略説明会など、リアルに人が集まるあらゆるイベントが、どこも(国も自治体も企業も)見合わせる状況です。
突然注目を浴びたライブ配信
そんな中、人が集まる「リアル(オフライン)なイベント」からライブ配信を活用したインターネット越しの「バーチャル(オンライン)なイベント」へ切り替える流れが国内外で広がっていることは、既にご承知の通りです。
中止となった展示会や製品発表会は、それぞれの企業が独自にライブ配信を通じて情報を発信することよって(残念ながら、リアルなその場へ赴いて実際に新しく発表された製品にすぐ手を触れることは叶わないものの)私たちは企業から発信される最新の情報をプレス(報道)の人たちと同じようにリアルタイムで得ることができました。
一方、長い間、製品やサービスの新発表の準備をしてきた企業にとってみても、(当初予定していた理想と異なるカタチであったものの)そのお披露目の場をオフラインからオンラインへ移したことで中止による機会損失を最小限にして、伝えたい情報をライブ配信を通じて発信することとなりました。
その結果、企業に「製品やサービスのプロモーションするための“新しい手段”としてライブ配信を活用する」という選択肢が広がったことは、とても意義があった、と感じています。
海外では展示会や製品やサービスの発表会の様子を企業自身がライブ配信したり、取材に訪れたWEBメディアも独自にライブ配信している様子を当たり前のように目にします。
しかし、国内は東京ゲームショウをはじめとする大きな展示会や大きな企業など、まだ限られたシーンでしか上手に活用されていないようにも感じます。
もちろん、これまでの間にライブ配信の活用を試みてきた企業やWEBメディアはあるのですが、海外と同じように国内でも当たり前のようにライブ配信を情報発信の手段として“継続的に”活用されてくるのはまだこれから。
「リアルイベントをネット越しのライブ配信へ切り替える」この動きを、今回のような非常事態の時だけの特別なものとせず、平時でもライブ配信を活用した情報発信が(企業もWEBメディアも)継続的に行われていくようになることに期待をしたいのです。
ライブ配信は「その場へ行ってみたくなる」欲求を刺激する
そして「リアルイベントをネット越しのライブ配信へ切り替える」動きは、音楽ライブコンサートや演劇公演にも広がりました。
予定されていた広い会場から、音楽ライブコンサート、演劇公演が無観客の状態でライブ配信される様子を見て、多くのファンが楽しみにしていたコンサート公演が中止となってしまった悲しみの気持ちをライブ配信ならではのコメント機能を通じて共有する一方で、再び、コンサート会場へ赴くことを決意する声も多く見受けられました。
展示会や製品発表会のライブ配信は、最新の情報をメディアと同じように直接リアルタイムで得ることができる「人の目の代わり」の役割をしますが、音楽ライブコンサートや演劇公演のライブ配信はその様子を見て満足するだけでなく、いつか「その場へ行ってみたい」というファンの欲求を刺激します。
仮に、どんなにそのライブ配信が高画質で高音質なものであったとしても、その音楽ライブコンサートや演劇公演の場の雰囲気や熱狂は(今後、5Gなどの高速通信やVRの技術が発達したとしても)ライブ配信で完全に伝えることは叶いません。
今回、無観客ライブ(公演)に踏み切ったアーティストや関係の人たちにとってみれば、それはとても大きな決断だったに違いありません。また、急遽、ライブ配信に切り替えたことによる労力も決して小さなものではなかったはずです。
いま日本に限らず世界中が困難の状況のなかではありますが、このような音楽ライブコンサートや演劇公演に限らず、それ以外のさまざまなシーンにおいてもライブ配信を活用する動きは、当面の間は不可欠なものとなることが予想されます。
ただ、ライブ配信という仕組みが改めて広く認知され、これまで利用されてこなかったところにも利用されるような「新しい流れ」が訪れる、ようにも感じるのです。
マネタイズ手段の確立が急務
とはいえ、(約10年ほどの)日本におけるライブ配信の歴史のなかで、いまだに解決されていない大きな課題があります。
それは、企業におけるライブ配信の「マネタイズ」手段です。
いま、テレビなどではライブ配信で収益を得ることで生計を立てる個人のライブ配信者(その人たちのことを最近では「ライバー」と呼ばれています)が話題となります。
個人のライブ配信者は、この近年の間に投げ銭(ギフティング)の仕組みが登場したことによって、その金額の大小はあれどマネタイズが可能となりました。
しかし、企業におけるライブ配信の「マネタイズ」手段は(ライブ配信を継続をしていけるほどまで)確立ができていないのです。これは、企業に限らず、音楽を中心としたアーティストにも同様のことが言えます。
そもそも投げ銭(ギフティング)を得ることに抵抗を感じていたり、できることなら、もう少し違った形のマネタイズ手段を模索したいと考える企業やアーティストも少なくないように感じます。また、投げ銭(ギフティング)やクラウドファンディングのような仕組みは、その瞬間の短いスパンでは良くても、長いスパンで見ると、企業やアーティストにとってはライブ配信を維持し続けるまでには至れないのです。
ライブ配信にはいま話題となっている投げ銭(ギフティング)の仕組みのほか、以前から、定額課金や都度課金などの仕組みを備えるライブ配信のプラットフォームが存在します。ただ、これらの仕組みはさまざまなコンテンツを無料で見ることが当たり前となってしまっている文化を変えるまでには至っていません。
結果、ライブ配信の活用にチャレンジしていた企業やアーティストは近年減少をしてきました。
今回の流れを受け、既に、アーティストの人たちを中心に「(今回のように)無料でやり続けていくことに限界があること」と「ちゃんとお金を払ってもらって見てもらう仕組みを確立」していく必要性を挙げる声も見受けられています。
それはライブ配信プラットフォームが提供する既存の定額課金や都度課金の仕組みを改めて活用していくのか、それとも、また別のカタチとなるにせよ、(個人のライブ配信者がマネタイズの仕組みを得たように)企業やアーティストもライブ配信を継続して活用していくための「マネタイズ」の手段を、これをきっかけに改めて模索していく必要がある、と感じています。